第六話 魔剣
気がついたらこんなに期間が空いていた……
「いちっ!にっ!」
「剣を戻す時が遅いぞ!」
「はいっ!」
俺に師匠(因みに名前はルドルフという名前らしい)ができて、あれから一ヶ月が経った。その一ヶ月間やったことは、筋トレ、ランニング、そして素振りだった。
師匠が言うには、まず基礎をつけてから技を教えるそうだ。まぁオーソドックスなパターンだな。
これを各部位に十キロの重りをつけて毎日三セットずつやる。
そして今素振りをやっているわけだが、これが今日最後のトレーニングだ。
「やめっ!」
終わりの掛け声と同時に地面に体を投げ出す。
体中が重たい……。一ヶ月間やってきて少しは慣れたつもりだったが一向に慣れる気配がない。
しかも、重りはトレーニングの時以外にも日常的につけていろと言われている。
「どうだ?このトレーニングには慣れたか?」
ルドルフはニヤニヤしながら聞いてくる。
(そんなの見りゃあ分かんだろ……)
俺はそれを言う気力も無いので無視をする。
「こんなことでへばってちゃまだまだだな。
……まぁ、家に帰ってゆっくり体を休めな」
この男はトレーニングはきついが意外と優しいところがある。
「じゃあな。気を付けて帰れよ」
そう言いながらルドルフは家に戻っていく。
俺はしばらくそこに横たわりながら体が回復するのを待つことにする。
そよ風に吹かれながら俺は考える……。
このトレーニングをやってきてまだ一ヶ月だが、あの男の様に強くなれるイメージが全く湧かない。
一ヶ月くらいじゃ実にならないのは知っている。だが、こんなことで強くなれるのか……。
そんな不安が頭をよぎってしまう。
だが、俺はこのトレーニングを続けなければならない。少しでも強くなれる可能性があるなら……。
この一ヶ月間で何度目かの自問自答を繰り返しながら時は過ぎる。
ぐぅ〜〜
数分後、腹の音が空腹を知らせる。
気付けばもう夕暮れ時だ。
体もある程度は動くようになった。
「帰るか……」
俺はそう言って起き上がり、もうすっかり見慣れた道を歩いていく。
体中が筋肉痛で痛むが早く家に帰って晩御飯を食べたいので、少し急いで帰る。
村に戻ってきて自分の家がある方向に歩く。
ちょうどいい時間に帰ってきたのか、家の前からいい匂いがしてきた。
「ただいま」
ちょうどテーブルに食事を並べていたメアリアが俺に気付く。
「おかえりなさい、アル」
「おかえり、アル」
「ただいま、母さん、父さん」
俺も食事を並べるのを手伝う。
「さぁ、ご飯にしましょ」
食事を並べ終えて晩御飯にする。
食べている間は他愛もない話をする。
最近トレーニングはどうとか、一度師匠にご挨拶がしたいとか、ソフィちゃんが寂しがってるよとかそんな話だ。
でも、最近は半日以上も師匠のところにいるので、こういう時間は家族とゆっくり話せる大切な時間だと思っている。
そうして晩御飯を食べ終え、風呂に入り寝る。
こんな感じで一日は終わる……。
そして、そんな生活をして五年の月日が流れた。
目を開けるとそこはもう見慣れた天井。
窓からは日差しが差し込み、部屋全体を明るく照らし出している。
「朝か……」
俺は起き上がり体を伸ばす。
気持ちのいい目覚めだ。
部屋を出て、先に起きていたアルベルトとメアリアに挨拶をする。
「おはよう、父さん、母さん」
「おはよう、アル」
「おはよう。今日もトレーニングか?」
「うん、そうだよ」
「気を付けろよ。最近町で盗賊の被害が出てきてるって話だ。」
「盗賊……」
(この世界にもいるのか)
俺は悪い奴は許さん……などという正義感にあふれている訳ではないが、もしかしたらこっちにも被害が出るかもしれないので早く捕まってほしいものだ。
「もう朝からそんな話しないでよ」
「それもそうだな。でも、アルなら盗賊の一人や二人倒しそうだけどな!」
笑いながらアルベルトは言う。
(八歳になったばかりの息子に何言ってんだよ……)
「もう〜、そう言って無茶したらどうするのよ。アル、今日はいつもより早く帰ってきてね。今日はアルの誕生日なんだから」
「分かってるよ」
この世界にも生まれた日を祝う行事はある。
そして、今日は俺がこの世界に転生してきてちょうど八年が経った日だ。
(もう八年か……)
転生してきたのがつい最近みたいな感じだ。それくらいこの八年間はあっという間に過ぎていった。
俺は八年間強くなる為にトレーニングをしてきた。少しは強くなったかもしれんが、相手が師匠しかいないのだから実際にどれくらい強くなったかというのは分からない。
(一度誰かと戦ってみたいなぁ……)
そんなことを考えてる内に朝食ができたようだ。
そういえばこの世界では食事の前に言う「いただきます」みたいなことは言わないそうだ。
朝食も食べ終え、トレーニングに行くため準備をする。
そういえば、トレーニングをし始めてから五年間で重りの重さが増えた。最初は十キロだったのが、今じゃ三十キロになった。
さすがに初めの方は重すぎて全然思うように動かなかった。
でも今は何の支障もないくらいに動ける。
「よしっ!」
トレーニングの準備が終わった。
「いってきます」
アルベルトとメアリアにそう言って家を出る。
「おはようアル、今からトレーニング?」
ちょうど外にいたソフィリアが話掛けてくる。
「そうだよ」
「そうなんだ。今日は楽しみにしててね。私も料理を少し手伝うんだから!」
