第一話 王立グラスディール高等学園
誘拐の事件から、俺はもっと強くなろうとトレーニングに励んだ。
そして、少しでも魔剣に慣れるように木剣ではなく魔剣で素振りをしている。
そうやって二年が経過し、俺は十歳となり学園に通えるようになった。
そして今まさに、学園がある王都「ユースティア」に来ている。
「へ~、ここがユースティアなんだ~。すごくでかいね」
「そうだね。さすが王都なだけあるね」
やはり王都なだけあって普通の町よりも大きい。大体カールスの三倍ぐらいの大きさだろうか。
そして、そこには色々な屋台のような店が並んでおり、人種だけではなく他の種族も多く見かける。
「ねえ、あの食べ物美味しそうだよ!行ってみよ!」
「駄目だよソフィ。それよりも先に学園に行かないと……」
「えーいいじゃない。入学式までまだ時間あるじゃん」
「時間に余裕をもって行動したいんだよ。何があるか分からないんだし」
そう、今から二人が通うことになる学園『王立グラスディール高等学園』の入学式がある。
なんで入学式当日に王都に来たかというと、単純な話で寝泊まりするところがないからだ。
学園には寮があるということでこの方法を選んだというわけだ。
「もうアルのケチ。少しくらいいいじゃない」
頬を膨らませ不満そうにしているソフィ。
それを見て
(少しくらいならいいか。このまま不機嫌でいられても困るし)
確かに入学式まではまだ時間はある。
あまり早く行ってもまだ向こうは準備をしてるかもしれない。
「分かったよ。一店だけだぞ」
それを聞いたソフィは先ほどまでの不満そうな顔を一変して笑顔になる。
「本当!?やったー!」
余程嬉しかったのかスキップをする勢いで走っていく。
「おいおい、走るなよ。はぐれるだろ」
「ほらアルも早く!」
待ちきれないと言わんばかりにソフィが手を振ってくる。
「ったく、しょうがないなぁ」
そう言ってソフィを追いかける。
ソフィは町に行ったことがなく、初めての場所が王都なんだからはしゃぐのは当たり前だろう。
店に近づいてくると香ばしい匂いがしてくる。
肉を串で刺してそれを焼いているようだ。
「わー美味しそう」
店の前に着くなりソフィが言う。
肉がいい感じに焼き目をつけていて確かに美味しそうだ。
「お?ちょうど焼き上がったし食ってみるか嬢ちゃん?」
気の良さそうな店主が話しかけてくる。
「いいんですか!?」
「ほら食ってみな」
店主が一本差し出してくる。
それをソフィは受け取り一口食べる。
少し噛んで飲み込む。
「おじさん、これすごい美味しいです!」
飲み込み終わったソフィが口を開く。
「だろ?自慢の品なんだ!」
店主が自慢気に喋る。
「アル、これ美味しいよ!アルも食べてみて!」
「どれどれ~」
ソフィが串を差し出してきてそれを齧る。
噛んだ瞬間に肉汁が出てきて、少し噛んだだけで口の中から無くなってしまう。
「美味いな」
「でしょ!」
「じゃあ、買うか。おじさん、これを二本ください。いくらですか?」
お金はルドルフから当分の生活金は貰ってあるのでお金の心配はない。
「代金はいらねぇよ。可愛い彼女さんに免じてサービスだ!」
そう言って串焼きを二本差し出してくる。
「いいんですか?」
「おう!とっとと行きな」
ニィと歯を見せながら店主は親指を立ててサムズアップしてくる。
「良かったね、アル」
「ありがとうございます」
お礼を言ってから店を離れる。
歩きながら食べてると、ソフィが話かけてくる。
「そういえば、さっきおじさんが彼女って言ってたけど、私達ってそう見えるのかなぁ」
(ソフィが彼女……いやないな)
ソフィのことは大切に想っているが家族としてであって、彼女とかそういう風には少なくとも今の時点では見れないだろう。
「いやないな。頑張って兄妹ぐらいだろ……」
「むっ、なにそれ。アルの馬鹿!」
そう言いながら俺の串焼きを齧って走っていく。
「あっ!何すんだよ」
まさかの行動に驚いていると、前にいるソフィが振り返り舌を出して「べー」とやってくる。
「はぁ、ほんと子どもなんだから……」
「いいもん。まだ子どもだもん!」
この世界では十五歳から成人らしい。
