act.3
入学式から数日。身体測定や学校説明といったオリエンテーションも終わり、中学生としての生活が始まった。
授業が始まってからなにより先に実感したのが、五分の長さだった。中学校から授業時間は五十分に伸びたわけだけれど、たかだか五分とはいえ、その五分は十分にも十五分にも感じられた。加えて毎日の六限授業だ。各教科の予習復習もしようと思うと、この先、身は持つのだろうかと不安になった。
そんな矢先、担任の浅野先生が帰りのホームルームで告げた。
「入部届け今日までだからな。みんな出せよー」
この学校では、基本的にどこかしらの部に所属しなければいけないらしく、俗に言う帰宅部というやつは認められていないのだという。未だにぼくはどの部に入部するか決めかねていた。
たしかに運動は嫌いではなかったけれど、ここ数日授業を受けてみて、運動部は勉強との両立が難しそうに思えた。帰宅後、そのまま寝てしまう自信が十二分にあった。かといって文化部にしようにもどこかピンと来ず、机の上に広げた部活動案内のチラシと、今日もぼくは睨み合っていたのだった。
部活に参加し始めた人たちが早々に出て行ったため、放課後の教室はがらんとしていた。残っているのはぼくを含め三人で、ノートを広げている勉強熱心な女の子と、窓際で隠そうともせずに堂々と携帯をいじっている男の子だけだった。紙と睨めっこしていても進展はないので、ぼくはとりあえず校内を歩いてみることにした。
バレー部の男女がトレーニングをしている脇を通り抜け、昼間の暖かさがほのかに残った、西日で明るい廊下をぼくは歩いていく。今年は夏が早く来そうだなあ、なんて呑気なことを考えながら。
正直なところ、気になっている部活はあった。運動部は難しいだろうということで、文化部でなにかいい部はないかと考えていたところ、部活動一覧の隅に細々と載っていたのが弦楽器部だった。小学生の頃から続けているギターの経験を、この際だから生かそうと思ったのがきっかけだった。
部室があるという北校舎の三階へと上ると、案の定ギターの音色が聞こえてきた。北校舎は一年生の教室しかないため、割と気軽にうろつける。この階はたしか一組から三組の教室だったか。だいたいどこも同じらしく、生徒の姿はまばらだった。
音をたどるように歩いていると、部室はすぐに見つかった。外から見た感じは普通の教室と変わらないけれど、普通は学年とクラスが書かれた白いプレートが挟まっている場所に、弦楽器部、と書かれたプレートが挟まっている。そろそろと扉を開けると、隙間から音色が漏れてきた。
「すいません」
声をかけると音色は止み、奥のほうで椅子に座っていた、開襟シャツ姿の男性がこちらを見た。室内には彼しかいないようだった。ぱっと見た感じでは、普通の教室と大した違いはないように見えた。机と椅子も何組か揃っているし、黒板だってある。元は教室だったのだろう。けれど、窓側に並べられているギターや、楽譜や音楽雑誌が納まっている棚が、いかにも部室らしい。
「なにか」
声変わりしたあとの、低く男らしい声だった。微笑んだときにすっと細くなる目や、広すぎず狭すぎない形の綺麗な額、力が抜けた感じにセットされた髪の毛を見るに、とても印象のいい人だった。三年生だな、と直感で感じたのはその通りだった。
「ああ、どうも。三年の部長、高田です」
黒木です、と名乗った自分の声がかすれていて、なにも緊張することないだろう、とぼくは自分に呆れた。
「なにもないけど、よかったらくつろいでいって」
高田さんに手招きされて部屋に踏み込むと、普通の教室とはどこか違った空気が漂っているような気がした。乾燥しているというか、人の匂いがあまり感じられない。活動時以外は使われていないのだろう。
