第48話 種明かしと救い
第48話 種明かしと救い
「それと、さっきは丸焦げだったのに何でこんなピンピンしてるの?」
「エナに助けてって言われたから愛のパワーで地獄から帰ってきた」
「嘘つけ!! 仮に愛のパワーだとしても頭に収束化した魔力を食らった時点で脳みそぶち撒けてるんだから聴こえるはずない!」
子供を諭す親の様にブレる事なく詭弁を語るキノに憤りを感じながらも出来るだけ冷静を保ちながら静かに問うのだが、直ぐに化けの皮が剥がれる事をまだ知らない。
「愛のパワーを否定しないって事は私のこと散々嫌いとか言っといて愛してる」
「早く結論を話せ!!このまま二人して水の中に落ちる羽目になるよ!?」
「濡れるのは嫌。答えはこれ」
自分の顔を指で指すと顔をゆっくりとエナの顔に近づけていく。
「え? 何どうしたの?」
そんなこと不毛と言わんばかりに無言で顔を近づけてくるのだ。
「ちょっと待って!! 色々な意味で心の準備が....」
遂にはキノの桜色をした唇に視界が釘付けになり目が離せない。次第にエナの中では
(もう....!! なる様になりなさい!!)
よく分からない諦めの感情が芽生えつつあった。
キノが近づけるだけではなく、自分もゆっくり身体を起こし唇を近づけようとしたその時。
「ハーロー。心の準備ができてないって灯りでも消して欲しいのか? 上の光が無くなったら真っ暗闇だぞ?」
キスされるのかと思って身構えていたのにも関わらず、キノが被るフードの内側から蛇のような触手が伸び口の部分が割れパクパクとしていた。
「キャー!!」
その不思議な生き物に驚き不安定なハンモックの上でエナがバタバタと暴れだす。
「はいはい。暴れないの。落ちるよ」
「これ何!! これは生き物なの!?」
『生き物ってよりは魔物?』
「魔物!? え!? 大丈夫なの思いっきり生きてるけど?」
「大丈夫。これを作ってくれた人の話だとうまく扱えないと私自身が食べられちゃうみたい」
「絶対に大丈夫じゃないじゃん!何考えてるの馬鹿なんじゃない!?」
「心配するな俺はグルメなんだ。こんなお粗末な魔力の流動しか生み出せないやつの血肉なんて大して上手くない。さっきみたいな上質な魔力をくれ」
火吹き芸のように先程食らった炎の一部を口から吐き出して見せつける。
そんな自慢をしていると急にエナが掴み深妙な表情を向けてくる。
「ねぇ? 今キノのこと馬鹿呼ばわりした?」
「お、おう?」
顔であろうその部分を掴み、フードに繋がる身体?であろう部分を反対の手で掴むと思い切り力を込め引き伸ばす。
「キノの事を馬鹿呼ばわりしていいのは世の中で私だけなんだけど? 何でポッと出てきた貴方が馬鹿にしてるの? そんなに付き合いながいのかな? え?」
豚の腸のように面白い程伸び縮みし、長さが変わるごとにグェーグェー面白い声を奏でる。目がなくても悲痛に嘆く表情が何故か容易に想像できるのだ。
「おい! やめろ! さっき無理やり食わされたトマトやらイチゴやらもまだ消化できてねぇ!?こんな所でゲロまみれになっちまうぞ?」
「やれるんだったらやってみろよ? キノに少しでも掛かったらお前をミンチにして川に捨ててやるからな?」
必死の訴えも虚しくエナの手は止まらない。
「クソ! 身体が保たねぇ! 脱出!」
身体を触手からずんぐりむっくりとした身体に入れ替え脱出を試みる。
「お前ら二人はそこで乳繰りあってろ! 俺は一足先に地上に帰ってやるぜ!」
器用にハンモックに繋がる縄の上を走り地上を目指す。最初こそは軽快な走りだったのだが、最初だけ。ブルンと垂れたお腹が走る度に揺れたせいで縄から足を滑らせ下の湖へと落ちていく。
「覚えてろよお前らー!」
そんな捨て台詞が遠くの方で聞こえぽしゃんと何かが落っこちた音が聞こえてくる。しばらく下を見ていたが、浮かんでこない。それどころか獲物を更に突き落とすために手の形をした水がいくつか生えてくると幾つにも重なり合い、落ちた地点を押さえるようにして水の中へと沈んでいった。
「これで下の水は普通の水じゃないって分かった」
「死んじゃったかな?」
「別に話に集中できるからいいじゃん。もっとエナと話していたい」
全く気にしていない様子で話を進める。
