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3.自殺未遂

 剣士リスト

 ルナ

 プレイヤー:海原ルナ

 武器:刀『玄海灘』『???』

 必殺技:『袈裟斬り』『大雀蜂』

 特徴:水色の髪と瞳。スク水の上からパーカーを羽織っている。

 岡崎市民病院 病室


 「というわけでお前に相談しに来た」

 「なんでよ」

 奇妙な鎧を手に入れた翌日、俺は市民病院の病室にいた。病室は個室で、ベットには知り合いが寝ている。あかりとユナの友人でもある、海原ルナだ。

 稲積あかり、木島ユナ、海原ルナに黄原彩菜と赤野鞠子を加えた4人はアイドルユニット『サイバーガールズ』のメンバーだった。だが、とある事件によってメンバーの大半が死亡し、壊滅。彼女達はその生き残りだ。

 「プログラムの暴走で私を思い出すのはいいけど、たまたまなのよ?」

 「それでも経験の有無はかなり違う」

 ルナはユニットが壊滅した事件の主犯、メンタルケアプログラムの『SEA』に事件が終わった後、接触した。事件自体は初めから渦中にいなかったルナだが、たまたまドラゴンプラネットオンラインにログインしていたところ消滅しかかったSEAの寄り代とされた。

 そんな経験が俺の昨日と似かより、こいつに話してみることにしたのだ。

 「たまたま気が合ったってだけで、私は何も……」

 「経験談教えてくれるだけでいいんだよ」

 詳しく言えば、かなり巨大なファイルであるSEAを脳内に書き込まれたのだ。それで今は入院中。脳への負担が大きかったんだ。初めはルナを捨て駒にするつもりだったSEAも、彼女と触れ合うことで改心し、ルナの命が自分のせいで危ないと知ったためすぐに消滅した。

 「その仏壇はSEAのか?」

 「うん。人間になりたいって言ってたから、せめて死んだ後くらいは、ね」

 簡易的な仏壇が病室に置かれている。それはSEAを弔う為にルナが置いたものだ。SEAは人間になりたくて、凶行に走ったらしい。

 「私もブレイドクロニクルはオフラインで今遊んでるよ。でも妙ね、私も呪われた装備を手に入れたけど、技が増えたり声が聴こえたなんてことは無かったよ? 装備もしたのに」

 「解除したのか? 教会で出来たよな、呪われた装備の解除」

 「したよ? まだ武器は持ってる」

 ルナは呪われた装備を手に入れ、実際に装備したようだ。そして、教会で解除して呪われたその武器は持ったままだという。俺は教会で解除した後、鎧は即効で捨てた。

 「今度、インフェルノに聞いてみるか。そこが発売元だし」

 「そうだね。そうだ、これ役に立つんじゃない?」

 「これマジでヤバい鎧の話や」

 ルナが俺に渡したのは、入院中の暇潰しに持ち込んだライトノベル。ゲームの話で、俺が手にした鎧よりヤバい鎧の話だ。

 「今日は高校の体験入学なんだよ。お前が元気なこと、理架に伝えとく」

 「そ、ありがと」

 俺はルナの病室を後にする。今日は高校の体験入学。ゲーム研究部も活動する。さて、何人集まることやら。


 俺はトップスピードで長篠高校へ来た。行く途中も多数の中学生がおり、長篠高校の有名さを実感させる。しかし、私立は金が掛かるので行きたくても行けない人もいただろう。収入で私立を選べるかが変わる、これは教育の機会均等に反するのではないだろうか?

