第七話 大切な人
いつも見慣れた村。
生まれ育った村。
もうその村は、前世で住んでいた町と変わらないほど親しみのあるものになっていた……。
「嘘だろ……」
村に着いた時、俺は目の前に広がる光景に目を疑った。
荒らされた畑、道に転がる死体、町に行く前のものとはあまりにも違い過ぎる光景がそこにはあった。
「何なんだよこれ……はっ、父さんと母さんは!?」
この村の状態……不安が大きくなる。
大丈夫、大丈夫。あの人達ならいつもの様に元気な姿で「おかえり」と言ってくれるさ……。
そう自分に言い聞かせる。少しでもそれを止めたら最悪の光景が頭を過ぎってしまうから……。
死体を避けながら走り、遂に家に着く。
家の前には死体がなく、いつもと変わらない光景。
そのことに少し安堵し、中に入る。
そして、その安堵が一気に絶望へと変わる。
壊されたテーブルとイス、荒らされた部屋。そして……
「父さん、母さん……」
そこにはこの世界で自分を育ててくれた大切な人がいた。
あまり怒られたことがなく、いつも笑顔で話してくる。前世の親と変わらないほど大切な人……。
二人からは血が大量に流れていて、誰がどう見ても生きているとは思えない姿だ。
「くそっ!なんで!なんで!何でこうも上手くいかないんだっ!また俺は大切な人を守れなかったのか……」
俺は泣きながら叫ぶ。
俺がトレーニングに行かなければ、この現実も少しは違ったのかもしれない。
少なくとも二人はこうならずに済んだんじゃないか。
そう思うと後悔だけが残る。
悔やんで泣いていると、ある物が目に入る。
それは植物の葉で作った飾りだった。
それを見て俺は重大なことに気付いた。
「ソフィは!?あいつもこの家にいたんじゃ……」
周りを見渡してもソフィの姿はない。
(どこだ!?家に帰ってたのか!?)
そう思った時、声が聞こえた。
「ぅ……うぅ……」
その声の発信源はメアリアだった。
「母さん!?」
俺は驚いた。もう生きていないと思っていたから。
「ア……ル……?」
「そうだよ!アルだよ!」
俺は必死に応える。
そして、メアリアも残りの力を振り絞るかのように声を出す。
「ソ……フィ…ちゃん……が…連れて……かれ…たの」
「なんだってっ!?」
それを聞いた瞬間頭に衝撃が走る。
「お願…い。ソ…フィ…ちゃん…を…たす……けに…行って……あげ…て」
「でも!母さん達が!」
そう助けに行ったらメアリア達を置いてくことになる。
「私…達……の…こと…は…いい…か……ら。ソ…フィ……ちゃん…を……」
「でもっ!でもっ!」
涙がどんどん溢れ出してくる。
「これ…は…お母……さん…から…の…最後……の…お願…い。分かっ……た?」
「うぅ……分かったよ。俺助けに行くよ。だから母さん……」
顔を涙でぐしゃぐしゃに濡らしながら俺は言う。トレーニングばかりに時間を費やし、一緒にいた時間が少なかった。これは最初で最後の親孝行だ。
すると、メアリアが腕を動かし俺の頬を触る。
「さす…が…私の…子。お父…さん…と……一緒…に……いつま…でも…ずっと…見守って…いるか…らね」
そう言うが最後、腕の力は抜け床にストンと落ちる。
そしてメアリアはにこやかに笑った顔で瞼を閉じた。
「うぅ……くっ」
俺は涙を堪える。ここで泣いていたら駄目だ…と、そう言い聞かせる。服で顔を拭い、俺はソフィを助けるため外に出る。
少し歩いて俺は振り返り…
「行ってきます……」
そう言って俺は走り出した。
ーー メアリア ーー
体中が重い。
血が流れ過ぎてるのかしら、意識が朦朧としてる……。
「くそっ!なんで!なんで!何でこうも上手くいかないんだっ!また俺は大切な人を守れなかったのか……」
声が聞こえる……。上手く聞き取れないわ……
それよりもソフィちゃんを助けてもらうようにお願いしなきゃ。
「ぅ……うぅ……」
あれ?思うように声が出ないわ……。
でも私に気付いたみたい。こっちに来る…。
「母さん!?」
あら、アルだったのね…。そういえば、少し早く帰ってくるように言ってたわ……。
そんなことより、ソフィちゃんの事を伝えなきゃ…。
「なんだってっ!?」
上手く声が出ないけど、ちゃんと伝わってるみたい……。
「でもっ!でもっ!」
あらあらそんな泣かなくてもいいじゃない……。
そういえば、赤ちゃんの時以外で泣いた顔を見たのは初めてだったわね。今まで全然子どもみたいな感じじゃなかったけど、やっぱりあなたはまだ子どもね。
まだまだ私達がいないと駄目ね……。
でも、もうそれも無理みたい…。
もっと一緒にいてあげたかったけど、しょうがないわね…。
大丈夫、あなたならこれからもやっていけるわ。
だって私達の子どもだもん…。
だから最後のお願い、聞いてくれるよね?
