報われない少女の話
わかってる、わかってるのよ。
この想いは報われない。
あぁ、でもやっぱり。先生の授業をしているときの瞳は素敵だわ。
ーー報われない少女の話
只今、数学の授業の真っ最中。
時計なんかは見ていないが、多分もうすぐ終了のチャイムがなるだろう。
目の前には真っ白なノート。
黒板はノートに写さない。
だってそうしたら先生と直接会話できるから。
先生は生徒と世間話なんて一切しないから、こういう手段を取るしかない。
まぁ。それ以上に授業中は先生を見つめることに没頭してノートのために顔を下げるなんてできないのだけど。
正直、授業はまったく聞いていない。
これも先生を見つめているせいだ。
目に全神経を集中させているので耳なんてあってないようなもの。
いや、もちろん先生のことは全部好きだから声だって好きなんだけど。
授業中の先生の瞳。あれはやばい。
(あぁ、ほら…この瞳)
人を、見下してる瞳だ。
(…いいなぁ、素敵)
この瞳を見てしまったら、私はもうだめだ。
もう見つめずにはいられない。一生見ていたいとさえ思ってしまう。
(…素敵)
先生が一体誰を見下しているのか、私は知っている。きっと知っているのは世界中どこを探しても私だけ。いや、まず先生がこんな瞳をしてるって気づいてるのすら私だけだろう。
先生は、生徒全員を見下している。
…もちろん、私も、だ。
一度、先生に聞いたことがあった。
あれは私がノートの再々提出を言い渡された日だった。
『先生は、子供が嫌いなんですか?』
…ずいぶんはっきり聞けたと思う。
ましてやあの先生相手だ。あの私はよほど緊張していたに違いない。
『…なんで、そう思うんだ?』
『…勘、ですね』
『そうか…』
そういって先生は微かに笑った。あの見下した瞳で、笑った。
結局答えは得られないままだったが、私には思はぬ収穫だ。まさか笑う顔が見れるだなんて思ってもいなかった。
今でもあの笑顔を思い出しては、一人顔を赤くしていたりする。
(あの顔を、もう一度見たいんだよなぁ…)
心の中で願望をぼやきつつ先生を見つめるのはやめない。
先生は子供が嫌いなのだと思う。
なぜそうなのか、初めからそうだったのかは知らない。
先生は1年前にこの高校に赴任してきたばかりで、もうその時からこんな感じだったからだ。多少は瞳の力強さが「濃く」なった気もするが、どうなのだろう。
そこら辺はわかりかねる。
(…あーあ)
先生の持つチョークが黒板に綺麗な文字を描いていく。私はただそれを見つめるだけ。
先生を、ただ見つめることしか私にはできない。
報われることがないのは百も承知だ。
私はこんなにも先生が大好きなのに、
先生にはそれすら御飯事のようにしか思われないのだろう。
また子供が何か戯言をぼやいている、そう言われてしまうのだろう。
(先生…先生先生先生先生…)
先生好き、先生好き、先生好き、先生好き。
幾度となく心で繰り返されるこの言葉。
先生が子供が嫌いなのよね?ならしょうがないわ。だって私は子供。先生のような大人じゃない。なにより私は、「大人になるわけにはいかない」んだから。
先生のその瞳に心奪われたの。
その瞳を向けられるのが何よりの幸福なの。
先生のことが好きだから、ずっと嫌われていたいの。
あぁ、報われない。
私が、私の恋心を邪魔する。
好きなのに嫌われたくないのに好かれたいのに、嫌われたい。その瞳で見つめられたい。
先生は子供が嫌いだし、何より私自身が嫌われるのを望んでいる。
(せんせい…)
あぁ、なんで、どうして。
こんなに好きなのに。
先生、好きよ。
すき。
すきなのに。
end