 長篠高校は学校に行きたくても行けない奴らを助ける。かくいう俺も中二まで学校に行ってなかったせいで公立に入れなかったから長篠にいるんだ。別に公立で気になる学校は無かったし、『直江愛花には夢がある!』なんて姉ちゃんがここに行かせたがったのもあるが。

 「潰れる心配もねぇ癖に面子ばかり気にしやがってよ」

 公立はどうも、退学者が出たりするのが嫌らしい。また、面倒な生徒は『責任が取れぬ』と断る。かつて九州で事件に巻き込まれた夏恋やサイバーガールズだったあかり達も長篠に拾われた。ルナも引き取る気満々だという。

 「こういう学校は必要なのかね」

 普通の学校に通いたくても通えない生徒を集める長篠高校は必然的に灰汁の強い連中が集まる。教師もそういう奴らを好んで相手取ろうってんだから個性的な奴揃いだ。

 「お、遊人じゃないか」

 「森川先生」

 校門を潜ると、担任の森川先生が声を掛けて来た。大柄だが、これでも数学教師。俺自身は理系寄りなんだよな。

 「どうだ? 最近は栄養士を目指してるらしいじゃないか」

 「ゲーマーズカフェを継ぐなら高卒でもよかったんですがね。経営も学べと真夏が」

 長篠教師陣ではまだまともな部類に入る森川先生は生徒会の先生でもある。こうした体験入学を仕切るのも仕事のうち。

 「いいじゃないか。可能性は広い方がいい。そうだ、今ちょうど数学談議に……」

 「数学談議?」

 森川先生は数学談議をしていたという。数学マニアのこの人と数学の話でついていける人間はいるのか?

 「長篠高校って凄いですね! 岡崎一の進学校の北高校でも出来ない話ができました」

 「お前かあぁい!」

 姿を現したのは元後輩の真田理架。問題の解決に人生を注ぐ変態だ。眼鏡にスカートの長いセーラー服がよく似合ってますな。夏なのに白衣まで羽織って、暑くないかい?

 頭がいい彼女だが、ただのガリ勉やエリートなどでは無い。エリート連中は親の敷いたレールを汽車ポッポと走るだけで、その車輪として勉強をする。しかし彼女は勉強が大好きというド変態。趣味で勉強してるのだ。恐っ。

 「名鳩はどうしてる?」

 「いますよ」

 こいつの親友、名鳩零もいるみたいだな。無事病気も治って、転校出来てよかった。表五家の犠牲になる人を減らせて、俺も頑張った甲斐がある。名鳩は難病で、本当は治せるのに表五家の利益のために薬が輸入出来ず、死にかけていた。

 「直江先輩、あのですね」

 「なんだ?」

 しかし、理架が俺に話があるらしい。なんだ? また妙な話題じゃなければいいが。

 「最近、PTAがまたフルダイブゲーム排除に動いています」

 「またぁ?」

 なんだまたPTAか。恐るべき再犯率。随分前にも同じ話題を聞いたな。

 「今度は教育学の権威まで出て来ました」

 「ハイハイ名誉教授名誉教授」

 理架によると、今回は教育学の権威という人物まで参加したものになるそうだ。日本人は『有名大学教授』とかに弱いからな、自分で考えずに偉いセンセーの意見ならホイホイ信じてしまう。

 「そいつは誰だ?」

 「メディアでも有名だったフェミニストの、熱地学院大学名誉教授『梅面うめおもて里文さとふみ』センセーです。自分の名前を訓読みすると『ウーメンリブ』だから、自らを女性解放運動の救世主と呼んでます」

 「聞いただけで面倒臭そうな奴だな」

 理架の話だけでそいつが今まで相手取った誰より厄介であることがわかる。そんなつまらんダジャレぶっこく時点でね。憎しみを拗らせたNPCのプロトタイプ。人間になりたかったプログラムのSEA。そして日本の癌、権力者による癒着の塊、表五家。

 その名誉教授は権力だけなら表五家、残虐さならSEA、純粋さならプロトタイプに劣るだろう。しかしなんだ? 嫌に面倒な相手であるとヒシヒシ感じる。

 「め、面倒臭そう……。無視できるなら無視したいな」

 森川先生もそれを感じていた。名前と基本情報ではなんとも言えないが、こいつをどう捌くべきなのかわからない。

 「そいつってよ、公立高校の入試に『女子枠』設けたり徹底的な女性優遇策の提案で有名じゃねーか? なんたってそんな奴が教育学なんか…」

 「彼女がしたいのは『女らしさ』の否定ですから」

 森川先生はそいつの所業をご存知だ。理架もさすがにリサーチしてある。女らしさの否定が教育学に繋がるのか?

