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1.ブレイドクロニクル

 ブレイドクロニクルオンラインとは?

 通称BCO。ドラゴンプラネット以来、初のフルダイブオンラインゲームの新作である。

 プレイヤーは剣士となり、モンスターや賊を倒して修業を重ねる。フルダイブゲーム全てのテストヘッドを務めたドラゴンプラネットからアクション性と対戦を強化して生まれた作品。

 『何時でも何処でも誰とでも真剣勝負』がキャッチコピー。

 ゲーム研究部 部室


 午前で演習が終わると俺達は部室へ行き、部活をするのが慣わし。そして、昼食は俺が作る。料理が特技なんだよね。

 カフェの店員が付けてる様な、前掛けみたいなエプロンを俺は常に持ち歩く。ゲーマーズカフェっていう近くのカフェでバイトしてるからでもある。しかし放課後に帰宅部ゲーマーが集まる場所としての意味合いが強く、長期休暇は仕事が無い。

 「今日は釜玉カルボナーラだ」

 「遊人が料理得意だなんて知らなかったよ」

 「そりゃ、姉ちゃんが壊滅的に料理が下手だからその補填をだな」

 俺が料理を始めたのは、姉ちゃんが料理を作れずに栄養バランスを崩す恐れがあるからだ。姉ちゃんの友人から習って、今に至る。幼なじみといえ、病院にいた頃しか一緒にいなかったあかりはこのことを知らない。

 あかりと再会したのはつい最近。ライ麦で言うとこの『サイバーガールズ事件対策室』が出来た時の話だ。

 「そうだ。遊人はブレイドクロニクルオンラインって知ってる?」

 「なんだろ、そんな会話でドラゴンプラネットを始めた気がする」

 夏恋が俺にゲームの話を振ってくる。フルダイブゲームというジャンルの開祖、ドラゴンプラネットオンラインを俺がプレイすることになったのは夏恋の言葉が原因だ。

 「知ってる。今日やろうと思ってソフト持ってきたんだよ」

 だが今回の俺は一味違う。夏恋に言われる前からそのゲームに興味を持ち、ある程度プレイ済みだ。残念だったな。

 部室にある鍋やIHコンロを駆使し、俺は釜玉カルボナーラを作りあげた。

 「いやー、やっぱり遊人の料理は美味しいねー」

 夏恋からの月並みな感想を聞きながら昼食を済ませ、俺達はゲームをすることにした。フルダイブゲームがどういうものか、やはりやってみるのが一番だろう。手頃な椅子に座り、俺は3DSを起動する。

 その3DSにはイヤホンが刺さっている。このイヤホンこそがフルダイブに必要なウェーブリーダーなる機械だ。これを耳に付けてソフトを起動すればフルダイブができる。

 「集合場所は『クリスタルラビリンス』ね」

 「じゃ、ダイブするぞ」

 夏恋から集合場所を聞いた俺はソフトを起動してダイブを始める。スッと眠りに落ちる感覚があり、目を覚ますと部室ではなく部屋のベットに寝ていた。

 すでにここはゲームの世界。この部屋はプレイヤーに与えられる『マイルーム』で、自由に模様替えが楽しめる。

 俺の部屋はぬいぐるみが置かれていたり、妙にメルヘンな小物で彩られている。まるで女の子の部屋だ。それにはちょっとした理由がある。

 「もう慣れたな」

 ベットに寝る体は現実のそれより軽く、声も幾分かフワフワした高い声になっている。俺は部屋に置かれた姿見で自分の格好を確認する。

 姿見に写るのは小柄な少女の姿。艶やかな黒髪を腰の下まで伸ばし、アホ毛がセンサーの様にピコピコ動いている。どうやらこれは俺の感情と同期してるらしい。紅い瞳が正面を見据えていた。

 服装としては、シャツの上から黒いパーカーを羽織って、赤いチェックのプリーツスカートを穿いている、一般的な女の子の服装だ。靴はブーツ。パーカーの裾はわざと長くしてある。

 姿見の近くに立て掛けてある2本の剣を俺は手に取り、スカートのベルトに留めた。俺は二刀流の使い手である。この剣は初期から少し強化した『ボーンスプラッシュ』という、骨を削っただけの代物だ。

 「さて、あいつらを探しに行くか」

 俺はマイルームを出て、夏恋とあかりを探しにいく。集合場所を決めた理由は、マイルームの仕様にある。マイルームを出れば、そこはごく普通のマンション。上の階なので、そのまま階段を下りて下へ行く。