「うぅ……分かったよ。俺助けに行くよ。だから母さん……ちゃんと見守ってて」
アルなら分かってくれると思ったよ……。
カッコいいよ、アル。
私もお父さんもあなたの事ずっと見守っているからね……。
ねぇ、お父さん…。
私達の子、立派な男の子に育ったわ……。
お父さんもそう思うでしょ?
ーーーーーーーー
「くそっ!ソフィを助けに行こうにも場所が分かんないんじゃ話になんねぇ!」
俺は今、町にいる。
さっきから盗賊のアジトがありそうな場所を必死に考えてるが、見当もつかない。
こうしてる間にもソフィの身に何かあるかもしれない。そう思うと焦らずにはいられなかった。
(どうしたらいい……)
そう思っていると、ある人物が頭の中に浮かぶ。
(そうだ!師匠なら何か知ってるかもしれない)
その考えに至ったら、すぐに行動に移る。
人混みをすり抜け、目的地へと向かう。
大通りとは離れて裏の路地へと進むと、ルドルフの家が見えてくる。
俺は、家に着くなりノックもしずに扉を開ける。
「師匠!いるか!?」
「なんだよお前。家に帰ったんじゃなかったのか?」
家の奥からルドルフが出てくる。
やはりこの裏路地に住んでいることもあり、盗賊の話はまだここまで伝わってないようだ。
俺はルドルフと別れてから、今に至るまでの経緯を説明する。
「なるほどな。だから俺の所に来たわけか…。だが、悪いが俺は何も知らねぇ」
「嘘だろ……。なら、どうすればいい…」
頼りにしていたルドルフが何も知らないとなると、もう詰んだかもしれない。俺は立っている気力もなく、膝をつく。
「まぁ待て。まだ話は終わっちゃいねぇ。俺の知り合いにそういうのに詳しい奴がいる。そいつなら知ってるかもしれない。そいつのいる場所を教えてやるから、そいつから聞け」
「ほんとか!?なら早く教えてくれ!」
ルドルフの言葉を聞いて立ち上がる。
まだ助ける方法がある……それが分かるとすぐに行動に移そうとするが、ルドルフが止める。
「落ち着け。今から用意するからちょっと待ってろ」
そう言ってルドルフは奥の部屋に入って行く
まだか、まだかと待っているとルドルフが戻ってきた。
そして二枚の紙を渡される。
「ほらよ。そいつの家の場所を書いたやつと、もう一枚の方は俺の伝言が書いてある。会ったらそいつに渡せ」
「本当にありがとう、師匠!」
俺はルドルフに礼を言って、早速その人の家に向かう。
紙で場所を確認しながら走る。
「ここか……」
どれくらい走っただろうか、それらしい建物に着く。
紙で書かれた場所と今いる場所を交互に見て、本当にここで合っているかを確認する。
そこは町の中心から離れた場所に建っている一軒の家だった。
如何にも怪しい感じがする家だが、迷っている時間が無いので扉をノックする。
反応が無くもう一度ノックするがやはり反応が無い。
(おいおい、いないとかまじで勘弁してくれよ!)
