プレイバック1.表五家
表五家とは?
日本を支配する癒着の塊。詳しくはこの話にて。
プレイバックは基本的に前作の話題が出た時に必要に応じて現れる。前作の話をリメイクして掲載する。今回の話には関係無いので、スキップしてもおK。読めば深くドラゴンプラネットの世界を理解できる。
(出典:『視界ジャック5 舞台裏』)
愛知県警岡崎警察署 司法解剖室
愛知県警の岡崎警察署、そこには司法解剖室がある。そこにパンツスーツ姿の女性と、白衣を着た女医がいた。スーツの女性は髪をポニーテールに結い、女医は栗色の髪を長く伸ばしている。
「最近、遊人にも感情が戻り始めたみたいだ」
「それはよかったわね」
スーツ姿の女性、直江愛花は女医の癒野優に弟である遊人の近況を報告する。一応臨床心理師である癒野は遊人の担当医になっている。これで解剖医も勤める癒野はかなりマルチな人間といえよう。遊人はとある事件で心を閉ざし、感情を失ったのだ。
解剖室には解剖すべき遺体はないが、そんな時は癒野と愛花がたむろするスペースと化す。
「遊人君って、感情がないせいか心身相関も起きないのね」
「みたいだな。あいつが緊張したとか言ってるとこ、見たことないし」
癒野の言葉に愛花も同意した。今愛花達がいるのは解剖室でもデータを処理するスペースであり、会議室みたいな机とホワイトボードが存在する。
「そうだ。あることを思い出したのよね。凍空さんのことで」
「凍空だぁ?」
癒野が思い出したように愛花にいう。癒野は血の入った小さな瓶を白衣から取り出した。
「この前死んだ凍空コンツェルンの会長、凍空寒気氏の遺体から採取した血液に毒物反応があったんだけど……、報道じゃ病死扱いみたいね。あ、このサンプルは本庁の知り合いに分析を依頼されたからあるのよ」
「らしいな」
癒野の言葉に愛花は疑問を感じた。凍空会長はつい先月死亡し、警察発表では毒殺だったのにかかわらず病死と報道された。遊人はニュースを見ないせいか知らないだろうが、愛花は職場で話を聞いたのだ。
「これまたとんでもない偏向報道だな……」
「私と熱地学院大学の切り札、松永順が調査したから毒殺で間違いないはずだけど、結果は熱地に改ざんされたみたいね」
愛花は首を捻った。松永は司法に関わる家系と記憶してたので、なんで日本科学の中心熱地学院大学にいるのかわからなかったのだ。
「つか、松永って順の野郎のことじゃなかった? なんで司法の家系の人間が科学専門の学校にいるんだ?」
「うん。確かに松永家は司法を司る家系よ。でも順は科学向きのイレギュラー。もしかして表五家の話を知らない?」
「知りません……」
松永で表五家のことを思い出したため、愛花は薮蛇となってしまった。表五家の話は愛花としては何処かで聞いてこそあれ、完全に右の耳から左の耳だった。そのため遊人にも教えてないことだ。遊人は順を追う過程で知識を得ていたから知ってた。
遊人が感情を失ったことと、順は無関係ではない。
癒野はホワイトボードまで歩き、説明を始めた。
「表五家ね。これはベタベタに癒着して互いを守る仕組みで、日本の癌と呼ばれてるわ」
癒野はホワイトボードに名前を書いていく。まず、『渦海』と書いた。
「政界を牛耳る渦海」
次に凍空、熱地と名前がちょうど線を結ぶと三角形になる位置に書く。
「経済界を支配する凍空に学会を統制する熱地。まず、渦海が凍空や熱地に有利な法案を可決させ、凍空は組織票を、熱地は原発とかインフルとか関係で渦海に都合のいい科学的調査結果をそれぞれ与える。で、凍空の商品の性能テストや安全保障も熱地がやる、と」
