第101話 奇怪
第101話 奇怪
この部屋は特に何もない。屋敷の中で一番大きな部屋なのだが、壊れかけたピアノがあるだけで後は何もない。
普段は5歳から8歳くらいまでの子供達が追いかけっこをして遊んだり人形遊びをしたりして遊んでいる。
しかし、今は50人程の回復術師の面々が麻でできたワンピースを着て椅子に座りその小さな子供達が髪の毛を一生懸命乾かそうと赤い魔石を握りしめ奮闘していた。
『これは?』
『見ての通りだよ? 回復術師のお姉ちゃん達、美人で読み書きや生活に役立つ魔法のことや蝋燭の作り方を教えてくれたんだけど、所々抜けててお風呂の入り方も知らなかったんだよ!?』
ジルがエナに一生懸命説明した。
『え!? そうなの? 色々な事ができそうなのに....』
『有り得ない話じゃないよ?』
キノがエナに口を挟む。
『貴族の中には生まれた時から使用人として育てて平気で風呂に入れなかったり家畜当然の扱いをする奴らもいる。ゲルドもその口で勉強や業務で必要なことだけ教えて、娯楽を一切与えなかったんだと思う』
『はい、キノ様の言う通りです。屋敷に住む使用人には部屋が与えられていましたが、木箱のような場所で家具などは一切なく、体も3日に一回程貯めた雨水で洗うように言われていました。今日まで家具やお風呂は貴族しか使えないものだと思っていたので、驚きです』
一番部屋の入り口の近くにいた、子が答えエナが言葉を失う。最低限下民でもできる権利を奪う貴族が居るのかと驚きを隠せない。しかし、無邪気な子供達の目には世話の焼けるお姉さんとして映る。
『みんなに聞きたいんだけど、良いかな?』
普段の物静かな様子からは想像できないほどの声を張り、大きな口を開けて吐き出された声が注目を集める。
『『『なーにー! キノお姉ちゃん!!』
小さな子供たちを筆頭に返事をする。
『今日一日屋敷の事はみんなに任せたけど、どうだったーー?』
幼稚園の先生を連想させるような口調で、子供たちに尋ねる。
『いつも任せてもらえないことができて楽しかった!!』
『初めて役に立てて嬉しい!』
『できないことができるようになってから気持ちよかった!』
『蝋燭の作り方教えてもらったの!!』
などと口々にみんなが叫び、どれが誰の言葉かは定かではない。しかし、その喧騒の大きさが楽しさそのものだ。
『そっか。じゃあ! みんなにお願いしてもいい?』
『なーに?』
ため息のように相槌を打つ。喧騒の中でもキノの声が聞こえると静まり、また声を揃える。
『このお姉ちゃん達にみんなの当たり前や幸せを教えてあげて欲しい!』
しかし、次は子供たちの表情がキョトンとする。
『それって何すれば良いの?』
声の高い赤髪のショートボブの小さな女の子が聞く。
『何も特別な事はしなくていいんだよ』
キノの言葉に更に首を傾げる。
『お姉ちゃん達はみんなの知らない色々な事を知ってる。けど、お姉ちゃん達はみんなが知ってる色々な事を知らない。だから、お互い何もしないで普通に生活してれば良い....』
『キノお姉ちゃんが俺たちにしてくれたみたいに?』
次は茶色い髪の毛をした長髪の小さな子が口を開く。
『それでみんなが楽しかったり幸せを感じたならお姉ちゃん達にもそうすれば良い....。私は普通にしてただけだからよく分からないけど....』
困ったようにキノがくしゃりと笑みを浮かべる。
『『分かったー!!』』
それで伝わったのか元気のいい返事が聞こえてきた。
『あのね、お風呂から出たら髪の毛を乾かすんだよ?』
『タオルで拭いてから魔石から出る熱で乾かすの....』
『火傷しないように指先に魔力を込めるんだけど、乾かし終わった後魔力をすぐに解くと火傷しちゃうから置いてから魔力を解いてね』
『冷めてからまたしまうの!!』
先程まで、ただしてあげるという感じだったがキノが話してからは自分達が何をしているのか? 何のためにしているのかを丁寧に説明しながらいつか自分達でもできるように髪の毛を乾かしてあげていた。
『さて、じゃあ私たちも他の年長者組に合流しましょ?』
『えー、俺もう魔力がないんだけど....』
ジルの言葉を躱すかのように疲れを表情に浮かべる。
それを見たジルもめんどくさそうな感情を表情に浮かべ、更に揉め事に巻き込まれたくないリヒターが
『さて、俺の魔法で髪に含まれた水滴だけを取り出そうかな』
などと言い、その場を離れる。
『魔力切れなら仕方ないわね』
『だろ? って事で俺は休みに....』
『それが本当だったら休ませてあげる。ニーナ、きてもらっても良い?』
『は..ー.い!』
自分よりも大きな新しい姉の髪の毛を櫛で整える手を休ませ、ニーナがやってくる。消え入りそうな声だが、パタパタと動きは素早い。
『えっーと、何するの? 魔力切れは本人にしか分からない....』
『そんなのいくらでも誤魔化せるでしょ? でも、ニーナなら、体内生成した命令を外部に伝播させられる』
デンケンの言葉に淡々とキノが答える。
『じゃあ、やって行きますね....』
『行くって何を?』
要領を得ないデンケンに対し、何かを思いついたニーナが手を翳す。
すると、デンケンの指先に小さな火が灯る。




