4.狩られるものの逆襲
剣士リスト
リスティ
プレイヤー:真田理架
武器:槍『インディアンソウル』
必殺技:『クリムゾンナックル』『ラムダスパイク』
特徴:髪と瞳は焦げ茶色。腹部が見えるほど短いタンクトップにホットパンツ。羽の髪飾りに骨のピアスやネックレス。全身の入れ墨。
対戦フィールド 防壁
「なんということだ! 壁の上で理架と戦ってたらタイタンバイソンなるものが現れて壁を破壊しようとしている!」
「あらすじご苦労様」
タイタンバイソンは遂に壁を破壊し、町に侵入した。町を彩る建築物はどれも2階建てなのだが、タイタンバイソンはそれと並ぶくらいデカイ。どうするよ!
(まずは攻撃だな)
「【スワローテイル】!」
頭の声が言う通り、まず攻撃だ。右手の剣を振ると、青い帯が伸びてタイタンバイソンに直撃。血が吹き出たが大したダメージではなさそうだ。
(翼出せたよな?)
「システム的に飛ぶのは無理だ」
飛べたらあいつに近接攻撃を仕掛けられるんだがな。防壁でハプニング起きるの始めてなんだよ。
「あれは?」
「おや?」
理架と俺は、防壁の上に青い円の様な光があることに気付く。同じものが町の建物の屋根にもある。だいたい察しはついた。
「跳ぶぞ!」
俺がその印に向かって走り、そこでジャンプすると、屋根ある同じ印まで自動で長距離ジャンプ出来た。これでバイソンまで近づくのか。一種のワープゾーンだな。
「あれかな?」
建物をそいつで飛び移り、タイタンバイソンの隣まで来ると今度は赤い円の光が。あれでタイタンバイソンの背中にでも乗れるのだろうか。
「でやああっ!」
そこでジャンプすると俺はタイタンバイソン目掛けてまっしぐらに大ジャンプ。背中ではなく顔に向かっていた。
「【宵闇装束】! 【滅命撃】!」
両方の剣を伸ばし、顔を深々と切り刻む。別の建物に着地した俺に向かってタイタンバイソンが突進するが、間一髪他の建物に移って回避。どうやら、青い円以外にも建物の屋根の淵に青いラインがあり、そこを踏んで飛べば建物を移れるようだ。ただ、青い円だと2、3個飛ばしで建物を移れる時があるので状況次第で選んだ方がよさそうだ。
俺と理架が跳びはねてバイソンを攻撃し続けたら、右の角がへし折れた。部位破壊だ。
「いくぞ!」
残念ながら宵闇装束も必殺技ゲージを使うため連発出来ない。これを使わないと、いくら必殺技ゲージを消費しない苦悶撃や滅命撃といえ、発動が出来ない。
(必殺技ゲージを補充するんだ! 下にいってオブジェクトを破壊だ)
「その発想はあった」
俺は屋根を降りて、下に並ぶ木箱や樽を破壊して回る。オブジェクトの破壊や被ダメージによって必殺技ゲージは増える。
「回復っと」
地上にも例の円はあるので、それで屋根に上がる。またこれで攻撃が可能だ。
「【宵闇装束】! 【苦悶撃】!」
スリップダメージは確実に与えていこう。スリップダメージってあまり持続しないんだよね。ジワジワ削れるのが強みなんだけど。
「【スワローテイル】!」
左の角も破壊出来た。部位破壊はこんなものかな? 背中とか部位がありそうだけど。
「お城だ!」
槍による一撃を加えながら俺と同じ建物に降りた理架が城を見つける。あれが最終到達地点か。なんか役に立つもんがありそうだな。
いくつか建物を飛んで、城の外壁に上る。そこには大砲があった。これで撃ち殺すのか。俺は近くにある大砲の弾を大砲に入れる。これで後は勝手にぶっ放される。
「よーし。いいぞ」
2人で大砲を撃ち続けたため、かなりダメージを与えられている。次に銛を使う。これはターゲットを定められるから背中を撃てる。
投げるだけで簡単にダメージを与えられるから、俺も理架もひたすら背中に投げた。背中の皮が破れて肉が見えるようになる。部位破壊は完了だ。