 「一般的な女性学、男性学では『女らしさ』と『男らしさ』といった社会的な性、ジェンダーは学校で作られるとされてるみたいなんです。教育によって生み出されてるんですよ」

 「ああ、俺なんか学校で『男は泣くな』だの『男は体力』だと教えられたな」

 森川先生は学校でそんな風に教えられたそうだ。俺はそもそも学校に行ってた期間が短いから覚えが無い。

 「それですよ。学校でジェンダーが作られるというのは。そこに注目した梅面名誉教授は教育学にも手を出したんです。男を徹底的に全否定する姿勢がお茶の間の主婦に受け、ワイドショーでは引っ張りだこです。しかし、片方の性を否定する姿勢が原因で、研究者達の間では鼻摘まみ者です」

 「癒野も言ってたけど、ジェンダー研究者はどっちかを排除しようって考えてはないんだよな基本的に」

 それに注目しているのがジェンダー研究者というわけ。学校教育から従来のジェンダーを批判する。知り合いである解剖医にしてカウンセラーの癒野は少年犯罪の観点からジェンダーについて知識を持ってたな。どういう理屈かは知らんが。

 「簡単にいえば学会の鼻摘まみ者の意見を信奉した間抜けによる運動か。ゲーム脳の時もそうだが、学術的におかしな奴の意見って大衆に受け入れられ易いよな」

 「感情論だから共感しやすいんじゃねーかアホには」

 理系の森川先生曰く、筋道立てて考えられないアホは筋道狂った感情論も学術的な意見として共感してしまうんだとさ。文系だって小論文とか筋道がいるのに、そいつは理系科目も文系科目もろくに出来ないと見た。

 「ともかくそんなアホに絡まれてまた面倒を抱え込むことになりそうだな」

 「あ、あれ!」

 俺があまりのアホっぷりに呆れていると、理架が何かを指差す。校舎の上の方だが、目の悪い俺にはよく見えない。理架も同じく視力が低いのでよくわかっていないみたいだ。

 「おい! あれ誰だ? 人が立ってる!」

 「ダニィ?」

 森川先生だけがその正体を捉えた。人だ。校舎の屋上に人が立っているんだ。何をしているんだ? とりあえず調べてみるか。

 「『観察眼アナライズ』!」

 説明しよう! この能力は一時的に洞察力を上げるインフィニティ能力である! インフィニティ能力の存在こそが、俺が新田遊馬のクローンとして生まれた最大の理由。ある偉い学者が人類の進化した形『インフィニティ』を見つけたんだ。その力は遺伝子に由来するもので、研究するには能力を持ってたとされる新田遊馬のクローンを作るのが一番早かったみたいだ。

 観察の結果、校舎の上にいる奴が何をする気かはわかった。大変マズイことだ。

 「マズイ! あいつ落ちる気だ!」

 「何!」

 「大変!」

 「話は聞かせてもらった!」

 慌てる俺達の横に、クラスメイトの女子生徒がいた。背が高く、身体の引き締まったアスリート体型の女子は都煉那。三好雅と並んで我がクラス最強の人物だ。雅が女子と並んでしまうのは、彼女、ではなく彼の体格が並の男子ほど恵まれてないことや煉那が明らかにおかしいことも原因だ。雅は武道と華道やら茶道の達人、煉那は人類最強の女。

