第64話 女の子らしさ
第64話 女の子らしさ
見せつけるように開けた口をゆっくりと閉め、プルエアを見つめる。
「まぁ、冗談だけどね。ひょっとして、本気にしちゃってた?」
「冗談だったんですか!?」
「流石に好意でくれた物を転売するなんてできない。滅茶苦茶美味しい飴だったし」
イマイチ冗談だったと言う事を信じていないユエルを見つめいつもと変わらない様子で淡々と喋る。
「キノさんならやりかねなかったのでつい....」
「フフフ。見た物、聞いた物をそのまま信じるなんて無垢ね」
微笑ましく淑女のように柔らかい笑みを微かに浮かべる。
そのまま正面を向くとプルエアの顔が真っ赤に染まっていた。耳まで赤くユエルやキノと目を合わせようとせずに明らかに異常事態だ。
「どうしたの? 具合悪い?」
「いや、その....」
今までにないぐらい歯切れが悪い。
「ひょっとしてこの飴舐めたい?」
再び、涎に塗れた飴を口を開けて見せつける。
「飴じゃなくて、顔が蕩けてていやらしい....」
だんだんと小さくなる声がいやらしさを更に強調させていた。
「自分で自分の顔って見えない。どんな風いやらしいの?」
「え!? いや、それは....」
指摘するだけでも恥ずかしかったのに、それを具体的に公共の場で説明しろだなんて最早わざと強要しているとしか思えない。恥じらうプルエアの表情と比例するようにキノの表情が更にニコニコしてくる。
「言いにくいこと?」
「世の中の誰もがあんたみたいに強靭な精神を持ってる訳じゃないんだからね!?」
「そう。分かった」
おもむろに立ち上がり、向かい側のプルエアの両手首を掴み器用に出したベロの上に舐めていた飴玉を乗せ、顔を近づける。
「ちょっと待って!! 何するつもり!?」
再び口の中に飴をしまい、口を動かす。
「どんな顔になるのか私も見てみたい。だから、プルエアに飴を舐めさせようかと....」
「何サラッととんでもないこと言ってるの!?」
「え?」
プルエアの顔がリンゴ以上に赤くなり、目は潤んで恥ずかしさは頂点を迎えていた。手で着ている服の余っている部分を掴み、太腿の生地で手汗を拭く。
「流石にそれは超えちゃ行けない一線だと、思います....」
「え? 女同士なのに....?」
「女同士だからこそ超えちゃいけないんですかね?」
疑問系で濁しながらも、ユエルの鼓動はいつも以上に脈打ち、その後の展開に期待していた。
そして、小窓からそんな会話が聞こえてきた馬車の先導が年甲斐もなく一番ドキドキしていたという事は言うまでもない。
「ねぇ? なんでダメなの?」
キノも元の位置に座り諦めたかと誰もが思った。しかし、空気を変えようとその話から離れようとしても
キノが執拗に話を戻す。
「だって、キノさん、だって~。ウフフ」
ユエルは顔を赤らめ、さっきの続きを勝手に妄想して顔を隠しながらブンブン首を振っていた。教会という女性中心の閉鎖的な空間で育っていたせいかユエルの妄想力はそれはもう逞しいことになっていた。
キノと高度で知的な戦いを繰り広げる戦力として役に立たないユエルに対して早々に見切りを付けてプルエアが口を開く。
「だって、ああいうことは恋人とかとやるものなんじゃ無い?」
「え? ああいう事って?」
「だから、さっきみたいに口移しで飴を口に入れ良いとしたりさ....」
「普通じゃない?」
「普通なの!!!なんでアンタはそれを普通だと思っちゃってるのよ!」
あまりにも自信に満ちた表情で綺麗に言い切った為にプルエアの心がざわつく。
「だって、孤児院の子とはよくやってたし....」
「それは子供とでしょ!? 同い年に近い人とやるのとは意味が違うからね!!」
「そう....なんだ....」
孤児院の子供達は勿論、エナにも口移しで飴を口に渡したことがあると言う言葉を喉の奥に飲み込みながら口を紡ぐ。
しかも、記憶の紐を手繰り寄せていくがエナに至っては小さい時から今に至るまで積極的に口移しでの飴の受け渡しを要求してきたことも頭に浮かんだのだが、これ以上馬車の中が騒がしくなっても仕方ないので胸の内へとしまう。
外の流れる風景を見ながら、あの時エナの心の中では一体何を思っていたんだろうと想いを馳せていた。黙っていれば色白で絵になるのだが、プルエアの神経を逆撫でるのに一役買っていた。
「何センチメルタルに浸ってんのよ!? それより私達は一体何処に向かっている訳!?」
「気になるの?」
「そりゃあ、こんな格好で急いで連れられてきたんだから知る資格ぐらいあるでしょ?」
「それなら見たほうが早い。もう着いたから....」
言葉の通り馬車の振動が止み、先導が馬車の扉を開き、キノがゆっくりと降りていく。
「プルエアとユエルもきて」
一番最初に降りたキノが手を出し、二人をエスコートする。
プルエアが馬車を降りると、高く登った太陽と共に、いつも探索が成功した時に食事をする見慣れたラウンジが目に入る。
ここしか店を知らないのかと言うほどゲルドが率いたパーティで来た思い出しか詰まっていない過去の産物とも言える場所だ。




