前編
今年もやって来る、あの地獄のイベント『断罪パーティー』が。
王族貴族の令息令嬢がこぞって通う王都学園において、ここ二年続いている裏イベントだ。
本来は卒業生を祝うための祝賀パーティーであるが、公爵家令嬢オーレリアによって、裏イベントがオプション化されてしまった。
蝶よ花よと育てられ、欲しいものは何でも与えられてきたオーレリアは勝ち気でワガママな性格だ。
国の第一王子との婚約が決まってからはその横暴さに拍車がかかった。
第一王子のアレックスは浮気性で腹黒く、気の強いオーレリアとは真逆の初々しく清純そうな女生徒にちょっかいを出しては、すぐに飽きて捨てるということを繰り返していた。
アレックスが気に入った女生徒の一人に、二年前に卒業した男爵令嬢のモニカがいた。
モニカはアレックスのしつこいアプローチに絆されることなく拒み続けたため、意地になったアレックスに長期間付きまとわれていた。
オーレリアはそれが気に食わなかった。
婚約者のアレックスに遊ばれて舞い上がり、調子に乗ったところであっさり捨てられる、惨めな馬鹿女たちを嘲笑するのが楽しかったのだ。
レベルの低い女たちがどう足掻こうが、所詮は低レベル。王子に本気で選ばれるはずもない。絶対的な高位に鎮座しているオーレリアは、王子に遊ばれ捨てられる女どもを嘲り笑うのが趣味だった。
しかしモニカは思い通りに動かなかった。
まるでストーカーのように付きまとう王子と、それを迷惑がり逃げ続けた男爵令嬢。
モニカのせいで、王子アレックスと婚約者の公爵令嬢オーレリアの自尊心はひどく損なわれた。
だから二人は報復したのだ。
ようやくこれで解放されるとモニカが安堵した二年前の卒業パーティーで、彼女を糾弾し断罪した。婚約者のいるアレックス王子をたぶらかしたという罪で。
アレックスとモニカがよく一緒にいたという目撃証言はもちろん事実だったが、その他あること無いことを次々と列挙され、真実は塗り替えられてしまった。
王子アレックスと公爵令嬢オーレリアの取り巻きたちが全員、モニカに不利な証言をしたためだ。初めから結果の分かっていた断罪劇であった。
その場にいた国王の鶴の一声で、モニカの父親は爵位を剥奪され、モニカ一家は王都から追放された。
アレックス王子とオーレリアは胸がすかっとした。思い通りにならない人間は皆こうしてやれば良いのだと、二人の残忍性を増長した出来事となった。
それ以降二人はますます恐れられ、逆らう者はいなくなった。目をつけられることがないようにと息を潜め、特に女たちは控え目に行動した。下手にアレックスに気に入られようものなら、モニカの二の舞になる。
「最近、俺が近づくだけですうーっと女が逃げて行くんだが」
「あは、自業自得ですわ。皆、あの女のようになりたくありませんものねえ」
「あれは笑えたな。あんなに必死に頭を擦りつけて、お涙頂戴だ。大勢の下級生も見ていた前で惨めすぎたな。あれこそ自業自得というものだ。低レベル馬鹿女のくせに、俺を散々こけにしやがって」
「今年ももうじき卒業パーティーですわね。またやりません?」
「何をだ?」
「モニカのときのように。青天の霹靂という感じで、いきなり地獄に突き落とされる低レベル馬鹿女の顔がまた見たいですわ。最近退屈でしたし。思いきり笑いたいですわ」
「なるほど。良い趣向だな、さすが私の婚約者だ。俺はどうすればいい?」
「私が適当にターゲットを選びますから、殿下は適当にターゲットを口説いてください。お得意でしょう? 実際お相手にされても、されなくても結構ですから。卒業パーティーでそのターゲットを糾弾し、断罪いたしましょう」
オーレリアのこの提案により、昨年の卒業パーティーでも断罪劇が繰り広げられた。
不運なるターゲットは、子爵家令嬢のフローラだった。他の娘たちと同様、なるべく目立たないようにと気をつけて学園生活を送っていたはずが、どこをどう間違ったのか標的にされてしまった。