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魔剣使いの異世界ライフ  作者: 一匹狼
第二章 学園編
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第四話 大切な友達の為に

久しぶりの投稿です。

ギルスとの勝負から翌日。いつもの様にナナの特訓をし、学園に行く。

教室内は生徒達の話し声で賑やかだ。

俺はエミリーとナナの座ってる席へと向かう。


「おはよう」


「おはよう、アル君」


俺の声に気付いて挨拶を返してくるナナと……


「お、おはよう……アル君」


頬を少し赤らめながら挨拶を返すエミリー。

俺は目を見開く。

いつもなら男性恐怖症のエミリーは怖ず怖ずとした様子ながら挨拶を返してくる。

それが今日はそういった様子がないだけでなく、名前まで呼んだのだ。

横にいるナナも驚いた様子だ。


「わぁー、エミリーがお父さん以外の男の人に心を開くなんて。それに……」


何か含みを持たせたような事をいいながらニヤニヤしてこちらを見てくる。

ナナのことは置いとくとして、昨日の今日で変わったことと言えばギルスの件しかない。

ギルスから助けたことで心を開いてくれたということか。


「おはよう、エミリー」


心を開いてくれたことに感謝を込めて改めて挨拶をする。

これでやっと本当の友達になれた気がする。

そう思うアルであった。



それからは特に何もない日々を過ごす。

ギルスが何をしてくるでもなく、普通に授業を受け、ナナの特訓をして寮に帰って寝る日々。

そうして数日が経った。



「アル君、今から空いてる?」


剣術科の授業を終えた後、ナナが話しかけてくる。


「特に予定は無いけどなんで?」


授業が終われば後は寮に戻って筋トレするくらいだろう。


「じゃあ、この後街に出掛けない?」


「街に?」


まさかナナがそんなこと言ってくるとは思ってもいなかったが、特に断る理由もない。


「いいよ」


「やった! そうと決まったら早く行こう!」


そう言ってナナは鼻歌混じりに歩き出す。

急に街に行こうと言い出したナナを不思議に思いながらナナの跡を追う。




王都「ユースティア」の中心街、多くの人々や他種族が集まるこの場所は、数々の店が並び活気に満ちていてる。


「あれ美味しそうだよ!」


ナナが指さす先には『串焼き』と書かれた店がある。


「行ってみよ!」


ナナはアルの手を引っ張りその店へと向かう。

その店に近づくにつれ香ばしい匂いがしてくる。


「おじさん、串焼き二本下さい!」


店の前に着くなり、ナナは指を二本立てながら言う。


「はいよ!銅貨四枚だよ」


この世界での貨幣は統一されており、下から銅貨、銀貨、金貨となっている。

銀貨は銅貨十枚分、金貨は銀貨百枚分。

銅貨は大体一枚百円くらいの価値だ。


「はい!」


ナナが財布から銅貨四枚を取り出し、店員に渡す。


「え? 俺も出すよ」


「いいよ、アル君には特訓とかしてもらってるし」


「……分かった。ありがとう」


日頃のお礼と言われたら遠慮するのもナナに悪いだろう。

ここは素直にご馳走してもらおう。


「ほらよ、串焼き二本! ん? 何処かで見たことあると思ったら、この前の坊主じゃねぇか」


串焼きを渡しながら店主は言う。

改めて顔をしっかり見ると入学式の時に寄った店の店主だ。