そう二人は十歳とまだ子どもなのだ。
そんな子どものうちに親を亡くして…。
(俺が守ってやらないとな……)
改めてそう決意したのであった。
そして、そうしているうちに時間が過ぎていき、そろそろ入学式が始まる時間になった。
「ここが私達がこれから通うことになる学園?」
「そうだよ。世界に一つだけしかない学園『王立グラスディール高等学園』だ」
「へ~、でっかいね」
俺たちは今学園の入り口にいる。
学園の中には既に多くの人がいる。
「すごいね。みんな高そうな服きてるよ」
「まぁ、学園に入るのはほとんど貴族の人達らしいからな」
ルドルフからは、「貴族の奴はプライドが高い連中ばっかだから、そういう奴らとはあまり関わるなよ」と言われている。
やはり、貴族というのはどこの世界も変わらないな。
俺も面倒事は避けたいので、あまり目立たないように過ごそう。
「そこのお前、どいてくれないか。邪魔だ」
急にかけられたその声に振り返ってみると、そこには金髪のイケメンがいた。
高そうな服を着て、後ろには従者らしき人が二人いる。いかにも貴族って感じだ。
「聞こえなかったかい?早くそこをどきたまえ」
俺がそんなこと思っているとそのイケメンはもう一度言ってくる。
俺は素直にどくことにする。ソフィも不満そうな顔をしながらも道を開ける。
そしてイケメンは我が物顔で歩いていく。
従者らしき人達も後ろについていく。
「何あの人、感じ悪いね」
「貴族にはああいうのが多いって師匠が言ってたよ」
「そうなんだ~」
前を歩くイケメン達の後ろ姿を見ながらそんなことを話していた。
「さぁ、俺達も行こうか」
中に進んでくと関係者に誘導される。
入り口の正面にある建物の横を通りすぎ、その奥には二つの建物が建っていた。
その片方の建物に誘導されそこに入る。
「うわぁ、すごい広いね」
「そうだね」
あまりの広さにソフィは驚く。
その建物の中は、例えるなら学校の体育館のようだ。その体育館を何倍にも大きくすれば同じようになるだろう。
そこに入学する人達が集まってる。
「ここで式が始まるまでお待ち下さい」
関係者の指示を聞いて式が始まるまで待つ。
周りを見渡せば色々な人達がいる。だが、その人達に共通して言えるのが豪華な服を着た貴族ってことだ。
そして、俺達は普通の服装をしている。
当然少なからずの注目は受けており、いくつかの視線を感じる。
ソフィは気づいてないようだ。
「ん?」
「どうしたの?」
「ほら、あそこ」
俺は指を指してソフィに気になるところを教える。
そこには、先ほどの金髪のイケメン達と二人の女子がいた。
イケメンと話しているが女子の方は、一人は少し怒っているような気がする。もう一人の子は怯えているのかその子の後ろに隠れている。
「なんか困っているみたいだね。喧嘩かなぁ」
ソフィが少し心配そうに言ってくる。
「ちょっと行ってくる」
「あ、待って。私も行く」
とりあえずその場所に行ってみることにする。
近づいてくると声が聞こえてきた。
「だからエミリーが嫌がってるじゃない!しつこいわよ!」
「僕は君には用はないのさ。どいてくれないか」
会話はどんどんエスカレートしていき、今にも女の子の方が手を出しそうなので止めに入る。
「それぐらいにしたらどう?」
「誰だお前は」
「誰よあんた」
(まぁ知らない人が急に割り込んできたらそうなりますよね)
女の子の方はともかく一度会ったことがあるイケメンにも言われるとは思わなかったが。
「なんか困ってる風に見えたから止めに来たんだよ」
その言葉がイケメンの癇に障ったのか、俺を睨んでくる。
「お前には関係ないだろ。第一なんだその服装は。まさかとは思うが君達は平民か?」
「そうだが、今はそんなの関係ないだろ」
「平民が僕に話しかけるんじゃない。ここは君達貧乏人が来ていい場所じゃないんだよ」
「それはお前が決めることじゃないだろ」
「平民が僕に口ごたえするのかい?しかもなんだその剣は。剣を使うなんていうそんな廃れた戦い方じゃ勝てないよ。今は魔法の時代だよ」
その言葉にさすがに頭にきた俺は勝負を仕掛けようとしたとき、急に灯りが消える。
