第1話ご先祖!空から女の子が!
「よいしょ!よいしょ!」
洞窟であるここでは日光が差し込む場所は少なく大抵は畑となっている。
その一つでクワを振るう少年がいた。
クリフはひとりぼっちである。
厳密に言えば、それは正解でも間違いでもあった。
彼の両親は当の昔に亡くなり、周囲には人間は己のみ。
だが、彼の周囲には家族と呼べるもの達がたくさん居た。
彼らはいつもクリフの側におり、顔を舐め回したり羽毛でモフモフされ足や腕の間にこもうとケンカを始める。
はっきり言って寂しくなどなかった。
「ワン!ワン!」
クワで耕した畑に、コボルトの子供が尻尾をピコピコと揺らして芋を植えていく。
その周囲でも成体コボルトが畑を耕し子供達がワフワフと芋を植えていた。
畑の周辺では、早くも昼寝しているのかコボルトが団子状でお休み中。
「平和だなーー」
「「「「キャン!キャン!」」」」
汗をぬぐいつつ、コボルトをなで回していると周辺のコボルトが撫でて撫でてと毛玉の津波が押し寄せてくる。
そのことごとくを撫で回し終えれば、遊び疲れたのかコボルト団子が量産されていた。
「よっと」
コボルト達を起こさないようにゆっくりと移動し一人歩く。
しばらく歩けば洞窟の天井が空いている場所に着いた。
クリフはそのぽっかりと空いた隙間から見る空が大好きだ。
流れる雲を見るのも、時折振る雨を浴びるのも、さんさんと降り注ぐ太陽を浴びて昼寝をすると最高の気分になれる。
「あっドラゴンだ!」
空見ていると時折いろんなものが飛んでいるのが見える。そして、それらが地上で生活しているのを想像するのがクリフの趣味であった。
クリフは生まれてから一度も地上に出た事がない。
両親が残してくれたであろう本からいろんな知識を得ているが実際に見たことはない。だからこそ想像するの事が面白いのだ。
「また、ドラゴンだ!」
今日に限っては珍しいドラゴンが何度も空飛んでいる。
実際にはワイバーンであるのだが、実物を間近で見たことのないクリフにとって空飛ぶトカゲはすべからずドラゴンであるのだ。
瞳を閉じる、そうすれば空を舞うドラゴンが瞼に映る。
想像のドラゴンは森を越え山を越える。
そして、本で見た街を眼下におさめ翔んでいき、やがては海に至りそこに向かって飛び込んでいく。
グングンと近づく海面。
そして。
ザバーーンという着水音が近くで鳴った。
「うおあああ!」
あわてて目を開き周囲を見渡せば、近くの泉に金色の物体が泡をふかして浮かんでいるのが見える。
起き上がり急いで引き上げてみれば、それが髪の毛であったことに気がついた。
物体、いや彼女と呼べばいいのだろうか。
クリフにとっては初めてみる両親以外で初めて見る同族であった。
細かな金糸の髪、陶磁器のような白い肌、出る所は出ており整ったボディライン。
まごうことなき女の子であった。
抱えた女の子を見る、空を見る、女の子を見る、空を見上げる、幾度か繰り返した後に。
「ご先祖!空から女の子があああああ!」
叫びながら、女の子を抱えて走り出した