僕は何も知らない。
最近の彼女は、昔にくらべてよく泣くようになった。
「…最近よく泣くよね。」
さっきまで泣いていて目を赤く腫らした彼女を見つめながら僕は言った。
「そうかな?気のせいじゃないかな?」
まだ瞳に残る涙を薬指で拭いながら、彼女は笑みをうかべた。
「気のせいじゃないよ。何かあったの?」
最近の彼女は僕に会った瞬間に涙を流す。
それから10分程、彼女は声を殺して僕の胸に顔を押し付けて泣く。
「…何かあるなら僕に話して?微力だけど、力になるよ。」
「うん、ありがとう。でも、和希には関係ないことだから…」
拒絶するように突き放した言い方に【そんな言い方しなくても】と思ったが、その後に見せた彼女の笑顔があまりにも辛そうで僕は思わず視線をそらした。
「じゃあ、明日も学校あるから…またね?」
彼女は立ち上がり、僕の部屋から出て行こうと部屋のドアを開ける。
その瞬間、開けていた窓から風が吹き込み、彼女のスカートを靡かせた。
そのとき、僕は見てしまったのだ…。
彼女の足にある無数の傷跡を―。
その日の夜だった。
彼女の両親から、彼女が自殺したと連絡が入ったのは。
「急に呼んだりしてごめんなさいね…。」
彼女の母親が、僕にお茶を出しながら謝る。
「いえ…その…。」
僕が何か言おうとした時、彼女の母親は僕の前に一通の白い封筒を差し出してきた。
白い封筒の表には、彼女の字で僕の名前が書かれていた。
「あの…これは?」
「あの子からの手紙です。…もしも何かあった時は、一番にこれを貴方に渡すようにと…。」
母親は、涙を堪えながら話す。
失礼だと思いながらも、僕はすぐに封を切り中の手紙を読みはじめた。
―和希、ごめんなさい。
先に逝く私のことを許してください。
本当はもっと生きたかったよ?
でもね、もう限界…我慢できなかったの。
最近よく泣くねって気づいたよね?あれ、和希の気のせいじゃないよ?
秘密にしてたけど、私学校でいじめられてたの…
今まで黙っててごめん。
でも和希に心配かけさせたくなかったの。
和希、今までありがとう。たくさん愛してくれて、和希と居るときだけはすごく幸せだったよ。
ぽとりと、涙がこぼれ落ちた。
どうしてもっと早く気付いてあげれなかったんだ…。
帰り道、僕はまっすぐ家に帰らず近くの公園に寄った。
そこで僕は、彼女からの手紙を抱きしめ静かに泣いた。
なんで彼女がいじめられなければならなかったのか…考えれば考えた分だけ、気付かなかった自分に対する怒りと、彼女をいじめておきながら今ものうのうと幸せに生きている連中に対する憎しみの念で頭がいっぱいになった。
だが、連中に復讐しようとは思わない。
彼女が悲しむから…。
僕は彼女の涙の理由を知らなかった。
彼女がいなくなって初めて知った…あの涙は、僕に会えることの喜びと、僕に会えなくなるかもしれない悲しみを併せ持っていたことに…。