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7.渇望する答え

 「うーん……」


 「どうですか?!」


 セシリアさんがその掌に発現させる光が失せると共に、僕は、居てもたっても居られなくなって問いつめた。


 「……そうですね。大体……わかりました」


 セシリアさんは、顔を曇らせて僕から視線を外すと、ベッドの上に横たわる彼女に顔を向ける。嫌な予感がした。

 ベッドの上で彼女は額から汗を流しながら、苦悶の表情で眼を瞑っている。側に居たリーンシェラさんが、そっとその汗を手ぬぐいで拭う。

 僕は下唇を噛んで、わき上がる後悔の念を押しとどめると、セシリアさんに向き直った。


 「セシリアさん」


 問いかけに、セシリアさんは僕に視線を移すと、少し考えてから、小さく頷き、そして語り始める。


 「今……彼女は二つの意識を共有しています。一つはもちろん彼女自身の意識。そしてもう一つ」

 「もう一つ?」

 「ええ、正体はわかりませんが―――とにかく、二つの意識がせめぎ合っているのです」

 「それはどういう事なんでしょうか?」


 と言うが、それは僕のことではないのかと思う。なぜ、彼女が。なぜ。


 「そうですね。当然といえば、当然ですけど、普通の人って言うのは、一つの身体に一つの意識というのが当たり前ですよね。ですけど、今の彼女には二つの意識を持っている。つまり、これを簡単に言うと、本来パン一つしか入れられない器に、二つのパンが無理矢理押し込めてある、というべきですか?」


 「それは……わかります」


 焦れる。結論が出ていない。僕が知りたいのはその結果どうなるか、ということなのだ。


 「……これは、つまり、水がいっぱいに詰まった風船のようなものです。要するに臨界一歩前のようなもので……なにかのショックが加わってもそうですし、そうかといって放っておくのも危険です」

 「………………」

 「なんとかなんないのかよー?セシリアねーさん?」


 それまで黙っていたリーンシェラさんが訴えるように声を上げた。僕も同意見だ。セシリアさんを見る。


 「……何とかならないことは……ありませんが……」


 もの凄く言いにくそうに、セシリアさんは言った。僕は無言で先を促す。


 「……方法は至って単純です。一つを取り出し、それを排除する。ただ、それだけです。もちろん言うほど簡単ではありませんから、私……で出来るかどうか。それに」


 「それに?」


 「……聞いての通り、単純故に、強引な法になります。仮に成功したとして、彼女の意識が果たして耐えられるかどうか……保証できません」






 少し考えさせて下さい。

 そう言って、僕は部屋を出た。

 正直、混乱は度合いを増すばかりで、何一つとして解決していないように思える。

 彼女が……ミランが目を覚まさない。

 たったそれだけで、僕は十分以上に混乱するに違いないというのに。






 その不思議な玄室を、眠るミランを抱いて出たのは朝のこと。いつの間にか、空は白み、黎明の青さを見せていた。

 外の騒ぎは収まっていて、リーンシェラさんによると、警邏の増援が唸るほどやってきて、ほとんど全員しょっ引かれてしまったそうだ。その中にはベンさんや、カロンさん。そしてシゲサトさんも居たそうで、僕的にはやっぱり申し訳ないような気分にはなった。

 とにもかくにも、一つの事件は終わったのだ。確かに、ミランが眠る直前発した謎の言葉や、あの妙な玄室とか、新たな謎は残ったモノの、とりあえずは目の前の事件が終演を迎えたコトは、これまた確かな事。

 だから、僕も安心して眠った。

 とにかく疲れていて、頭の反応も鈍い。そもそも前日から寝てなかった。もちろん戦場ではこんな事、日常茶飯事だったけども、ここまで疲れた事は初めてだった。






 異変に気付いたのは、起きてから。太陽も随分傾いて、寝始めとは逆に空は朱に染まる頃。

 起きると、リーンシェラさんが何故か台所に立っていた。どうやら一度777に帰って、それからまた来たらしい。アーリーさんも一緒だったらしいのだけど、何かの用事で寝ている間に帰ってしまったとの事だった。

