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10.目覚めし呪いの根源

 現在、直江遊人は呪われた鎧『パフューム・アルマデューラ』が所有した【宵闇装束】を生かした技を開発している。

 そのいずれも双剣向きであり、本来の宵闇装束派生技が果たしてどのような技であったかは不明。

 岡崎市 中央図書館


 「来ましたね」

 「そりゃ来るさ」

 今日は土曜日、黒澤教授に中央図書館に誘われた日だ。何をしたいかわからんが、この人に呼ばれたら来るしかないだろう。

 「で、俺を呼んだ理由は?」

 「久世秋人氏の書いた本が無くなる怪事件を解くためよ」

 「げ、いたのか」

 理由を説明したのは樋口だった。何故こいつがここにいる?

 「どうです? 私と暮らす決心……」

 「つくかあああ! ナンセンスだな!」

 まだこいつはそんなこと言ってたのか。俺は今の家を離れる気なんてねえよ。もうすぐ姉ちゃんが結婚だってするし、ますます目が離せなくなるからな我が家が。

 「チッ」

 「今舌打ちしたか? 本気で悔しそうだな」

 樋口は本気で俺を息子にしたいのか。それだけ気にかけてくれるんならその愛情は恵まれない子供達にでもくれてやれ。

 「いいですか! あなたは私が提供した卵子から生まれたのです、だからあなたは私の息子です!」

 「また随分と言い切ったな。何故俺に執着する?」

 「母親だから! 息子に執着するのは当たり前よ!」

 熱意に押し切られそうだ。押し合いへし合いでは負けるな。なら、押してダメなら引いてみろだ。

 「そうそう、俺には弟がいるんだ。双子だからな、はい連絡先」

 弟をスケープゴート化しました。これでよし。奴の名刺があって助かった。奴はインフィニティ対策室の室長だから、俺も流布の為に名刺を渡されていたんだ。

 「久世秋人著の本が全国の図書館で無くなる事件ですが、私は犯人を探すべく手を打ちました。寄託資料として、この本を中央図書館に置き、おびき出す作戦です」

 黒澤教授が手にした本は、以前俺が学校で読んだ『男性学入門』と『女性学入門』だ。どちらも久世秋人著。そして、図書館は大学教授の寄託図書コーナーとして、長篠大学の教授が寄託した本を大々的に宣伝していた。

 「秋人は長篠大学の卒業生ですから、その著作を守るために先生方も協力は惜しみませんでした。彼は大学院生でしたが、大学院は別の学校に行きまして。そっちの先生方も本を出してくれています」

 「これなら罠をカモフラージュできそうだな」

 黒澤教授の作戦はこうだろう。秋人の本があると知れれば、日本全国の図書館から本消すような奴らだ、きっと消しに来る。

 「とすれば、これを囮にするのは合理的だな」

 「……作戦はまだ言ってませんよ」

 「『観察眼アナライズ』!」

 実は観察眼でも何でもないがな。これ言っときゃそれっぽくなるだろ。

 「どうですか黒澤教授! 私の自慢の息子は!」

 「息子じゃねえから」

 樋口の息子発言は逐一訂正しないと既製事実になるからな。全く熱地学院大学め、なんで始めから樋口を母親にしておかなかったんだ。いくら当時、樋口が14くらいといえ、それくらい可能だろう。どっちにしても俺は母親役を姉ちゃんと呼ぶことになりそうだがな。

 「全く、お前に育てられたら俺はどうなるんだよ……」

 「若干丸くはなりそうですね」

 「黒澤教授まで何を」

 教授も冗談がお上手だ。熱地どころか表五家にも反抗せず、エディや名鳩も救えなかったのは事実だろうがな。

 「さ、さっそく始めますよ。私達はモニタールームで待っています。あなたは図書の前で待機です」

 「へーい」

 俺は待機役か。作戦開始だ。こういう宣伝した図書は2階のポピュラーライブラリーに置かれる。1階のレファレンスライブラリーに比べると広く開けた場所だ。こんな状態でも盗もうとするなら、奴らは本物のクズだ。

 「『観察眼アナライズ』!」

 こんなことなら理架とか他のインフィニティを呼ぶべきだった。この能力で観察できる対象は非常に狭い。見逃しは厳禁だ。でもなー、あいつらの能力じゃ今回は役に立たないんだよなー。

 名鳩は触れた人間の体調を測る能力『超辛気バイタルチェッカー』。触れただけで病気や怪我も見抜くとは辛気臭い能力だ。未病も見抜ける様にパワーアップしたらしいが、今回は使えない。