抱えていたアコースティックギターを、高田さんはゆったりとした動作でスタンドに立てかけた。椅子に座るよう促され、ぼくは手近にあった椅子を引き寄せて座った。
「ここって、弦楽器部の部室ですよね」
「そうだよ」
眩しい笑みにたじろぎながら、部屋の隅に置かれているギターを見て、ぼくはふと疑問に思った。
「ギター以外の楽器って――」
すると、ああ、と高田さんは小さく笑ってみせた。それはね、とこちらは苦笑交じりに呟くと、右のこめかみ辺りを指でかきながら言った。
「弦楽器部って看板掲げてるけど、いまはギターしか扱ってないんだよね。俺が入学した頃はほかの楽器を練習する人もいたんだけど……、そうだね、例えば、チェロとかバイオリンとか。マンドリンをやってる人もいたね。でも年々、部員が減っちゃってさ。生徒数は馬鹿みたいに多いのにね」
ふう、と一息吐くと、背もたれに深く寄りかかり、高田さんは続けた。
「でさ、みんながばらばらの楽器を練習してたんじゃ、演奏会でもまとまりのある演奏ってできないでしょ? だから、俺が去年部長になったとき、いっそのことひとつの楽器に統一しようってことになってね。少ない部員で相談した結果が、ギターってわけ。ポピュラーだしね」
開いた窓から吹き込む風は分厚い遮光カーテンをも揺らし、溜まった室内の空気をぐるぐるとかき混ぜる。グラウンドのほうから、野球部のものらしきかけ声と、バットがボールを打つ甲高い音が聞こえてきた。
高田さんが誇らしげに語る様子を見ていると、ほんとうに弦楽器部のことを大切に思っていることがひしひしと伝わってくる。こんな部長さんの元でなら頑張れるかも、という意識が、ちらりと脳裏をかすめた。
「黒木くんは、なにか楽器の経験とか、あったりする?」
「ギターなら、少し」
おお、と高田さんは表情を輝かせた。目を弓状に細めながら小さく手を叩いたあと、思い出したように置いてあったギターを手に取ると、まっすぐぼくに差し出してきた。
「よかったらなにか弾いてみてよ。弾ける範囲でいいから」
言われたものの、なにを弾いていいのかわからず、ギターを抱えたままぼくは固まってしまった。そんなぼくを見かねてか、高田さんは立ち上がると奥の棚へゆったりと歩いていき、ひとつの青いファイルを手にとって戻ってきた。何枚かめくって、これなんかどうかな、と勧められた楽譜にぼくは目を通した。聞いたことのない、英語の曲名だった。つづりが長く、読み取ろうとしていたところで高田さんの声が入ってきた。
「ここ、このパート。割と簡単なコード進行なんだけどさ」
なんだけどさ、で止まった語尾の続きには、もちろん弾けるよね、と期待が込められているのがわかった。わかってしまったがために、ピックを握る指が震えた。
初めにざっと見た感じでは、たしかに特別難しそうだとは思わなかった。けれど、いざ弾き始めてみると、高田さんの目の前だということもあってか、何度かつまずいてしまった。未だに人前で弾くのは慣れない。
ワンコーラスを弾き終わったところで、高田さんから制止がかかった。
「けっこう長い間やってるでしょ、黒木くん」
「そんなこともないですけど」
「きみの腕を見込んで、頼みがある」
「はい?」いきなりまじめな口調で話しかけられ、ぼくは声が裏返った。
「来週さ、新入生歓迎会があるの知ってるよね? そこで弦楽器部の発表があるんだけどさ、急に部員がひとり欠けちゃってね。代打で出てくれる人を探してたんだ。歓迎する側に歓迎される側の子が出たら本末転倒かもしれないけど……、無理にとは言わないんだ。黒木くんさえよければ、参加してもらえないかな」
高田さんの言葉は素直に嬉しかった。誰かに求められることで初めて、自分はそこにいていいのだと思える。
