異世界(2)とおっさん
「ある一定の可能性……。つまり、この世界から抜け出す術を持つものって事ですか?」
少し思考を巡らせ、そう問いかける。
男は真顔のまま首肯し、
「その通り、つまりこの世界に於けるバグのようなもの、その術を持つものはいわゆる″チーター″と呼ばれている」
なるほど、この世界の環境下において、その行動をする事はあまり良い行いとは言えないのか。
と、ここで1つ疑問が浮かぶ。
「つまり、他人に指輪を渡すことができる––––いや、指輪の効力を解除できる人が″チーター″なのですね……。となると、俺の指輪を渡してきた彼女は″チーター″である、と……」
「まっ、その可能性は高いな。しかし、″チーター″は咎められる存在。何故なら––––」
「––––この世界は″脱出不可能″であるから、でしょう?」
俺がそういうと、男は静かに首を縦に振る。
この男の話の流れと、″チーター″が咎められる存在である理由、この二つを考えるとその理由に合点が行く。
この時の俺は、幾分と平常心でいた。しかし、その現場を認識した時、その瞬間に俺はどうなってしまうのだろう。俺にもわからない。
「しかし、ARの世界で脱出不可能となるともちろん″アレ″も有りますよね。おきまりの……」
静かに問いかける。男は、少しニヤリと笑い––––
「もちろん……お前は″アレ″のことを言ってるんだろう?」
きっと、この男も同じ事を考えているのだろう。
「……せーのっ、で言います?」
「そうだなぁ〜、その方が面白いもんな……。せ〜のっ––––」
「モンスターとのバトル!(夕)」
「死ぬと復活できない!(おっさん)」
マジか……!
この日、俺は絶望を味わった。『死ぬと復活できない』か……。ハハハ……俺、生き延びる自身ないよぉ〜。
「ところでおっさんはなんていうの?」
ふと、思い出した事を口にする。
「おっさんか……俺ももう年だな……おっとワリィ。俺は、【ダァグラス】ってんだ! よろしくなっ‼︎」
ニカッと笑い、手を差し出してくる。今更感がすごいんだが、そんなことはどうでもいい。何より、このおと……もとい、ダァグラスさんは俺の初めての仲間となるんだろうからな。大切な人だ。
「よろしくお願いします! ダァグラスさん」
その、自分の手より少しだけ大きい手をガシッと掴む。
男同士の友情に、言葉なんて物はいらないんだな……と、この時の俺は何を勘違いしていたのだろう。後々気付く事である。