第46話 信頼と屍
第46話 信頼と屍
「ひぅ……だめ……うう、ぐすっ……う……ひっ……どう、して……っ!ひっく……ち、ちが、う……っ!!ぅ……」
ニーナが泣くその啜り超えは最早言葉として機能していない。ただただ、エナが何故敵側に居るのかも分かっていない様子だった。
「ニーナ!! そいつから離れろ!! さっきみたいに『束縛』の魔法で身動き取れなくしてやる! いくぞ、リヒター! ジル!』
『『お、おう!』』
デンケンに呼ばれたリヒターとジルと共に掌に魔力をの集中させて威圧する。
「フフフ。本当に3人は仲が良いんだね」
「何がおかしいんだ! こっちには『束縛』魔導書がある!! お前らを一人残らず地面の上に転がしても良いんだぞ!!」
「じゃあ、何で黙って『束縛』魔法を組み込んだ魔力を放たないの? 速射性のある無属性魔力も扱えないんだから、最善の手は威力の高い属性魔力による不意打ちだよね? 何でやらないの?」
その言葉に一瞬だけ苦虫を潰した様な表情を3人が浮かべてしまう。
「それは勿論、女性の肌を傷物にしたくないからですよ。それ以外に何か理由がありますか?」
緑色の髪の毛先に触りながらジルが答える。
「馬鹿正直なデンケンが黙るって事は言えない理由がある。口のうまいジルがそれを誤魔化したって事は例えば『束縛』の魔法を使う魔力がもう無い魔力切れなんじゃないの?」
口元に開いた手を当て、笑みを浮かべながら目を見開き嘲笑う。
「クソ。バレてるぞ!」
「リヒター、馬鹿喋るな!」
デンケンが急いでリヒターの口を閉じさせるのだが、最早それがエナの考えを肯定として機能させるのだ。
「どういう事だ? そこに転がっているアサシンが先遣隊が持つ魔導書を奪い、それを使って身動きを奪い更に動きを奪おうとしていたように見えたが....」
『あー、そう見せかけて御子息の戦意を喪失させたんでしょうね?あの子達が使う属性魔法は燃費が悪いから最初の一、ニ回が限界でしょ?」
「騙したな!貴様ら!」
「ヤベ、バレた!! こうなったらキノ姉ちゃんの獲物を拾って戦うぞ!!」
「無理無理。辞めときな?」
デンケンが自分を鼓舞するも、エナが人差し指を曲げるとキノが持っていた鍛錬鉄刀が手繰りよされる。
「なんで!?」
「キノの刀から糸が出て空中を漂っていたから手繰り寄せてみた。デンケンの近くにも漂ってるのに気付かなかった? なのにこの獲物を使おうとしてたの?」
「くっそ!」
「ん? 何コレ? 使えない?」
試しにエナが握るのだがエラーの魔法文字が視界の端に現れ刀身が崩れていった。
「チッ。役立たずか」
「ならば後は殺すだけか....」
「みたいですね。たかが子供と回復術師の抵抗なんてたかが知れてますし、楽な蹂躙でしょう?」
「舐めるな!」
デンケンが右の掌に魔力を集中させ、人の頭程の大きさの火球をエナ目掛けて投げる。
「馬鹿め! ただの属性魔法など同量以上の属性魔力で打ち消せるわ!」
バキュン、バキュンと撃ち落とそうとするのだが異様に蛇行し、狙いが定まらない。地面を削り破片が当たろうとも勢いは止まらない。
(あれって、ひょっとして....)
「私がどうにかするので下がっていてください」
「いや、あれは私が....」
「そんな事言っている間にほら....」
指差し首を少し傾け上を見ると火の玉が打ち上がり、緩やかに落ちてこようとしている。
「魔力配分が下手くそだな!! 勢いが死んでるぞ!」
格好の的と言わんばかりにそれを打ち抜こうと収束した自身の魔力を放つ。
「あ」
「え?」
その行動に驚きを隠せないエナの気の抜けた一言に驚くも放たれた魔力が無くなる訳でもない為、死んだ様な目でそれの行く末を見守る。
火球を綺麗に貫通して魔法から爆発を思わせる急激な光が辺りを包み込み、大爆発を引き起こした。
「おい、これやばくない....か? 自分でやっといて言えた事じゃないけど、キノ姉ちゃんまで火葬できてそうな勢いなんだけど....」
『不謹慎じゃない?これ、私のせいじゃないよな?』
「半分はお前のせいだろ?」
デンケンとジルがボソボソと言葉を吐きながら見上げる。地面を燃やしながら天高く伸びる巨大な火柱に息を呑む。
火柱から放たれる強烈な光。足元の影が揺めきそのやり過ぎた行為を嘲笑うかの様に嘲笑している。
そんな制御の手を離れた火柱が不意に姿を消す。
地面は焼け焦げ地面に接した周りの生木も落雷が落ちた様に火の筋が浮かび上がる。
「なんで火が消えた? ありったけの火の魔力を注ぎ込んだんだ。こんな短時間で無くなるはずない」