 ここは『ベッドタウン』というエリア。多くのプレイヤーがマイルームをここのマンションに持つ。マイルームは他のエリアに引っ越すことが出来るが、俺はまだ気に入った場所を見付けてないので引っ越ししない。

 ここはマンションというより集合団地だな。この集合団地が初期のマイルームとなる。数が多くて迷いそうだが、ある方法を使えば一瞬で行ける。真ん中の広場に青白く浮かぶウインドウとワープパネルがある。

 「ここがトランスポーターだな」

 ある方法とはこれのこと。自分の部屋や招待された相手の部屋にワープできる。もちろん、このエリアから出ることも可能だ。

 「じゃあ早速、クリスタルラビリンスだな」

 俺はウインドウを弄ってクリスタルラビリンスにワープ。一瞬で周りの風景が地下街のものに変わる。ここがクリスタルラビリンス。

 この世界は現実の日本列島を再現したものだ。そう、世界初のフルダイブオンラインゲーム、ドラゴンプラネットオンラインのプレイヤー達の記憶から再現したのだ。

 俺がいたベッドタウンは埼玉か何処からしい。で、このクリスタルラビリンスは栄の地下街だってさ。名古屋の一部なんだとよ。このトランスポーターを利用出来る様になる条件はいくつかある。まず、ゲーム中でトランスポーターに触れること。そうすれば何処のトランスポーターからでも触れたポーターに飛べる。

 もう一つは現実世界が関わるからスルーだ。で、俺は今、ちょっとした広場にいる。前と左右には通路が続いているが、後ろには地上へ出る階段がある。階段は『エルドラドスクレイパー』に通じている。

 「あ、来たね」

 夏恋が俺を見付ける。赤いドレスを纏った可憐な剣士のアバターはドラゴンプラネットでもお馴染みだった。アバターの外見をドラゴンプラネットからコンバートできるのだ。俺もそうした。声が現実のままなのは、俺と違ってアバターに合わせて声を変える機能を使ってないからだ。

 「何度見ても違和感あるなぁ、これ」

 そう言ったのはあかり。こいつのアバターはかなり現実の姿から掛け離れている。夏恋なんて髪色も現実と同じ黒だし。それ言ったら俺なんて性別から違うが。

 あかりのアバターは一言でいえばシスター。しかし、そのシスター服には様々な改造が。まず、腰の下までザックリ入った両側のスリット。本来ワンピースに分類される衣服にも関わらず、セパレートで腹も出てる。スカートを留めるベルトのゴツさと肌の柔らかさが対照的に写る。。

 プラスアルファ、色合いが黒基調に赤と普通のシスター服じゃない。銀髪に緑の目がよりアバターをファンタジックにしてる。十字架を模った大剣を背負っているのが、辛うじてシスター。

 「パーティ入れておくぞ」

 俺は手をかざして青白く発光するウインドウを出す。これがメニュー画面。『パーティ』の項目で、夏恋とあかりを自分のパーティに加える。

 「ともかく、今日はクリスタルラビリンスで何しようってんだ?」

 「マップ埋め」

 夏恋からとんでもない答えが返って来た。マップ埋め……だと? クリスタルラビリンスで?

 クリスタルラビリンスはその名の通り、まさに迷宮。プレイヤー達の記憶から栄の地下街を再現したのだが、その地下街がまず迷宮。そしてあろうことか、本来現実の地下街に存在しないルートや階層まで作っちまったから迷宮ぶりは加速する一方。

 「それをマップ埋めだなんて……」

 「はい、白地図」

 マップ埋めは夏恋が持つ白地図なるアイテムで行う。これを開封したエリアの地図を、歩くだけで記録してくれるのだ。今、地図にはこの広場しか書かれていない。

 「また何でそんな面倒な真似を……」

 「誰もしたことないからよ」

 夏恋は未だかつて誰もなし得ないことをしようとしていた。まず、面倒なのが理由の一つ。

 「本当に出来るのか?」

 「え?」

 「死んだら始めからだぞ?」

 そう、ゲームオーバーになったら筆記中の白地図は失われてしまう。つまり一回も死なずにエリアを踏破しないと地図は完成しない。未開封や完成した地図ならロストしないがな。このゲーム、デスペナルティが大したことないからガンガン殺しに来るし。

