第40話 自作自演と復讐
第40話 自作自演と復讐
「ダンジョンの手放し? 一体どう言うことだ!?」
ボロボロの体を引きずるゲルドが、声を荒げて怒り狂った剣幕で権利書を奪おうとするのだが、病人の様な力で軽くあしらわれ、力ない手が項垂れる。
そこで力が尽きたのか膝を着き地面に座り込む。
「どう言う事って言葉の通りです。この権利書をよく見てください」
丸められた権利書をシワクチャの手で伸ばしゲルドの前に見せる。胸ポケットに手を突っ込み涙程の赤い石を取り出し、火の粉を権利書の下の方に吹きかける。
茶色く焼けた文字が権利書の下に。嫌らしいスペースにじんわりと浮き上がってきた。
「ここに、本人立ち合いのもと、ダンジョンを手放す、捨てるなどの言葉を吐いた場合踏破済みダンジョンを譲渡すると書いてあります」
「何!?」
目を凝らして確認すると小さな文字で書いてある。
「この権利書にはゲルド様のサインが入っているので、この小さな文字も有効になります」
「お前は馬鹿か? ここには本人など居ないだろう?墓穴を掘った愚か者はお前だ!? 化けの皮を剥がしてやろうか!? 正体を表せ!?」
強引にガルデが爪を立て、渾身の力を込めながら顔を引っ掻く。
体重を後ろに移動させ、最小限の動きで躱そうとするのだがガルデの指が頬から入り込み顔の皮をベリベリと剥いでいく。
わざとその攻撃を受けたかの様なそんな素振りが僅かに浮かべた笑みから見て取れる。
「何だこれは!?」
ゲルドの指には気持ち悪い程ピッタリとくっついた顔の皮膚だったものが張り付いていたのだが、泥の様に指の間を抜け落ち地面に還る。
「あーあ、準備に時間が掛かったのに剥がれちゃった。だけどこれで契約は破棄されるよね?」
「契約?何を言っている?」
隙間から仄かに光ブラウンの瞳。剥がされた顔の皮を権利書を持たない方の手で覆い隠しているのだが、直ぐにその手を退ける。
傷ついた部分から更に指を入れ、全ての皮膚を剥がし、髪の毛もろとも地面に叩きつける。
「ふぅ」
本当の自分の髪の毛である長髪の茶色い髪の毛を靡かせながら同じように腕の皮を剥いでいく。
ブョッとした嗄れた皮膚を剥がすと瑞々しいキメ細かな本当の皮膚が現れその腕にはピンク色の宝石が嵌め込まれたハングルが現れる。
「お前!? 雇われのギルド職員か!?」
「顔じゃなくてこれで思い出すなんてどれだけ傲慢なの?しかも、業務に関係ない事から守る契約のはずなのに、お前は私に触れた。夜ベッドで組み伏せる気だった?この変態が」
ズボンのポケットから細いタバコを取り出し口に咥え、先程の魔石で火花を散らして火を付ける。
息を深く吐くと白い煙が勢いよく口から吹き出す。
「なんだ!? その態度は! お前は俺のは物だぞ! そんな反抗的な態度を取っていいのか!?」
「何言ってるの?最初に契約を蔑ろにしたのはお前だろ?」
腕に付けられた銀色のハングルがパリンと砕け散る。
「何故!? 俺の所有物の証であるそれが砕け散る!?」
「このハングルは危害から私を守ってくれる。だけど、お前は夜のお楽しみとして自分だけは除外して触れられるようにした。しかし、案の定私を傷つけた結果、ハングルを付けてるのに装備者が傷ついた矛盾による異常反応を起こして砕けたの」
「だが、お前は俺の所有物でしか....!」
「これ忘れたの?」
髪の毛を結ぶ黒いリボン。それを胸ポケットから取り出して魔力を込める。
「これを付けている間、お前は俺の所有物にしか過ぎない。せいぜい業務に励め」
その声はゲルドの声そのものだった。
「そのリボン!!」
「そう。音声を記録する固定術式。保管する術式は維持魔力が膨大で大変なんだよ? この文言通り腕輪が外れた私はお前の物じゃない。あ、それとこの服を着ていたお爺さん、馬車の往復で疲れて不整脈を起こしてたから馬車の中で応急処置をしてラフな服に着替えさせといた」
もしお前に人を大事にする心が有れば私に騙されることも玩具を手放す必要も無かったじゃない?
