level上げ
「マジックブラストlevel3っ!」
春採の持つ魔導師の杖から放たれる黒い魔法力の玉は容赦なく鋭い刃の翼を持つ黒い竜へと直進する。
魔力耐性がそこそこ高い黒刀竜には一撃では仕留めることはできず、杖を振り回し魔力の玉を投げつけている。
「いくら、魔法力カンストしてるってもダメージギャップはあるんだなっ!」
黒刀竜は雄叫びをあげ、鋭い刃の翼で斬りかかってくる。春採は黒い竜の素早い突進に反応できず、腹の部分を切られる。
「ぐっ」
痛みと共に視界の隅で緑の棒が無くなるが見えた。
「静かに殺られてろっ」
杖を振り魔法力の玉を放つ。黒刀竜は翼で斬りかかり、魔力が詰まった玉を弾くが、体力がつき倒れこんだ。
「いってぇ、まじ体力いらねぇよ。はぁ、流石に黒刀竜はきついな。一回目は不意打ちの連打で倒せたけど」
黒刀竜は光の粒子へとなり、そこには黒い翼が落ちている。
「うしゃ、ドロップ成功」
体力がとても邪魔だと思いながら、切られたはずの腹を手で撫でる。傷はない。
「体力本当に意味ねぇな、もうゼロだから痛みはくらわないけど」
残る素材は黒刀竜の翼一組にリットルスライム十五体。
「寝てるよ普通に。よくあんな場所で寝れられるよな」
ルーンエコーによるマッピング情報から、ファイルナがまだこのダンジョンから離れてないことを確認する。
感心していると、目の前に黒い霧が現れ始める。それは紫色のプルプルボディと化した。
「リットルスライムか」
リットルスライムは基本的に無害で個体でも弱いが、増殖が異常に早い。気を抜くとビックリスライムになってしまうから恐ろしい。
「俺式、リットルスライム複数討伐術を見せてやろう」
リットルスライムは霧の魔力を体内から出し、空気と練り合わす。二体目三体目と増えていき、ポンポンと音を鳴らす。
「ここで、この魔術師の杖の出番だっ」
杖の頭についた黒い結晶は輝きだす。光は強さを増していくなか、春採は杖を振ると、魔力の玉は放出される。空を叩くように振り回すたびに飛び出す魔力の塊は増殖するスライムへと襲いかかる。
威力は落ちるがチャージと放出を同時に行うことで、攻撃速度をあげている。増殖するリットルスライムを次々と倒していく。
連打の攻撃よりも増殖が早く、スライム達は塊を作っていく。
「まずいっ」
ビックリスライムになり、跳ね回られたら打つすべはなく気を失ってしまう。それだけは避けたい。
「仕方ないかっ」
杖を振るのを止めると、黒い結晶を忠心に陣ができ、それを文字を輪のようにして囲う。光を拡大して、杖の先を紫の塊へと振りかざした。
「ルーンブレイクlevel2出力一万」
放たれる光は線となり、塊を焼き付くす。
あとに残ったものは何もなく光の粒子となっていた。
「やべっ、素材まで焼いたか?」
溶けずに僅かに残った粒子は集まり、紫色のゼリーとなった。
「ラッキー、えっと、これで十九体分か。残るは黒刀竜のは羽のみと」
ゼリーを拾い、収納スキルで緑の粒子へと変え取り込んだ。
「あとは黒刀竜か、この階層にはいないな。ホップ少なすぎだろう」
ため息を漏らしながらも、軽い足取りで上の階へと目指す。
***
「levelあがんねぇ」
無駄な戦闘を避けているのも原因だが、次の経験値の量が鬼畜過ぎる。
「あと、四百五十万くらいときたもんだ」
ステータスを確認しても経験値なんて増えないのはわかっていながら、ついつい見てしまう。
黒刀竜の羽も手に入れ、ファイルナのいる九十階層まで歩いている最中だ。気配からまだ寝ていることは分けるから、急ぐ必要もない。
螺旋階段となっている細い場所を下る。ロウソクもなければ火の気もない。不思議と明るく、光源を探しても見当たらない。
降りていき広間に出れば、下着姿の女の子が横になって寝ていた。
「おーい、ファイルナさん起きてくださいよっ」
「…………すぅ」
「…………」
「………………すぅ」