 「だから遊人を連れてきたんじゃん」

 「お前な」

 あかりは、それを考慮して俺を連れてきたんだと言う。戦力があれば死ににくいと思うけどね。

 「じゃあ、行きますか!」

 「おー!」

 やけにテンションが高い二人に対し、俺は自棄糞だった。ここのマッピングが困難な理由には『みんなのトラウマ』が関わっているのだ。

 「よし、まずは真っすぐ行ってみよう」

 とりあえず、夏恋の提案で直進することにした。すると早速敵を発見。ゾンビだ。これくらいなら倒した方がいい。今は一匹だが、こいつは放置すると仲間を呼ぶ。

 「おらよ!」

 俺は剣でゾンビを攻撃。二刀流を使うまでもなく、ゾンビを倒した。ゾンビの死体の上に青白く光るウインドウがあるので触れておく。メニュー画面と似た様な奴だ。

 『カンメシ』

 「ラッキー。自衛隊の食料だ」

 ウインドウがアイテムの名前を表示する。敵キャラはアイテムを落とすことがある。これは回復アイテムの一つ。自衛隊の食料なんだよ、カンメシって。何でも軍用食料の交歓会でも好評だったとか。パックメシなんてのもあるんだよ。

 「しかも全回復アイテムじゃない。あ、私はカロリーメイト」

 あかりもウインドウに触れてアイテム入手。パーティメンバーが落とさせたアイテムなら、同じパーティにいるプレイヤーは全員入手できる。

 「なんで私は腐った肉なのよ……」

 しかし、共有なのはウインドウだけ。そこから入手出来るアイテムは異なる。その証拠に、それぞれ手に入ったアイテムが違う。基本的に、アイテムを落とした敵を倒す際、どれくらい貢献したかでアイテムの取得確率が変わるらしい。貢献すればするほどいいものが出やすい。

 「やーい、腐った肉」

 「ぐぬぬ……」

 あかりが夏恋を茶化す。こいつらは何故か互いにライバル心を抱いている。何でだ?

 「ま、アイテムがあるだけマシだろ」

 とにかく俺達は先に進む。たまに出る敵を蹴散らしながら、マップ埋めをしていく。しかし、悲劇はマップ踏破率が50%を越えたところで起きた。

 「なにこれ?」

 「きたぁあぁぁあああああっ!」

 何気なく通路を歩いていたら、遂に『みんなのトラウマ』が姿を現した。目の前から何かが全力ダッシュしてくるではないか。つい叫んでしまった。柄でもない。

 そいつは頭が異様に肥大化し、脳が頭蓋骨に収まらずはみ出ている。妙に手足もひょろい。脳で目が隠れている。平たくいえば、妖怪人間ベムを気持ち悪くした感じだ。

 「出た! 受験戦争の犠牲者『パーフェクトブレイン』!」

 「ドラッグ漬けで脳を鍛えた結果だ!」

 設定からして狂気を感じる敵だ。夏恋とあかりは真っ先に逃げ出す。

 俺もついでに逃げる。こいつはまともに戦って勝てる相手じゃない。接近すればリーチの長い手足で切り刻まれるだろう。

 「こっちにも!」

 こいつの厄介な点は、複数存在するということだ。逃げた先にもパーフェクトブレインがいて、挟み撃ちとかよくある話。

 「バラバラになって逃げるぞ! このままじゃ一網打尽だ!」

 仕方ない、俺達はバラバラになって逃げることにした。地図を持っているのは夏恋。こいつだけ逃げれればなんとかなる。

 「よし、夏恋は逃げた!」

 夏恋が先に行ったことを見届けると、俺はパーフェクトブレインに向かい直る。ここでなるべく、時間を稼ごう。

 「来た!」

 パーフェクトブレインがただでさえ長い腕を伸縮させて俺を狙う。予備動作に入った時点で回避行動に移るが、あまりに攻撃が早いので左脇腹を掠る。

 「ぐっ!」

 深くえぐられ、服に血が滲む。俺は一旦、左腕に付けた腕時計で自分のHPを確認する。この腕時計には自分のHPが表示される。ダメージを受けたが、痛みはない。痛かったらゲームが成り立たない。ただ、痛みが無い分えぐられる感覚は明確に伝わる。

 HPを確認しようとした時、俺は背中を誰かに押される様な感覚を覚えた。胸に違和感を感じて身体を見下ろすと、パーフェクトブレインのものと思わしき腕がアバターの薄い胸板を背中から貫いていた。

