番外編? 森の民 恵那森姫兎はそれでもエルフ族
誰かの問いかけに彼女は迷いもなく選んだ。
━━気がつくとそこは草木に囲まれていた。華やかに花は咲き乱れ、風が泣く。そこに文化があり。暮らしもある。
視界には左隅に緑と青の棒が横に並び、その下にメニューと書かれたアイコンが置かれている。
ここは彼女の知るヘルアンドヘブンだと悟るのに時間はいらなかった。
「あの、もしかして、恵那森さん?」
呆然と立っていた彼女にエルフの女の子が話しかけてきた。そのエルフは緑色の髪を両サイドに分け、薄紫の肌に瞳の色はブラウンカラー。姫兎と同じ学生服を来た転生者だ。
「えっ? 木元さん?」
「うんうん、そうだよ。恵那森さんそのまんまだね」
「木元さんはすごく綺麗になったね」
「うわっ、それって嫌みに聴こえるよ」
姫兎はダークグレーの瞳に、黒いポニーテール、肌は白に近い茶色で、元をそのままエルフにしたような姿だ。
周囲を見渡すと、ちらほらとクラスメイトに似ている人たちが確認できる。
「これからどうする恵那森さん?」
「姫兎でいいよ、木元さん」
「あっ、なら、私のことは静でいいよ」
二人のエルフは笑い合う。
「姫兎さん、これから、どうしようかな?」
「えっ、とね」
姫兎は言いながら、視線を他のクラスメイト達に向ける。
「綺麗になったからいいけど、これからどうしろってのよ」
「すっげイケメンじゃん。エルフさいっこう、異世界生活に万歳」
「ちっ、皆美形じゃ。私の美貌が光らないじゃないよ、まぁ、さらに美しくなった私に比べればゴミだけど」
他にもちらほら聴こえる。皆この現状を満足しているらしい。
けど、だからといって、姫兎はヘルアンドヘブンのプレイヤーだったとは言い出せない。
この世界はヘルアンドヘブンの一人のプレイヤーを元に作られたとアルデンテは言っていた。もし、プレイヤーだとばれたら、自分のせいにされる可能性がある。
姫兎はため息を漏らしながらも、視界にあるメニューをタッチしてみた。視界には見慣れた画面が広がる。
「ステータスに装備にスキルにフレンドリストに基本的な機能はあるのね」
「なにそれっ!」
「えっ!」
静は目を輝かせ、姫兎を見る。
「えっ、とね。視界には何か文字があるから触れてみたら何か出て来て」
必死に説明を考え説明する。静は「さすがっ委員長」と呟きメニューを開いた。
「うわっ、ゲームみたい」
「うんそうだね。ステータスとか見れるみたいだね」
「本当だ。見せあいこしよっ」
「うん」
姫兎はステータスを開く。そこには体力と精神力、物理攻撃力と物理防御力、魔法力と素早さが数値化されていて、その全てがエルフの初期ステータスだった。ただ、スキルを目にした瞬間、姫兎は慌てて画面を閉じる。
「どうしたの姫兎さん」
「えっ、やっぱり、恥ずかしくて」
「何々イヤらしい何かでもあるの?」
━━言えない。こんな特性スキルがあるなんて、口が裂けても言えない。
彼女に与えられた特典スキル━━《*→←”*の記憶》
*→←”*とは彼女がヘルアンドヘブンにおいてのアバター名だ。皆は絵文字さんと読んでいる。
「ふーん、まぁ、嫌なものは嫌なんだし無茶言ってゴメンね」
「いいよ静」
「呼び捨ていいね、姫兎」
突然現れた転生者達に驚きを隠せない村の人達の一人が話しかけてきた。
「そこの者達よ。突然現れて、この村に何かようかね?」
老いたエルフのおじいさんは凛とした眼差しで問う。
「すみません、お騒がせして、ちょっと、旅の者でして道に迷いまして、少しこの村に立ち寄らせてもらいました」
姫兎は頭を下げる。
「そうかね? あまり、騒ぎを起こさないで遅れよ。今は村は色々と大変でね。ケモミミ族の差し金と思われても言い逃れができなくなるぞ」
「ケモミミ?」
静は不思議そうに呟く。
「この村から西にいくと獣の体を持つ部族のことだ。そんなことも知らんとはかなりの田舎者だな。ワシから村の者にお主らは安全だと伝えておくが、何か問題を起こせば村から出てもらうからな」
「はい、わかりました。有難うございます」
「どうみてもここが田舎だろうに、あのじいさんぼけてるね?」
「静、あの人村長だよ」
「まじでっ? よく知ってるね」
「えっ、とね。ほら、村の人が言ってたのが聞こえてたから、あっ、村長だって」
「流石な地獄耳」
