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新-執行者アリス  作者: 至福の鯱
第一章‐王都認定式編‐
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執行者の日常-2

 感情を表に出さないようにして神殿に戻ると、数名の信徒たちが私を出迎えた。

 裁きが終わるのを待っていたのだろう。

「アリス様お疲れ様です」

 そう言ってタオルを差し出してくれたのは、信徒の中でも私への忠誠心が一番に強いと思われるイリスだ。……忠誠云々は私が見たらの評価で、実際のところは分からないのだが。それでも、屈託のない笑顔を向けられると、自然と私も笑みが浮かんでしまう。


 私には到底真似できない。


 彼女の性格や、日々の努力もあるのだろうが、素晴らしい才能だと私は考えている。

 今の時代、重宝される戦闘の才にも引けを取らないと。周りの雰囲気というのはそれだけ重要なものだ。空気というものは、ある日突然に牙を剥く。実際過去の大戦も始まりは些細な事だったと聞いている。残念なことに詳細までは分からないが。大陸一級秘匿情報の名のもとに全国家が口を閉ざし、大戦から多くの時が流れた今もなお、一般への公開はされていない。政治的な問題が絡んでいるというわけだ。

 そんな私の心中の思慮とは清々しいまでに関係なく、イリスは今日も元気いっぱいだ。

 黒く透き通るように流れる、腰までまっすぐに伸びる長髪を揺らして。やや幼さを残しつつも整った顔立ちは、彼女の浮かべる優しい笑みによって存分に揮われている。

 その屈託のない笑顔が、今日も私の荒んだ心を癒してくれる。いや、私だけではないだろう。イリスに対しての悪口や、陰口というものは聞いたことがない。

 もちろんそういった類の話しは禁止しているが、神殿には多くの人間がいる。要は数的な問題だ。一々取り締まっているわけにもいかないし、不平不満というのは吐き出さなければどこかで問題の種となる。そのためにある程度は許容し黙認していた。……のだが、イリスの悪口だけは不思議と今までで聞いたことがない。

 その事実だけでもイリスの人柄が伺える。人懐っこさが滲み出るような丸顔は、本人は気にしているのかもしれないが、女性の私から見ても魅力的だ。

 小さめの背丈と相成って、小動物のような可愛らしさがある。……はたまたその反動か、とある部分だけ凶暴と言うまでに成長しているが。これで17歳と言われればもう何も言うまい。

 仮に目の前で『最近ブラがきつくなってきて……』なんてことを言われない限りは目を瞑ろうと、とうの昔に結論を出している。


 問題はない。ないったらない。


 話がそれた。

 さて、どんなに善良な人間でも暗い部分を持たない人間はいない。

 私だってそうだ。比重が違うだけだ。

 神の代理人として、ただ一人私だけが人間を裁くことが……。いや、はっきりと、それも明確に断言しよう。

 人を殺すことができるのは、今この世界で私以外に存在していないと。

 

 

 

「ありがとう。イリスも他の皆も、もう私のことはいいから自分のすべきことに戻りなさい。もうすぐ日が暮れるけど、今日はそんなに疲れていないから2~3人だったら相手してもいいわ。いつも通り早い者勝ちだから一日全ての勤めが終わった者からいらっしゃい。さぁ、分かったら散るっ!」

 イリスからタオルを受け取って、信徒たちに私は声を掛けた。最後に手を叩くとそれを合図にして信徒たちは早歩きほどの速さで駆けて行った。信徒たちが着る衣服は裾が長いため、走ると危ないのだ。……それでも私が声をかけると走ろうとするので、根本的に神殿内では走ることを禁止している。

 信徒たちを見送った私は、一人残った彼女へ声をかける。

「イリス、あなたもですよ。さぁ戻りなさい」

 経験則で言えば、忠誠が強い子というのは同時に我も強い。イリスのこれもたまに出る我儘だと私は判断した。

「…………」

 だがイリスは下を向いたまま何も答えない。

「? どうしたのです? 私の声が聞こえませんでしたか?」

「……いえ、そうではないのです。ですが、アリス様一つ勘違いがございます」

「ほう。言いますねイリス。では、聞かせてもらえますか?」

 信徒が神祖の私相手に言葉を正すというのは、本来であれば重大な問題なのだが、私はその辺にうるさいわけではない。

 それと単純に興味があったのでそのまま促す。

「先程アリス様は私が皆と戻らなかったのを、私の我儘だと判断しましたね?」

 小さい体を前面に押し出して、つまり私に切迫するほどに近づいてイリスは言う。

どこがとは言わないが、突出した一部は体が触れている。あまりの近さにこんなに近づく必要があるのかと困惑したが、とりあえず話しを進める。

「……そうですね」

「それが間違いでございます」

「我儘でないと言うならば……。まさか、全ての勤めが終わっているのですか?」

「はい!」

 返事と共に上げたイリスの顔には、満面の笑みが溢れていた。


「それにしても驚きましたよ。通常では一日がかりのものを日の落ちる前に終わらせているとは」

 約束の修練場に向かいながら、イリスに思ったことを素直に伝える。

「今日は頑張りました! もっと褒めてください!」

 ふふんと鼻を鳴らしながらイリスが胸を張る。

 ただでさえ大きい胸がその行為によって更に強調される為、自然と目線が誘導される。 度々やられることなので、本人は無意識なのだろうが……。

 私としては腹正しい。

 いいだろう。その行為、私への挑発と見た。

「なんですかその態度は。調子に乗ってはいけませんよイリス。信徒たるもの常に上を目指さなくては」

「そうですね、すみません……」

 私の言葉で自身の言動を思い出したのか、しゅんとした様子で謝罪するイリス。

 だが、私の怒りは治まっていない。

「あと、その胸は断罪対象です」

「え?」

 困惑した様子のイリスを無視して私は手を伸ばした。自己主張の強い主のその胸へと。

「んっ、え、んんっ、ちょっと待って、あんっ、アリス様ぁ」

 身をくねらせながら私の手を避けようともがくイリス。

「あなたの日頃の行いへの裁きです。大人しく裁かれなさい。それにしても、執行者である私の裁きを拒否するとはいい度胸ですね」

「いえ、そんな、んっ、ことっ、は、んんっ」

「言い訳とは見苦しいですよ。仕方がありません。全力で行きます」

 一旦もみしだいていた手を引っ込め、真顔で伝えた。刑の変更だ。

「はぁはぁ……。え、全力?」

「行きます」

 私は文字通り全力を出した。

 結果として神殿内に甘い嬌声が響き渡った時には、さすがの私も罪悪感を覚えた。

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