 「来たか、ベルモンドの子孫よ」

 「とにかくあいつを助ければいいんだな! 任せろ!」

 こいつは『悪魔城ドラキュラ』シリーズで有名なベルモンド一族の末裔ではないかと思うくらい身体能力が変態じみている。今にも「ドゥドゥドゥエ」とかやりかねない。インフィニティじゃない奴がこれなんだから、人間の進化はわからないよな。

 そうこうしてる間に校舎上の人物がフラリと落ちる。それに気付いた中学生達はパニックになる。

 「うおりゃああ!」

 「いやいやおかしい」

 俺達のいる校門から校舎はそれなりに離れてるはずなのに、煉那が校舎へ駆け寄った時には、3階建てである校舎の2階の窓までもその人物は落ちてなかった。万有引力による自由落下より早いってアータ。

 距離だけならここから校舎までと校舎の上から地上まで、後者のが短いぞ? つまり、簡単にいえばこいつはウサイン・ボルトより速いということだ。

 「ホァイ!」

 「出た! 煉那さんのキシン流奥義!」

 そのまま煉那は校舎の壁を蹴り上がって落下中の人物をキャッチ。ありえん。そのまま無事着地とかお前人間じゃねぇ。上に落ちる変態さすがです。ぼくにはとてもできない。


 長篠高校 職員室


 煉那が救い出して事なきを得たものの、この騒ぎに体験入学は中止となった。

 自殺を図ったのは女子生徒。オマケに長篠の生徒ではない。今は気を失って保健室にいる。理架とその親友である名鳩零と愉快な仲間達が見守ってるから大丈夫だろう。

 幸い、煉那のやったことが衝撃的過ぎてこちらのマイナスは無い。中学生達も心の傷を負わずに済んだ。あいつはおかしい。

 『生きたくてしかたない奴もいるのに死にたい奴もいるんだな』とは名鳩と愉快な仲間達の談。あいつは難病で死にかけてたんだっけ。俺の元カノも、生きたくても生きられなかったから考えてみれば不思議な話だ。

 「どうします?」

 「とりあえず生徒のケアにあたりましょう」

 「何故お前がいる」

 サラリと駆け付けたのは樋口だった。カウンセラーが入り用なら癒野がいるだろ市内には。

 癒野優は姉ちゃんの友人である。解剖医にしてカウンセラーを勤める万能なお方だ。

 「呼ばれた気がしまして」

 「呼んでない」

 「理架さんがあなたを呼んでました」

 「そうか」

 樋口は理架から伝言を頼まれていたのだ。かわいい後輩、もうすぐ妹になる理架の頼みは反故にできん。彼女の父親は何を隠そう真田総一郎。姉ちゃんがもうすぐ結婚と噂の人だ。

 俺はダッシュで理架達のいる保健室へ。扉を開けると、自殺未遂の女子を取り囲む2人の女子中学生と3人の男子中学生。こいつらこそ愉快な仲間達。女子は理架と名鳩だな。

 「来たぜ」

 「やあ。ようこそ、バーボンハウスへ。このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。うん、『また』なんだ。済まない」

 「まさかのバーボンハウス?」

 名鳩にカウンターでバーボンハウスを喰らう。俺がスレタイにホイホイ釣られたみたいじゃないか。ゴキブリみたいに。知らん奴はググれ。

 「女子中学生と遊べる部屋に変態さんが釣れたからね」

 「お巡りさんこの人です」

 部屋には夏恋もいた。近年なりを潜めていた毒舌が急に戻った様な。まだキレは以前ほどでもないがな。事件に巻き込まれた過去から他人を遠ざけるためにわざと口を悪くしていたが、外見のせいで逆効果になったんだよそれ。