「なるほど。でもそれじゃ、裁判所に法案止められないか? 三権分立とかいうし」
愛花の言葉を受けた癒野は、渦海の近くに松永と書く。愛花の言う通り、日本には司法、行政、立法の三権が分立するシステムがある。この段階では司法が表五家の手中に無い。
「ここまでは明治以降に生まれたシステム。松永の加入は戦後よ。法案を違憲にならないように松永が仕向け、凍空や熱地関係の訴訟も松永が担当するようになった。最高裁判官の家系で、国会も渦海が支配してるから弾劾裁判も行われない」
「三権分立はいずこ……」
愛花は頭を抱えた。こんなシステムが存在しては、三権分立なんて機能しない。癒野はそれらを丸で囲み、その外に宵越と書いた。
「同じく戦後に追加された宵越。これはそれぞれに不利な報道をしないように宵越が記者クラブを操り、資金などを得ている。宵越に関しては愛ちゃんも詳しいでしょ?」
「まさかここまでゴミとは知らなんだ」
「渦海、熱地、凍空、松永、宵越。この五つが表五家」
愛花は説明を聞いて妙に納得した風だった。刑事だけあり、理解力はあるようだ。
「それと、遊人くんが感情を取り戻したのはDPOのおかげみたいね。あれはアバターを操るために送信してるプレイヤーの脳波が、他のプレイヤーに脳波を通じて影響を及ぼすらしいの」
「へぇ。遊人はもう少しで、感情取られる寸前だったけどね。しっかしプロトタイプってNPC、遊人が昔感情を擬人化した絵にいた奴に似てたな」
愛花は出口へ歩く。今はとりあえず、切り裂き魔を追い詰めるカードを集めることにしたのだ。
東京都 宵越テレビ ロビー
宵越テレビは巨大なテレビ局だ。球体みたいな奇妙なものを引っ付けた本社ビルはお台場にある。
「ふー。仕事終わりっと」
その玄関口たるロビーで、携帯をいじりながら一人の少女が伸びをする。アイドルらしく、顔立ちは整っている。サイバーガールズメンバー、木島ユナだ。両隣には同年代の少女二人がいる
「これからどうする? 晩御飯食べに行く?」
ユナともう一人に声をかけたのは右にいた紫野縁。
アイドルオタクなら外見で三人がそれぞれ誰なのか見分けがつくが、一般人には全員同じにしか見えない。大人数アイドルグループなら仕方ないことだが、本人は気にしてるらしく少しでもメンバーとの差別化を謀ろうと、縁は髪を紫に染めている。
「いや、私は少しレッスン室で練習していく。コンサートも近いのでな」
左にいた河岸瑠璃は縁の誘いを断った。瑠璃は全身に浮世離れした空気を纏うリーダーだ。努力家なのか、あまりメンバーの誘いに乗らず練習ばかりしている。
正直、ユナも縁も瑠璃がロケ以外で宵越テレビを離れた瞬間を見たことがない。
「今日もリーダーは努力家ですねっと、ツイッター更新」
ユナは携帯でツイッターを更新していた。歌もダンスも、他のメンバーよりセンスがないから他でカバーしようという策略だ。センスがないなら瑠璃みたいに練習すればいいだけで、努力のポイントを間違えてる気がするが。そんな単純じゃないのがアイドルなのかもしれない。
「じゃあリーダー、練習ガンバ! 頑張り過ぎて倒れないでね!」
「うわっ、ツイッターのフォロワー増えてる!」
「お前らも気をつけろよ」
瑠璃はテレビ局を後にするユナと縁を見送った。姿が見えなくなると、もう一度呟く。
「本当に、気をつけろよ」
口調こそ心配そうだが、目はまるで獲物を見据えた猛禽類のようだった。
この話は、遊人の元カノも登場していたがカットした。関係無いもんね。第2部の伏線が既に張られており、現在は長篠高校にいるユナの初登場でもある。