「風の魔力もありったけぶち込んだ。こんなに早く鎮火するのか?」
火柱が消えた根本に視線を落とす。エナがいた部分を先頭にラグビーボール型に手前の方から奥の方へ燃え盛る炎が今も燃えていた。
「なんだあれ? あんなの軌道設定してないぞ?」
デンケンが首を傾げ自分が使役した魔力をじっと見つめる。
「中々面白い複合魔法だね。魔法には詳しく無いからよくわからないけどコレは失敗だってよく分かる!屋敷でもっとコソ練しなきゃ! 届かなかったら意味が無いし、操れてないじゃんコレ!」
炎の膜が先の方から消失し,中からエナを始めとする貴族が姿を表した。
「何で生きてるんだよ? 消し炭になってないとおかしいだろ!?」
あたりの貴族はみんな腰を抜かし,狼狽えているのだが,エナだけケロッとした顔をしたすまし顔をしている。
「だって、当たらなきゃ意味ない。お金を持っていても使わなきゃお金持ちって言わないように実戦では役に立たない。こんな風にね」
地面に真っ黒に焦げて動かなくなったキノを足の爪先で軽く蹴り軽蔑する。
血も涙もないセリフを吐くと茂みの中から大きめの石がエナに向かって投げられる。
「意味ないとか言わないで!? お姉ちゃんは私たちの為に家を取り戻そうと戦った。それを役に立たないなんて言わないで!?」
ニーナが涙を拭いながら食い込んだ爪で赤黒く染まった掌で必死に周りの石を掴み投げるのだが,手で払う必要がない程弱々しい。
ポコポコと身体に当たった石は地面に落ちるのだが,いい加減鬱陶しくなる。身体に当たる前に手で受け止め、それをこれみよがしに見せつける。
「意味ないよ。いつも気がつくのは既に手遅れになるぐらい事態が巨大になってから....。そうやって人は自分の掌から大事なものを取りこぼしていく。どうせなら....私の暗躍に気がついて殺しなさいよこの馬鹿」
俯きながらも話す最後の小さな一言。僅かに残った希望を吐き捨てるようにニーナにだけ聞こえた。
「それで....? もう抵抗は終わり?」
「一体どうやってあの火柱から助かったんだ!!一瞬じゃあんな広範囲に魔抗剤は行き渡らないだろ!」
「デンケン? よく考えてみて? 力を力で返す必要なんてない。ただ生き残る為の隙間を作れば良いだけ。しかも、風上から風下に流せば一瞬でセーフティゾーンの出来上がり」
広がった銀の筒がカシャンと音を立てて下の大きさに戻り、無意識に石と一緒にポケットの中にしまう。
「なんだよそれ? それがある限り、俺たちは勝てないのか?」
「そう。私みたいに魔力を殆ど持たない弱者が強者に勝つ為に生み出したものだからね....。これを作るために魔物がもつ魔力や特性までもを研究したし、沢山の人を殺めた」
「そんなに勝つことが大事なのかよ!? 俺らみたいに捨てられた負け組を踏み台にして貴族に取り入って....。何がしたいんだよ!?」
両目から大粒の涙を流し、訴えかける。
「さて、汚い叫び声もここで閉幕。真打を引き立てるスパイスになるだろう」
抜けた腰を休めようやくサルバトールが立ち上がりでしゃばろうと前に出ようとするのだが、それを腕で静止させる。
「どうしました? 後はクズどもを処理するだけでしょう? 今更長年仲間のふりをしていたせいで情でも湧きましたか?」
「いいえ。全く。だから心置きなく叩き潰せる」
にっこりとか微笑み,良い笑顔を浮かべる。
ピシャ
何かに亀裂が入る音がした。
「え?」
その音に気がついた後方の貴族がキョロキョロと周囲を見るのだが一体何から音がしているのかわからない。
ピシャピシャ
再び後ろから近寄る不気味な音。死神が鎌を構えて冷たい金属の鋭い感覚が薄皮に触れる様な奇妙な痛みが全身を巡る。
「あ」
空に舞い上がったかの様に体の重さが無くなる。
ただ一つ違うのは羽ばたこうとしても地平線の中に身体が入っていき上に登れない。
気の抜けた言葉に誘われて先頭のサルバトールが目を配る。
後ろの地面が割れ,そこが見えない奈落の穴。そんな空間に仲間が引き込まれていくのだ。何が起こっているのか分からないと言う表情をした馬鹿どもの叫んでもいない言葉が頭の中でガンガン響き渡る。
「情なんてないからこうやって背中を押すのも楽々」
ポンと手を添えただけ。本人にとってはそれだけなのだが、綺麗にサルバトールの身体が奈落の底に落ちていく。
「魔法は基本等価交換。質量を扱う属性魔法は魔力を質量に変化させて戦う。実際の質量をそのまま地表に出したら中は空洞。魔力で硬く蓋された結合を抗魔剤で緩めたらどうなると思う?身をもって体験して」