 理架の能力は未だ不明。あの時は死にかけだったから発動していたらしく、怪我が完治した今や能力が使えないらしい。脳波を読み取って通信出来たんだがな。だけどなんだろう、最近の理架を見てると生まれる瞬間の卵を見ている様な高揚感を感じるんだ。

 「目が疲れた。やっぱり長時間は無理か」

 「はい、目薬」

 「気が利くな。あと樋口は作戦の待機ポイント戻れや」

 目薬をくれた樋口は気が利く。だが作戦中に余計な行動を取るな、死ぬぞ。

 「遊人のインフィニティ能力の弱点は既に調査済み、だからそれを埋め合わせる方法も……」

 「修業回は例年人気無いからパス」

 樋口によれば、俺のインフィニティ能力には弱点があるらしい。そしてそれを埋める方法もある。だが、俺は超能力バトルの参加者じゃない。弱点があるままでいいや。

 「お、なんか怪しい奴発見!」

 「様子を見よう」

 俺と樋口は怪しい奴を見つけたので様子を見る。秋人の本の前でうろちょろしてる。あのおばさんは怪しいでござる。『観察眼』無しで怪しいとわかるレベルだ。

 「本を取ったな。追う……ぞ?」

 おばさんが本を手にしたから追おうとしたのだが、どういうわけかおばさんは本を棚に戻す。そして、何かを取り出した。

 「チャッカマン……だと?」

 それは紛うことなきチャッカマン。図書館に1番あったらいかん奴や。この場で始末する気か!

 「『観察眼』!」

 着火するまで1秒もかからんが、俺達があそこに行くまでそれ以上の時間が必要だ。どうする?

 「何か、なんか投げるもんねぇか?」

 夏服のポケットを探ってもいいものは無い。ではどうするか。

 「こうする!」

 走り出したのは樋口。さすが国境無き医師団。体力が段違いだ。そして速い。

 「でい!」

 そしてチャッカマンを奪う。反応速度も桁違いか。恐ろしいな。

 とにかく本を焼こうとしたおばさんは樋口が取り押さえた。これが騒ぎになり、施設の職員におばさんを引き渡すことになった。

 「こいつ、夏恋をおびき出そうとした奴か?」

 そのおばさんに見覚えがあった。こいつ、椿達に捕まった奴だ。

 「まさか棚ごと焼きに来るとは思いませんでしたよ」

 黒澤教授も合流して取り調べが始まる。少なくとも、梅面の関係者なのは確かだ。

 気付けば、俺の携帯にメールがあった。ブレイドクロニクルのゲームマスター、錆色からだ。なんかあった時の為にメアド交換したんだよな。錆色が非常に嬉しそうだったのを覚えている。

 「錆色から連絡だ」

 『パフューム・アルマデューラが他のプレイヤーの手に渡った。今君達が捕まえている人だよ』

 「なんだと?」

 あの呪われた鎧が奴の手に? 状況を確認すべく、俺は錆色に電話をかけた。

 「もしもし、錆色か?」

 『あっ、遊人っ! なになに?』

 錆色はすぐに出てくれた。なんか妙に声が弾んでいるが、何かあったのか?

 「呪われた鎧を持ってる奴が今、図書館で本を焼こうとしたんだ。これって鎧が関係してんのか?」

 『うん、多分。遊人は幼い頃に感情を閉ざしたから影響が無かったけど、どうやら普通の人は負の感情を増幅しちゃうらしいの……ボクも今知ったよ』

 鎧の影響か。俺は小さい頃に事件に巻き込まれ、それで感情が壊死した。だから平気だったんだ。皮肉な話だ。

 「サンクス、愛してる」

 『え? はわっ、わわっ』

 サラリと愛を伝えて電話を切る。錆色はどうやら男に耐性が無いらしい。朱色との違いがまたわかったな。

 「というわけだ。対戦の準備だ!」

 「どういうわけ?」

 樋口はまだまだだな。黒澤教授など、そのおばさんの鞄からゲーム機取り出してウェーブリーダー付けてる。察しがいい。

 「いつでも対戦出来ますよ!」

 「その呪いを解く! 対戦スタート!」

 意味不明なテンションのまま対戦が始まる。こんくらい無理矢理テンション上げんと正直やってられん。全く、誰か知らんが、始めから久世秋人を襲わなきゃ俺が面倒抱えることも無かったんだ!


 対戦フィールド 樹海


 今回の対戦フィールドは樹海か。相手は誰なんだ? まあ目の前にいるがな。

 (私が近い! 全て取り戻せる!)