 僕は、ちらりとミランの様子を覗いてみたが、まだ寝ている。とりあえずは放っておくことに決めて、色々と掃除を始めることにした。

 いつの間にか、色んなトコロに転がっていたはずの死体は、全てキレイさっぱりと消えていた。飛び散っていたハズの血まで、痕跡も残さず、全て。

 念のため、今一度玄室の方にも降りてみた。そこは血だけ残して死体だけ無くなっている。不思議な状態だけど、残っている血が、昨日の事が決して夢幻でなかったことを告げていた。安心するべきなのか、それとも不安になったらいいのか、わからない状態だ。聞けば、リーンシェラさんも知らないと言う。


 とにもかくにも夕食が出来た、という話なので、僕は漸くそこでミランを起こしに行った。その時は、まったく何の警戒も、していなかった。

 ミランは、あの玄室で眠りに落ちてから同じように、部屋の中で眠っていた。余程疲れたか、それともショックだったか。僕はそう思って、起こすのを躊躇ったのだけど、意を決して起こすことに決めた。白状してしまえば、ミランの声が聞きたかった。そして、全て終わったことを報告したかった。


 初めは、優しく声をかけた。二度目、三度目は、躊躇しつつも同じように。四度目、五度目は不思議に思いつつ、六度目で不安になり、七度目は脈や心音を見た後、八度目は―――

 決定的にその異常に気付いたのは、リーンシェラさんが様子を見に来てからだった。混乱と言うより錯乱しかけていた僕は、もう何をどうしたらいいのかわからなかった。

 そんな僕を見て、リーンシェラさんは僕に何か言った後、暫くしてセシリアさんを連れてきた。聞けば、777に偶々居た、のだそうで、猫も杓子もという論理で連れてきたらしい。病気だったらリョウコさんなのだけど、リョウコさんは昨日に引き続き、不在だったそうだ。


 結果から言えば、それは有る程度正解だった。セシリアさんはミランを一目見るなり、それが魔法的、或いは霊的な問題であると、看破して見せた。

 そして。






 僕はラウンジを抜けて、外まで出た。頭を冷やす必要があった。昼は仄かに暖かくとも、夜ともなればそこは随分涼しい場所になっている。寒いと言っても良い。

 努めてゆっくりと、バルコニーの椅子に深々と座る。空を見ると、風が強いのかささくれだった雲が空を流れていた。月が出ていたが、欠けてはいないそれは煌々とした光を発しつつも、流れる雲に時折姿を隠し、まるで幻影のように感じた。


 「はぁ……」


 何が、起こっているのだろう。

 振り返ってみると、ここ数日にあって、僕と僕の回りの環境は目まぐるしく移り変わっている。

 僕の中にある、他人の意志と夢。ベルマイルとの対決。ミランの中にある二つの意志。

 根幹を成すのは、たった三つでしかない。

 ただ、はっきりとどうとは言えないが、これらの三つの要因はそれぞれが小さく枝を出し、そして末端では結びついている様な気がする。もうすこし冷静に考えてみれば、よりはっきりとした根拠を見いだすことが出来るのかも知れない。

 そして、それは僕には無理だった。

 情報が不足している?もちろんそうだ。だけど、一番の問題は……ミラン。

 そう、ミランの存在が、僕の精神をかき回し、冷静になるのを妨げている。ミラン……ミラン!僕は守ると約束したのに。


 「教えてくれ……」


 解がほしかった。

 僕が求めるのはたった一つ。ミラン、彼女をあらゆる全てから守ること。だけど、今の僕はあまりにも無力で、そして解を示すことも、時間さえも持ち得ない。それなのに、僕は今、恐るべき二者択一を迫られている。

 解が。全てを解き明かす解が、今、まさに必要だというのに!


