第81話 基本調理
第81話 基本調理
「大丈夫! キノ姉ちゃんはあれで案外忘れっぽい! あたかも注文されてない雰囲気で行けばなんとかなる!」
「何とか....ならなかったら....どうするの?」
不安がりながらもニーナがオドオドとデンケンに意見する。
「その時は潔く死ぬしかないな!」
男らしくもカッコ悪いセリフを吐き散らし、奥から麻でできた半袖のシャツに黒いエプロンと黒いズボン、くるぶしまでの革靴を合わせたデンケンが登場する。
「キノ姉ちゃん達、いらっしゃい! ご注文は?」
「予約してたやつ。できてるよね?」
にこやかに笑いながらデンケンを見つめる。薄く開いた目からは殺気が迸っていた。
「少々お待ち下さい」
回転し、入ってきたドアから急いで外に出る。
「ヤバイ! 俺たちのやりとり絶対聞かれてる! 目が笑ってなかったもん!」
「だから....味見は....しない方が良いって....」
「仕方ないだろ! 止まらなかったんだから!」
「私、正直に言う」
「え、あ? ちょっと待て!!」
デンケンの静止を振り切り白いワイシャツを膝上までの黒く裾に白い線が一周ぐるっと入ったスカートに黒いエプロン。髪の毛にも僅かにウェーブが掛かっており、ゆっくり喋る特徴に加えて神秘的さが増していた。
「キノおねぇちゃん」
目を潤ませて弱々しい声で屋台のカウンターで背伸びをし、顔をひょっこりとだす。
デンケンと比べても小柄なのもあるが、子供に対しては少し高い。
「頼まれていた物....摘み食いしたら止まらなくなって....食べちゃったの....ごめんなさい....」
プルプルと震え今にも泣き出しそうだ。そんなニーナにキノが手を頭に近づける。
頭を叩かれるのかと更に萎縮したニーナの頭にそっと手を乗せた。
「大丈夫だよ。それより、ニーナでも接客できる様に木箱を置かないとだね」
先程までの威圧感は無くなり御母堂の様に優しさに溢れた声が満ち足りる。
「そうなんだよキノ姉ちゃん! ついつい食べ過ぎちゃって!!」
それを奥から見つめていたデンケンが安全だと判断したのか自信に満ちた表情でやって来る。
そして、ニーナと同じ様に頭を撫でるのかと思いきや、左の手のひらで口を覆う様にして指先に力を入れる。
キリキリとしまっていき、笑顔のままデンケンを見つめる。
「えっと? 俺も正直に言ったんだけど、ニーナとの扱いが違い過ぎやしませんかね?姉さん?」
「正直にねー。ついつい食べた後自分の顔の周り見た?」
「顔の周り?」
そこまでキノが言うとデンケンが何かに気がついた。
孤児院に居た時、摘み食いをしてエナやキノにバレる日とバレない日の2種類があったことを思い出す。
なんでバレる日とそうでない日があるのか不思議でたまらなかったのだが、その共通点が漸く分かったのだ。
「口の周り、こんなにベタベタさせるまで夢中で食べてそんなに美味しかった? しかも髪の毛までベタベタしてる。味付け用のボールに頭をつっこんで、夢中になって食べたでしょ?」
「汚ねーぞ! 頭撫でるふりしてそんなところまで確認してたのかよ! それにニーナだって俺と同じ事やってた!」
「私....そんなに食べて....ない....」
罪を擦りつける幼い子供そのもののデンケン。馬鹿でかい声に小動物の様に怯えながらも必死に訴える。
ペロ
脈絡を無視して、キノがニーナの頬っぺたを舐める。
「キャ!」
それに驚いき、キノの顔を直視する。
「ニーナの頬っぺたからは何も味しないし髪の毛もベタベタしてない」
「綺麗に食べたのかもしれないだろ!」
「エナ、リムを出して」
「え? あ、うん」
首元を少しだけ緩めるとヤモリの様にエナの服の中からリムが顔を出す。
すると、ベロをシュルシュルと出し入れした後、屋台に飛び乗りニーナの身体に飛び移る。
「わ! くすぐったい」
身体を伝い、指を一舐めするとデンケンの身体に飛び移る。
「うわっ! ちょっとなんだこれ!?」
デンケンの体に飛び移り真っ先に掌へと向かう。ペトペトと今日に身体の上に吸着しながら這って移動し、指先をペロペロペロペロペロペロと舐め出した。
ニーナの時は数舐めしただけだったのだが、デンケンの指にたどり着くと貪る様にベロを出し舐め終わったと思うとまた一本、また一本とお変わりの様に指を移動し、ベロを動かす。
「ほーら、リムが美味しそうにデンケンの指を舐めてる。この子は甘いものが好きだから染み込んだ砂糖がなくなるか指がなくなるまで舐めるのをやめないよ?」
「恐ろしすぎる!! 取って!! はやく取ってくれ!!」
キノの言葉に文字通り骨身になってしまった指を想像したのか大きく手を振るのだが、噛みつき離そうとしない。
「本当の事を話せば取ってあげる」
「本当は俺がバクバク食べました! ニーナは共犯にさせるために2本だけ食べさせました!?」
「やっと認めた。やっちゃった事は仕方ないけど、それを嘘を付いたり隠そうとしたりするのはダメ。だれも信用してくれなくなる」
バチんとつねっていた指を勢いよく頬っぺたから離す。
「キノ姉ちゃんも....?」
つねられていた頬をさすりながらデンケンが涙出る目を潤ませながら小さな声で聞く。
「甘ったれるな!!」
優しい言葉を期待していたデンケンの顔が酷く凍りついた。




