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視界ジャック1 鴉は見つめる

 若者の人間離れ

 もしかして→都煉那

 近年、日本で問題視される現象。本来は、問題とはインフィニティ能力のことなのだが、煉那のせいで遊人の観察眼アナライズが霞んで見える。

 だいたいこいつのせい。

 中部国際空港 出国ロビー


 なぜこうなった。

 男は自身の人生を省みる。かつて日本の頂点を夢見た自分が、今やマスクにサングラスで素顔を隠し、偽装パスポートを使っての海外逃亡を試みている。

 広い出国ロビー、そこでキョロキョロする男は否応なしに目立つ。赤と白のボーダーという目立つ服を着るウォーリーですら、格段に見つけ難いものだ。それなのに男は、地味な服装でド派手に目立つ。やはり、ウォーリー氏の様に堂々としてると目立たないのだろう。

 男は目的の為に妻と四人の娘を捧げた。妻と長女は事故を装い殺し、自身のメディア露出を増やす材料にした。メディアはこぞって妻と娘の死に負けず働く元官房長官、上杉季節を報じた。

 次女は邪魔物を抹殺する為の、そして自分の欲望を満たす為の道具として使った。三女は自分の権力を上げるため、政治家達に取り入る道具として使った。気に入られまいが気に入られようが、奉仕させて既成事実さえ作れば後は自分の思うがままだ。

 四女は次女に警察の捜査が伸びないよう、捜査撹乱のため殺した。自分で殺すのは面倒なので、自らへの服従をさらに確認させる為にも次女に殺させた。

 「俺は間違って無い、何も……!」

 出国ゲートへ向かう男、上杉季節の感覚は全体的にボンヤリしていた。目は霞み、耳は遠く、匂いは感じず、触れたか触れないかもわからない。精神が原因ではない。これには奇妙な理由がある。

 元官房長官である季節が這い上がるには、日本を牛耳る表五家で力を得るしかない。しかし、その表五家がたかだかゲーマーによって潰されかけたのだ。しかも、ゲームの開発者である楠木渚が政治家達を逃げられない様に仕向け、負けられない対戦へ導いた。

 負ければ表五家を解散し、参加しなければミサイルに狙われて死ぬ。そんな無茶な要求を突き付けられるのはフルダイブシステムという夢のシステムを開発した渚だけだ。負けても解散しなかったら殺されるに決まってる。負けられない戦いに臨む表五家はウェーブリーダーを改造して勝利を目指した。

 「クソッ。これもあんなもの使って負けたせいだ!」

 偽装パスポートを取り落とし、季節は急いで手探りながら拾い上げる。偽装パスポートは子供の工作より完成度の低い、チラシで作られた代物だった。近所のスーパーが広告に使う、安物の黄色い紙をカード状に切り抜いただけのもの。彼のくすんだ目には、立派な偽装パスポートに見えた。

 改造ウェーブリーダー。脳波読み取りの出力を上げてアバターの運動性を高めるアイテム。しかし、出力上昇の為に本来ならウェーブリーダーが遮断する痛みもゲームで感じてしまう。レーザーで焼き切られるという現実離れした痛みは季節の脳を破壊した。だが、痛みでショック死しないだけマシだろう。

 「なかなか拾えん!」

 季節は感覚神経をやられたと自分でわかっている。残念ながら肩たたき券よりクオリティが低い偽装パスポートを必死に拾おうとすり彼はオツムまでやられたことに気づいていない。

 否、最初からオツムはやられていたのだろう。妻と娘を道具だと思う時点で。

 「死んでたまるか! 俺は返り咲くんだ!」

 現在の彼は妻と娘の殺人罪、SEA使用によるサイバーガールズメンバーの大量殺害、娘に対して行った性的暴行による虐待の罪で死刑まっしぐら。季節からしたら自分はSEAを唆しただけである。だがSEAが、彼女が死ぬほど望んだ人間でなかったため、殺人教唆で罪が留まらなかったのだ。残念ながらSEAはプログラムであり、道具、すなわち凶器だ。

 今は公判前なので自由に動ける。警察は証拠を回収したこと、どちらにせよこれ以上証拠が出ても刑法上の限界で死刑以上にはならないから証拠隠滅されても痛くないこと、季節が改造ウェーブリーダーの後遺症からまともに逃亡出来ないことを根拠に釈放した。