 「教えて……」


 「焦る必要はない」


 天にも祈ろうかという気分になっていた僕は、不思議な声に即座に気付いた。知らないうちに俯いていた頭を上げて周囲を見回す―――が、人影はない。


 「誰……?」

 「焦るな、シノブ」


 声は、バルコニーの上から、屋根から聞こえてきた。聞き覚えのある声に、僕ははっとなって、路上へ飛び出す。そして、屋根を見上げた。


 「クレソック……さん?」


 確かにそこには人影があった。ただ、それは月を背後に陰をなし、纏う黒い衣と相成って表情すらも見ることが出来なかった。ただ、二度ほど聞こえた声は、僕の記憶が確かなら、王国水軍情報局第Ⅳ部長クレソック・ディンガム。その人だった。


 「知っているのですか?教えて下さい。僕は……僕はどうすれば?」


 なぜ、それについてクレソックさんが知っているのか、という気持ちは起こらなかった。ただ、誰かに、誰でもいいから縋りたかった。


 「本来、私がここに……キミの前に姿を現すべきではなかったのだ」


 答えにはなっていない。ただ、その不思議な物言いに、僕は口を挟まない。そうした方が良いと思う。


 「が、キミが今、悩んでいる原因は……まあ、私の責任でもある。今のところ予測の誤差は修正出来る範囲だが、キミが最終的に決定的なミスを犯さないとも限らない。だから―――聞きなさい」


 私の責任?クレソックさんの?いよいよ、よくわからない。

 今回の件で言えば……クレソックさんはベルマイル云々について、アーリーさんに無理に頼まれた。それだけではなかったのだろうか?


 「キミも既に知っていたと思うが、私は先日、お嬢さ……いや、アーリー様に、ベルマイルとこの店の確執について、何とかするように、と頼まれた。私は、その時、ある計画に携わっていて―――今もそうなのだが―――、一応は応じたものの、正直、それどころではなかった」


 忙しい、のだろう、とアーリーさんからその話を聞いたとき、そう看破したのだけど、どうやら概ね当たっていたらしい。


 「そこで、私はこの件を、現在進行中の計画に組み込んで、同時に処理しようと考えた。そもそもベルマイルの件については私も何時かは何とかする必要があると考えていたからだ。この店だけではないのだよ。あの男が関与していた問題というのは」


 吐き捨てるようにそう言う。


 「まず、本計画の一部として、街にはびこる危険と目された分子……まあ、ゴロツキどもを排除する必要があった。それから、暗殺ギルド。これもまた、排除しなければならない。それで、私はこの店を襲うにあたって、ベルマイルがその二つを扱うように操作した。そして……それは概ね成功した。それはキミも察しがいくと思う。とにかく何か理由が無ければ両者共に理由は違えど殲滅する事は不可能だからな。とにかくあの場で、ゴロツキどものほぼ全員を投獄。戦力が一時的に低下した暗殺ギルドはつい先ほど、我々の手によって壊滅した」


 50人は居たと思うゴロツキ達。そして、あのアサッシン。そういう事だったのだ。聞いてみれば驚く話ではある。恐らくこの店に転がっていたアサッシンの死体を始末したのもクレソックさんなのだろう。


 「それはさておき、ベルマイルの内偵を進めるうち、私は思わぬ情報を手にした。それが、この店の秘密だ。ベルマイルがこの店に限って随分執着していた理由は、その秘密をどこからか知るところとし、それを奪おうとしていたのだよ……ふっ……奪うものなど何も無いと言うのにな。この店の秘密を本当に知れば、ベルマイルが如何に無駄な事をしていたかがわかる。勘違いも甚だしい」

 「秘密って……秘密ってなんなんですか?!」


 秘密。この店の秘密。あの、玄室の事だろうか。それが、今、ミランを眠らせ続けている理由なのだろうか。

 それこそが、僕の求める解なのだろうか。


 「そう、これこそが、キミの求める解、それに近い。ただし!」


 感きわまって口を挟もうとする僕を拒絶するように、続ける。


 「……それは、私が言うことではないのだよ。シノブ。ただ、私が言えることは、今、キミの大事な人が眠り続けている理由について、私はほぼそれを知りながら看過し、今のような状態になった、と言える。だから、私はキミに謝りに来たのだよ。シノブ。ただ、それだけなのだ」