すると、ステージにライトが当たり、そこにはローブ姿をした初老が立っていた。
「未来を担う若き者達を、私がこの王立グラスディール高等学園の学園長であるクリスハートだ」
「あの人が学園長なのか」
学園長が出てきて頭が冷えた俺は別のことを考えていた。
それは、その学園長の耳が異様に長いのだ。
まるで本などに出てくるエルフのように……。
(この世界にもエルフはいるのか……)
初めて見るエルフに興味津々でいると、先ほどの女の子が話しかけてきた。
「さっきはありがとうね。なんかあなたまで色々言われちゃって、ほんとごめん」
「大丈夫だよ。ちょっと頭きたけど今は収まったから」
「それなら良かった。私はナナ、ナナ・スフィアよ。それでこっちにいるのが」
「エミリー……ルルリカ…です」
後ろに隠れていた子も自己紹介をする。
ナナは栗色の髪を短く切っており、そして髪の色にも劣らない栗色をした瞳をしている。
エミリーは澄み切った空色の長髪と瞳をして、前髪にヘアピンのようなものを付けている。
「ごめんね。エミリーは男の人が苦手で、いつも私の後ろに隠れちゃうのよ」
男性恐怖症か。それならあのイケメンに怯えてたのも頷ける。
「それならしょうがないね。俺はアールスハイト、アルって呼んでくれ。」
「私はソフィリアです。どうぞソフィと呼んで下さい」
「アルとソフィね。これから仲良くしていきましょ」
ちょうどお互いの自己紹介が終わったところで学園長の話が終わった。
そこからは、諸連絡と学園生活を送るうえでの注意などを言われて入学式が終了した。
建物の外に出ると人だかりができてた。
どうやらクラス分けの発表らしい。
友達と一緒のクラスになれて嬉しがる人達もいれば、その逆の人達もいる。
俺達のも見てみると、俺とソフィでクラスが違うようだ。
それを見たソフィは落ち込んでいる。
「アルと違うクラスじゃ~ん。私やっていけるかな」
「ソフィなら大丈夫だよ。お互いに頑張っていこ」
正直俺も少し落ち込んでいる。でもここはソフィを元気づけるために明るく話す。
「あちゃ~、ソフィだけ離れちゃったかぁ」
ナナとエミリーが歩いてくる。相変わらずエミリーはナナの後ろに隠れているが。
「ということはナナやエミリーも俺と同じクラス?」
「そうだよ」
「私だけ違うクラス……」
それを聞いたソフィがさらに落ち込む。
「大丈夫。放課後は迎えにいくから。そこから寮まで一緒に帰ろう」
ソフィの頭を撫でながら言う。
すろと、ソフィはさっきまでの落ち込みようが嘘のように笑顔になった。
「本当!?」
「うん」
「えへへ、それなら我慢出来るかな」
そのやり取りを見ていた二人は俺達の関係に疑問を抱いた。
「二人は仲が良いけど、付き合っているの?」
「つ、付き合ってなんかないよ!」
「違うよ。俺達は幼馴染なんだ」
その言葉にナナが驚く。
「えっ!二人も幼馴染なの!?」
「もっていうことは、二人も?」
「そうだよ、うちの親とエミリーの親が友達でよく小さい頃から遊んでたんだ」
まさかの偶然に四人とも驚いていると、向こうから声がかかる。
「あっ、うちのパパだ。ごめんね、この話はまた今度ゆっくり話そ」
「そうだね、じゃあまた明日」
去っていく二人に手を振る。
振り終わると俺達も寮に向かう。
寮に向かって歩いているとソフィが口を開く。
「お互いに幼馴染なんてすごい偶然だね」
「そうだね」
話題はさっきの話だ。
そんな話をしていると分かれ道に着いてしまう。
寮は男子寮と女子寮で分かれていて、位置がまったくの正反対なのだ。
なのでここで別れることになる。
「じゃあ、また明日」
「……うん、また明日」
ソフィは名残惜しそうにしながらも、精一杯笑顔を作り別れの挨拶をする。
ソフィと別れてから男子寮に向かう。
男子寮は五階建てで、俺は二階に部屋がある。
階段を上り、決められた部屋に向かう。
部屋の中にはベッドと机、そして浴室とトイレがある。
俺は部屋に入るなり、王都に来るまでの移動の疲れと王都に来てからの疲れから、ベッドに寝転がりそのまま眠りについた。
こうして長い長い一日が終わる。
これから波瀾万丈な学園生活が始まろうとしている……。