「なんだー? 一人じゃ飽き足らず他の子とも付き合おうってのか?」


「この子は友達です。それに前の子も付き合ってる訳じゃないですから」


串焼きを受け取りながら、店主のあらぬ誤解を解くために弁明する。


「そうかい、どちらにしても羨ましいぜ。すまなかったな、変な誤解をしちまって。まぁまたこの店に寄ってくれ」


その言葉に「はい」と答えてその場から歩き出す。

横を見たらナナが「どういうこと?」と言いたそうに首を傾げている。


「入学式の前にもあの店にソフィと寄ったんだ。それであの人はソフィと俺が付き合ってると勘違いしたんだね」


「そうなんだ。実際のところどうなの? アル君はソフィのことどう思ってんの?」


串焼きを食べながらナナが聞いてくる。


「どうと言われてもなぁ。小さい頃から一緒だから妹みたいなもんかな」


これは本心だ。

ソフィは大切な人とは思っているが、それはあくまでも家族としてだ。恋愛感情はそこにはない。


「ふーん。ならエミリーにもまだチャンスはあるね」


後半の方は俺には聞き取れなかったが、その後に特にナナから何も言ってこなかったのでこの話は終わった。




「今日はありがとうね! 楽しかったよ!」


学園の男子寮と女子寮の分かれ道、ナナは屈託の無い笑顔で言う。


「俺も楽しかったよ」


「じゃあね」と別れ寮に戻る。

筋トレをして寝支度を済ませベッドに横たわる。

明日は学園が休みの日。

何しようか考えていると、疲れていたのかすぐ眠りについた。




朝、雲一つない晴天の下で俺とナナは日々の特訓をしていた。


「よし! 後は素振りだね」


「了解!」


今日最後のメニューである素振りをしているナナから離れ、近くの木に向かう。


「お疲れ様」


声の主はエミリーだ。

今日は休みということでエミリーが見学に来ている。

俺は木にもたれ掛かるようにエミリーの横に座る。


「ナナはどう?」


どうというのはナナの剣の腕のことだろう。


「剣の資質はあるよ。俺のメニューにも真面目に取り組んでるし、このままいけば相当強い剣士になるんじゃないかな。将来が楽しみだ」


「ふふっ、アル君楽しそうだね」


「そう?」


「うん。ナナもアル君に教えてもらうようになってから凄く楽しそうにしてるよ」


自覚は無かったが、エミリーからはそう見えたんだろう。


「羨ましいな」


素振りをしているナナを見ながらエミリーは呟く。


「羨ましい?」


何が羨ましいのか訊くとエミリーは慌てて「何でもない」と答える。

そこで暫し沈黙が訪れる。

聞こえるのは風の音と木刀が風を切る音だけ。

その沈黙を破るようにエミリーが口を開く。


「私ね、最近ある夢をみるの。その夢では私にお兄ちゃんがいるの。私が困ってるといつもお兄ちゃんが助けてくれて、泣いたりした時も私の頭を撫でてくれるの。それが嬉しくて、凄く心が温まるんだ。まるで、実際にされたことがあるかのように……。おかしいよね、私一人っ子なのに。でも、目が覚めると胸がきゅってなって切なくて、涙が出るんだ……」


エミリーはそう言って胸の前に手を当てながら悲しげな目をする。

恐らくその夢のことを思い出しているのだろう。


「エミリー……」


こういう時どう声を掛ければいいんだ。

前世でもこういう経験は無いぞ。

妹が泣いた時はよく頭を撫でたもんだが、さすがにエミリーにする訳にもいかない。

そんなラブコメの主人公みたいな行動が出来るか!