父さんとふたりで暮らすようになって、ぼくは自分のためになにかをする、ということをやめていた。仕事に対する姿勢はまじめだし、たまには美味しいものだって食べさせてくれる父さんは、傍から見たらいい父親には違いない。ただ、父さんはどこか足りないところがあった。それがどこなのか具体的なことは、子供のぼくには到底理解できなかったけれど、母さんがいなくなった以上、父さんまで失うことは絶対に避けたかった。父さんからしたら無駄な心配なのかもしれないけれど、これまでぼくは常に気を配って生きてきた。ギターだってそうだ。小学生の頃、父さんが趣味で弾いているのを隣で聴き、勧められるがままにギターを抱えて、今日に至る。
からっぽだったこの手に、ぼくはなにかを掴めたのだろうか。
歓迎会当日の水曜日を迎えた。部室で高田さんに言われた通り、週末みっちりと練習に没頭したら、任されたパートは簡単に弾けるようになった。
部の全体練習にも何度か参加して、ほかの先輩たちとも知り合った。気さくな人が多く、人付き合いが苦手なぼくでもどうにかやっていけそうだな、という手ごたえは感じた。心配なのは、全校生徒の前でちゃんと演奏できるか、ということだった。いくら練習で上手く弾けても、本番で弾けなければ意味がない。
ステージ袖に集まった弦楽器部員は、高田さんを中心にして細々と談笑している。本番前だというのに、これほどまでにリラックスできる彼らの心境が、ぼくにはとても伺い知れなかった。
「水谷さん、下で見てるって」
いつもの穏やかな表情を浮かべているけれど、高田さんの微笑はどこか力が抜けきっていないような印象を受けた。なに緊張してんすか、と小太りの二年生が冷やかすと、みんなの笑い声で場が和んだ。
「水谷さん怖いっすからね。同い年とは思えないっすよ」
「俺にも容赦ないからなあ、あの子」
聞いた話では、ぼくがその水谷さんの代わりらしい。本人にはまだ実際に会ったことはないけれど、周りで話される噂を聞く限りでは、二年生ながらにして三年生の先輩をも圧倒するほどの人物だそうだ。そんな人が下にいるとなると、まず失敗はできない。
「黒木くんは、気楽にね」
「はあ」
曖昧なぼくの返事に、高田さんは肩の力を抜いて苦笑した。肩を叩いたり声をかけてくれたりして、先輩たちはそれぞれ励ましてくれたものの、膝の震えは一向に収まらなかった。
粛々とした司会の進行に従って、ぼくたちはステージの中央へと向かった。なるべく下は見ないようにしようと思いつつも、視界の隅にはいままで見たことのない光景が広がっていた。ただでさえ広い体育館の九割以上が、ひたすら人で埋まっている。床一面が黒く見えるほど密集して座っている生徒たちの視線は、もはや質量を感じるほどだった。大勢の人に見られることで、こんなにも圧迫感を感じるとは思いもしなかった。
「続いては、弦楽器部の演奏です」
無駄に感情のこもった司会の声が、やけに耳についた。そんなに期待するな、と強く念じれば念じるほど、喉元で息が詰まった。
拍手と共に体育館の照明がゆっくりと落ちていき、頭上から降り注ぐステージ上の明かりだけになった。目の前に広がる光景が暗い影に覆われて、思いのほか気が楽になるかと思いきや、この闇の中から無数の目がぼくたちを見ていると考えると、一層身動きが取りづらくなった。
高田さんのソロから始まった演奏は、予定通り終了した、と思う。
ぼく自身も完璧とまではいかなかったけれど、ソロで弾いていたわけではないので、多少は周りの音が誤魔化してくれたのではないか。そう思いたいところではあったけれど、総勢五名の演奏では粗も目立ったことだろう。ステージ袖に引き下がると、長い長い溜息が漏れた。上出来だよ、と声をかけてくれた高田さんにも、ただうなずいて応じるので精いっぱいだった。
