第66話 うまい話
第66話 うまい話
『もし、マジックバックを作った人だったらどうするの?』
『その為にプルエアを呼んだ。どうにか逃げ出すと思うから動きを封じて』
『いや、そんな簡単に言われても.... 杖だって持ってないし....』
『魔法使いさんですし、杖が無いと高度な魔法は使えませんよね? 素敵な魔法を見てみたかったな』
『魔石は最低限持っているから、使えるよ!!』
上目遣いのエナに見つめられ、調子良く答える。
『じゃあ、そういうことならよろしく~。エナ、私は尋問しに行ってくる。プルエアはここの支払いお願いね』
プルエアが書いた許可書を持ち、階段を勢いよく降りていく。
『あ! ちょっと!!』
そうやって振り向いた時にはキノの姿は跡形もなく消えていた。
『あーあ、軽く受けちゃって大丈夫なんですか?』
『取り敢えず、手持ちの魔石はこれだけ....』
言えるの問いかけに神妙な顔をして答える。着ている服の中から小さな青い魔石の屑を取り出し、テーブルの上に置く。
『え? これだけで大丈夫なんですか?』
『正直言って大丈夫じゃないよね....』
ユエルとプルエアが顔を見合わせ、首を傾げる。
『あの....私は冒険者じゃないので大掛かりな魔法には縁が無いので分からないんですけど、これだとまずいんですか?』
『えっと、エナちゃんだっけ? エナさんは魔法とか生活の中で使う?』
『火を起こしたり生活の中では使いますね。(カマトトぶって可愛さをアピールしろって言われたけど、これで合ってるのかな?)』
『魔法や魔力には様々な種類がある。普段私たちが使っているのは魔力を変換して使役してる変換魔法なんだけど、この量の魔石をそのまま変換したらコップ一杯にも満たない量だと思う』
『え? そんなに少ない量なんですか!? ダンジョンで使っていた魔石の大きさ的にもうちょっと頑張れそうですけど....』
『あれは密度が濃いけど、これはカスみたいなやつだから少ないよ』
『逆になんでそんな物を持っていたんですか?』
『小さい時、近所の子にボコボコにされていつか復讐してやろうと濃度の低い魔石を合成してこの前使った魔石を合成した。その時服に付いてたのがこれ』
『何恐ろしい事してるんですか....。それに、微妙にプルエアさん使えませんね』
敬語なのに刺々しいユエルの言葉に憤りを覚える。
『ねぇ? なんだか酷くない? 私のことを慕ってる癖に、時々私の事なじるよね? どういう事なのかな?』
互いに互いを睨みつけ、一触即発の緊張感が走る。
『それより、どうするんですか!? コップ一杯にも満たない水で拘束なんてできます?』
一人だけそんなことを気にしないでエナが不安を口にした。
『だから、媒介魔法を使う』
『なんですかそれ?』
『魔力を変換しないで少ない魔力で物に含まれる魔力自体を使役する』
『そんなことできるんですか?』
『日常生活ぐらいでしか魔力を使わないなら気づかないかもしれないけど、自然界にはマナって呼ばれる魔力が満ちている。昼間に光属性の魔力を使ったり、湖や川で水属性の魔力を使うと効力が上がるように無意識のうちにその恩恵を受けてるからできないことはないよ』
『やけに落ち着いてますね?』
『だってエナちゃんも考えてみて。もし仮にあのお店のマスターがいくらでも物を詰め込めるマジックバックを作った天才だったら、目立つようになんて逃走しないでしょ?』
『確かに、私たちが想像もつかないような方法で逃げ出す可能性が高いです』
『つまり、私たちがここで待ち構えている事自体ナンセンス。私達が本当に心配しなきゃいけないのはキノが一瞬のうちに殺されてしまうんじゃないのか?って事』
『キノさんが危ない!』
おもむろに立ち上がったユエルが椅子を倒し、階段の方へ駆けようとする。そこにプルエアが脚を出し、ユエルは頭から床に叩きつけられた。
『何するんですか!?』
『何をするのかってセリフはこっちのセリフ。何しようとしてるの?』
『キノさんを助けに....』
『おバカ。私達がここに残された意味を考えなさい』
『意味?』
『執拗なまでに計算高いキノが私達をここに置いていった理由。それは足手まといだから』
『なっ! そんなこと....』
『じゃあ、聞くけどユエル....貴方は人を殺せる?』
『え?』
急に出てきた重い言葉を軽口に乗せる飄々としたプルエアの表情に思考が追いつかない。
『殺せるの?』
『無理ですけど....』
『じゃあ、足手まとい決定。もし、キノが殺されそうになってもその相手を殺せないんじゃ意味がない。ただただ辛い思いをさせるだけ』
全くそんなことを考えられないでいたユエルが言葉に詰まる。
『因みに私も殺せない。でも、キノは殺せる。実際街で盗みを働いた人を躊躇なく殺してた。置いてかれたのはキノの優しさ。私達二人はエナちゃんに守ってもらうしか無い事を自覚して』
突然の言葉にエナが驚きを隠せない。
『何言ってるんですか? 冒険者の皆さんに比べたら私なんて....』
『謙遜もここまで来ると嫌味にしか聞こえないわね。キノの話で何回か出てきた。孤児院を切り盛りしてるってだけなのに、この魔力量はおかしいでしょ?』
両手で氷の入ったアイスコーヒーのグラスに手を当てていた。そこから手を剥がし、無理矢理掌を天井に向けさせる。