 その予想は見事的中。今の彼の姿がまさにそれ。

 「夏恋か秋穂さえいればこんな苦労は……!」

 まだ季節は偽造パスポートを拾えない。生きてる娘を自分の手に取り戻そうとしたが、三女の秋穂は行方不明、次女の夏恋は長篠高校にいて不可能だった。長篠高校はやけに生徒間の連帯が強く、行ったら間違いなくボコボコにされる。直江遊人の元カノを実質的に殺した大学の責任者がそうなった。

 自分だけは大丈夫だと思った彼は長篠高校を一度訪れたのだ。しかし、悪夢を見せられそんな気も失せた。


 数日前 長篠高校周辺


 苦労して長篠高校の付近まで来た季節は、その高校のシンボルである天文台をボンヤリ捉えた。近くに2人の女子生徒がいるので案内して貰おうとしたのだが、何故片方の女子は男子の制服を着ているのか不思議でならなかった。だが生徒は生徒だ。

 「君達、私は長篠高校の生徒、上杉夏恋の父親だ。長篠高校まで案内してほしい」

 案内を頼むと、女子生徒の一人、キチンと女子の制服を着た方がもう片方に話す。

 「ねえミヤえもん、今からこの人間のクズをイジメたいからなんか出して」

 「仕方が無いな煉那くんは」

 男子の制服を着た女子が鞄から竹竿を出す。長さは彼女らと同じくらい。折り畳めそうにないものをよくも鞄に入れたものだ。まるで四次元ポケットだ。

 「我が家に伝わる伝統の武器だ。これなら煉那が全力で振っても折れない」

 「いや、見た目のインパクトが無いから嫌だ」

 「そのりくつはおかしい」

 煉那と呼ばれた女子生徒はおもむろに辺りを見渡し、手頃な道路標識を見付ける。先端の尖った『通学路』の標識だ。彼女はその根本を足で蹴り飛ばし、へし折って武器にする。

 「毎回思うが、お前は人間か?」

 「安全靴の爪先で蹴ってるから大丈夫」

 「いやそうじゃなくてだな」

 煉那の理論は通ってる様で間違ってる。安全靴の爪先で蹴っても標識は折れないだろう。

 「早速死ねぇえ!」

 「ぎゃあああ!」

 そんなわけで標識を振り回す女子生徒からほうほうの体で逃げ出した季節は現在に至る。


 現在 中部国際空港 出国ロビー


 「何なんだあいつらは!」

 現実離れした光景を目の当たりにし、季節はいくら大臣の娘がいるからといって長篠高校に転校させたことを後悔した。一度はその娘に被害を与えられたが、今自分が被るデメリットの方が大きかった。

 自分の見た光景は人類の進化だの若者の人間離れとかそんなちゃちなものではない。もっと恐ろしいものの片鱗だ。季節はそう感じて、進化した人類であると噂の生徒会長が出る前に逃げ出したわけだ。あれ以上長篠高校への接近を繰り返したら殺される。

 「お客様、パスポートを拝見しても?」

 「ああ、済まない」

 ようやく偽造パスポートを拾った季節は、彼を怪しく思って近づいた職員に見せる。声からして女性職員なので、いざとなれば切り抜けられそうだった。

 「なぶっ!」

 しかし突然、季節の世界が反転する。その女性職員に投げ飛ばされたのだとわかるまで時間がかかった。

 「いやー、肩たたき券差し出されちゃいましたよ。マッサージしろって?」

 なんとか立ち上がり、季節は自分を投げた女性職員を見る。すると、女性ではあるが職員でないことがわかった。パンツスーツ姿の女性は自分の娘達と同い年くらいで、ウェーブのかかった黒髪をセミロングにしている。その顔立ちに、季節は見覚えがあった。