「その外套を使って頭を撃ち抜く攻撃は吸収。トマトで血を偽装。デンケン達の攻撃も吸収してたのね」
「まさかあんなに強力な攻撃が来ると思ってなかったからニーナを逃すのに精一杯」
「いつから気が付いていたの?」
「ん?」
「このニーナが私に投げつけた石。よく見ると持ち物として誤認させる魔術が、掛かってる。意識に作用する魔術なんてキノが使ってるところしか見たことない」
「んー、いつかしら? 正直、孤児院の買い出しのついでにバーに行って貴族が無理な土地の斡旋をしているのをエナが知ったのは知ってたし、今回何してるんだろうな?って思ってた」
「何でそんな事知ってるの!?」
「だって小さい時に私が教えたバーに行くんだもん。最近会ってなかったし,寂しかった?」
「ちょっと!! そんな訳....」
「それに久しぶりに会った時、金金しか言ってなくて明らかにテンパっていたし、私が貼った認識阻害の魔法の効力を弱めてあの孤児院の存在を餌に貴族の金の稼げるポイントを仲介人として紹介。その上でサルバドールの当主だけに息子を出し抜くチャンスを教えた。って所でしょ?」
「そう....」
急に真剣な顔つきになってそれを肯定する。
「キノならダンジョンを攻略した時いつもみたいに伝書鳩とかで知らせてくれるからダシに使えると思った」
「それで、自分も死のうとした訳?」
「どんな形であれ私はあの子達を危険な目に合わせた。こんな最低な人間生きてる価値無いよ」
「そうだね。嘘をついてる限りエナの心も晴れないだろうしね?」
嘘という言葉がよっぽど嫌だったのか眉を震わせ不機嫌な顔でキノを睨みつける。
「嘘? 私が嘘を付いてるって言うの!? 確かに嘘を付いてみんなを騙してた!? だけど、償いたいって言うのは私の本心!!?」
「違う」
「違わないよ!!? キノは私に何を求める訳!? 死んで償うこと以上の償いって一体なんなの?」
「そんなの知らない。私に分かるのはエナが嘘を付いてるって事だけ....。エナの言葉には重みがない。 こうなった結果を隠そうと軽い言葉を並べてるだけ。 これからただ死ぬだけの人はそんなまどろっこしい事しない」
苦虫を噛み潰したような酸っぱい表情を堪えながらエナの表情がどんどんと強張っていく。
「死者はしゃべれない。だから死ぬ前には本心を生きてる人に残していかなきゃならない。それすら嘘で固めて隠すのは見送る人に対する冒涜。命そのものを馬鹿にしてる」
「そんな綺麗事並べて!? キノに何が分かるの!? 生まれた時から何も持ってないキノにさ!? 全てを失った私の気持ちなんて最初から分からないでしょ?」
一番大きな声が地底の湖で響き渡る。僅かに唇を動かし反論しようとするのだが,不意に体の重さが消えた。
壁に繋がれていた筈のローブが全て切れ、湖に落下する
「今日は忙しい」
キノが素早くエナを抱き抱え、その場跳ねると落下が緩やかになり、身体を預けていた布が先に着水する。
そこにに片足で立つと予備動作無しでキノの身体が前にジャンプする。
「念のため布に片足で立つと物体を押し出す固定術式のコードを魔法文字の命令文として書かせて置いた。着地はどうにかして....」
その言葉の通り、空中でエナが投げ出されそのまま地面に叩きつけられそうになる。
「よくもやってくれたわね!!」
「そのくらい自分で何とかしなさい」
フワリとキノだけが慣れた手つきで蝶のように柔らかく着地し、エナは空中で無様にもがく。
頭から地面にダイブする手前で身体が不自然に止まる。
「止まった?」
「あ、ごめん限界」
「え?」
キノの気を抜いた瞬間にエナの顔面が地面に叩きつけられた。
「抱きついてる時に地面と反発する術式をエナの服に簡単に書き込んだんだけど、甘かった」
「何で認識阻害とかの高度なやつは完璧にできるのに、みんなができるようなやつはできないの?地面の何と身体の何が反発するかを具体的に書き込めばいいって聞いたことあるけど....?」
地面に顔をめり込ませたまま苦しげにエナが声を絞り出す。
「落ちたのはあいつのせいだからそいつに文句言って」
横穴の奥からはフラフラと一人の男がゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。