もう一回今度は少し強く叩こうとしたら、扉が開いた。
「何だようるせーな。……ん?ガキじゃねぇか。こんな所まで来て何の用だ?」
中から出てきたのは、三十代前半くらいの少し痩せた男だ。
「最近この町で被害を出している盗賊のアジトを知りたくて、師匠…ルドルフさんがここに行けと言ったので。あとこれを渡せと…」
ルドルフから渡された紙を男に渡す。
男はそれを読むと、少し考える素振り見せてから口を開く。
「なるほど、大体分かった。まさかあいつの言ってた弟子がこんなガキだったなんてな。まぁいい。確かに俺はその盗賊のアジトを知っている。だがそれを教えてどうする?」
「幼馴染みが攫われたんだ。俺は盗賊に父さんや母さんを殺された。それだけじゃ飽き足らず、残りの大切な人さえも俺から奪おうとする。そんなことは絶対にさせない」
怒気を含んだ声で俺は言う。
父さん、母さんがいなくなった今、ソフィだけがこの世界でたった一人の大切な存在。
家が隣で今までずっと一緒だった……。
いつの間にかソフィは家族みたいな存在になっていた。
「だからアジトを潰しに行くか……。お前みたいなガキが出来ると思うか?」
こんな子どもが盗賊のアジトに行くなんて自殺行為だ。
普通の人はそう思っても仕方がない。
だがそんなのは関係のないことだった。
「出来るか出来ないかじゃない。出来なきゃ駄目なんだ!俺はもう大切な人を失いたくない。だから俺は行く……」
男と俺は無言で見つめ合う。
お互いに黙ったまま時間が過ぎていく。
そして男が口を開く。
「はっはっはっはっは。いい覚悟だ。良いだろう、アジトの場所を教えてやる」
「ありがとうございます!」
俺は頭を下げて礼を言った。
そして男からアジトの場所を教えてもらう。
「必ず助けろよ、その子を」
「はい。あの、宜しければ名前を教えて下さいませんか?」
そういえば名前を知らなかったと気付き、この人には感謝をしてるので是非訊いておきたいと思う。
「クリスだ」
「クリスさん、今回は本当にありがとうございました!」
「いいから行け」
「はい!必ず助けてきます!」
俺はそう言って走り出した。
ようやくこれでソフィを助けに行ける。
もう空はすっかり暗くなっている。
(もう少し待っていてくれ。すぐに助けに行くからな…ソフィ)
ーー ソフィリア ーー
目が覚めるとそこは知らない場所だった。
暗く、明かりの点いていない部屋…。
(ここはどこ?私どうしてこんな所に……)
周りを見渡すと子どもがいっぱいいた。
そして全員縛られている。
泣いている子どもや怯えている子ども。
それを見て、気を失う前のことを思い出した。
(そうだ!私はアルの誕生日のためにメアリアおばさんと料理をしていて、それで……)
目の前でメアリアとアルベルトが殺される光景が瞼の裏に焼き付いている。
そして、連れてかれる時、見てしまった。自分の母親も死んでいるところを…。
(どうしてこんなことに……。私が何したって言うの!?)
理不尽な仕打ちに涙が次々に出てくる。
すると、向こうから声が聞こえてくる。
「あーあ、俺らに任された仕事は子守かよ!」
「仕方ねぇだろ、俺らはまだ下っ端なんだからよ」
「くそっ!絶対上に上がってやるからな」
「その意気だ」
どうやらこちらに近づいてきてるようだ。
そして、部屋の前で止まる。
そしてドアが開き、二人組の男が入ってくる。
子ども達はその二人組を見て更に怯える。泣き喚く子もいる。
「うるせぇな。静かにしろ!」
男が壁を蹴る。
それを見てその子達は余計泣いてしまう。
「もう頭にきた」
「おいっ!傷つけるなよ。商品なんだから」
「うるせぇな!俺は子どもが嫌いなんだよ!」
(商品?私達どこかに売られるの?嫌だよそんなの……。怖いよ…誰か…誰か助けて……。アル……)
赤ちゃんの頃から一緒だった人。
私をゴブリンから助けてくれた人。
もしかしたら、アルならまた……そう思う自分がいた。
男は泣き喚く子どもに近づいていく。
そして男が手を出そうとした瞬間、ドーンと大きな音がなる。
「なんだ、なんだ?」
「何が起きている?」
男達が少し慌て出す。
「もしかして侵入者か?」
「侵入者?ここに?そんな訳ないだろ」
「それもそうだな」
男達は笑っているが、ソフィには何故か分からないが確信があった。
(アルが助けにきたんだ!)
ーーーーーーーー
「ここだな……」
町を出てしばらく走ると、森の中に一つだけ建っている建物があった。
入口には二人、人が立っている。恐らく見張りのやつだろう。
俺は入口に向かって歩いて行く。
見張りの男が気付いたのだろう、俺に話しかけてくる。
「なんだ?どうしてこんな所に子どもがいる。迷ったのか?」
「おいおい、何か物騒なもんをぶら下げてるぜ?」
俺の剣を見て男が笑いながら言う。
「はっ、ほんとだ。子どもがそんなの持ち歩いてたら危ないなぁ。おじさんが預かってやるよ」
そう言った瞬間男の首が落ちた。
(まず一人…)
それを見ていたもう一人の男は何が起こったのか分からなかったが、俺が剣を抜いているのを見てようやく分かった。
「お前がやったのか…。このクソガキが調子に乗るなよ」
男は剣を抜いて構える。
(ふっ、隙だらけな構えだな)
「このヤロー!」
男が斬りかかってくる。
俺はそれを少し体を逸らすだけで躱す。
男は避けられたことに気付くともう一度斬りかかろうとするが、俺がそれよりも早く男の首を落とす。
そして中に入ろうとするが、普通に開けるよりも扉を壊そうと思い、思いっきり蹴る。
ドーンと音をたて扉が吹っ飛ぶ。
中には数十人の盗賊達がいた。
急に扉が吹っ飛び驚いたが、すぐに警戒態勢に入った。
「なんだてめぇ。ガキが何の用だ……」
坊主頭のいかつい顔をした男が喋っている。
こいつがこの盗賊団の頭なのか?