そして遂に、タイタンバイソンは崩れ落ちた。
「やった!」
「素材、素材っと」
とりあえず武器強化に必要な素材はいただいていきますね。ブレイドクロニクルでは武器を素材でレベルアップさせることが出来る。また、特定の素材を使えば新しい武器に進化することも。
『バイソンの巨大角×2とバイソンの皮×3を手に入れました』
「まずは部位破壊報酬だな」
目の前にウインドウが現れて部位破壊報酬を伝える。予想通りの報酬だが、もしかしたら足も部位だったかも。いやまさか、あんな進撃する牛の足を剣で切るなんて。
倒れる牛に駆け寄るまでもなく、ウインドウが目の前に現れて、それに触れると素材が手に入る。
『巨大な骨×2、暗黒玉、闇染めの骨、炎熱する骨を手に入れました』
「また妙なもん呑んだな」
大型のエネミーは変なものを飲み込んでいて、それを素材として手に入れることができる。これが大概暴れる原因なんだけどな。炎熱する骨が腹にあったら暴れたくもなる。
理架も素材を手に入れたみたいだ。観戦していた女子生徒も合流する。
「凄い……まるで現実みたい」
「なにせフルダイブだし」
フルダイブ初体験らしい、月並みな感想を漏らす。そう、ゲーマーの『液晶邪魔』という不満を解決した初のシステムだからね。
「さて、戻るか」
「ええ」
俺と理架がログアウトし、対戦が終了する。ハプニングが起きたら対戦自体無効になるようだ。俺達がログアウトしたら女子生徒も勝手にログアウトさせられる。
「よし、ミッション完了」
「戻ったか」
意識が現実に戻ると、そこは長篠高校の保健室。ゲーム世界では1時間近く戦っていたが、現実では10分近くしか経っていない。ゲームで流れる時間は現実の5倍遅い。つまり、ゲームで5時間過ごしても現実では1時間しか経たない計算だ。なんの理屈でそうなるかは知らんがな。
「私、今まで勉強しかやって来なかったんだな……」
「悪いことじゃないけどね」
ベッドで寝ている女子生徒は知らない世界があることにショックを受けていた。理架は勉強が趣味だから否定はしなかった。要は自分でしてるかやらされてるかの違いだろう。
「名前聞いてなかったな」
「西波涙です」
「そうか」
姉ちゃんが聞くに、女子生徒の名前は西波涙。なるほど、なかなか珍しい名前だ。
「直江さんのアバターって女の子なんですね」
「最初は違和感あったけどなあ。もう愛着の方が強い」
西波にそう言われて思い出すのはドラゴンプラネットを始めたばかりの頃。性別が反転したアバターに始めは不満があったが、今はもう気に入っている。わざわざドラゴンプラネットからブレイドクロニクルへコンバートしたのだから。
フルダイブゲームにおけるコンバートシステムは、アバターの外見を複数のゲームで共用するシステム。アバターはゲーム世界においてプレイヤーの顔となる。ゲームでしか繋がりの無いプレイヤーがゲームを移っても互いを判別出来る様になるのだ。
知り合いでドラゴンプラネットからアバターをコンバートしたのは俺と夏恋、それから真夏くらいか。あかりはそもそもドラゴンプラネットのプレイヤーではない。
「そうだ、西波。お前ここの生徒じゃないのになんで制服着てるんだ?」
「これは、ある人から着る様に指示があったんです」
とりあえず、事件に関わる証言を聞く。長篠高校の制服を着た人間による連続自殺事件。これの生存者はこいつ1人。煉那は命を救ったばかりか、重大な手掛かりも残していた。
「1人で死ぬのが怖くて、自殺サイトで仲間を集めようとしたんです。そうしたら、『長篠高校の制服を着て死ぬだけで家族に金が入る』ってカキコミがありました」
「なるほど、自殺サイトで死にたい奴を集めて制服着せたのか」