 「遊べる? どういう意味だそれ?」

 「健全な意味でよ、もちろん」

 そういう意味で言ったわけじゃないが、夏恋は真剣に不快そうな顔をする。こいつの過去から考えれば普通の話だ。

 「いや、俺が言ってるのはどういうワケだって話だ」

 「だから冗談でもそんなこと思わないで」

 「思うかよ」

 理不尽な理由で夏恋から怒られつつ、俺は理架と名鳩に事情を聞く。

 「とりあえず、この人の悩みをなんとか解決したいんです」

 「なるほどね」

 保健室のベッドで寝てる女の子は俺達と同い年くらいか。何の悩みだろうか。下らん悩みだったら張り倒すぞこの阿婆擦れ。

 「その歳で何を悩む?」

 「あんたには関係無いでしょ?」

 女の子は布団を被ってそっぽを向いてしまう。こいつの心を開く術はあるのだろうか。

 「こうなったら召喚獣の手を借りるしかない。召喚!」

 俺は困り果てて電話をかける。相手は姉ちゃん。刑事だが、これでも暇さえあれば不良少年の悩みを聞いて、時にはボコボコにしながら更正させる敏腕補導員でもある。生活課でもやってけるよ。

 「ハイハイいますよ」

 自殺未遂事件ということで、刑事の姉ちゃんは学校にいた。いつものビシッと決めたスーツ姿だ。というわけで早速カウンセリング開始。お邪魔虫俺らは退出しようね。

 「遊人先輩のお姉さん刑事だったんだ」

 「しかも美人だ」

 「引く手数多だな」

 男子中学生3人、それぞれ赤介、青太郎、緑郎というあだ名を拝命しているそいつらは姉ちゃんが見かけ美人過ぎて感嘆する。中身を見たらがっかりするか尚良しと思うかはこいつらの性癖次第だ。

 「なあ、さっきから夏恋が俺のことを養豚場のニワトリを見る様な目で見てくるんだが。『可愛そうに、後でどうせ肉にされて死ぬのに生きてる間さえまともに扱われないなんて』って」

 「そりゃ養豚場にニワトリだからな」

 夏恋の視線に耐えられそうにないので名鳩へ逃げる。活発そうな普通の女の子である彼女は俺の周りで稀少。やれ超人だ、やれヤクザだ、やれ変態だでまともな女いないからな。

 「よし、事情徴収完了だ」

 「わかったのか?」

 姉ちゃんが事情徴収を終えて出てくる。なんかわかったに違いない。

 「ああ。どうも高校の入試に失敗したらしくてな、親が教育家なんだよ」

 「で、俺らはどうすればいい?」

 「お勉強以外の素晴らしい世界でも見せてやりな。任せた、遊人、理架」

 お呼びが掛かったのは俺と理架。つまり、あの女子に俺と理架の対戦を見せればいいんだな。ブレイドクロニクルはいつでも対戦が出来るシステムがあるのだ。

 「私、今日3DS持ってませんよ?」

 「じゃあ私が貸すよ」

 理架は自分の3DSを持っていなかった。しかし、夏恋が貸すというのだ。このゲームは対戦する場合のみ、サーバーからアバターデータをダウンロードして、他人のソフトでも自分のアバターを使える様になる。みんなで対戦してて、急にやりたくなったけどソフトを持っていない。そんな事態への対策だ。

 「じゃあ、やりましょう!」

 「ドラゴンプラネットじゃ拳だったからな。どんなスタイルになったか見物だ」

 理架はドラゴンプラネットオンラインで拳を使うスタイルを取っていた。しかしブレイドクロニクルには剣しかない。理架は必然的にファイティングスタイルを変える必要がある。

 「よし、観戦に必要なDSはあたしが持ってるから、思い切りやってこい!」

 そんなわけで自殺未遂者を絶望の淵から救うミッションが始まった。


 ブレイドクロニクル 対戦フィールド 


 ブレイドクロニクルで対戦をする際、通常のフィールドとは異なる『対戦フィールド』を使うことになる。プレイヤーが示し合わせて同じフィールドを選べば好きなフィールドを選べるが、意見が割れて互いに違うフィールドを選ぶと選ばれてないフィールドからランダムで決まる。

