第27話 神隠し
第27話 神隠し
ダンジョンの奥から一匹の鷲が飛んでくる。
プルエアが指を出すと器用に指に止まる。光の塊を連想させるように黄色く輝く身体が反対側まで透けて見え、その重さを全く感じさせない。
「視覚共有の他に、念の為部屋や通路のあちこちを触らせてみたけど、魔物や罠はもう無いみたい」
「なら、さっきのあれは何だったんだ?」
「発生したのがあれだけならば突発的に発生したと考えるのが一般的だろうな。たまたまあそこで生まれ我々を襲ったんだろう」
ガジンの疑問にゲルドが何の疑問も持たずに答える。
「良いなぁー、使い魔の使役。私も使えるようになりたい」
「私なんかより丁寧な魔力コントロールもできるし度胸もあるから第二強化術なんて直ぐにできるようになるよ」
「でも、私、プルエアさんみたいに魔力量ないですよ?回復の魔力を残しておきたい為にパーティメンバーに警戒を押し付けるヒス女ですからね」
腰に手を当てエヘンと言う風に胸を張る。
「なんだかんだ、私のことをネチネチ責めて将来大物になるわね」
帽子の中から指し棒のような杖を取り出し、使い魔に向けて呪文を唱える。すると、形が綺麗に消えてなくなった。
「これみよがしに、第二魔術を自慢するプルエアさん程じゃありませんよ~」
「あんまり、ネチネチ言うと、バックパックの荷物を魔女帽子の中に入れてあげたけど、自分で持つ?」
「元々自分達で持ってこないから私が持っていただけで、どちらかと言うと私が持って来た携帯食を食べたのに何も持とうとしない男二人に持たせるべきじゃ無いですか?」
バチバチと女の間だけで散っていた火花が遂に男性陣に引火した。
「さて、終わりも近いことだしみんなで気合い入れていくかなーー!」
わざとらしい掛け声と共にゲルドが進み、みんなもそれに連れられていく。
「あそこが最深部でいいのか?思っていたよりもこざっぱりしている」
しばらく進むと、今までで1番でかい部屋にぶち当たりその部屋だけは昼間のように明るい。奥の通路からは最深部らしき鉄扉が見える。
「ここの奥が最深部って使い魔が伝えて来たけど、何で最深部の一つ前をこんなにだだっ広くしたのかな?」
「プルエアよ、お前は本の読みすぎで頭がおかしくなっちまったのか?普通に考えれば、最深部に眠るお宝の選別をここでやる為に決まってるだろ?」
「いや、あんたこそ馬鹿なんじゃ無い?私の頭はまだ毛根も死滅してないし、正常よ?あんたこそ衝撃を受け過ぎて毛根以上に脳みそがイカれたんじゃ無い?」
ギャーギャーとガジンとプルエアが騒ぎ立てる。
「さっきみたいに何かあるかもしれませんね。全員で『探知』の魔法を使って最大警戒して進みますか?」
「このダンジョンを上書きした時の攻略メンバー全員がダンジョンに名前が半永久的に刻まれる。ダンジョンに刻まれる名前を俺たちだけにしてもらうようにお雇い冒険者が忖度した様に、最初の攻略者も気持ちよく我々が上書きできるように忖度したんだろう!?きっとそうだ!」
ユエルに腑に落ちない謎の考えを自分に言い聞かせるようにして周りを変に納得させようと奔走する。
(これから一人消すのに、最大警戒なんてされたら毒を盛る以前の問題になってしまう。キノが言っていた毒を使うタイミングも掴めていないのに)
「何か言いましたか?」
「え!?いや!?何で!?何も考えてねーし!?なんでぇ!?」
「いえ、プリーストとしての勘の様なものです。私のネックレスが光っていたんで、私達に何か災いが降りかかるのかと?」
「ユエルちゃん、ゲルドがいやらしい目で見て来たからそれが光ったんだよ?」
「そうだな。こいつは俺と同じ戦士とは思えない程のかなりのムッツリだからきっと光ったんだな?」
古くからゲルドのパーティに参加する古参2人が悟った様な顔で話す。
キノに言われた通り、毒を使ってダンジョンに永遠に放置しておく場所を探すのだが、自分でこざっぱりと形容した部屋の中にそのような場所は見つからない。
ギィィィィィィィィィィィィィ!