犯人は自殺サイトで知り合った自殺志願者に制服を着せたのだ。これなら説明がつくだろう。後はサイトを特定して、そのカキコミをした奴を特定するだけだ。
「特定はユナに任せるとして、俺達はどうするかだ」
「とりあえず、フルダイブゲームを潰そうとしてる勢力について調べますか」
やることは決まった。特定はコンピューターに詳しい友人、木島ユナに任せる。理架に言われた通り、俺達は敵対勢力について調べよう。
「まずは敵方の筆頭、梅面名誉教授の専門分野を研究しましょう。図書室なら女性学の本くらいありますよ」
「そうだな」
俺は理架と図書室に向かい、本を探す。長篠の図書室は綺麗だが少々手狭だ。基本的にライトノベルなどが多い図書室だが、最低限の資料はある。
本棚から『男性学入門』と『女性学入門』の本を手に取る。他と比べると少し薄めの文庫本で、著者は両方とも『久世秋人』。何処かの大学准教授みたいだ。本は新しく、1番後ろのページにある初版発行年月日を見ると、つい3年前であるのがわかる。俺が手にしてる本自体はつい先月発刊された2版だけどな。著者近影から、久世秋人が若い男性であることがわかった。しかしこの著者近影、よく見ると三好雅にそっくりだ。雅を男寄りにしたらこんな感じだろうか。モノクロの著者近影だからよくわからんけど。
久世秋人は元々作家で、ブレイドクロニクルを運営するインフェルノに『ドラゴンプラネットオンライン』のクエストシナリオを提供したことがあると、本の作者経歴に載っている。俺がクリアしたシナリオも彼の作品だったかもしれない。ドラゴンプラネット時代に肉厚なストーリーを提供してくれたことには感謝しよう。
「これも一応あるんだな」
梅面里文の『賢い女性と愚かな男』はハードカバーの分厚い本。この手の本は参考文献リストが巻末か章の最後に載ってるのだが、久世秋人の本には当然の様に載っており、梅面の本にはなんと無かった。参考文献を使って無い論文なのか。著者近影を見ると、ケバいおばさんで、まさに『そういう人』を絵に描いた様なキャラクターだ。なんか、男性政治家がウッカリ女性に失礼な発言をした時に、批判する時にしか活動しない女性議員みたいな。そう、表五家の渦海親潮政権で防衛大臣だった奴とかな。
しかし女性議員ってなんであんな目立つ色のスーツなんだ? 黒のスーツでも姉ちゃんみたいに似合う女性は山ほどいるのに。
梅面の本の隣に、黒澤嶺華という人が書いた『「賢い女性と愚かな男」に対する反証』という本がある。批判本なのかとパラパラめくると、梅面の本に書かれたことの根拠を示す文章が書かれている。しかし黒澤はあとがきで「フォローしきれない」だの「フェミニズムにおける無能な味方」と梅面を批判している。
最大の敵は無能な味方である。味方の墓穴をガシガシ掘る様な奴、敵からしたら付け入り放題だろう。梅面がフェミニズムそのものをおとしめる存在となる危機感があとがきに書かれていた。
そして、衝撃の事実が著者の経歴欄にあった。『長篠大学教授』と。
「ていうか、黒澤嶺華って長篠大学の教授なのか?」
「系列校でしたよね」
長篠高校は大学も経営する。その大学の教授が黒澤嶺華だったのだ。つまり、今からアポを取れば会える人なのだ。
長篠大学 研究棟
そんなこんなで俺は長篠大学を訪れた。時刻は夕方、なんか今日は長いな。長篠大学は電車ですぐいける場所にある。
「着いたな。で、なんだそれ?」
「夕食の材料だよ。なんでお前までいるんだ」
《暇だから》
俺には2人のお供がいた。三好雅と直江真夏。時間も夕食時なので、材料が入ったスーパーの袋を俺は持っていた。森川先生を通してアポを取ったら、すぐに会えるとのこと。俺が料理の出来る男と知ると、黒澤教授は『一緒に作ろう』と言い出したのだ。
