第74話 新品
第74話 新品
『新品みたいになってる』
『新品みたいにって、それ新品なんじゃないの?』
古かった物がまた使えるようになった高揚感でキノの顔はキラキラになる。その表情に水を差すようにプルエアが、横槍を挟む。
『そんな事ない。ホラ?』
『キャ!! 何それ?』
『ドラゴンの肝臓。乾かすと生薬になる。後で燻さなきゃ』
プルエアの言葉に不安を覚え、中に手を突っ込む。踏破したダンジョンの戦利品がそのまま入っており、確かにキノの物だった。
換金する前にマジックバックに外套の本体を入れた所、両方壊れてしまった為中身はあの時のまま保存されていた。
『まさか爆破の前に修理したんですか?』
『あんなボロボロだったやつを直せるんですか?』
ユエルが頭を捻り、エナが更に言葉を乗せる。
『凄腕なんじゃない? さて、もう一つは....』
僅かに笑みが灯った暖かい表情。キノのようにオシャレに無頓着でも、新品の物が手に入ると多少は嬉しいようだ。
もう一つの魔法陣にに目を向けると、それまでの笑顔が一瞬で消え、伸ばしたはずの手を急いで引っ込める。
いつもと違うキノの可愛らしい反応に目を奪われていた3人もそれを見た。
『ハーロー、ひょっとしてお呼ばれしてなイ?』
陣の中を見ると外套の本体と思われるずんぐりむっくりとした魔物の口から頭頂部にかけてが出てきた。
キノがダンと音が出る程強く机を平手で打ち付け、出口を塞いだ。
『おい!! 何するんだ!! これじゃ出ていけねーだろ!』
『お前こそ何してるんだ?』
宝石のように美しい瞳が押さえつけた指の隙間から垣間見えるのだが、この時ばかりはギョロっとした目が酷く恐ろしく見える。
『何って、ここから出ようと....』
『ここは貴族領。平民区やスラムとは違って内側から2つめの行政が行き届いた街だ。ここでもし未確認の魔物を連れてるやつがいるなんて憲兵に通報されたら私は尋問を受けて外套の中に入れ込める上面白機能を沢山持ったお前は最悪、実験の為のモルモットだ。そうなりたくないなら引っ込んでろ』
『分かった....』
しっかりと躾けられている無害に等しい魔物やテイマーと呼ばれる冒険職に就いている者が所持している魔物であれば行政の行き届いた街にも堂々と姿を晒せるのだが、見たこともない攻撃的な魔法を使う魔物だったら、下手すると一生日の当たらない場所で臭い飯を食べることも充分ありえる。
魔物の素材を使い、生前の機能を模した防具がある事は事実だが、魔物そのものの防具など見たことない。
『まぁ、良かったじゃない。外套もマジックバックも戻ってきて。じゃあ、私はマニアックな罪でパクられる前に逃げるから!バレないように上手く逃げなさいよー!』
プルエアは支払いの紙を握って勢いよく階段を降りて行った。
『じゃあ、キノさん私もこの辺で失礼します』
『分かった。色々付き合ってくれてありがとう。ユエルはこれからどうするの?』
『まだ決めていませんが、暫くは教会に戻って回復術師としての腕を磨きます。今回私は自分の無力さを知りました』
『そっか。教会に戻るなら中々会えなくなるね』
『え!? そうなの!? もっと色々お喋りしたかったのに!』
キノの言葉に驚いたようにエナがユエルの顔をマジマジと凝視し、名残惜しそうな目で見る。
『教会は貴族領地の一桁の場所にしか置かれてませんし、会いにくくはなりますね。こっからだど馬車を走らせても2日近くは掛かります』
『もっと近い教会なかったっけ?』
『平民区にも教会はいくつかあったんですが、調べてみたらゲルド一家に土地を追われたスラム街の人にあげてしまったので修練する場所はないですね』
キノからの問いかけに ユエルが残念そうに答えた。
『えー修練なんていいから私と一緒に孤児院経営しましょ?』
エナがユエルの手をギュッと握り、渾身の上目遣いで誘惑する。
『私も、歳の近い人のお友達ができてお二人とも離れたくないですけど....』
『教会に仕えるシスターって、俗世との関わりを絶ってるってイメージだけど、案外欲望丸出しなのね』
二人のやり取りを見てキノの胸の内がキュンと熱くなる。
『年頃の女の子ですよ? 別に結婚しちゃダメとか古めかしい戒律もないですしね。仕方ないのでお二人にこれ渡します!』
『これは?』
テーブルの上に傷ついたビー玉が置かれる。
『『鳥の子守唄』って言うシスター達の間で流行ってる伝書鳩もどきの魔法です。光に照らすと術式が浮かび上がります。気に入った殿方に渡したりするんですけど、お二人と文通できたら良いかなって思って』
『へぇー、不思議ちゃんに見えて案外肉食系なんだ』
『これを私だと思ってって、自分が使っている香水を手紙に振りかけたりするんですか?』
キノとエナがニヤニヤして吐いた言葉を聞いてユエルの顔が耳まで一気に赤く色付いていった。
『違いますよ!! そう言う意味じゃなくて!! 違いますからね!!』
必死に先程の言葉の真意を否定するユエルとても愛らしい。