「……ごめんね。こんな話急にされても困るよね。私もなんでアル君にこの話をしたか分からないの。アル君が夢に出てくるお兄ちゃんに似てたからかな」


エミリーは何とかこの場の空気を変えようと微笑む。

物悲しげなその微笑みが前世の妹と重なる。

美月もこうやって無理して笑う時がある。

それだからかエミリーを守ってあげたくなる。


「……るよ」


「え?」


「俺がその兄の代わりにエミリーを守ってやる! だからそんな顔はしないで」


もしかしたらエミリーに美月を重ね、守ってやれなかった罪滅ぼしの為に出た言葉かもしれない。

だけどエミリーを守ってやりたいというのは本心だ。

俺はこの子の悲しむ表情は見たくない。


「アル君……ありがとう!」


エミリーは少し驚いた顔をしたが先程の微笑みとは違う嬉しさに揺れるような笑顔に変わる。

その笑顔は今日の天気のように曇りなき笑顔だった。




休みが明け学園に通う日々が始まる。

だが平和な学園生活の日々は始まることなく事件は起こった。

放課後、寮の自室に帰りトレーニングをしようとした時ノックの音が聞こえた。


「アールスハイト様、私ギルス様の執事の者です。ギルス様からお手紙を預かっております」


ドアを開けると燕尾服を着た長身の男が立っていた。

ギルスという名を聞いてどこか嫌な予感がする。

手紙を受け取ると執事は「失礼します」と去っていった。

手紙を開くとそこに書いてある文章に目を見張る。


『エミリーは俺の女だ。助けに来れるのなら来てみろ。場所は街の外れにある廃屋だ。来た時がお前の終わりだがな』


「っ!……あいつ、エミリーに何を!」


急いで魔剣を腰に差し寮を出る。

寮を出たら真っ青な顔をしたナナがいた。


「アル君! 今アル君の部屋に行こうとしてたの! エミリーが……エミリーがいないの!」


「ギルスがエミリーを攫ったんだ!今から助けに行く」


「えっ!? わ、私も行く!」


「駄目だ! 何があるか分からない。ナナは待っててくれ」


「でも!」とそれでもナナは食い下がる。


「頼む……。大切な友達が傷付くのを見たくないんだ」


「……分かった。絶対二人で無事に帰ってきてね! エミリーをお願い!」


俺の気持ちを汲んでくれてそう言うナナの目には涙が浮かんでいる。


「必ず戻ってくる!」


俺は指定された場所へと全速力で駆けていく。

空は日が沈み月が顔を出している。

王都『ユースティア』は夜でも人で賑わっている。

ただ王都でも一つ道を外れたら人気が一気に減る。

目的の場所は当然周囲には人が一人もいない古びた廃屋だった。

外観は教会に似た建物だ。


「エミリー!」


「アル君!」


バンと扉を開けると中も廃れていたが、それでも分かるくらい豪奢な飾りがされている広い空間だった。

その空間の奥の方、エミリーとギルスがいる。

二人だけでなく左右の壁には全身黒い服装をした謎の男が三人壁にもたれ掛かって立っていた。


「よぉ。わざわざ殺されに来るとは……」


「ギルス!」


俺は台の隣に立っているギルスを睨む。


「平民風情が僕を呼び捨てにするな! 大体お前は気に食わなかったんだ。平民の分際で僕に盾突いてくる。その罪はお前の死で償わせてやる。だが直ぐには殺しはしない。お前の大切な女が目の前で陵辱されるのを見て自分の無力さを感じながら死ぬがいい」


ギルスがエミリーの胸へと手を伸ばす。

エミリーは怯えきって足がすくんでいる。


「嫌……嫌……」


顔をが真っ青になっていき、わなわなと唇を震わせる。


「っ! ギルスー!!」


俺は叫びながらギルスへと突っ込んでいく。

だが、四人の男がギルスへの道を阻む。


「お前の相手はそいつらだ。この国で有名な殺人集団の連中だ」


「こんな奴ら直ぐに!」


「抵抗するのはやめた方がいい。少しでもそんな素振りを見せたらこの女の足を切り落とす。最悪足などなくとも玩具になる」


そう言ってギルスは懐からナイフを出す。

どこまでクズなんだこいつは!

ギルスの言葉を皮切りに男達はこちらに向かってくる。


「大人しく殺されてくれよー!」


男達の一人がナイフを振ってくる。

遅い。普通なら避けれるが……。

ブシャッと肩から腰にかけて斬られる。

血が辺りに撒き散る。


「アル君!!」


涙を浮かべながらエミリーが叫ぶ。


「ひゃっはー!」


次々に男達に斬られていく。


「ハハハハハハハッ! 実に愉快だ! 僕に盾突くからこうなる」


ギルスが高笑いしながら言う。

……痛ぇ。体中の血がどんどん抜けていくのが分かる。

俺はここで死ぬのか?