部屋の遥か奥で音がする。重い鉄と地面とが擦り合わせられた時にする独特の音が四人の耳へと届いだ。
奥へと繋がる通路を見てみると、鉄扉が開き煌めく金貨が見える。
「金だー!!」
「え!?あ、ちょっと!?」
いの一番にゲルドが反応し、叫びながら走って金貨に向かう。
まだ何かしらの罠がある事を考慮したユエルがそれを止めようと追いかける。
やや遅れて、ガジンとプルエアの二人がその後を追いかけゲルドを追い越す。と言うか、ゲルドはわざと追い抜かれユエルにさえも追い抜かれた。
この中で1番金を持っているのは間違いなくゲルドだ。しかし、それなら何故一番最初に走り出したのか?分け前が決まっている中で不毛な体力を使うほど熱血が滾っている訳ではない。
自分のことを追い抜かす必要があったからそうしたまでだ。
ユエルの首から下げているネックレスが今まで以上に怪しく光るのだが、本人は前を走るガジンを抜き、プルエアに手を伸ばしている最中で気がつく様子は無い。
キノに言われた通りの隠し部屋は見つからない。ならば、最深部に踏み込ませ、その間に一人を再起不能にし、この部屋の死角に放置する。
最深部では管理者権限を直ぐに上書きして、他の二人をダンジョン外へ脱出させるにしろ、再起不能にしたメンバーを通路のつながっていない部屋に幽閉するなど沢山手立ては思いつく。
手甲の上で毒の玉をナイフの腹で押しつぶして膜を破る。細心の注意を払いながら重装備のガジンに向かって口を動かす。
「強脚」
脚部の装備品の耐久力を犠牲に身体能力を上げ無防備なガジンの背後を簡単に取る。
そして、広い後頭部目掛けて手甲に付いた毒をなびる。
一瞬で体の自由を奪い、声も出ない。身体が抉られたように熱くなり死んだ方がマシだと思える程の激痛に悶えるのだろうと勝手に思っていた。
そうなったら人知れず、部屋の隅に置き孤立させてダンジョンを組み替え、二度と外に出られないようにしようと頭を動かす。
異変に気がついたガジンが振り返ろうとする。
一体どんな顔をしているのか?
口から泡を吹くほど毒に悶え、苦しいのに声を出せない表情か?
それとも何で身体が急に動かなくなったか分からないで惚ける顔か?
想像するだけでも涎が出てくるほど笑いが込み上げてくる。
表情が視界に入ると、驚きを隠せない。
「ん?何これ?おいおい!?何だこれ?滅茶苦茶臭いぞー?何かの体液か?」
冗談まじりに後頭部に付いた液体を手甲で触って匂いを確かめる。
「ああ...いや...何ともないのか?身体が動かなかったり?」
「いや?別に何ともないが?にしても気持ち悪いなコレ?ちゃんと落ちるのか?」
口で手甲を噛み鎧の留め金を外すと素手で後頭部に付いた赤黒い液体を素手で拭う。
「洗えば落ちると思うが...」
「意外と子供じみた事をやるんだな。さぁ、俺たちも前二人を追いかけるぞ?」
手を振り誰も得体の知れない液体が地面に落ち、そのまま煉瓦の隙間を通り抜けて地面へと吸い込まれていく。
何層にも重なった煉瓦の隙間を通り、抜けていく。しかし、それは地面に吸い込まれる訳ではない。地面の下に設置された試験管の中へと吸い込まれていく。
ポタッポタッと赤い液体が溜まり、小さな卵が試験管の中で発芽する。ピシピシと試験管が割れていく。
「私が一番乗り~」
「もう~!そんなに走ると転んじゃいますよ?」
プルエアが女の子走りでルンルンと掛けていき、それを諭すようにユエルが小走りで追いかける。
そんな時に魔法探知石が、部屋中を照らすように妖しく程赤く光った。
「何これ!?」
「どうしたの?なんかすごい光ってるけど...?」
部屋のから後一歩で出る部分でプルエアがこちらを振り向く。
「分かりません!でも、警戒してください!」
プルエアの方を見ると足元から黒っぽい液体が煉瓦の隙間から溢れてきていた。魔法探知石はそれに反応している。
口で言うよりも身体が先に動く。小柄なプルエアの身体を手繰り寄せ、後ろに飛びそのまま地面に倒れ込む。通路から離れたその瞬間、足元から薔薇の棘を象った曲線の柵が通路を勢いよく塞ぐ。
「こっちも塞がれた!」
ガジンが叫んだ先の後ろの通路も同じ形の柵で塞がれている。
「どいてろ!!破壊する!」
拳を強化してゲルドが拳を振り上げ通ってきた通路の柵を破壊しようと拳を振り上げ振り下ろす。しかし、傷一つ付いていない。
「駄目だ!破壊でない!!」
拳が弾かれ後ろに仰け反る。
「俺が盾で破壊する!!」
「馬鹿が!!頭を冷やせ!!シルバーシリーズよりも性能の良いゴールドシリーズの装備でも歯が立たないんぞ!」
「そ...そうか...」
「それにお前の盾は俺たちの守りの要だ。こんな所で失うわけにはいかない」
柵を殴った手甲をガジンに見せる。ボロボロにヒビが入り、所々欠けている。
柵を見ると打撃を受けた部分が凹んでいるのだが、手甲の掛けらを吸い取り修復されていく。
部屋の左右の壁が音を立てて折り畳まれどんどん広くなり、天井もどんどんと高くなっていく。
「まるでボス部屋みたい」
ユエルのその一言に背筋が凍りつく。部屋が閉鎖されるなど、ボス部屋以外に聞いたことがない。