「黒澤教授……何者なんだ?」
俺達は研究室が固まってる建物に足を踏み入れ、黒澤教授の研究室を目指す。3階までエレベーターで上がり、その目の前まで来た。
「失礼します」
「どうぞ」
俺達は研究室に入る。出迎えてくれたのは穏やかそうなおばあちゃん。この人が黒澤嶺華教授だ。
「さ、早速夕食の準備しましょう。料理が作れる男の子って少ないのよ。稀少種よ」
「そのもの言い、ゲーマーか」
黒澤教授の口ぶりから、俺は同業者の臭いを感じた。研究室を見渡すと、本棚が並んでいかにもという光景だ。しかし本棚に並ぶ書籍はいずれも漫画やゲーム。これが大学の研究室なのか? 来客用のソファにはクレーンゲームで獲得したポケモンのぬいぐるみがゴッソリ、机にはフィギュアがわんさか。
「どうしてゲーマーだって……部屋を見る前から」
「稀少種ってのはゲームのモンスターハンターにおいて、強化された色変えモンスターを指す言葉だからな。珍しいって言いたければ稀少だけで十分だ」
雅は俺の推察に疑問があったみたいなので一応解説。俺も稀少種はリオレウスとリオレイアした狩ってないがな。オンラインならまだしも、家庭用だとこいつらしかいないし稀少種。
「私は創作物とジェンダーの関係を研究しているんです」
《創作物においてどの様に男女が描かれるかで、社会的性別を作者がどのように捉えているかを知る。それが貴女の主題でしたね》
真夏が書いた言葉に黒澤教授は頷く。こいつ、さっき教授の本をペラペラめくっただけなんだが、それで主題を把握しよったぞ。多分、真夏なら《論文はラストに言いたいことが書いてある》とか書き出しそうだな。
「この年でそこまで理解するなんて、素晴らしいわ」
《そして、割と作者がジェンダーステレオタイプに嵌まっていること》
「まて、ジェンダーステレオタイプってなんだ?」
真夏の書き連ねた言葉を読むうち、わからない単語が出て来る。ステレオタイプの意味すら覚束ないのに、ジェンダー付けられたら壊滅だ。
「そう。じゃあ直江くん、今から女性になってちょうだい」
《お兄ちゃんでは多分ダメです。雅さん、お願いします》
何を思ったのか、黒澤教授は俺にそんなミッションを課す。だがそれは雅へと引き継がれた。どういうことなの? 雅は戸惑いながら咳ばらいをし、喋り始めた。無論、女言葉で。
「私は三好雅よ。長篠高校に通う高校一年生だわ」
しかもご丁寧に内股で妙にしおらしく、髪もかき上げながら。しかし妙な違和感が拭えない。俺が墨炎である時、自分を鏡で見た時には感じない違和感だ。
「それよ。まさにそれこそジェンダーステレオタイプ」
《男性ならこうするだろう、女性ならこうするだろう。そんな思い込みのことです》
黒澤教授と真夏曰く、今雅が女になろうと必死に演じてる姿そのものだという。つまり、女性になろうとして自分の中にある『女ならこんな感じだろう』というステレオタイプをまんま雅は演じているのだ。特に、こいつは見た目も声も女みたいだから『男らしくなろう』と女性的なものは避けてきたから、ステレオタイプの刷り込みが一層激しいのだ。
真夏が俺ではなく雅を選んだのは奴が適任であると同時に、俺が不適任だからだ。俺は墨炎でいる時、心の中こそ女の子だが自ら墨炎という『女の子』を演じることはない。口調も仕草も直江遊人のままだ。どうもそんな自然体というかリアルな女の子じゃ有り得ない、時折見せる無防備さがネットで受けてドラゴンプラネット時代は人気アバターだったよマジで。
噛み砕いて言えば、男が女を演じると『なんかコレジャナイ』という不自然さが生まれるのだ。女らしい仕草といわれるものを実際の女がするシーンなんて滅多に無いだろ?