 『乱入あり』に設定すると、他のプレイヤーが乱入してくるし、『ハプニングあり』だと対戦中に敵が割り込んで来る。こちらは意見が割れるとすべて無しの設定になる。今回は両方共ありの設定だ。

 「今回は『防壁』だな」

 「2人で同じの選びましたからね」

 今回のフィールドは『防壁』。万里の長城みたいな場所だ。片側には町が、もう片側には森が広がる。何かの侵入を防ぎたいのか。進撃してくるなんかがいるんだろうけど、下を見ても何もいないのでとりあえず安心。

 「お前のアバターはそれか」

 理架のアバターを俺は見る。そういえば始めてだな、理架のブレイドクロニクルにおけるアバターを見るのは。ドラゴンプラネットからアバターをコンバートしていないため、姿すら違う。

 腹がザックリ見えるほど丈が短いタンクトップにホットパンツ、全身に入れ墨が入り、羽の髪飾りや骨のアクセサリーを付けている。インディアンを彷彿とさせる姿だ。焦げ茶色の長髪に同色の瞳、引き締まりながらも出るところは出て引っ込むところは引っ込むボディラインは、完全に大人のそれ。

 武器は骨を削り出した槍。骨武器といえば俺のボーンスプラッシュみたいに初期装備臭いが、理架のそいつは羽飾りや刃などから強化されたものであることを伺わせる。

 「随分変わったもんだ」

 「直江先輩も鎧なんか着て」

 「戻ってる?」

 理架に指摘されて俺は恐怖した。昨日、解除して捨てた『パフューム・アルマデューラ』が自分に装備されていたのだ。

 「さあ、早速始めますよ!」

 「仕方ない、やろう!」

 「あ、あの……」

 諦めて対戦に移る俺達を引き止める声があった。そう、自殺未遂した女子が観戦用アバターでこの場にいるのだ。薄い鎧で、新米兵士みたいな見た目だ。プレイヤーでない人間が観戦すると、対戦フィールドに合わせた観戦用アバターを割り当てられる。

 「これはなんです?」

 「対戦だよ、対戦」

 「ポケモンバトルと同じだよ?」

 「ポケモンってなんです?」

 理架がポケモンを引き合いに出したのはハイセンスだったが、残念! 相手は想像以上の強敵だった!

 「とにかく、これは明確に勝敗が着くごっこ遊びだ。よし、これ呪われた鎧だからこんなストーリーでいこう」

 俺はこのゲームの魅力を伝えるべく、頭を捻ってストーリーを作る。ごっこ遊びの延長みたいなプレイスタイルこそ魅力だよな。

 理架は深呼吸して意識を変える。俺を指差し、親の仇の様な目で見る。

 「やっと見つけた! 私達の集落を壊滅させた剣士!」

 「生き残りがいたか、私も温くなった。貴女の血はさぞ、私を熱くしてくれるんでしゅうね?」

 俺は呪われた鎧を纏う暗黒騎士。血を求めてさ迷うのだ。理由無く理架の一族殺ってる辺りヤバい奴だよね、俺。

 「この壁の建築に反対した家族をゴミの様に蹴散らして……私がお前を殺す!」

 あかん、設定が食い違ってる。打ち合わせ無しでするもんじゃないわこれ。

 「貴様自分の家族をゴミとは何事だ!」

 「うるさい!」

 遂に拗れた俺達は一合目を打ち合う。槍は攻略サイトによると『相手の三倍強くないと勝てない武器』とされる。間合いのせいだ。しかし、ドラゴンプラネットからのプレイヤーはあまり気にしてない。何故なら……。

 「【紅蓮の翼(メタトロンウイング)】!」

 「槍の上に!」

 こんな真似を平然とやるからだ。俺の背中に赤い翼が生え、理架の槍に乗るという芸当が可能に。

 ブレイドクロニクルで必殺技を覚えるには、秘伝書を拾うか自力で習得するしかない。自力習得はひたすら技をイメージし続ければ勝手に出来る。この技は必殺技ゲージを消費して全能力上昇と体重軽減効果が得られる。必殺技ゲージはこの状態だと消費し続けるから、短期決戦向けで他の必殺技と併用したらすぐにゲージが尽きる。