「チッ!! それでキノにくだった訳か! だか、ダンジョン譲渡の契約は無効だ!?」
「頭に蛆虫でも沸いてるの? それを描いてる時私が立ち合ったし有効だよ? それに私がここにいるってことは全部の準備ができたからだよ?ねぇ、キノさん?」
ダンジョン入り口からにゅっとキノの姿が現れる。
「何故お前がこんな所にいる!? 答えろ! キノ!!」
喉が張り裂けんばかりの声量で怒鳴りつける。肩で呼吸し、自分の声が骨身に染みているその姿は滑稽でありながらも酷く痛々しい。
「何故って? 私に騙された哀れなボンボンを見てみたくて」
真顔で淡々と言葉を並べる。その表情に感情はなく、ただ、機械の様に無機質な感情でしかない。
キノの耳を見るとギルド職員と同じ形のイヤリングに気が付く。
「何故こんなベストタイミングで現れたのか疑問だったが、そのイヤリングが通信機になっている訳か」
「今更気が付いても遅い。私の顔を見たときには勘付かないと」
アサシン特有のポーカーフェイスのまま語る。
「こいつはいつから執事と入れ替わっていた?」
「お前がダンジョンから逃げて来た時。本物の執事が慌てて足を滑らせた時に入れ替わった。本物は今頃馬車の中で休んでるだろうな」
ダンジョンの受付をしていた時の丁寧な口調をすっかり忘れてしまったのかと思わせる程の荒々しい口調で話す。
「この作戦を思いついたのは?」
「受付を済ませた時。ダンジョンに入って誰にも気付かれない様に作戦を共有した」
「最初から嵌める気だったのか? パーティに戻りたいって言ったのも」
「私はただ貴族発行の冒険許可証が手に入れば良かった。でもまさか、嘘とも知らずに10億エール以上の話を信じるなんてね。あの時契約書に譲渡の契約書が重なってたんだ」
「それすらも嘘か!? こんなにも俺を辱めて楽しいのか!? これほどの屈辱を味わったのは初めてだ!」
「クビになったパーティに戻りたいなんて言う訳ない。それに、屈辱とか言ってるけどそんなものを感じてる内はまだ余裕があるんだよ?」
「何故こんな事をする!! パーティをクビにした腹いせか!? 何故俺ばかりこんな目に遭う!」
「私をパーティからクビにした事に関して言えば何とも思ってない。むしろ、主流になりつつあるレイドに参加する為にヒーラーをパーティに入れて戦闘じゃ役に立たないアサシンを追い出す切り捨てはリーダーとして優秀。だれも責める者は居ない」
「だったら何故!!」
半ベソを掻きながら地面に膝を突き慟哭するその様子はいつもの余裕を削ぎ落とした本来の姿なのだが視界の端に置いてくのも憚られる。
「人を大事にしてないから。自分の利益のために人を利用。要らなくなったら捨てる。いくら自分が偉くても周りの支えてくれた人や思い遣ってくれた人を落とし入れようとしちゃだめ。ガジンにだってもっと優しくして」
キノが優しく諭すのだが、その言葉を聞いて歯に力を込め、憤る。
「煩い!! 大金を払って手に入れた奴をどう扱おうが俺の勝手だ!! ああ! ダンジョンの中に取り残されたプリーストを救いに行かなくては!! あははは」
涎を垂らし、空を焦点が合わない目でみつめる。
「コイツ大丈夫ですか? 私を手に入れた時と同じような手で手に入れたんだろうけどそれを同時にいくつも失っておかしくなっているんですかね?」
「それもある。けど、これからの流行に乗るんだったら最悪ユエルが居れば後のメンバーなんて適当に集めればいいと思ってるんじゃない?」
キノの呆れた言葉を聞いて笑い声が止まり、ニンマリと気持ちの悪い笑みを浮かべる。
「ああ! そうだ! あのプリーストのいる教会に飼育マニアから買い取った魔物を放ったのは快感だった! 実戦に慣れていない修道士達は滑稽だった」
「それを偶然を装って助けて恩を売り、ユエルをパーティに入れた訳か....」
「パーティに入れたとは心外だな?自分から入れて欲しいと懇願してきたんだよ?奴らはこんな種明かし知らないだろうがな」
込み上げて来た笑いが耐え切れないのか、噛み殺せなかった笑いが口から溢れてくる。
「ずっと笑って気持ち悪! キノさんはよくこんなやつのパーティにいられましたね」
「必要以上に干渉してない....。それに、これ以上失う物がないと思ってくれていた方が好都合」
「どういう事だ? なんだその余裕は!? 」
ゲルドの表情から、笑い声が消えた。
「ユエル、これで分かったでしよ、本性が」
振り返りダンジョンの入り口に向かって、話しかける。




