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《朗読台本》 夕焼けの日に

作者: にっけるスイソ

今回は朗読台本を書かせて頂きました。

朗読等へご自由に使用して下さい。

なお、本文を使用して何らかのトラブル等が発生した場合は、使用者の自己責任でお願いします。


(ここからネタバレ注意)

この台本は、いじめ経験がほとんど無い人間が書いています。そのため、一部不快感を感じさせるような構成や物語になっているかもしれませんので、あらかじめご了承下さい。

 

 地平線へ近付いてきた太陽の放つ光は、誰もいない空っぽの教室を美しい夕焼け色に照らしていた。


あの日の私も、あの夕焼けに照らされた教室みたいに空っぽになっていたんだと思う。


教室を過ぎて、私は階段を上り始めた。

タン───タン───と、私が階段を上る足音だけが響く。


上って───上って───上って───。

随分長い間、階段を上っていたような気がする。

そして私は、1枚の無機質なドアの前にたどり着く。


ドアを開ける。


その刹那、一気に夕焼けの光が私の腕や顔を焼き尽くしてしまいそうなほど熱く照りつける。


夕焼けに眼を細めながら、私はそのまま、真っ直ぐ、歩いた。


高さが私の脇腹くらいまでしかない転落防止用の柵に向かって。


柵の前で、立ち止まる。


柵に手をかけ、夕焼けに染まった街を眺める。



これが、私が最後に見る景色。



美しい。


こんなに世界は美しいのに。


人はやることなすこと、全てが、汚れてる。


それを知るだけが、私の人生だったんだ。


私は、何か悪いことでもしたのかな。


お父さんがいないのは、そんなに駄目なことなのかな。


なんで。どうして。


どうしてそれで私がこんなことされるの?


ねぇ。


お母さん。


ねぇ。お願い。


どうしていつも私を一人にするの。


ねぇ。


なんで。


そうか。


教えて、くれないんだね。



もう───いい。



さようなら。



そう、思って柵を越えようとした───



───その時、だったよね。


君が、「なにしてんだ」って言ったのは。


本当にびっくりしたよ。


本気で誰もいないと思ってたんだから。


君は私の何歩か斜め後ろで床に座り込み、手にしたスケッチブックの上で鉛筆を走らせていた。


そして君は、こちらを見もせずに私に言ったんだ。


「死ぬのか。」ってね。


私は答えなかった。


答えられるはずがなかった。


自分は今まさに、死のうとしていたのだから。


私は、俯いて君が鉛筆を走らす音を聞くしかしかなかった。


その後だ。


あの一言を言ったのは。



「死ねば、良いんじゃないか。」



「死を選ぶ権利だって人にはあるからな。」



そんな事を言ってきたのは、君が初めてだったよ。


世間は、自ら命を絶つことをマイナスな風にしか言わない。


でも、


君は違った。


命を投げることも、自由だ、と言った。


───だったら。


だったら、死んでやる。


もう、やれることなんてない。


口には出さなかったが、心の中でそう吐き捨てた。 


その時。



「まぁ、誰かが死ぬ程辛い思いをすることになるけどな。」



その言葉に、心が引っ掛かった。


お母さん。


お父さんがいなくなってから、何も言ってくれない、愛してもくれない、一緒に居てくれることもほとんど無かったお母さん。


教えてくれない。愛してくれない。一緒に居てくれない。


じゃあ。



私は一回でも、お母さんに頼んだだろうか。



教えてくれと。


愛してくれと。


一緒に居てくれと。



───ない。


私はただ、口を開けて待っているだけの雛鳥だった。


助けて欲しかったのに。


誰かの復讐に怯えて「助けて」って言わなかった。


分かっていながら、出来ない事だと勝手に思い込んで。


それなのに。


私は、今から、何もかもやり尽くしたみたいな顔で死ぬのか。


もしかしたら。


お母さんは。


私を。



───いや。


「そんなの、分からないじゃない。」


最後の思いで、私が。

 

心中を伝えたとしても。


「何も変わらない事だってあり得るじゃない。」


私は、ようやく言葉を口にした。


でも、君は変わらなかった。



「じゃあ、死ねば良いじゃないか。」



私は、思い切って柵を握り締め、足を掛けようとした。


でも。


柵を越えようとすればするほど、私の体から力が抜けていった。


代わりに込み上がってきたのは、もう既に無くなったはずの感情。


───助けて。


私は、力なく座り込んだ。


涙が出た。


死にたい。死んでしまいたい。死んでしまえば良い。


でも、一度思ってしまえば、もう頭から離れない。


助けて欲しい。


助けてくれるかもしれない。


助かるかもしれない。


助けて。

 

今なら言える。

 

───私はもう、生きるのが辛い、って。



私は踞まって息を詰まらせながら泣いた。


そのまま暫く、私の泣き声だけが、途切れ途切れ、夕焼け色の屋上に響いた。



その後、君はスケッチブックを閉じて立ち上がった。


泣いて踞っていたから見てはいないけど、音と存在感でなんとなく分かった。


そして、君は。


最後に、言った。


「それでも駄目なら、死ねば良いさ。」


───「自分の好きに生きて、好きに死ねよ。」



私が泣き止む頃、君はもうどこにも居なかった。


そして君は、この世界からも居なくなってしまった。


ねぇ。


君は、本当は、


あの時私に、


「生きれるくせに」って、


言いたかったんじゃないの?



───いや。


違うか。


きっと君の事だから、


君の好きに死んだんでしょう?


きっと、そうだよね。


なら、良いけどさ。


でも。

 

でも、なんであの日、あの時に、


屋上に居たのかは、


教えてほしかったな。


今だから思うけど、君は、


ただ夕焼けをスケッチするために屋上に居たとは思えないな。


───まぁ、いいか。


君に聞けたとしても、君は教えてくれなさそうだし。


私は、君みたいに生きるよ。


君の分まで生きるんじゃなくてね。


私が勝手に君みたいに生きるってこと。


スケッチもしないし、男みたいに生きるようなこともしないけどね。


君はこんなこと言われても気にしないだろうけど、


私は、君のおかげで今日も生きている。


だから、君みたいな生き方で、私は生きていきたい。

 





───ありがとう。

ありがとうございました。

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