ステージで発表した人たちは、歓迎会が終わるまで袖で待機ということで、高田さんたちはほかの部の人たちに混ざって談笑していた。演劇部や吹奏楽部、ディベート同好会なんて人たちもいた。
自分がここにいるのは場違いな気がしてならず、ようやく震えが収まってきた膝を抱えて、隅のほうに置いてあった椅子にぼくは座っていた。
何度か腰の位置を変えて座り直していると、高田さんがひょうひょうと歩いてきた。ぼくの様子を見てか、高田さんは歩きながらかすかに眉根を詰めた。
「どうしたの。体調悪い?」
いえ、と搾り出すように答えると、高田さんは微笑を苦笑に変えて、ぼくの座る椅子の隣に腰を下ろした。壁に背を預け、立てた膝の上に腕を乗せてぶっきらぼうに言った。
「居心地、悪いかな」
今度こそ答えられずに黙っていると、まあそうだよな、と小さく呟く声が聞こえた。ちらりと横目で見た骨格のしっかりした横顔は、もうすっかり大人の横顔だった。
「君にとっちゃ、周り上級生ばっかりだもんね。いまさらだけど、無理なこと頼んで悪かったね」
「そんなこと」
「もうそろそろ解散かかると思うし、そこの裏口から出て、先に教室戻っててもいいと思うよ。もし担任とかその辺歩いてる先生になにか言われたら、弦楽器部の高田に戻れって言われたから、って言えばいいし」
高田さんが指差す先、ステージの幕に半分ほど隠れたところに、その裏口はあった。そこはおそらく、体育館裏の廊下に繋がっている。その裏口の扉を開けて出て行くことは、放課後に部室を訪れたあの日から約一週間、今日までの日々をすべて荒野に開け放ってしまうことと同じことのように思えた。たかが一週間だ。けれどその一週間は、これまで生きてきた十年ちょっとの間でも、群を抜いて密度の高いものだったわけであって。それを簡単に手放してしまうのは、どうしても惜しい気がした。
「……はい」
この一週間を今日で終わらせないための一言を言う勇気が、あと一歩のところで出てこない。顔見知りで終わるのと親しい先輩たちで終わるのとでは、だいぶわけが違う。下を向いているだけじゃ駄目なのに、どうしても頭を上げることができない。
「あ、水谷さん」
不意に高田さんは声を上げた。内心でぎょっとしながらも、素知らぬふりをしつつぼくは顔を起こした。
あ、と声が漏れた。裏口から現れた人に、見覚えがあった。暗がりの中でもはっきりと認識できる長い黒髪に、右目尻の泣きぼくろ。見間違えではない、入学式の日に助けてくれた人だった。相当な強面のお兄さんが出てくるのだろうと思っていたぼくは、これまた随分な肩透かしをくらった気分だった。
高田さんの呼びかけに遅れること、数呼吸ほどの間を空けて、おつかれさま、と言って水谷さんはこちらに近づいてきた。
「どうだったかな、演奏」
半笑いで高田さんは言う。ふたりの様子は、上級生と下級生の関係が逆転しているようだった。見るからに高田さんは笑顔がぎこちなくなったし、あたしが部長ですと言わんばかりに、水谷さんは堂々としている。
「まあ、実際に聞くまでは、どうなることかと心配だったけど、なかなかよくできてたと思う。でも部長、ソロパートでところどころ音出せてなかった」
うわー、と高田さんは頭を抱えてもんどりうった。
「あれ、うまく誤魔化せたと思ってたんだけどなあ。水谷さんには効かなかったか」
「あんなあからさまなの、聞き逃すほうが難しい」
「すいません。もっと練習します」
なにも知らない人がふたりのやりとりを聞いていたら、きっと水谷さんのほうが年上だと思うに違いない。事実を知っていても、ふたりはぼくをだまそうと演技しているのではないか、と疑いたくなるほどだ。
ややあってから思い出したように、そうそう、と高田さんは話を切り出した。