 「後ろにか!」

 血を口から吐き、後方のパーフェクトブレインを睨んだ時には遅かった。HPのほぼ全てを削られ、戦える状態ではない。

 「ぐあぁっ!」

 前方にいたパーフェクトブレインが俺の腹に腕を突き立てる。完全にHPが無くなり、視界が赤く染まる。パーフェクトブレインの不気味な顔がぼやけ、瞼も重い。痛みは無いのだが、やはり内臓を掻き回されるのは気分が悪い。

 「あ……あぁ」

 ズルリ、とパーフェクトブレイン達の腕が抜け、俺の身体が地面に落ちる。か細い身体に2つも風穴を開けられ、血だまりに沈むことしか出来ない。生命力を失った少女に、パーフェクトブレインも興味を無くして立ち去ろうとしていた。

 「ま…て」

 しかし、HPが無くなっても即ゲームオーバーではない。ゲームオーバーはプレイヤーが諦めた時だけ。HPが0になったらアバターに大幅な制限を受けるが、『最後の抵抗』が可能だ。

 武器は持てず、立つことすら困難。それでも仲間の役に立てるシステムだ。具体的には、敵キャラの気を引いて時間を稼いだりだ。このゲームの敵キャラはプレイヤーのHPを認識しておらず、敵キャラの興味を引けばHP0でも囮として機能できる。

 パーフェクトブレインは頭がいい設定。だから、自分より見た目強そうな相手には立ち向かわず、弱そうな相手を残虐に殺す。これを利用すればわざと弱そうに見せ掛け、パーフェクトブレインをおびき出したりできる。俺のアバターはか弱い少女。パーフェクトブレインの大好物だ。

 案の定、俺が立ち上がるとパーフェクトブレインは興味を取り戻す。俺に迫り、首を掴んで引き寄せる。喉を握り潰される感覚がある。パーフェクトブレインはその醜い顔面をこちらに近づけてくる。

 「死ねよ!」

 俺はパーフェクトブレインの顔が至近に迫った瞬間を見逃さなかった。剥き出しの脳に頭突きを喰らわせると、パーフェクトブレインは大ダメージを受けてのけ反る。俺も解放されて固い床に叩き付けられた。

 怒り狂ったパーフェクトブレインは仰向けに倒れる俺を執拗に切り刻む。仲間のパーフェクトブレインが鉄パイプを手に、殴り付けてもくる。HP0でも動けるとはいえ、ダメージを受けるとアバターにかかった制限も増える。全く動けなくなった俺に満足したのか、再びその場を去る。

 俺は動けず、ただ自らの血に沈んでいた。さあ、さっさと戻りましょう。俺は腕時計の画面に触れて、ゲームオーバーを受け入れようとした。だが、そこで俺の意識が現実に引き戻される。

 「んなっ!」

 「あんたに来客よ。職員室に行きなさい」

 ゲーム研究部の部室に戻って来た。どうやら先にログアウトした夏恋がウェーブリーダーを引っこ抜いたらしい。正規の手続き無しにログアウトすると、アバターはその場に放置される。HPが残ってると簡単に殺されてしまう。幸い、俺はHPなど残ってなかった。

 「客ってなんだよ」

 「行ってみたら? あんた友好範囲広いから私達じゃ誰かわかんなくて。多分ヤクザの人じゃないよ」

 あかりがそんなことを言うから俺がヤバい人だと勘違いされるじゃないか。

 『ヤクザの人』は黒羽椿だな。裏社会の秩序を守る黒羽組組長にして、俺の幼なじみ。姉ちゃんが刑事で、黒羽組は悪い組織の情報を警察に流してるから知り合いなんだ。日本国憲法では集会、結社の自由が認められてるから、任侠ってだけでは捕まらん。

 「名前は?」

 「樋口遊菜だって。知り合い?」

 「知らん名前だな」

 俺はなにも知らず、その面識がない人の下へ向かった。目指すは職員室。来客なら間違いなく、そこにいる。

 剣士リスト

 墨炎

 プレイヤー:直江遊人

 武器:双剣『ボーンスプラッシュ』

 特徴:腰の下まで伸びる黒髪と紅い瞳。大きめな黒いネコミミパーカーに赤いチェックのプリーツスカート。靴はブーツ。ちなみにこの服装は『ドラゴンプラネット』最終決戦時でのもの。

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