「夢は博麗の巫女と御手合せをする事で御座います」
霧雨道具店裏側。森近霖之助ともう一人の男が品出しをしていた。不図、男が霖之助に何かを手渡す。
「森近、これを引き取ってくれ」
「なんでしょうかこれは」
渡されたのは半紙を纏めた冊子。年代物か、茶色でボロボロになっている。表紙に文字はない。中を見ると薄墨だったり文字が滲んでよく読めなかったりしている。それでも後半へいくと段々ましになってきてはいる。
「あれのだ」
あれ、というのは男の娘。
「嗚呼そうでしたか。では預かっておきます」
「引き取れと言った」
「これは中々の価値があるものでしてね」
「じゃあ貰っておけ」
「そうします」
・・・・・
場所は移り変わり、霖之助が営む古道具屋香霖堂。カウンターには店長の彼ともう一人、(売るつもりが無い)商品の壺に腰かけた博麗霊夢がいる。
「という事があってね」
「へえーーーーー」
霊夢は興味深そうに頷き、顔をにやけさせては口角をあげている。そして冊子を手に取る。
「君には読めるかい」
「読める訳ないじゃなーい」
と返して冊子を扇子の様にはたく。
「そうかい」
霖之助は興味なさげに小説に再び集中する。すると、件の彼女が来る。
「よーよー魔理沙様のご来店・・・。霊夢、なんだよその目とその冊子!」
「いや~ちょっとねえ~」
明らかに弄り倒す気満々の様子。霊夢の笑顔で魔理沙は震えあがる。
「霧雨の親父さんから貰ったのだが、うちには置けないからね。引き取ってくれ」
「言われなくても!てか絶対碌でもない奴だろ!」
魔理沙の焦りを含んだ大声が店内に響く。急いで霊夢から奪い取る。
「ああそうだよ。君の言う通り碌でもない代物でね、字が汚くて読めやしない」
慌てふためく姿をみて霊夢は顔を覆って笑いを堪える。
「なんだよ字が汚いって、いややっぱり私のか。霊夢その顔やめろ!もう帰るからな!」
ドアを閉めずに箒に跨り、空へ飛んで行った。
・・・・・
「あーやっと収まった」
終いには床に手を着いていた霊夢。相当にきたのかにやけは止まらない。
「霖之助さんは中身見たの?」
上げ過ぎて痛めた口角を押さえて訊ねる。
「殆ど解読不能だったよ」
「じゃあちょっとは読めた」
「そうだね。文字を教えて居たのはお袋さんと寺子屋の先生みたいだね」
「先生ねえ。後を付いて行こうかしら」
「大概にしてくれよ」
・・・・・
霧雨魔法店近くで箒から降り立った魔女。近くには地蔵の矢田寺成美。
「あー危なかったぜ。溜まったもんじゃない。てか捨てろよな」
「何を?」
「うおビックリした。成子か」
近しい物や人物には大体あだ名をつける魔理沙。成美自身も不満はない。
「何それ」
「これか?字の練習で書いてた物語だ」
例え。苦労なしで金儲けをする卑しい職業だと言われても家を継ぐと信じられて育てられた証。
「物語か~。ジャンルは恋愛ものでしょ」
「うぐっ」
見事にいい当てられ、銃弾で撃たれた様な素振りをする。
「大丈夫だよ。見ないから」
「流石成子、私の味方だぜ!」
「アリスも私の味方だから。これ作ってくれたんだからよろしくね」
フリルの付いた笠を指す。いつかの雪の日にアリスが作った物だ。
「ああ解ったよ」
草叢から何かが手と足の裏を合わせながら飛び出してきては魔理沙の上に乗っかり、重みで地に伏せた。
「何だ!」
「見ーつけた!」
「霊夢かよ!」
地面と霊夢に挟まれ、声がしっかりと出ない。
「さあ。あんたん所でそれ読んでやるわ!」
「グフ」
(死んだ・・・)
東の魔女が色々死んだ。逃げる巫女を笠地蔵が追いかけようとするも札で身動きを取れなくされた。
・・・・・
「さーて、幼き日の魔理沙の文字、この博麗霊夢探偵が解読してさしあげましょう!」
「誰も頼んでないのぜ」
「私が善意でやってあげてるだけだもん」
魔理沙の家。霧雨魔法店。片付けが苦手なのかそもそもしようと思わないのか足の踏み場が見当たらない。その部屋の窓側。ベッドには魔理沙がうつ伏せで、下では霊夢が冊子を持って暗号を解読している。魔理沙には霊夢に対抗出来る力を持っていない。やればやり返されるのがオチ。大体組伏せられるまでがテンプレートである。
「『魔女の私』って書いてあるけどさ、アンタが主人公なのね」
「・・・」
(屍になった)
基本、探偵ものだけを読む霊夢には恋愛ものは理解し難かった。
・・・・・
それから全部を読み終わり、図ったかのように起き上がった魔理沙は茶を飲みに台所へ向かった。
「『おかたい博麗』、お堅いねえ」
なんとか解読した文字の中にあった一文。主役であろう魔理沙と博麗が物語に出て来た。やはり、博麗というものはそういう立場なのか。
「どうだ?読めたのか?」
「まあね」
「最後とかめちゃくちゃだったろ。終わらせるのも大変なんだぜ」
「そうね」
「それ、まだ完結してないんだぜ」
「へー」
一応、湯飲みを受け取る。出て来た「博麗」は霊夢か先代か。酷評はなかったにしろ、人々から忌み嫌われた過去を思い出す。
「そういえば、ほぼフィクションだって言ったっけ。私」
「は?ほぼ?」
「勉強漬けの私だぜ、外に出る訳ないだろ」
「魔理沙」
魔女は掌をひらつかせ、巫女は握りこぶしを作る。
「まあ、一つだけ本当の事が書いてあるんだぜ。教えてやろうか」
「しんみりした私が間違いだったみたいじゃない!てかどこが恋愛よ!」
「だから、本当の事も書いてあるって言ったじゃないか。ほら、私だぜ」
笑顔を見せられ、確か此奴が使うのは恋符だったなと思い出す。
「信用できないわ。で、どれよ」
「知りたければ、私を倒してからにしな!博麗霊夢!」
「ふざけんじゃないわよ!解ったわ、覚悟しなさい!」
言い終わるが先に外へ出、いつもの喧嘩が始まったという。
閲覧有難う御座います。
因みに去年の魅魔様からの呪いというのは骨折でした。