あっさり、誤魔化せたことに安堵する姫兎。
「とりあえず、学校の人達を集めましょう」
「そうだね」
***
「これで、全員ね」
姫兎と静を含め、エルフに転生したのは十五人だ。
「これからのことだけど、私が村の人から集めた情報だと、ここから北に行けば大きな町があるらしいの。まずそこで暮らせる場所を確保しましょう」
「何で、委員長が仕切ってるのよ?」
金髪に鋭い目付き、長身でどこか不良の雰囲気を感じさせる。
「えっ、私は別に仕切ってるつもりなんてないよ」
「何で暮らす場所なんて探さないと行けないわけ? あの金髪絞めれば戻れんでしょ」
━━そのためには最低でも五回は転生しないといけないのだけと。と心の中でツッコミを入れる姫兎。
もちろんこの転生はステータスの更新を意味する方である。
「ふっ、浅はかでござるよ。鮫島どの。この世界は未知数。どこに金髪ロリがいるかわからんのだから、生活を安定させて地道にこの世界を知っていくなど、異世界生活のお決まりでこざろうに、笑止でござるよっ」
オールバックヘヤーの赤い髪をしたエルフの男性は学生服をみだらに着て、胸元を見えるようにしている。
「あれ、元、オタク泥沼でしょ」
「エルフの顔面補正ってすごすぎるね」
「そこ、聞こえてるでごさるよ。あと某の名前は泥沼ではなく、土門マノカでごさるよ」
「ああ、口だしてんじゃねぞ。今はあたしと仕切りたがり屋の委員長と話してんだろう。あと、名前間違えてんだよ。誰が鮫島だっ」
金髪不良エルフは赤髪オールバックのござる男の首元をつかむ。
「テロには屈しないでござぶっ━━」
「━━るっせぇよっ」
赤髪エルフは頬を殴られ吹き飛んだ。
「ちょっと、不良峯さん、暴力は駄目よ」
「名前間違えるやつに仕切られたくねぇんだよ。あたしは両峯だ。混ぜるなっ。あたしは一人で好きにやるぜ」
「一人は危ないよっ」
「ケンカもしたことないやつといても邪魔なだけだろ、じゃな」
「いっちゃたね。どうする姫兎?」
「心配だけど止めても一人でいくっていいそうだけど?」
「なら、私にいい方法があるよ。ちょっと、連れてくる」
静はにっししと走っていく。
「静っ、いっちゃった……」
「で、これから、どうするの委員長?」
「そうだね、まずは三人組に別れて北の町まで向かいましょ」
「皆でいかないの?」
「フレンドコールってものがあるらしくて、電話の機能みたいな感じかな。
フレンドリストにのってる人と会話ができるし、大まかな場所を知ることもできるの。
だから、町を見つける確立があがるから見つけたら連絡するって考えだけどどうかな?」
「ほぉれは、はんへいでござろ」「私もいいよそれで」「三組ってどうするの?二人どっかいったよ?」「私は泥沼とだけは嫌だな」「私も」「俺ら完全に空気だな」「ああ」「異世界転生さいっこうだぜっ」「眠い、はぁう」「きっつ」「……」「馬鹿らしい」
「とりあえず、私はあの二人を待ちますので、ここにいるメンバーでフレンドコードを交換しましょう」
ワイワイとフレンドコード交換会が開かれ三人組は無事なんとか作れ、各々が町へと目指す。
***
「姫兎、つれてきたよ」
「静、それと不良峯さんも」
「っ、またかよ」
「すねないすねない。悪い子には」
「わかったから、やめろっ」
「にっしし」
「とりあえずフレンドコードを交換しましょう」
「なにそれっ!」
「嫌だっ、それがなにかはしらないけどっ」
「またっ」
「名前間違えるやつと交換が嫌なだけだよ。まじで止めてくれ」
「なら、私とたげ姫兎と交換、それと他の皆は」
「三人組に別れて、町に行ったよ」
「残るは私達たけだね、カスミ」
「はっ、お前な、こんなやつと組めって言うのかよ」
「私は一人でいいから二人で頑張ってくれる。両峯さんも私とは嫌みたいだし」
「姫兎が言うなら仕方ないな。ラブラブだね」
「はぁ、あんまり調子に乗るなよ」
***
姫兎にとって単独行動の方が楽だからだ。色々と。
両峯と静を見送ったあと、姫兎はステータスを開く。そして、特性スキルに手に触れた瞬間、彼女は虹色の粒子へと変わり、その形を再構成する。
身長は百七十センチ。黒だったはずの髪は銀色に流れるように伸びていて、ダークグレーの瞳はそのまま、肌の色は茶色、胸が先程までに比べ重く、重心が前へ傾きそうになる。
「絵文字さんの完成ですです。……恥ずかしい」