執行者の片鱗-4
説明は次回!ちょっと短めです。
体が熱を帯びる。その熱は未だ血を流す箇所を中心として温度を上げていく。
全身の聖気が自動的に集まり、傷口の、体の修復を開始する。
私は倒れた体を起こし、手を突いて支えた。
「……驚きましたよ。まさか魔法を使う者が、今もなお実在していたとは」
「今のをくらって平気な執行者様に私は驚いていますがね。どうやったら死ぬんですかねぇ? 今の直撃だったと思うんですが。あ、修復前に潰しちゃえば死にます?」
そう言って地を蹴ったゲリムゲルデは、両手に黒い塊を渦巻かせたまま直進してくる。
「これだったら死んでくれるんじゃないですかぁ!」
ゲリムゲルデが走りながら、腕を前に出した。私の前に純粋なエネルギーの塊が迫る。
「出し惜しみしている場合じゃないみたいですね……。執行者、特殊権限。権限四から権限六までを行使」
視界が赤く染まり、瞳の色が変わっていくのを理解した。
どこからともなく送られて来る聖気に、神との繋がりを確かに感じながら、私は力を振るう。
とうとう目前に迫る、負の衝撃に目を反らすことなく私は唱える。
「イグニッション!」
瞬間、私を中心とする眩い光が弾けた。
辺り一帯に、純粋な炎が舞い踊った。
「あぁああああああああ!」
ゲリムゲルデが全身に燃え移った炎に悶え、地面を転がる。纏っていた衣服は焼け落ち、高温の灼熱に焼かれた皮膚はただれ、その炎は消えることなくなおも燃え続ける。
体の修復が完了した私は立ち上がって歩む。苦しみもがく、ゲリムゲルデの下に。
「魔法には、魔法を。といったところでしょうか。どうです? 失われた古代魔法の威力は。あの魔法もどきとは比較にならないでしょう。危険すぎるこの力は、使用法が封印されたのも納得です。使うつもりはありませんでしたが、少し、私を怒らせすぎましたね?」
一歩、また一歩と歩み寄っていく。
「このままでは話ができませんから、特別に、火は消して差し上げます」
転がり回るゲリムゲルデに、右手をかざし唱える。
「スプラッシュ」
どこからともなく現れた大量の飛沫が、私が焼いた大地に降り注いだ。
あまりの高温に、降り注ぐ水は炎に触れるたびに音をたてて蒸発していく。
普段は静寂に包まれているこの場所に、私が焦げた大地を踏みしめる音と、水が蒸気と化す音が響いていた。
「ぐ、ぐぅ! な、なぜっ。魔法を使える! 神である私ですら、過去の威力は出せないというのにっ!」
ゲリムゲルデは炎によって醜くなった顔を私に晒し、叫ぶように怒鳴った。
「うすうす感づいてはいましたが、やはりそうでしたか。古代戦争を終結させる為に動いた、神と執行者に反対した別の神がいたとは聞いていましたが、まさかそのご本人に相見えることになるとは。さすがに思っていませんでしたよ。ワルキューレの一人。ゲリムゲルデ」
私の言葉に、ゲリムゲルデの瞳に明らかな動揺が走った。
「なぜそれをっ! 最早私たちのことを知る者はいないはず。どこで、いったいどこで知った!?」
「簡単なことです。当時貴方方と戦った者に、先代に教えてもらったんですよ」
「何を馬鹿なことをっ。力はともかく、あいつは人間の体だ。とっくに死んでいる! 嘘をつくな!」
「信じないなら信じないで構いませんよ。それに、質問しているのはこっちですからね」
大きく一歩。倒れ伏すゲリムゲルデを私は見下ろす。
「ひっ。やめろ。分かった、言う。全部言うから! 殺すのだけは勘弁してくれ!」
ゲリムゲルデが這いずって後ずさる。私はそれをゆっくりと追う。
「本当に?」
剣に手をかけ、私は威圧しながら問う。
「本当だ! だ、だから、まず私の怪我を直してくれないかっ? 痛みで意識が飛びそうなんだ」
「…………」
ふらっとよろける姿を冷めた目で見ながら、私は剣から手を放した。
「馬鹿めッ、道連れにしてやる!」
その一瞬を狙って、懐に隠し持っていただろう爆弾が私に投擲される。
「死ぬのは貴様だッ!」
私は抜剣し、剣の腹で爆弾を打った。開かれていたゲリムゲルデの口の中へと。手の平大のそれは、ゲリムゲルデの歯を砕いて侵入し、綺麗に収まったところで光を発した。
飛び退る間もなく、私は爆発に巻き込まれた。