「いや、すぅじゃなくてさ、わざとやってるよね」
ファイルナは上体を起こし、体操座りになり、睨む。
「はぁ、人が寝た、フリ、してあげてるのだから、起きるまで、待つ紳士さを、期待、してたのに」
「なんか、ごめんね」
「それで、素材は?」
ファイルナはつまらなそうに近づいてくる。春採は収納スキルで収めた素材を全て放出した。緑の粒子は形を作る。
「あるね……」
白い羽、金色シャープの髪に、空のように透き通る瞳。どこからどうみて天使族。どこか、寂しそうに素材を撫でる。
「……錬金には、時間、いるから、これ」
ファイルナは右手を前に出し、手のひらの上の物を見せる。
「これって記憶の結晶だよね? どうして持ってんの?」
「君が素材、集めてる間、作った」
「寝てたよね、ずっと」
「ストーカー?」
白い羽で身を包み、自衛の意を示す天使。
「探知にずっと引っ掛かってんだよ」
わざと引っ掛かっけていたことは黙る春採。
「ふぅん、まぁ、いい、や。これをくれてやるから」
「流石に女の子おいて離脱とか格好わるいし、君がもう一個作り終えるまで待つよ」
「時間は有限、これがいるんでしょ?」
ファイルナは優しく問いかけた。
「元々は俺が作ってくれなんて言ったのが原因なわけであって、君一人にそれを押し付けるのはどうかなと」
「別に、君がいても無意味なだけよ?」
「そうだけど……」
無意味という言葉が胸に刺さる。ここにいたところで春採にできることは何もない。
「そうだ、ね。だから、君は君のことをするべき」
「俺のことって言われてもな、特にすることないんだよな」
━━ダンジョンからでたとしても、アルデンテのところに行くとっていうくらいしか、しかも、そのあとは考えもなし。
突然異世界へきて、いきなりダンジョン。これから生活をと考えたところで空腹もなく、試練という試練は無駄な体力が原因の痛覚くらい。
「君はルーン族なんだよ、ね?」
ファイルナは言いながら部屋の中央に置いてある台座へと視線を移す。
「そうらしいけど、って何か言ってたよね。絶滅したとかなんとか」
「急いでるわけでもないなら、少し私に、つきあって」
「話してくれるんじゃないのかよ」
天使の女の子は部屋の中央へと歩き出す。台座に前で立ち止まると春採へ振り向く。
「君がどこへいくつもりかは知らないけど、黒いままだとモンスターだと間違えられるよ?」
天使は満面の笑みで台座に手をかざす。
「あのファイルナさん、それとダークリスタルと関係があるってことでいいの?」
「これは、ただの暇潰しに」
「何でっ!」
部屋は壁や床から湧き出る魔力で包まれ、渦巻き中心へ集まる。黒い球体を作り出しそれは砕けるように弾けた。天使が一撃で倒した黒結晶の竜が雄叫びをあげ出現した。
「先立つものはlevelだよ。君は単に転生に失敗してるだけ」
「えぇぇぇぇぇぇっ」
黒結晶の竜は魔方陣を発生させていく。それは黒い輝きが連鎖してより強力な光へと変わる。
「ミラージュスペルっ」
魔方陣は吸われるようにファイルナの中心へと集まる。
「防御はしてあげる、後は君が」
「よくわからんけど」
春採は収納スキルで魔導師の杖を召喚して、杖に精神力を込める。
「ルーンブレイクlevel2出力1万」
放たれた光の線は黒結晶の竜を貫いた。腹に大きな穴が空いた竜は雄叫びをあげ倒れた。
ファイルナの前に集まった光は竜の消滅と共にその力を失う。
「すごいね、一撃で倒したよ」
「いや、君だって一撃だったろう?」
━━それにしても経験値3000000は旨すぎるだろう。
ニヤケ顔を止められない春採。
「転生をすれば精神の格が上がるの、よ。それで高等精霊体levelMaxになれば周囲も君を正しく認識してくれると思う」
「いや、俺すでにそれなんだけども」
「level9だよ?」
「えっ?」
春採は慌ててステータスを開く。そこには確かに「高等精霊体level9」と書かれていた。