「彼がこのあいだ言った、黒木くん。実際に会うのは初めてかな? 俺としては、代打の役割は十二分に果たしてくれたと思うんだけど。一週間くらいしか練習する時間なかったのに、彼、あれだけ弾いてみせたんだよ。すごいと思わない? 水谷さんからも褒めてあげてよ」
高田さんと水谷さんの間に視線を彷徨わせていたものの、どちらの目も見れず、結局ふたりの間にぼくは視線を落とした。
「たしかに練習期間の短さにしては、うまく弾いてたんじゃない?」
練習期間の短さにしては、という部分を妙に強調して、水谷さんは言った。慣れた仕草で髪を耳にかけ、ふう、と一息。
「ただきみ、本番慣れしてないでしょ」
恐る恐る、頭を下げる。指摘は的確だった。ほとんど基本的なコードにもかかわらず、滑らかな移行ができなかったのは事実だ。手が震えてしまって、と言い訳するのは簡単だけれど、水谷さんにはあっさり聞き流されそうな気がして、ぼくは大人しく黙っていた。
一見健康そうに見えるのだけれど、水谷さんはどうして演奏に参加できなかったのだろう。それが気になって仕方がなく、けれど直接訊くのもためらわれた。
「これは今後に期待が持てるでしょ。部にとって、期待のホープだと俺は思うんだけど。どうですか水谷さん」
「期待もホープも同じ意味だけど」
「そんな細かいことは気にしないの」胡坐をかいてつま先を抱えると、高田さんは前後に体を揺らしながら言った。「ところで、指の具合はどう?」
「順調。わざわざ大事をとることもなかったくらい」
胸の前で掲げて見せている水谷さんの左手には、バレーボールの選手がするテーピングのような感じで、中指と薬指に包帯が巻かれていた。切り傷だろうか、火傷だろうか。ともかく、だからか、とぼくは思った。右手ならまだしも、左手の指がうまく曲がらない状態では、まず弦を押さえることができない。
「とりあえずまあ、彼は合格点かな?」
「うん」
かたや笑顔、かたや無表情の会話を横で聞いていたぼくの頭に、ふと疑問が浮かんだ。
「合格点って、なんですか」
どちらにということもなく尋ねると、ごめんね、と顔の前で両手を合わせて高田さんは言った。
「隠すつもりはなかったんだけど、ちょっとした入部試験を、ね。実はさ、水谷さんがこんな状態になっちゃって、困ってたときに部室にふらっと現れたのが黒木くん、きみだったわけ。相当弾けるってわかって、これは是非うちの部にって俺は思ったんだけど、水谷さんがなかなか納得してくれなくてね」
高田さんにつられて視線を上げると、ばつが悪そうに水谷さんは顔を背けていた。
「部員がひとりふたり増えたところで、立場がなくなるわけじゃないのにね」
ぼくのほうに顔を寄せて、高田さんが小声でそう付け足したところ、うるさい、と上から一喝が降ってきた。
「でまあ、さっきの発表でさ、ある程度形になった演奏ができれば、入部認めようってことで落ち着いたんだ。これ全部俺らの勝手だし、先に説明しちゃってたら、黒木くんも気乗りしないだろうなあって思って。……あ、入部してくれるよね? うちの部」
入るの入らないの、と焦れた目で水谷さんは訴えてきている。腕組みをして仁王立ちしている彼女の様は、さながらやり手の女性警官のようでもあり、とても逃げられそうになかった。
それまで、なんとなく頭に思い描いていた中学校生活というものは、どう目を凝らしても十メートル先を見るのがやっとといったところで、一年後、二年後と先を見越した映像を想像することは、ぼくにとって不可能に等しかった。
けれど、こうしてなにかしら部に所属するということで、なにか普段の生活では得られないような刺激を得られるのではないか。多少の制約はあれど、なにかを見つけるいい機会になることに違いはない。
「じゃあこれはプレゼント。当面の課題曲ってところかな」
そう言って、どこからともなく取り出した楽譜を、高田さんは笑顔で差し出した。