 「貴様、サイバーガールズの海原ルナ……」

 「似てるってよく言われるけど、残念ハズレ」

 「私の邪魔をするなら死んでもらう!」

 季節は懐から自動拳銃を取り出す。拳銃にはリボルバーと自動拳銃の2つがあるのだが、こちらはハリウッド映画で特殊部隊が持ってるタイプと思ってもらえれば間違いない。

 偽造パスポートこそ残念な出来映えだが、拳銃は本物。何せ、夏恋に使わせる為に調達したものだからだ。

 「撃つ? 無理よ」

 女性は一瞬で季節に接近し、自分の胸にあえて自動拳銃の銃口を押し当てる。

 「ねぇ知ってる? 自動拳銃って銃身がスライドしないと撃てないからこうされるとダメなんだって」

 「クソが!」

 季節は少し銃を女性から離し、撃つ。マガジンにある弾全てを女性の身体に叩き込んだ。しかし、彼女は倒れない。

 「防弾チョッキ着てなかったら即死だった」

 「畜生!」

 女性は防弾チョッキをスーツの下に着ていた。彼女も防弾チョッキを忘れていたのか、軽く冷や汗をかいている。季節の銃に弾は無い。

 突然の発砲に辺りは騒然とする。女性は時計を見て、時間を確認した。

 「そろそろ終わらせてオヤツだ。もう3時じゃん」

 女性は季節の両腕を捻り、もう一度投げ飛ばす。その際、季節の両腕は有り得ない方向に捻れていた。実に地味だが、筋を間接ごと断裂させたのだ。二度と、リハビリですら治せない傷を負わせたため、季節の両腕はもう使い物にならない。

 「もういっちょ!」

 女性は倒れた季節の脚を捻る。これは腕にかけたのと同じ技。つまり、季節はこの一瞬で両手両足を不随にされたのだ。

 「う、動けん! ぐぼっ!」

 痛みに鈍くなった季節はそれに気付かない。そして女性はパンプスの足で季節の喉を潰す。命に別状が無いのだが、声が二度と出せないように。

 「仕事完了よ、蛍」

 女性の後ろから、黒い着物を纏った別の女性が現れる。黒髪を美しく靡かせるその女性は、蛍と呼ばれたパンツスーツの女性と同い年くらいである。しかし、着物の女性の方が大人びて見える。

 「あ、お嬢! 腕の一本くらい残した方がよかったですか? ほら、お嬢って季節にめっちゃ怒ってたじゃないですか!」

 蛍は三白眼を爛々と輝かせ、着物の女性に話し掛ける。着物の女性は裏社会の秩序を守る『黒羽組』組長、黒羽椿。そして彼女の側近がスーツの女性、海原蛍だ。

 警察に裏社会の秩序を乱す輩の情報を売り渡すのが黒羽組。それ故、椿は刑事の弟である遊人も知ってる。彼からの頼みがあり、上杉季節が国外逃亡しようとしたら止めてほしいとのことだった。ボコれとは言われてないが、黒羽組は季節に知り合いの夏恋を傷付けられた恨みがあったためこうした。

 「いいわ。私は目でもえぐります」

 「はいスプーン」

 「冗談です」

 蛍は椿の冗談を真に受けてスプーンを渡す。さらに、彼女は手に小刀とツボと塩を持っている。

 「それはなんです?」

 「鼻と耳を塩漬にする時用に」

 「朝鮮出兵!」

 多分、椿の冗談対応用なんだろうけど、蛍はその残虐さ故に椿が側近にした人物。目を離すと危ないから側近にしたのだ。

 「お嬢がどんな要求しても答えます! 木琴ですから!」

 「側近よ」

 「鉄筋ですから!」

 「丈夫ね」

 蛍のボケはスルーが基本。本人は真面目に言ってるから尚厄介。頭のネジが2、3本飛んでいるのが海原蛍だ。

 しかし彼女の過去を考えると仕方ないと、椿は毎回思うのだ。それ以前から1本はネジが外れていたのだが、その出来事が蛍の狂気を決定付けたのだから。

 若者の人間離れ

 追記

 もしかして→海原蛍

 もしかしなくても→都煉那

 運動神経だけではない。

 つまり→真田理架、楠木渚

 絶対記憶持ちとか。

 すなわち→藤井佐奈

 外見も含むと。

 (結婚しよ)→三好雅

 インフィニティ能力者は無論。

 こいつら→直江遊人、佐原凪、真田理架、名鳩零。

 元凶→新田遊馬

 結論:なんかこの作品の若者はだいたいおかしい。

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