 「最後まで手ェ借りるぜ!」

 対戦相手は緑色の衣装に身を包んだ、銀髪のエルフ。ナイフ使いで名前は『デュナミス』。天使由来の名前だな。そいつの両手には黒い篭手が、両足は黒いブーツ、そして手にしている武器は……サイスの残りの部品! 両手に持つナイフの内片方がそれだ。

 「さっさと死んでもらう!」

 「都合が悪い、消えてもらう!」

 互いに互いの存在が邪魔か。しかし何故、あいつがパフューム・アルマデューラの一部を? まさか襲撃の被害者が生きてると知って、その意識の塊であるパフューム・アルマデューラを狙っていたのか?

 有り得る。半年前の、久世秋人襲撃事件時のインフェルノ社長は表五家にドラゴンプラネットのセキュリティホールを漏らしていた大川緋色だ。十分に生存者の存在を漏らしていた可能性がある。ただ、この鎧が生まれたのはつい最近だがな。

 「【宵闇装束】! 【奈落斬】!」

 「【ダークショット】」

 「効くか!」

 闇の玉を飛ばして来たが、必殺技同士のぶつかり合いは熱意のぶつかり合い。そんな棒読みで技名言って、技に力篭るか!

 「おおっ!」

 感情無き殺戮マシーンと化したデュナミスは両手のナイフで俺に猛攻をしかける。だが、技に力が無い! 脳波でアバターを動かすのだから、テンションが上がっていたりするとアバターも力を発揮できる。頭を活性化することが、勝利の近道だ。

 「でやあああっ!」

 ナイフを難無く弾き飛ばした。これで無力。後は一方的に切り刻むのみ。

 「【ダークソウル】」

 デュナミスは何事かを呟く。すると、凄まじい闇が奴の周りから吹き出した。

 「うお! なんだ」

 俺は闇に吹き飛ばされ、木にぶつかった。幸い、ダメージは少ない。デュナミスの手足は不気味に変質していた。真っ黒な獣の様な形だ。奴の目も真っ赤に充血して、血の涙を流している。怖っ!

 言葉にならない絶叫を発しており、なんかヤバいとしか形容出来ない状態だ。両腕が変化し、名状しがたいナイフの様なものになった。

 「ごがああ!」

 「うぐっ!」

 そして口から真っ赤な血の様なものを吐き出す。ブレス攻撃らしく、まともに喰らうとダメージがある。

 「ぐぶっ、げぶあ!」

 背中から紅い結晶の様なものが突き出てきた。なんか知らんが、マズイ気がする。

 「【宵闇装束】! 【奈落斬】!」

 何かされる前に倒さないと、今の奴は危険だ。処分するつもりで集めた鎧に負の感情を増幅され、自らの感情に支配されている。だが落ち着け、奴の頭上にある2本のゲージの下の方、必殺技ゲージを確認しよう。よし、無いならその腕を振り回すことしか出来まい!

 「何かわからんがくらえッ!」

 俺が接近して奈落斬をくらわせようとすると、デュナミスの周りから紅い電流がほとばしる。

 「ぐっ?」

 それを受けると、全身から血が吹き出て上空へ飛ばされる。やけに長い滞空時間の後、ようやく落ちることが出来た。

 「かはっ! ナンっ、センスな!」

 そして俺のHPは消し飛んだ。とんでもねぇ化け物だ、こいつは。

 「くそっ!」

 まさか負けるとは。いや、驕りでも何でもねぇ。俺は確かに、奴の頭上にある必殺技ゲージが無いのを確認したはずだ。奴は必殺技ゲージが無くても必殺技が出せ……。

 「ぐおっ!」

 また紅い電流が襲ってきた。まさか、あれは通常攻撃だとでもいうのか?

 「ぐっ、がっ!」

 デュナミスは俺の両腕を掴んで引っ張った。痛みが無いだけ、ひきちぎられそうな感覚がしっかり伝わる。関節が伸びる。プチプチと筋肉がちぎれる音が身体に響く。

 でも、倫理コードの関係上、手足はちぎれんはずだ。物理エンジンによってゲーム内の物体はアバターも例外無く制御されているが、それに制限を倫理コードがかけている。つまり、物理的な力で、物理エンジンで再現される限りは手足がちぎれる様な力で引っ張られても、倫理コードのおかげで手足はちぎれない。

 「んぐあっ!」

 急に引っ張られる感覚が無くなったので変な声が出る。地面に落とされた。身体を暖かい液体が濡らしていた。まさか……。

 「な、ナンセンス!」

 なんと、両腕がちぎれているではないか。感情が壊死、そしてドラゴンプラネットで手足をもがれる経験をしてなければ発狂しているところだ。まさかこいつの攻撃は倫理コードを貫通するのか?