女言葉の代表格「てよ、だわ」にしても周りの女性、殊更姉ちゃんや煉那を思い浮かべると使ってるシーンは皆無。つまり、リアルで女言葉を使う女などいるかということ。ネカマがバレるのもこの不自然さからだ。
「なるほど、理解した」
俺はジェンダーステレオタイプを実感した。そもそも、それこそ上司曰く「女にしとくにゃ勿体ない」という姉ちゃんと「岡崎署の聖母」こと癒野優という真逆じゃ済まされないタイプの女性2人に囲まれた俺にはジェンダーステレオタイプなんて幼い頃から抱きようもなかったんだよ。
料理は姉ちゃんの栄養バランスを心配した癒野が教えてくれた。基礎は彼女からだが、その後イタリアンシェフのトニオと仲良くなって俺のレシピレパートリーはイタリアン特化になったんだ。
「さ、固い話は切り上げて料理にしよう。メニューは?」
「和風カレーライスです」
黒澤教授にメニューを聞かれたため、答える。彼女が年配であることくらい、ここまで元気なおばちゃんとは知らなかったが、事前に知ってたためそれらしいメニューを用意した。
「あらあら、気を使わなくても私はガッツリ食べますよ」
「ど、どのくらい?」
「はい、あなたにはこれ見せた方が早いわね」
黒澤教授はメニューを聞くと、何かの履歴が書かれた紙を俺に見せた。大学のミールカードで注文したメニューが書かれている。
《ミールカードとは、一日に決まった額分だけ食堂で食べられる、定期券みたいなものです》
「そんなもんあるんだ。ていうか、なんだこのメニュー……」
俺は黒澤教授の履歴を見て愕然とした。おばちゃんなら少しはヘルシーなメニューかと思いきや、昼からトンカツだったりその夜にカツカレーだったり、その翌日にチャーシュー麺とか、あんた学生か。栄養バランスとか頭に無い学生か。異様にチャーシュー麺のオーダー数が多いぞ。
「好きなもんを食えるは幸せですよ。好き放題喰ってポックリ逝く、これ人間最大の幸福な死に方なり」
黒澤教授は年からして戦争ドンピシャの年代だもんな。戦争って食い物少なかったらしいし。姉ちゃんの栄養管理から料理を始めた俺とは始めから発想が違う。そんな時代に生きた俺のオリジナル、新田遊馬の遺伝子の影響なのか、俺は少食でも毎日三食キチンと食べる。
そこまで考えて、俺は黒澤教授に聞いてみることにした。新田遊馬のことだ。恋愛補正が掛かりまくりな姉ちゃんの母親、すなわち婆ちゃんの証言では不明な点もある。もしかしたら知ってるかもしれない。
「黒澤教授、もしかして新田遊馬って軍人知ってます?」
「いいえ。あなたのお爺さん?」
「そんなとこです」
この場でクローンがどうとかいう説明はスルー。もうこれ以上、樋口といい面倒はゴメンだ。そんなスターウォーズを誰も期待してはいないだろう。お爺さんでもあながち間違いではないが、俺は新田遊馬本人なんだから。
「あら、お客さん」
研究室に来客があった。やはり教授は忙しいのかな? 俺達も来客を迎えたわけだが、その姿を見て全員が身構える。特に俺と真夏。
「お前は……!」
俺が見たのは、いやそんな馬鹿な。あいつは改造ウェーブリーダーの副作用で再起不能になったんじゃ? クインが極太レーザーで消したから、痛みをカット出来ない改造ウェーブリーダーで無事な筈……。
「何故生きている?」