 「おりゃああ!」

 「【クリムゾンナックル】!」

 槍を疾走して理架に接近すると、なんと彼女は槍を手放したではないか。そして、右手に炎を燈したパンチを放つ。無茶苦茶や。

 「ぐはっ!」

 理架のパンチは俺の腹部に命中。吹き飛ばし効果があったのか、防壁の上を長距離に渡って転がった。

 「なんて技だ……」

 俺のHPは2割削れた。槍を手放す技とかありかよ。これは秘伝書にない自力習得技だ。つまり、理架は両手が燃えるイメージを持ってシャドーボクシングし続けて習得したのだろう。

 「こっちも! ヤケクソだ、呪われた鎧の力を見せてやる! 【宵闇装束】!」

 理架に負けたくないので、呪われた鎧の技を使う。闇が纏わり付く感覚は不気味だが、もうこんなものは慣れだ。

 「【苦悶撃】!」

 「ふんっ!」

 闇の塊を理架は右に飛びのいて回避。この瞬間を待っていた、もう一撃の苦悶撃を使える。

 「【苦悶撃】!」

 「きゃあっ!」

 これは確実にヒット。スリップダメージも手痛いだろう。

 「フハハ、怖かろう」

 「なんの……!」

 スリップダメージの証である闇が理架に纏わり付く。不気味さのおすそ分けだ。この不快さは対人戦では相手の集中を乱す為に有効となりそうな予感。

 (楽しそうだな)

 「ゲームは楽しいもんだろ」

 鎧に宿る女の声が響く。こいつが何者かはよくわからんが、さほど一緒にいるのが苦痛という相手ではない。

 「お前は何者なんだ? NPCなのか?」

 (わからない。記憶が無いんだ。それより戦いに集中しろ。来るぞ!)

 「了解! 【宵闇装束】!」

 俺は声の指示に従い、理架を見据える。空高く舞い、俺に飛び掛かって来る。闇を補給したらすぐ攻撃に移る。あまり闇を持て余すと痛い目を見る。右手を振って攻撃。

 「【苦悶撃】!」

 「てい!」

 なんと、理架は苦悶撃を弾いた。空中に飛ぶことで、ターゲットを自分の一点に絞って迎撃しやすくしたのか。

 (近接攻撃だ! 滅命撃だ!)

 「【滅命撃】!」

 左手の剣を教えられた技名と共に振ると、なんと剣に闇が集まって伸びたではないか。

 「くぅっ!」

 理架は槍でそれを防ぎ、地上へ降り立つ。こいつは強い。俺がボタンゲーの方が得意ってのもあるけど。

 「まだまだぁ!」

 「来るか!」

 理架が降りたのは俺より離れた位置。そこから俺と理架は互いに自分の間合いまで駆け寄る。

 「あ、あれ!」

 今まで観戦していた女子が声を上げた。壁の向こう、森の側を指差しており、そこに何かいるのは間違いない。俺達が戦闘を中断してそちらを見ようとすると、防壁全体に振動が走る。

 (見ろ! タイタンバイソンだ!)

 「壁を壊す気かあいつ!」

 そこには想像以上にでかいバイソンがいた。壁にぶつかり、破壊する気しかしない。

 「乱入だ!」

 なんとハプニング発生。ヤバい! 俺達だけでこのバイソンを狩らないといけないのか。

 次回予告

 進撃するタイタンバイソン! ウォールなんとか崩壊! 墨炎と理架はこの危機を抜けられるのか? そして女子生徒の決意とは?

 次回、ドラゴンプラネット2。「狩られるものの逆襲」。バイソンに、人は狩られるのか。

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