 「マズイ! ダルマにして口では言い表せない攻撃をする気だ!」

 倫理コードが効かないってことは、何されるかわからんってことだ。幸い、痛みをシャットダウンするペインアブゾーバーはウェーブリーダーの方に積まれているから機能している。しかしそれがなければ気絶しかねないダメージだ。

 「っ! 鎧が!」

 そしていつの間にか、鎧が消えてインナー姿になっていた。どういうことなんだ? 俺に死ねと?

 「ていうか、なんで対戦が終わらんのだ?」

 「私がいるからだ」

 「はあ?」

 鎧の意識が、鮮明に声を発した。樹海の空に、俺が集めた分の鎧と武器、そしてデュナミスが集めた分の篭手とブーツが浮かんでいた。それらは一つの闇となり、姿を現す。

 長い銀髪をなびかせ、美しい少女が上空から降りて来る。肌は白く、現実味を感じない。衣服は漆黒のドレス。モチーフがパーティーで着るイブニングドレスだからか、肩から胸元、背中にかけて大きく露出している。ロングスカートは右側にスリットが入り、タイツに包まれた脚線美が覗く。

 ドレスの上半身に着用しているコルセットは鉄製で防具の役割がある。ゴツい鋼鉄の篭手はか細い腕を強調し、ハイヒールがスラリと背を伸ばす。指に漆黒の大鎌を絡めて振り回し、自らの動作を確認する。

 「来い、化け物」

 「生きていたか!」

 デュナミスが雷を纏いながら突進する。少女は華麗にスレスレで回避し、斬撃を加える。少女の名前は……『ネフィ』か。

 「【宵闇装束】」

 ネフィが纏う闇の量は俺の比じゃない。やはり、本来の使用者が使うと違うのか。

 「お前は久世秋人と共に死ぬべきだった!」

 「……秋人さんに何をした?」

 「我々が男女平等のために始末した!」

 なるほど、だいたいわかったぞ。デュナミスのオバハンは梅面の関係者ってことは、夏恋をおびき出した件でわかる。デュナミスはネフィがまだ生きてると知り、インフェルノ社が治療の過程で生み出してしまったパフューム・アルマデューラに気付いた。

 察しが無駄にいいのか、それが意識不明のネフィを目覚めさせる鍵になっていると知ったデュナミスはパフューム・アルマデューラを廃棄する為に集めたんだ。だけど、俺が試した通り廃棄は不可能だったってわけだ。

 久世秋人の襲撃に巻き込まれたネフィは犯人を目撃しているはず。そこから芋づる式に、ってこともあるからな。デュナミス的に消したいんだろ。梅面の仲間がこれをしてるっつーことは、久世秋人襲撃は梅面の差し金かね?

 「っ……!」

 「惑わされるな! 剣が鈍る!」

 記憶が曖昧だったのか、それが鮮明になってネフィは困惑した様に頭を抱える。ネフィの技は集中力を使うだろう。だからなんとか声をかけて冷静さを取り戻さないとな。

 「【苦悶撃】」

 鎌をネフィが全身を使って振り回すと、複数の闇の玉がデュナミスを襲う。爆発が起きて、デュナミスも大ダメージ、と思ったらHPゲージが異様に長いし。バグってんのかこいつは!

 「ふんっ!」

 「っ!」

 両腕を振り回すデュナミスの周りを、鎌の柄で攻撃を受け流しながらネフィは張り付く。

 「【奪命撃】!」

 そして隙を見つけて手痛い一撃を加える。デカイ相手にはこれがいいのか。相手は必殺技ゲージも満タンだが、必殺技を使えない。奴の必殺技はナイフに依存するだろうからな。通常攻撃でジワジワ敵のHPを削り、必殺技ゲージも貯める。

 「この技は……? 【絶命双刃】!」

 何かに気付いたネフィは鎌を双剣へと変化させる。闇のシルエットが分裂して変身した。鎌が物理的に割れて変身したわけではない。俺の影響なのか?