 「そ……それなのに、なぜ教えてくれないんですか!」


 済まないと思い、そして同時にココに来て釈明をする。なのに、解は教えられない。それはただ単なるイジワルのようにしか、僕には聞こえなかった。


 「ああ、教えられないのだよ、シノブ。キミが焦る理由はよくわかる。ベルマイルさえ介入しなければ、こうはならなかったはずなのだ。だが、仮に、ベルマイルが介入しなかったとしても同じ結末がキミを待つことになっただろう。キミが今悩んでいるその問題について、ベルマイルはまさにイレギュラーであり、キミに起こっている事件の数々は最早私には関係のない事象にありながら、それでも私はキミに謝らなければならない。すまなかった。シノブ。謝ってもどうにもならないのだが、今一度謝らせてくれ」

 「わ、わからないですよ。僕は全然わからないです」


 何が何だかよくわからない。それほど、クレソックさんの言は抽象的に過ぎる。なにが、どうして、クレソックさんが謝る必要があるのか、それすらも、僕にはわからなかった。


 「とにかく、キミが今、選択する事は何もない。本来突発的に起こるべき単純な話が、様々な事象の介入によって複雑化し、事態を難しくしている。だが、それは、運命と言い、また宿命なのだ。悩む必要も、焦る必要すらない。初めから決まっていた事だ。だからキミは何も決める必要がない。運を天に任せるのだ。シノブ。恐らくそれが最善だ。そう、そして、明日―――」

 「明日?」


 言いながら、クレソックさんは中天を振り仰いだ。僕もつられて空を見る。


 「明日、全てが決すだろう。大いなる闇の金環のその元に」


 闇の金環―――その単語に僕はどきりとし、クレソックさんを振り返った。しかし、クレソックさんは居ない。月だけが煌々と屋根の黒々とした輪郭を顕わにしているだけだった。


 「クレソックさん?」

 「シノブ、どうしたんだ?」

 「あ……リーンシェラさん」


 何処に行ったのか、と探す僕の前に、いつの間にかリーンシェラさんが立っていた。目が合うと、いきなり不思議そうな顔をされてしまった。それでも、僕はもう一度ぐるりと辺りを見回してから、再びリーンシェラさんに向き直った。


 「……うん。今、クレソックさんが……」

 「え?あの正体不明男?」


 正体不明男……確かにそうだ。


 「ところで?」


 何処にいるのか、と、探し始めるリーンシェラさんに僕は言う。

 ところで、何かあったんですか?ミランに何か?

 さすがにそこまでは言葉にしなかったものの、それだけでリーンシェラさんは概ねを察してくれた。


 「あ……うん。シノブさぁ、元気ねーみたいだったし、なかなか帰ってこいしさー。ただそんだけ」

 「うん」


 ぞんざいな物言いではあるけれど、リーンシェラさんなりに気を使ってくれているのかも知れない。わかっていても、返答はいい加減になる。正直、クレソックさんの言に僕は惑わされて、マトモにはそれ以外のことについて反応できなかった。


 「……大丈夫だと思……きっと、大丈夫だって。シノブ。ミランもきっと良くなるよ」


 とにかく、クレソックさんは『焦るな』と言った。また、求める解は、『私が言うことではない』と言った。ならば、おそらく『私でない誰か』が、僕に解をくれるというということなのだろう。


 それにはなんとなくながらにも、心当たりがある。


 それに、闇の金環。僕を揺さぶり続けたあの金環が、明日、見える。そして、全てを決すという。言ってしまえば、明日にそれを見るか否かは別として、それが全てを決す、というのは、何故か妙に納得できた。それだけが、抽象的に過ぎるクレソックさんの説明全てを肯定している。