今日はソフィリアも家に来て祝ってくれるそうだ。
「うん、楽しみにしてる。じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃい。頑張ってね」
そう言って別れ町に向かう。
今日のトレーニングはいつもよりも頑張れそうだ。
夜の事を楽しみにしながら足を動かす。
「そういえば、お前今日は誕生日だったよな?」
トレーニングの休憩中、ルドルフが言う。
「そうだけど、急にどうしたの?」
今までは誕生日の日に特に何も言ってこなかったので、疑問に思う。
「いや、お前を弟子にしてからもう五年が経つ……。もうお前も十分強くなったしな。何かプレゼントをやろうと思ってな」
「なんだよ、急に気持ちわりぃな」
急な変わりように少し引きながら言葉を返す。
「いらねぇならいいんだけど?」
ニヤニヤしながら言ってくる。
(くっ、師匠のこういう顔を見ると素直に貰うのは癪だが、貰えるもんは貰っとこう。師匠からの初めてのプレゼントだしな)
「分かったよ、有り難く受け取るよ」
「はいよ。取ってくるからちょっと待ってろ」
そう言って家に入っていった。
俺は何が貰えるのか少しわくわくしながら待ってたらルドルフが出てきた。
「ほれ、これをお前にプレゼントしてやるよ」
ルドルフがそう言って俺に渡してきた。
それは一本の剣だった。いや、これは剣というよりもどちらかと言うと刀に近い感じだ。
刃が鞘に収まっているのだ。
思わぬプレゼントに俺が驚いているとルドルフが口を開く。
「それは俺が現役時代に使ってた魔剣だ」
「魔剣?」
この八年間で初めて出てきた言葉に疑問を抱く。
「あぁ、そうだ。魔剣っていうのはな、剣に魔力が宿っていて何かしらの能力がある剣のことだ」
「この剣にはどんな力があるの?」
「この剣はどれだけ切っても刃こぼれをしず、錆びたりしないという力が付いている」
「………それだけ?」
「あぁ」
「えーー!もっと凄い力があるかと思ったのに!」
魔剣と聞くと剣から炎などが出たりとかするもんだと思ったけど、意外に地味な力だった。
「はぁ、お前には分からないか。この力の凄さを」
「なんだよ、その言い方ムカつくな」
「剣っていうのはな、使っていけば当然刃こぼれするし、血で錆びることだってあるんだ。それを研いだりすることで状態を保つ。ただ、魔剣はそうはいかねぇ。魔剣は普通の剣に比べて消耗が激しい。だが、この剣は魔剣なのにそうじゃねぇんだ。刃こぼれもしない、錆びもしない、長く剣を使っていける。これは剣を使う者にとって最高のことなんだ」
長々と説明され何となく凄いものなんだなと理解する。
「何か凄いの物ってことは理解した。ありがとう」
「分かればいい」
まぁ能力はどうであれ形状が刀と似ているので、前世で日本刀をよく触らしてもらってた俺としては普通の剣よりかはこちらの方がしっくりくる。
そして鞘から抜いてみることにする。刀身は赤く、素人でも他の剣とは違うと分かるほどの存在感を持っているようだ。
「すげぇ……」
自然と口から感想が漏れる。
「だろ?これからはその剣が体に馴染むように肌身離さず持ってな」
「でも腰に差すところないぜ?」
「ベルトをやる」
と言って家から黒のベルトを持ってくる。
「それを付けてそこに固定しろ」
俺はベルトを腰に付け剣を固定する。
なんか侍みたいでかっこいい。そんな感想が出てきてもいいだろう。男なら一度は憧れた格好ではないだろうか。
「結構似合ってるじゃねぇか。今日はそれを付けて帰れ」
「えっ?何言ってんだよ、まだやるよ」
まだトレーニングは残ってるのだ。
帰る気はないと意思を見せる。
「いいから帰れ。早く帰って親に自慢でもしてこい。これは命令だ」
「分かったよ……」
そこまで言われたら仕方がないので帰ることにする。
師匠も俺のことを想って言ってくれてるのだ。いつも半日以上もここにいて家族とあまり一緒にいる時間が少ないから今日だけでも一緒にいろと、そう遠回しに言っているのだ。
「剣ありがとう。大事にするよ」
「当たり前だ。無くしたりしたら弟子失格だからな」
お互いに笑いながら言葉を交わし別れる。
まだ空は明るい。今帰ると色々と準備をしてると思うし、町で暇を潰してから家に帰ろうと決める。
大通りを歩きながら色々な店を見てまわる。
そうして何時間が経っただろうか、日が暮れ始め、もうそろそろ帰ろうかと思った時……
「ここから離れた村が盗賊の集団に襲われたらしいわよ」
「あらまぁ、酷いわねぇ」
不意にそんな話が聞こえてくる。
俺は聞き間違えたのかと思いその人達に問い詰める。
「すいません!今何て言いましたか?」
急に話掛けられたその人は驚きつつも答えてくれる。
「村が盗賊の集団に襲われたって、さっき町の警備の人が話してたのを聞いたのよ」
嫌な予感がする。
村というだけで俺のとこだとは限らない。だが、考えたくはないがもしかしたらって可能性もある。
心臓の鼓動が早くなり急いで村に戻る。
全速力で走ってゆく。
こんなにも村まで長かっただろうか……。
頼む。お願いだ。
そう心の中で思いながら走る。
そしてようやく村は見え、その思いを裏切るかのような光景が目の前に広がる。
次で一章が終わりの予定です。
次もいつ投稿出来るか分かりませんが、なるべく早めに投稿したいと思います。