俺達の目の前に現れたおばさん。親しみが持てる感じでなければ邪険な雰囲気を持つおばさんは間違いない、防衛大臣の平和。俺達が最後に戦った表五家の渦海党、その渦海親潮政権で防衛大臣をしていた女だ。
派手なスーツと化粧で、防衛大臣の癖に自衛隊解体を目論んだ防衛する気ゼロの無能大臣。渦海親潮政権の大臣は総じて無能だが、まさか利私利欲ではなく自己満足で動くだなんてな。こいつが自衛隊解体を目論んだのは、どっかの国のスパイだからとかじゃなくてひたすら「軍事関係大嫌い」だからだ。
防衛大臣なのに軍事の知識はゼロ。拳銃とマシンガンの区別も付かない。いかに外交に軍事が絡むかとか、綺麗事ではなんにもならないとか、ありとあらゆる現実を超越して軍事の排除を試みた。だから自衛官を父親に持つ田中丸や銃器メーカーで両親が働くクインといった俺の仲間から反発喰らってたんだ。
俺が言いたいのは、あいつが大臣なんか勤まらない阿呆だということだ。そして表五家というのはそういう阿呆が日本のトップにいた異常事態だ。真夏の父親、凍空寒気の様に優秀だと、その優秀さ故に表五家の卑劣に気づき、解体を目指すが大抵は周りの馬鹿に殺されてしまう。
真夏は俺の血の繋がった妹ではない。表五家との戦いで親族を自ら滅ぼし、身寄りが無くなったため姉ちゃんの娘になったのだ。
無能が無能をカバーして無能が生き残る災害。それが表五家。目の前の女はその中核にいたんだ。しかしおかしい。痛みが遮断出来ない改造ウェーブリーダーでダメージ喰らったはずなんだがな。無事なはずは無い。
「誰?」
雅のリアクションは至極真っ当なもの。表五家の戦いに参加しているが、こいつは中核にいなかったから知らなくても無理は無い。平たくいえば前回の事件の敵ということだけ理解してればいい。それで充分だ。
「たまたま生きてたんですよ。私が正しいからですね!」
どうやら偶然生き残ったらしい。痛みを感じる前に気絶したという情けない話だろう、どうせ。
「今日はあなた達に紹介したい人がいるんですよ」
平はそう言って、部屋に一人の少女を入れた。長篠高校の男子の制服、それも冬服のブレザーを着た少女だ。長い黒髪は痛み、ちらほらと白髪の部分が見える。顔は仮面で見えない。スタイルのよい身体付きに見覚えがあったので、アレを試してみる。
「観察眼!」
別にインフィニティ能力名言わなくてもいいんだが、一種のスイッチだわな。そして結果が出た。このスタイルの良さはあの姉妹独特のもの。そしてあいつとあいつが死んでるからこいつは……。
「上杉、秋穂か?」
「……」
少女は答えない。俺の推測も当てにはならんだろうし、女性の正体見抜くなら宵越弐刈のあんちゃんが適任だったんだが生憎そいつは前回の事件で御臨終。なんで死んじまったんだよ。
「……」
「お前はなんなんだ?」
少女は俺をじっと睨む。しばらく、研究室は緊迫した空気に包まれた。自殺者に長篠高校の制服を着せるのは何故だ。あの鎧の意識は誰だ。なんで防衛大臣の平がここにいるのか。こいつは誰なのか。俺にはわからないことだらけの一日だ。
前作との接点について
本作は『ドラゴンプラネット』の続編という性質上、容赦無く一見さん大混乱の描写がありますね。基本的には今回の雅みたいに『誰?』で済ませていただいてOKです。
必要な情報はこちらからプレイバックで適宜流しておきます。