第71話 お忍び
第71話 お忍び
貴族領地を守る憲兵隊が爆発の音を聞きつけやってくる。
爆発によって燃えたお店は跡形もなく崩れさった防具屋にクリーム色のビー玉のような魔石が投げ入れられる。
カチカチと音と共に店が燃える前の状態へと戻っていった。
時の国原産の魔石には時間を巻き戻す力があるため、このように使われる。
そんな魔法じみた光景を日常として四人は窓から見てプルエアは自分で頼んだベイクドチーズケーキのど真ん中に思い切りフォークを刺して口に運ぶ。
「全く! 頭に来る!」
「何に対してそんなに怒ってるの?」
その横では、飄々と冷静な表情でロイヤルミルクティーを飲むキノが可愛らしく首を傾げていた。
「全部よ!! 全部! こんな服で連れてこられたことも腹立たしいし、1番はあんな変な奴に手心を加えられていたってこと!!それに、キノの大根芝居とユエルの迫真の演技で人払いができたのも気に入らない!」
「でも、取り敢えず大きな怪我もなくて良かったじゃないですか....。憲兵も来ましたし、爆発を起こした犯人は捕まりますよ」
「ユエル、甘いわね。ここまで派手な事をしたって事は見つからない自信があるからよ。それに、爆発を目撃した人はあら方散ってるし憲兵は何が起こったのかも把握できていない」
「代わりに、私達が居たって証言も取れないから私達はいつも通り。プルエアが貴族らしくない態度を取ったこともあやふや」
キノが喋りながら階段の方に目を向けると、よく会計を担当してくれるボーイが現れる。
「お寛ぎ中に失礼します。少々、お聞きしたいことがあるんですが....」
「どうぞなんなりと....」
ボーイの言葉にキノが答える
「キノさん、またお会いしましたね!」
「ああ、ワインの時の....。その軽口が、私達の寛ぎの時間を邪魔してるって理解してくださいね」
「では....検分を始めます」
緊張を解すために気を使ったのに、それを否定されて萎れながらも業務をこなす。
「前の防具店が火事になっていました。我々としては、放火などの危険性が有れば憲兵に報告する義務があるのですが、騒ぎが起こった時キノさんとプルエア様はお店の近くにいらっしゃいまさしたよね? 何か知っている事はありませんか?」
その言葉にプルエアがドキッとする。火災、もとい大爆発を起こしたのは横にいるキノが功績を求めて店主を問い詰めた結果だ。それを言ってしまえば、営業妨害で捕まりかねない。
それを幇助したプルエアも例外ではない。
何もしていないユエルとエナが助かりたいだ為に、自分を売るのではないかとプルエアの額から脂汗が流れる。
「知ってるも何も見てた通り」
目力で、ユエルとエナに目配せし圧力を掛けていたのを無駄にする様にキノが喋りだす。
「私が店に入ろうとしたら爆発して、店主ごと吹っ飛んでいった」
「でも、店から出てきた人が空中に浮いていたって証言もありますし、それと交戦している人も居るって言ってるお客様もいるんですよ? 冒険者なら街中での交戦は懲罰ものです」
「爆発が起こった時、このラウンジの人はどこにいたの?」
「みんな地下のワインセラーで、在庫の確認をしていました。爆発の衝撃で扉が歪んで中々戻れませんでした」
「じゃあ、言うだけ無駄」
「どう言う事ですか?」
「体験した恐怖って言うのは何事にも耐え難い。恐ろしかった爆発でそれを象徴する悪魔みたいな妄想を連想。それを倒す英雄を勝手に想像していただけなんじゃない?」
「でも、ほとんどの人が口を揃えて同じことを言ってますし、そんな幻覚じみた事じゃ....」
「でも、はっきりと顔を覚えてないよね?」
「確かに印象がどれも抽象的でした。浮いていた人の顔はみんな鮮明に言うんですが....」
キノがラウンジに戻ってきても、誰もアイツが戦っていたと言う者は誰もいない。防具店の店主の印象が強すぎて、それ以外が朧げだったのだ。それに加えて最後にした芝居の印象が強く、キノのイメージはか弱い女の子と言った具合だ。誰も彼女が戦ったとは思わない。
まだ、ラウンジを出る前のキノ達の話をしっかりと聞いていれば、結びつく可能性があったのだが、連れの中に病院服を着ている者が居たら基地外の集団だと判断され、その会話どころか近付くのさえ憚られる。
「私はあの防具店に自分の装備を調律しに行って火事に巻き込まれた....考え方だけど、こうは考えられない? 目の前は売れてるお店なのに自分の店は火の車。だったら、文字通り燃やしてこのラウンジに迷惑をかけようとした....」
「何言ってるんですか!!? 証拠はあるんですか?」
「ない。だけど、私は勝手に巻き込まれた被害者になる。その哀れな被害者を貴方はこれ以上追い詰める気? さっきから私を悪者にしようとしてるよね?」
「そんなことありません!! あとこれ、キノさん宛に店の中に残されてました!! じゃあ、さっきの出来事は不慮の事故として処理してきます! 店主が空を舞ってどっかに行ったって信じてくれるかな?」
淡々と喋るキノに遂には痺れを切らしご機嫌斜めで階段を降りていく。
「あんた、凄いわね....」
「え? 何が?」
プルエアのその言葉の意味を全く理解せずに、先程渡された真っ黒な封筒を手に取る。白い文字でキノへと書いてあるだけで中には何も入っていない。
「それと....」
プルエアが口紅を貰ったウェイトレスに向かって手招きをする。
「はい、お呼びでしょうか?」
「私たちのこと、黙ってくれててありがとう。外にいた時貴方とだけ目があったのに、黙っていてくれるなんて優しいね」
小声で誰にも聞こえないようにキノが優しく喋りかけ、その言葉に照れているのか顔を赤くする。