 「【奈落斬】!」

 「ぐふっ!」

 俺の生み出した技を完璧に使い熟し、デュナミスを十字に切り裂く。いい手並みだ。そのまま接近した状態でラッシュを叩き込む。技の効果が切れたのか、鎌に戻った武器に闇を纏い、別の技を出す。

 「我に分け与えよ、【与奪】!」

 「ぐぬうう!」

 なんと、必殺技ゲージを奪う技もあるのか。凄いな。ネフィが相当な実力者だとよくわかる。強力な技ほど練習が必要だからな。

 「【宵闇装束】、【無間撃】!」

 闇を纏うネフィが、鎌を地面に突き立て目を伏せる。すると、闇で出来た刺がデュナミスの足元に生まれる。回避出来なかったデュナミスは地面に縫い付けられる。あの量の闇を一瞬で使い切るほどの技だ。当たれば次を確実に決められる。

 「【宵闇装束】、【身裂撃】」

 もう一度闇を纏うと、ネフィはそれを鎌の刃に集中させる。鎌を振るうと、暗黒の巨大竜巻が発生した。非常にゆっくりだが、針に刺されているデュナミスは回避が出来ない。

 それに呑まれたデュナミスは全身を引き裂かれ、浮上する。竜巻が消えてデュナミスが地面に落ちると、かなりあったHPが大幅に減っていた。HPゲージが赤くなるほど短い。HPゲージは普段緑色だが、短くなると黄色、赤色と変色する。

 「あの遅さ……そうか、固定ダメージ技か」

 竜巻がやけに遅い理由がわかった。『HPをレッドゾーンにするまで削る』があの技の効果だ。その効果は戦況すら変えてしまう、だから竜巻は避けやすいように遅く調整されていたのだ。だが、ネフィは別の技で足止めすることで確実に当てた。

 デュナミスのゲージが異様に長いせいで、レッドゾーンまで削ってようやく普通と同量のHPだがな。HPだけは装備強くしても変わらないのに、何なんだあいつは?

 「【宵闇装束】、【苦悶撃】!」

 なにより、必殺技ゲージは宵闇装束でしか消費されないってのも管理しやすくて便利だな。宵闇装束で纏った闇を苦悶撃で放出、デュナミスのHPが全部消え失せた。物量って凄いんだな。

 「お、おい、お前……」

 対戦が終わると、すぐにログアウトさせられたためネフィと口を聞く機会が無かった。

 「遊人!」

 「あ、ああ」

 樋口に声をかけられ、俺は現実に戻る。ああ、たしか俺は他の奴らがデュナミスのオバハンを取り押さえてる間に対戦したんだな。だから図書館で立ち尽くしている。

 「まさかゲームでのことが現実に影響するなんてな……」

 ただ呪われた鎧を手に入れただけのオバハンが狂気に駆られたとは、正直驚きだ。鎧だって久世秋人の知り合いが作ったんだからまさか『本を燃やせ』なんて指令は入力せんだろうし、負の感情爆発だけでこの有様かよ……。

 間違いなくデュナミスのオバハンはどの勢力に属しても迷惑な味方ポジになるだろう。どう考えても精神力弱すぎ。

 「警察に引き渡しましたし、あなたに話したいことがあります」

 「へ?」

 オバハンを警察に渡しながら、黒澤教授が俺に話しかけてきた。話しこと?

 「先程、この3DSで観戦しましたが、ネフィというプレイヤーのことです。この3DSが彼女のものです」

 「何?」

 「ついて来て下さい。全てを話します。あ、樋口さんは置いていきます。あまりたくさんの人を通したくありません」

 黒澤教授とネフィに関係が? 少し気になるし樋口を引き離せるなら御の字だ。俺は教授の運転する車で、インフェルノ本社に入る。地下駐車場に入ったかと思えば、車庫に入れて、そのまま車庫の扉が閉まる。車庫そのものがエレベーターになっているらしく、俺達はさらに下へ降りていく。

 「着きました」

 「ここか」

 車から降りると、目の前に電子ロックされた扉がある。黒澤教授が静脈認証っぽい機械に指を触れると、扉が開く。扉は鋼鉄性で、恐ろしく厚い。

 「通信機器はここです」

 「厳重で何より」

 通信機器は金庫に預けるらしい。こんだけしっかりしてれば安心だ。

 中は真っ白で病院みたいだ。黒澤教授が足を止めたのは、巨大なガラスが嵌め込まれた壁の前。ガラスの向こうには生命維持装置に繋がれてベッドに眠る少女の姿があった。

 「『観察眼アナライズ』」

 息遣い、心電図の鼓動から、あれがネフィであることに気付いた。ネフィは久世秋人襲撃事件に巻き込まれて昏睡状態だったな。

 「久世秋人襲撃事件の唯一の証人として、現在は警察とインフェルノ社が共同で保護しています」

 「そうか」

 俺はついに、呪いの根源に辿り着いた。

 次回予告

 遂に姿を現した呪いの根源、ネフィ。彼女を昏睡状態の身体に戻すには、ネフィのマイルームからログアウトさせるしかない。

 しかし、ネフィの抹殺を狙う奴らが邪魔をする! ネフィはHPが0になったら完全に消滅してしまう。

 次回! 遊人達がブレイドクロニクルの世界を横断する!

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