 それはきっとミランにも関係がある。今や僕はそう確信できた。


 「……そうですね」


 意を決して良いのだろう。僕はその気持ちを込めて、リーンシェラさんに肯く。


 「えっ?」


 リーンシェラさんは僕のその反応に驚いたようだった。思わず、笑みが漏れる。

 焦るな。逸るな。決するな。

 きっと、全ては予定調和の内にあるのだろう。そう遠くない未来に現れし、闇の金環のその元に―――


 「シ、シノブ?」


 月を見上げる僕に、リーンシェラさんは心配そうな顔で、声をかけてきた。大丈夫。全て上手くいく。


 「―――来た」

 「え?」


 僕は、丸く浮かぶ月から目を外し、リーンシェラさんを見てから、現れる彼女らを待った。


 「誰が…………?」


 リーンシェラさんも気付いたようだった。闇に沈むウィル大通り。その向こうから声が聞こえてくる。


 「……ノブさーん……」

 続いて、聞き覚えのある羽音。そしてその姿。


 「リョウコちゃんじゃん」


 リーンシェラさんが横で、呆れたような声を出す。リョウコさんはもう一度、僕の名前を呼んでから、空中で止まると、大きく一つ、ため息を付いた。どうやら随分急いで来たらしい。


 「ふー……あ、シノブさん。わかったんです」


 そして開口一番、そう言った。なるほど、やはり、そういうことだったのだ。

 多分、クレソックさんはこのことについても、知っていたのだろう。だからこそ、『私の言うことではない』と―――。

 クレソックさんなりに気を利かせたのかも知れない。


 「ありがとうございます。リョウコさん」

 「え?シノブ。何が?」


 わかってないリーンシェラさんが口を出す。しょうがない。なにせ、リーンシェラさんは夢の話から知らないのだから。


 「あ、リーンシェラさんも居たんですか」

 「うん」

 「それで?」


 差し当たってリーンシェラさんにその辺りのことを話すと長くなるので、僕は先にリョウコさんに話を促す。


 「あ、そうです。あのですね……と、私から話すより―――」

 「二人とも、久しぶりですねー」

 いつの間にか、リョウコさんの背後に、その二人は居た。声の主は……

 「…………バーホーテンさん?」

 よく見なければ、わからなかった。頭に深々と帽子、そしてウィルの民族衣装に身体を包んでいたが、それは紛れもない魔族のバーホーテン、その人だった。なるほどその魔族の特徴である角を隠してニコニコ笑うその姿は、見ても浅黒い人間の青年と変わらない。

 誰の入れ知恵なのかはわからないけど、どうやら変装ということのようだ。

 そしてもう一人。


 「ディーガンさんも」

 「ああ」


 ディーガン・ラカナダ。

 アーリーさん称して、呪い屋の二つ名を持つこの人は、何しろ魔法のエキスパートで物知りだった。以前アーリーさんがらみで知り合ったのだけど、アーリーさん。何故かこの人、嫌いなんだよね。嫌いというか、苦手というか。

 笑うバーホーテンさんとは対照的に、その横にあって、例によって仏頂面でディーガンさんは応じる。

 初め会ったときは『怒ってるのかな』と思ったものだけど、四六時中この顔なので、どうやらそうじゃないようだ、と今は考えている。実際どうなのかはわかんないけど。


 「クレソックが来ていたな?」

 「は、はい」


 目だけを動かしながら、そんなことを言う。なんでわかったんだろう。


 「ふん。ヤツめ、この所、不穏な動きを見せていたからな。あのサンニィロックという男を操って暗殺師匠を落としたという話は聞いてはいたが……そう言うことか」

 「え?サンニィロックのおっさんが、どうかしたのか?」


 そうだったのか……。


 驚いた。あの普通でないサンニィロックさんの動向。操っていたとディーガンさんは言うが、どうなのだろう。協力して貰っていた、とも取れなくもないけど―――


 「ディーガンさん!」


 悠長に見えたのだろう。リョウコさんが痺れを切らしたように言うと、ディーガンさんは仏頂面をさらに歪ませて『わかっている』と肯いた。


 「とにかく、シノブ。まずは中を見せて貰う。それから、私が知っている事と、推測した所を話そう。いいか?」

 「は、はい」


 是非もない。これで全てがわかるというのなら、何も言うことはなかった。


 「それでは、早速始めよう。正直、もう煩わしくてかなわんのでな」

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