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新-執行者アリス  作者: 至福の鯱
第一章‐王都認定式編‐
6/27

執行者の日常-5

ちょい長めです2600ぐらい。

上手いこと2000で纏めたいんですけどね。乗ってくると止まらなくなることってありますよね。

 聖気は身体を強化し、肉体が壊れることから守る性質を持っている。

 しかし聖気の身体強化を持ってしても、先程のイリスのようにその壁を越える攻撃を受ければ、ダメージを負ってしまう場合もある。そのダメージが軽いものであれば聖気を纏っているだけで体全体を活性化させる為、通常よりも早く自然治癒することが出来る。

 そして仮に、普段なら死に至るような損傷を受けてしまった場合。どんなに絶望的な状況だったとしても聖気を纏う者には一定の、生き残る可能性が残されている。

 聖気が尽きていなければ強制的に肉体を復元する。一度発動すれば自身にも他者にも干渉することのできない神の強制力。

 それが二つに分断されたイリスの身体を、元に戻した力の正体だ。

 一見便利な能力に見えるかもしれない。

 しかし当然ながら様々な条件があり、肉体の復元が上手く行われるにはそれらが満たされている必要がある。

 一つ、聖気が尽きていなければ自動的に復元が開始される。だが充分な聖気量がなければ復元不可として中断される。

 二つ、復元されるのは肉体のみであり、失われた血は補充されない。復元が問題なく行われている途中でも、充分な血量がなければ復元は中断される。

 三つ、身体的欠損が生じている場合。分かたれた欠損箇所が本体から視認できる状態になければ復元は中断される。

 と、これらをクリアする必要があった。

 上記三つの中で私が気になったのは一つ目だ。

 修練中にイリスの放った蹴撃は聖気を纏い過ぎていた。

 恐らく最大量の3分の1はあの一撃に使っていただろう。そのせいで聖気を抑えることが出来ず、漏れ出ていたのだ。

「私、使徒になれたのですか?」

 私たちは二人で泣きじゃくって、お互いの存在を確かめるように抱きしめ合っていた。それからどれぐらい時間が経過したのか、ようやく落ち着きを取り戻したイリスが私に質問をしてきた。

「はい。ほっぺたに刻印がありますよ」

 私はそう言ってイリスの右の頬をつつく。

「くすぐったいですよぉアリス様」

 そう言いつつもなされるがままのイリス。心なしか頬に赤みがかかった気がした。

「こう言うのもなんですが、良く復元を成功させましたね。流石に今回は駄目じゃないかと思いましたよ」

「それ、アリス様が言うんですか?」

 痛かったのだろう。お腹をさする素振りを見せ、非難の目を向けられる。

「それは……すみません。謝ってどうにかなるものでもないですが、謝ります。ごめんなさい」

 心が痛かった。そう言われる覚悟はしていたので少し詰まったものの、言葉はすんなりと出てきた。

「あ、いや、冗談ですからね? 気にしてませんからね? そんな顔しないでくださいよ」

 と、なぜかイリスが慌て始めた。

 私はそれがおかしくて、お互いに血や涙でぐしゃぐしゃなのに笑ってしまう。

「ふふ。何を慌てているんです? それと、私の質問には答えてくれないんですか?」

「あ、はい」

 私の言葉に我に返ったのかやけに真面目な顔になるイリス。

 一人で百面相するイリスがまたおかしくて、大事な話なのに笑ってしまいそうになるのを必死に堪える。

「き、聞かせてもらえますか? ……ふ」

 いけない。少し漏れてしまった。

「今笑いました? ……ええとですね、さっきも言ったように私だって死ぬかと思いましたよ? 実際一回は復元中断されましたから」

「え? じゃあどうして……」

 衝撃的な発言に私の顔から笑みが消える。今の発言からすればイリス一度死んでいることになる。

 死んだというその事実に、再び涙腺が緩んだ。

「大丈夫大丈夫ですよ! 今は生きてますから! そんな顔しないで下さい! 続きがありますから、聞いてください! ね?」

 私を必死に気遣うイリスの言葉に、私はなんとか冷静さを取り戻した。

「……はい、動揺してごめんなさい。続けて?」

「それで、ですね? 復元が中断されて、もう駄目だと思ったときに、声が聞こえたんです」

「声?」

「はい。どこからかは分かりません。でもはっきりと、生きたいか? とそう聞こえたんです」

「…………」

 復元中に声が聞こえるなんていうのは聞いたことがなかった。私が黙って頭を悩ませていると、それが続きを促しているのだと判断したのかイリスが話しを進める。

「私も必死だったので、勿論生きたいと答えました。でも、質問は続いたんです。そこまで傷つきながらも何の為に生きるのか。って」

 何の為に生きるのか……私はその問に胸を張って答えることが出来るのだろうか。

「意識が朦朧としてきた中で私はこう答えました。アリス様のお傍でアリス様を支えてあげたいって。それが私の心からの願いでした」

「イリス……」

 私は思わぬ言葉にイリスを見つめる。

 良く懐いてくれているぐらいにしか思っていなかったけど、まさか私のことをそこまで考えていてくれていたとは。

「……恥ずかしいのであまり見つめないで下さい。話しづらいです」

「……はい」

 顔を真っ赤にしてそう言われると何だか私まで恥ずかしくなってしまう。

 私は言われた通りイリスから目線を外した。

「で、答えた私に対する返答が今の状況というわけです」

「つまり、気付いたら生き返っていたと?」

「はい」

「……恐らくその声の主は神ですね。きっと試されたのでしょう。イリスが使徒に相応しいかどうかを。刻印が刻まれているのがその証拠になるでしょう」

 と言うかそれぐらいしか思いつかなかった。

「やっぱりアリス様もそう思います?」

「はい。……お話しはこの辺にしてそろそろ着替えましょうか」

「そうですね、あんまり待たせても悪いですし」

 実は30分程前から私たちを見つめる視線があるのだが、はっきり言って無視していた。

 様子から察するに一日の勤めを終え、修練を受けに来たのだろう。

 しかしイリスが使途と決まった以上、これ以上の修練をする必要はない。全身の疲れから動きたくないという理由もあったが……。

 明らかに挙動不審になっている見学者に声を掛けなかったのは、本音のところでお互いにただイチャイチャしたかっただけ。

 という思いっきり私情を挟んだ理由だった。

「よいっしょっと」

「大丈夫ですか?」

 立とうとするイリスに肩を貸してしっかり支える。今のイリスは見た目は何ともないが血が足りていない。しばらくは安静にする必要がある。

 あたふたしている信徒に事情を説明する為、ゆっくりと二人で歩き始める。

「……これから忙しくなりますよ」

「望むところです」

 

 今この時から、長らく空席になっていた執行者アリスの使徒枠が埋まる事になった。

――使徒イリス。

 その名がアリスと同じように、かつての使途の名を冠するものだということを、イリスを含めこの場で知るものは誰もいなかった。

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