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020「追憶」

――ホワイティ―さんは、どこかしら?

 左右にキョロキョロと視線を走らせつつ、アキミは廊下を歩いていたが、屋根裏部屋へ続く梯子の向こう側にある部屋から物音が聞こえたのに気づき、ふと、足を止める。

――奥の部屋にいるのかしら? 入ったこと無いけど、入っても良いんだろうか。

 アキミは、足音を忍ばせて物音がする部屋のドアの前に立つと、そっと木製のドアに半身を寄せ、聞き耳を立てる。

――ラジオを聴いてるみたいね。お邪魔したら悪いから、あとにしよう。

「そこで何してるの、アキミお姉さん。探偵ごっこ?」

「わっ! ……アタタタタ」

 一階から続く階段を上ってきたシルビアが、タッタッタとアキミに駆け寄りながら出し抜けに言ったので、アキミは驚いてドアに肘をぶつけた。アキミが痛む肘を押さえてさすっていると、部屋のドアが開き、中からホワイティ―が姿を見せる。

「おや、アキミさんにシルビアも。二人揃って、どうしたの?」

「お姉さんが、部屋の前に立ってたのよ。だから、私は声を掛けたの」

「すみません。ラジオを聴いてらっしゃる様子だったので、ノックして良いものかと迷いまして」

 申し訳なさそうにアキミが述べると、ホワイティ―は朗らかな笑みを浮かべて応える。

「気を遣わなくていいのよ。尋ね人を聴いてたんだけど、いくら待ったって、息子の名前が出てくるはずがないもの」

「息子さん、ですか?」

「そうなの。おばあちゃんったら、パパが、まだどこかに近くに居ると思ってるのよ。小さい私を置いて遠くに行っちゃって、もう帰ってこないっていうのにさ。この部屋だって、パパとママがお休みする部屋なのよ?」

――あぁ、なるほど。そういうことか。息子夫婦の寝室で、一縷の望みを託してるわけね。内乱は五年前に終わっても、心の傷が癒えるのは、まだ時間がかかりそうだ。

  *

「この人たちが、息子さん夫婦ですね?」

 アルバムを膝に置き、セピア色になりかけた写真を指差しながらアキミが問いかけると、イスに座っているホワイティ―は目を細めて頷き、その後ろで背もたれに顎を乗せて覗き込んでいるシルビアが口を挟む。

「まだ、パパが兵隊さんになる前の写真よ。ママも、ショートカットにする前だわ」

「そう。それじゃあ、これは内乱前の写真なんですね」

「えぇ、そうよ。ちょうど、この直後に始まってね。内乱が無ければ、ウィンターは行方不明になんてならなかっただろうし、シルクさんだって、お産で命を落とすことなかったはずだわ。――まぁ、過ぎたことを言っても、何も始まらないわね。さぁ。お店の準備をしましょう」

「はーい」

「あっ、はい」

 ホワイティ―がイスから立ち上がって廊下へ向かい、シルビアがあとに続くと、アキミはアルバムを机の上に置いて立ち上がり、二人のあとを追った。

――月並みだけど、平和が一番ね。

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