最悪の敵
3日ほどかけてエリサと一緒に森を抜け街に着いた俺たちは小腹が空いたので飲食店で食事をしたのだが、
「信じられない。まさか、今時お金も持ってないなんてカズトどうかしてわ」
食事を終えて、店を出るとエリスが突然大声で怒鳴ってきた。
「仕方ねーだろ、俺はこの5年間師匠の所で修行してて食い物は自給自足だったんだから。それに、エリサだって残り数千コインしがないんだから人のこと言えねーだろうが」
「もー何よ何よ、私がお金持ってなかったら無銭飲食で捕まっていたのに」
「あーはいはい、確かにそうですね、どうもありがとうございます。それでぶっちゃけた話金ってどうやって稼ぐの?」
「何、そんなのも知らないの。はっ、これだから田舎もんわ。まー色々あるけど私達が手っ取り早く稼ぐにはギルドで仕事を紹介してもらうことかしらね」
俺が金の稼ぎ方を聞くとエリサは勝ち誇った様に俺を小馬鹿にしてきた。
「おいエリサ、喧嘩売ってるなら買うぞ」
「良いわよ。でもカズト、また私に叩きのめされても知らないよ」
そう言ってエリサ腕を組み俺へ威嚇してきた。
ーー確かに街へ来る途中エリサと口喧嘩した後取っ組み合いになってボコボコにされたんだよな。くそ、思い出したらあの時の傷がまた痛み出した。
「う!まー今回は多めに見てやる。それでさっきの続きだがそのギルドってのはどこにあるんだ?」
「ふん、うまく逃げたわね。まあいいわ。それで、ギルドの事でしょ。ギルドには仕事が色々あるけど私達がやるなら街の警護か獣の討伐が妥当かしら」
「へー、そんなんで金っても貰えるんだ。じゃあ早速そのギルドってとこ行こうぜ」
こうして俺達はギルドへ向かった。
ーーそれにしても俺達ずいぶん仲良くなったよな。それともこれぐらい普通なのか?ダメだ、5年間師匠以外とまともに喋ってなかったから基準が全然わかんねえ。
ギルドに着いた俺達は何やら紙がいっぱい貼られているボードの前で仕事を探していた。
「カズト何かやりたい仕事がある?」
エリサはボードの前で紙を眺めながら俺に聞いてきた。
「いや、さっきも言ったけど俺はそういう知識は全然無いから、全部エリサに任せるよ」
「それもそっか。じゃあこんなのはどう?」
エリサはそう言うと左手に持っていた紙を俺に渡してきた。
「えっと、[クロウの森に生息する獣ジャガーの討伐、1匹1万7千コイン]なあ、ジャガーって何だ?と言うか、こいつ俺達だけでも倒せるんだろうな」
「ジャガーって言うのは体調3、4メートルくらいの大型のトラみたいなものね。強さは私達なら1人でも1撃で倒せるわね」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ早速そいつ狩に行こうか」
そうして俺たちはジャガーを狩にクロウの森向かった。
「ふぅ〜、これで6体目っと。エリサそろそろ街へ帰ろうぜ」
クロウの森に着いた俺達は2時間程歩き回り、ジャガーを見つけては狩るを繰り返していた。
「そうね、確かにこれだけあれば当分金には困らないだろうし」
「よし、帰ろう。早く帰って肉が食いてえ」
そうして俺達は狩を終え街へ向かった。
街へ帰ろうと歩き出してから数十分程経った頃、遠くから悲鳴のようなものが聞こえた。
「おい、エリサ今の聞こえたか」
「ええ、しかもこの声1人じゃ無いわ」
俺達はお互いに頷きあうと、全速力で声の方に向かった。
「おい、何だよこれは」
俺の視界には粉々なった荷馬車と数人の倒れた人、そして威圧感の漂う血まみれ男がいた。
「ああっん、何だお前ら」
男がこちらを向き話しかけ、目が黒く輝いているのが見えた。
「お前、魔教徒か」
俺は反射的に男に突っ込もうとするもエリサに体を掴まれ阻止される。
「何すんだよエリサ。こいつは、こいつは」
「・・・」
しかしエリサは俺には答えず、ただただ男に視線を向けている。
「お〜いいね、いいねその顔。俺を見てそんな視線を向けて来る奴なんて久しぶりだよ。あ〜、興奮してきた。さあ殺う、今すぐ殺う」
男はそう言うと顔に付いた血を舐め、俺達に突っ込んで来る。そして次の瞬間、俺の目の前にはグーで殴りかかる男の姿が見えた。
「ぐはぁ〜」
俺は咄嗟に手でガードするもその勢いに押され吹っ飛ばされる。
「はぁ〜はぁ〜」
そしてなんとか立ち上がった俺の横には同じく吹っ飛ばされたであろうエリサが口から血を垂らしながら立っていた。
「お〜お〜やっぱりすごいね君達、俺の攻撃を受けても生きてるなんて。あ〜こんな殺しがいのある奴らに会えた事をリリス様に感謝しなければ」
男が手を合わせて祈りを捧げる。
ーーこの野郎、ふざけやがって。
俺がそんな事を思っているとエリサが悲しそうな小さい声で話しかけてる。
「ねぇ、カズト。あなたは魔女リリスの事どう思う?」
「はっ、なんだお前急に」
「いいから答えて」
「大っ嫌いだよ、何せ魔教徒の親玉みたいなものなんだから」
「そっか、じゃあ大丈夫だね」
そう言うとエリサは俺の方を向く。すると俺の体はまるで突風に押された感覚に陥り、そのまま遥か遠くに吹っ飛ばされた。
「あ〜何すんだよ、せっかくのオモチャが」
「心配しなくていいよ、あんたの相手は私1人で十分だろうから」
そしてエリサは両目を黒く輝かせ涙を浮かべながらその男に向かっていった。