「俺の大切な人を助けにきた」
その言葉を聞くと盗賊達は笑いだした。
「はーはっはっはっ。おめーみてぇなガキが笑わせるな早くお家に帰っておねんねでもしてな!」
俺はその言葉を聞き流しながらその男の元へと歩いていく。
「お?なんだ、まじでやるのか?見張りを殺ったくらいで調子に乗るなよ?おい、やれ」
その男は周りの男達に命令する。
「いいんすかー頭。こんなガキ相手に」
「お前そんなこと言っておきながらナイフ握ってんじゃねぇかよ」
「まぁな」
「うるさい奴らだな。とっととかかって来い」
その言葉に頭にきた男達は襲いかかってくる。
「調子に乗んなよ、クソガキがぁー!」
俺は剣を振る。一人、二人と殺していく。
(この感覚……前世のあの時と同じだな)
だが今はあの時よりもずっと強くなってる。
その証拠に相手の動きが全て見える。
危なげなく躱し、斬っていく…その繰り返しだ。
そしてそれに終わりが訪れる。
残りは頭一人だけとなった。
「くそ野郎、何なんだお前は。おめぇみてぇなガキにやられたとなったらいい笑いもんだ。だからここで消え……」
その言葉は最後まで言えずに途中で終わることになる。男の首がスルッと体から地面に落ちる。
「だからうるせぇっての。喋ってる暇があった斬りかかってこい」
俺はそう言って、剣に付いている血を払って鞘に収める。
後はソフィを探すだけだ。
奥に通路を発見しそこを進む。
部屋がいくつかあるので一つ一つ確かめようとすると、奥から子どもの泣き声が聞こえた。
泣き声は一番奥にある部屋から聞こえてくる。
(あそこかっ!)
そうと分かれば全速力で走る。
そして、扉を蹴る。蹴るといってもさっきのように吹っ飛ばしたりはしない。そんなことをしたら中にいるソフィが怪我をする可能性があるから。
中には沢山の子どもと二人組の男達がいた。
「アル!」
その中にはソフィの姿もあった。
「待ってろよ、今助けるから」
「うん!」
「あぁ?何だお前、どこから入って……ぐっ」
俺は一足で男の懐に潜り込み腹を殴って気絶させる。
さすがに子ども達の前で血を見せるのは良くないと判断したからだ。
残りの男も気絶させ、ソフィの縄を解くといきなり抱きついてきた。
「怖かったよー!村の人みんな殺されちゃって……。お母さんやメアリアおばさん、アルベルトおじさんだって!私何も出来なかった!ただ見ているだけしか!」
泣きながら話すソフィを俺は優しく頭を撫でる。
「そうか……。つらかったな……。でも自分を責めるな。出来ないのは当たり前なんだよ、俺らはまだ子どもなんだから」
「でも、アルは強いよ。私を一人で助けに来てくれた」
「俺は…その〜ちょっと特別なんだ。ソフィだって今からでも強くなれるよ」
「ほんと?もうこんな思いをせずに済む?」
「あぁ!だから今は落ち着いて他の子ども達の縄を解いてやろうぜ」
「……うん、分かった」
そしてソフィと縄を解いていき、全員の縄を解き終わったところで新たな問題が生まれる。
(この子達をどうやって町まで運ぼうか…)
そう思っていたら……
「警備隊だ!」
入口の方で声がする。
誰が呼んだのだろう。この場所を知っている人は……もしかしたらクリスさんが…。
(まったく…今度あったら改めて礼を言わなきゃな)
こうして、この一件は終わりを向かえた。
この後、俺とソフィは帰る宛が無いのでとりあえずルドルフの家に行き、泊まることにした。
色々あったせいか、疲れが溜まっており泥のように眠った。
翌朝、目が覚める。
嫌な夢を見た……。父さんや母さん、ソフィ…みんなが殺される夢だ。よりによって昨日の後に見るかよ。
早くこの夢のことは忘れよう。
部屋を出て顔を洗おうとすると
「アル、起きた…んだ。えっ!どうして泣いてるの!?」
「泣いてる?」
そんな馬鹿なっと目を触って見ると、手に涙がつく。
「大丈夫?」
ソフィが心配そうにこちらに近づいてくる。
俺は近づいてきたソフィを抱き締める。
「えっ?えっ?ちょっ……どうしたの?」