エミリーを助け出せないまま死んでしまうのか。

意識が薄れていく……


「やめて! 私なんでもするから! アル君にはもう何もしないで!!」


エミリーのその言葉を聞いて何とか意識を保つ。

何をやってんだ俺!

エミリーを守ると決めたじゃないか!

それがなんだこのザマは!

どうして俺はこうも無力なんだ!

俺にもっと力が……ギルスがエミリーにナイフを振るうよりも早くあいつの元に行かなければ!





……どくん! ……どくん!

体が熱い。これは切られたせいだろうか。

……分からない。自分が自分でなくなってしまうような……意識が……。

瞬間、俺はギルスへと駆けて行った。




-- エミリー --



アル君が死んじゃう!

私のせいで思うように戦えなくて……。

嫌だ! アル君が死んじゃうなんて!!


「やめて! 私なんでもするから! アル君にはもう何もしないで!!」


そう言ったらギルスがニタァと笑うのが見えた。

怖い……怖い……。

でも私さえ我慢すれば……。

その瞬間、ギルスが壁に吹っ飛んでいった。

何が起きたのか分からない。

目の前にはアル君がいた。


「アル…君?」


様子が変。

目が真っ赤に充血していて、苦しそうに唸ってる。

どうしちゃったの? いつものアル君じゃない!

ギルスが吹っ飛んだ後、男達が振り返る。


「なっ! 急に消えたと思ったらあそこに!」


「なんていう速さだ!」


「あいつは深手を負ってるんだ! 三人でいけば殺せる!」


男達は驚きはしたがそこはプロ、直ぐに立て直しアルに斬り掛かる。

アルは三人の攻撃を余裕を持って躱しながら一人、また一人と斬っていく。

一分もしないうちに三人が斬られ、その場にはアルだけが立っていた。


「ぅぅぅ……」


アルは倒れている三人の内の一人に魔剣を突き刺していく。

エミリーはアルの現状にどうしたらいいか分からなかったが、考えるよりも先に体が動いた。


「アル君! お願い! 元の優しいアル君に戻って!!」


アルを後ろから抱きつくエミリー。

アルは唸り声を上げたままだ。


「お願いアル君! 戻って……」


泣きつくエミリー。


「エ…ミリー……」


「アル君!」


良かった!

アル君が元に戻った!!

目も普通になってる!


「無事で…良かった……」


そう言うとアルは体の力が抜けるように床に倒れる。


「アル君!? アル君!」


どうしよう! 血が止まらない!

そうだ! 治癒魔法!


【治癒魔法】火、水、地、風系統のある魔法の中で

水系統の魔法を得意とする者に稀に使える者がいる。百人中一人いるぐらいの確率だ。

文字通り治癒効果のある魔法だ。

エミリーは水系統が得意で、学年でも水系統に関してはトップの成績を誇る。


「癒しの光よ、苦しむ人々の体を包みたまえ…ヒール!」


エミリーが詠唱を終わると同時にアルの体を光が包む。


「……駄目! 傷が塞がらない!! 傷が深すぎるの!? どうすれば……」


困惑するエミリーだがそこで授業の記憶が想起される。



『治癒魔法というのは、他の魔法とは性質が違います。治癒効果が一番働くのは対象者との粘膜の接触、接吻です。身体の内部に直接魔力を流し込むことによって治癒力を高めます』



そうだ! 接触……キスをしながらなら治せるかも!

……アル君とキス。

キスという言葉に頬を染めるエミリー。

今は恥ずかしがってる場合じゃない!

アル君を治さないといけないんだから!!


「癒しの光よ、苦しむ人々の体を包みたまえ…ヒール」


再びアルの体を光が包む。

そしてアルの唇とエミリーの唇が重なる。


お願い……治って……。



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