休憩前のビックリスライム
気がつくと視界の隅にある緑と青のゲージが全快して、モンスターハウスだった部屋にいた。
「なんだよ。復活ボーナスついてんなら先言えよ」
春採は周囲を警戒しながらステータスを開く。
名前:彩月 春採
故郷:魔の民 種族:ルーン level:49
体力10/10
精神力48000/48000
物理攻撃力0 物理防御力0
魔法力66000
素早さ3510
スキルポイント:100
スキル:
「高等精霊体level 9」『ルーン魔術』『ルーン探索』
『ルーンボディ』「精神耐性弱」『ルーン魔術の心得』「精神強化」「精神の解放」「生命」『ルーン生命』「ルーン生命」
next430800
「意外にぬるいなデッドペナがないってのは、体力と精神力も全快して経験値は減らないか」
春採は今、最果ての教会跡地下ダンジョン九十三層にいる。最上階から下さっているからまだまだゴールまでは遠い。
春採はステータス画面を閉じ、大きく息を吸う。
━━ルーンエコー!
春採の口から吐き出される文字のようなものは音が響くように広がり青いゲージが少しだけ減る。
ルーンエコーは簡単に言えば、反響定位である。精神力で作り出した魔法文字を響かせ、床や壁に付着させいく。春採に向け位置情報を伝え、魔法力に比例して魔法文字の発動時間が決まり、消費する精神力で範囲が決まる。
「精神力100で直径十メートルまでわかるから、1000の消費で直径百メートルか。これで四階層下までわかったけど時速時間がどれくらいなのか」
春採はどれくらい気を失っていたか分からない。時間という概念はこの世界にもあるが、それを今確かめるすべがないのだ。
「前に使ってる分はもう効力が切れてるし、それだけ寝てたのか?」
春採は疑問に思いながらも今できることを考える。
━━まだこの階層にビックリスライムはいるな。下に行けば行くほど難度は下がるけど、モンスター避けながら降りるのはきついし、まぁ死んでもリスクはないから最短ルートでいいかな。
「そう言えば、ファイルナをデッドさせたのってここから下の九十階層だったな。もしかしたら倒れてたりして」
春採は僅かな期待に笑みを浮かべ、下る階段のある方向へと歩いていく。
***
青い床青い壁に薄暗く光る廊下道。変わらない景色に飽きてきた頃、春採は九十一階層まで降りていた。
異世界であるヘルアンドヘブンに転生してから誰一人とも会話していない。
「あれ、おかしいな。この三ヶ月部屋に一人で隠っていたのに、一人で歩くのがこんなに寂しいとは」
ヘルアンドヘブンで、ファイルナとして行動していたときはゲーム越しではあるがそこには人がいると感じれていた。
歩いていても出会うはモンスターの一色。しかもそれは敵である。
「今頃気づくのはまぬけすぎるが、俺以外に魔の民選んだ奴いないのか?」
一人くらい同じ立場の人がいても不思議ではないのに、人の気配すらない。
「ルーンエコーで服らしき何が脱ぎ捨てられてるのは分かったけどまさかね」
ここより下の階層で感じる気配だ。
「ここまでモンスターガン無視で走ってきたけど全然疲れないな」
一人で寂しさを紛らわすため言葉を発する。しかし、聞こえてくるのはモンスターの鳴き声のみ。
「はぁ、寂しい」
歩いていると不意に紫色のスライムが現れた。
「何でこいつがいるんだよ。探知に引っ掛からなかったのか?」
紫色のスライムは霧状の魔力を放出し始める。それは大気と混じり合うように一点に集中していき、ポンッと紫色のスライムへと変わった。
「そっか、ダンジョンのモンスターは一定量以下なると増えていくんだった」
ため息混じりに頭を押さえる春採など気にせず、紫色のスライムは次々と霧を発生させては増えていく。
「ってお前ら調子のってんじゃねっ!」
春採は慌ててルーンブレイクlevel2を使う。両手を前にかざすと、文字をループのように輪にして黒い陣を作り、陣は輝きだし光の玉を放出する。
しかし、スライムの増殖速度に間に合わず、
「おいおいおい」
紫色のスライムは体を寄せあい練り込むように一点へと集中し始めた。
「なら、まとめてっ」
光の玉を打ち出そうとした瞬間、紫色の塊は床にその重さを押し付けて弾んだ。ビックリスライム(紫色)の完成だ。
「あぁ、もう、くそたれっ」
どうせ死ぬならと最大出力のルーンブレイクlevel2を使うつもりになり、黒い陣は輝きをまし特大の光の玉を放つ。廊下道を埋め尽くすような出力で放たれた光の玉は光線に近かった。
━━ビックリスライム(紫色)を倒した。
━━経験値217500獲得。
神の声を聞いて脱力して、その場に仰向けに倒れた。
「魔法耐性高かろうが、精神力四万×112,5倍の出力で耐えれるわけないか」
春採は青ゲージがほんの少ししか輝いていないのを確認する。
「ルーンブレイクlevel2の消費ギャップが四万まで助かったぁ。死んでもリスクはないけどどれくらい気を失ってるか分からんからね」
ステータスを開き残りの精神力を確認する。
「あと約五千くらいか、抜け出せる気がしねぇ」
春採の嘆きは傷ひとつもできていない廊下道に溶けていく。
***
九十階層は大広間のような部屋だ。本来ここは試練の間と言われている。部屋の中央にある台座に手をかざせばボスと戦える仕様だ。
「装備なしの縛りでは流石に勝てないよな」
春採は懐かしむように笑みを浮かべる。かつての仲間達と最後に戦い別れた場所だ。ゲームの中の話ではあるが、ここはそれを再現した場所でもある。
だからこそもしかしたら彼らと会えるかもと思ってしまった。
「やっぱり疲れてるな俺。精神的にだけど」
腕を上に伸ばす。体の疲れは感じてないけど、気分的にはちょっと、安らいだ。
「ここは完全安全エリア、どこかの馬鹿があの台座に手さえかざさない限り戦闘にはならんということで少し寝るか」
疲れは感じない眠気もない。けれど不思議と睡眠へと移る。
***
「君、邪魔だ、よ?」
寝ている春採の耳元で綺麗に囁く声がひとつ。