ソフィは最初は顔を赤くしていたが、俺の様子がおかしいのに気付いたのか心配して訊いてくる。
「俺、嫌な夢を見たんだ!父さんや母さんが殺されて、ソフィも殺される夢……。でもソフィがちゃんと生きててくれたから!」
「うん、私はここにいるよ。……私はアルのおかげで生きてるんだよ。アルが助けに来てくれたから……今の私があるんだよ」
ソフィは腕を俺の背中に回す。
「もう俺は絶対大切な人を失わない!ソフィは俺が守るから!」
「ありがとう。でも守られるだけじゃ嫌だな。私も強くなるから。お互いに背中を守れる存在になろ?」
「うん……」
「ヒュー、朝から熱いね〜お二人さん」
玄関にいたルドルフがニヤニヤしながら言ってくる。
「師匠……まさか全部聞いてたのか?」
「あ、あの!これは……その…ちがっ……」
二人ともそれぞれ違う反応をしている。
それを見てルドルフは笑いながら答える。
「あぁ、最初っからな」
(くっ、よりにもよってこの男に聞かれるとは…。絶対後々このネタでいじられるだろ)
「くそっ!……まぁ、いいや。師匠」
「何だ?」
「改めて礼を言いたい。今回はありがとう」
「わ、私からも言います。ありがとうございます!」
俺は深く頭を下げ、感謝の言葉を言う。
ソフィもそれに続いて感謝を言った。
この男に鍛えてもらったからソフィを助けれた。
それは本当に感謝してることだ。
「やめだやめだ。顔を上げろ。そういうのはあまり好きじゃない。それより、お前らはこれからどうする?」
「これから?」
「そうだ。住む家はここだとして、これからどうしてくかだよ」
「ここに住んでもいいのか?」
「あぁ、村には住めないしな」
この男には本当に世話になる……。
「んで、どうすんだ?」
いきなりこれからどうするか考えろと言われても困る。
暫く考え、ある事を思い付く。
「学校…に行ってみたい」
「学校?それは学園のことか?」
俺はそれだと頷く。
この世界のことを俺はまだ知らないことが多い。
それを知るにはやっぱり学校が一番だろう。
「分かった。だが学園は十歳からしか入学出来ん。だからあと二年は待つことになる…」
「そうなのか。分かった、ありがとう」
「私も学園に入りたいです!私もアルを守れるように強くなりたい!」
「そのつもりだから安心しな」
「ありがとうございます!」
こうして俺は二年後、学園に入学することになった……。
今俺はソフィと村に来ている。
母さん達の墓を作る為だ。
墓と言っても死体は片付けられておるので、土で山を作り、そこに木の板を刺すシンプルな墓だ。
俺がアルベルトとメアリアの分、ソフィがフィーネの分を作る。
「父さん、母さん、こんな墓でごめんなさい。俺はこんなに早く別れが来るとは思ってなかった。こんなことならもう少し一緒にいる時間を作るんだった……。今更後悔しても遅いな」
泣きそうになるのを堪える……。
「いかんね、二人の前で泣いたら心配して成仏しなくなるかもしれないな。そういえば、俺学園に通うことになったんだ!もちろん、ソフィも一緒。この世界の知らないこと沢山あるからさ!それに俺、魔法を使ってみたいんだよね。ほら、俺が赤ちゃんの時に母さんがやっただろ?学園で教えてくれるかなぁ〜。
……話長くなっちゃったね。ソフィと二人だけになったけど、大丈夫。二人で何とかやってくよ。心配しなくてもソフィは俺が守るよ。だから安心して成仏して……」
言いたいことを終えると、ちょうどソフィの方も終わったようだ。
「言いたいことは言えた?」
「うん」
「じゃあ帰ろうか…」
そして町へと帰ろうとした時、
『頑張ってね!』
『頑張れよ!』
そんな声が聞こえたような気がした。
「どうしたの?」
急に立ち止まった俺を不思議に思ったソフィは訊いてくる。
「いや、何でもない」
俺はそう言って歩き出す。
(おう!俺の活躍見ててくれよな!)
その思いは届いただろうか……。
第一章これで終わりです。
次からは学園編となります。