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9.日本のアニメにありがちなこと

 剣士リスト

 アイリス

 プレイヤー:アイリス・レイド

 武器:刀『妖刀反骨上殺・真打』

 岡崎市 ハラールマーケット


 俺はこの日、バイト先である『ゲーマーズカフェ』のマスターから依頼を受けて幼なじみの家族が経営する店に向かった。依頼の内容は『ムスリムの人が安心して食べられるメニューを作れ』。ムスリムとはイスラム教徒のことだ。イスラム教では豚など食べてはいけないものがある。

 何故そんな戒律があるのか。幼なじみが言うには、豚は羊と共に遊牧出来ないからだとか。あんまり歩けないらしいな、豚。当時遊牧民だったムスリム達にとっては足手まといもいいとこだろうな。宗教というのは科学が説得力を持たない時代に秩序を守る役割があったのだろう。

 俺が向かう店はハラールマーケット。イスラムの戒律で『食ってよし』とされる食材『ハラールフード』を扱う問屋だ。日本にもムスリムがいるし、確かにあると便利だろう。そもそもイスラム教徒は世界的にも多いんだよな。

 「なんだよー、お前アイリスさんと幼なじみなら言えよ」

 「隠したつもりはないんだがな」

 何故か門田までついて来やがった。幼なじみのアイリス・レイドの両親がハラールマーケットを経営しており、俺とアイリスはクラスメイトだ。つまり門田もアイリスとクラスメイトということになる。

 これだけは『観察眼アナライズ』無しで断言出来る。門田隆一はアイリス・レイドに惚れている。元々俺は観察力が高い、ていうか観察力云々以前にまる解りなんだよ。

 「いや、言っていないのは隠しているのと同じだ!」

 「無茶言うな」

 アイリスのことになるとどうしてこうも突っ掛かるかね、こいつは。好きな人だからって必死過ぎだよ。

 「けどよぉ、アイリスさんがイスラム教徒だなんてな」

 「アイリスはイスラム教徒じゃない。家族も違う。ただ、先祖がイスラム圏出身ってだけだ。両親はスイスで生まれ育ち、商売もしてたけど、『日本じゃハラールフードが手に入り難い』って声を聞いてな。当時はインターネットも無かったし」

 アイリスの出自を説明すると非常に複雑な様でシンプル。両親はムスリムじゃないけど、商人目線で『日本でハラールフード売ったら儲かる』と感じてハラールマーケットをやってる。

 「アイリスが日本語に加えてドイツ語、英語、フランス語を話せるのは元々スイス出身だからだ。スイスは公用語が多いからな。今から行くハラールマーケットも本店はスイスで今は親戚に任せてるそうだ。支店を出す時は自分が動くってのがポリシーらしくてな」

 アイリスは幼少期、つうか小学校低学年の頃はスイスにいた。高学年くらいから日本に来たんだ。親父さんが世界規模で展開する『ハラールマーケット』の店長であり、その日本出店についていく形で家族も日本に移住した。

 「なんか頭の中がこんがらがりそうだ……。一気に話過ぎ」

 「そうかそうか。知るか」

 門田の頭をパンクさせたが、知らぬ。普段から水球以外にも頭使わないとそうなるぞ。ていうか五月蝿いのでいっそパンクしてしまえ。サーバー落ちてしまえ。

 「お前、アイリスさんとはどこまで進んだ?」

 「何の話だ」

 「幼なじみだからそういう意識の無い時に一緒に風呂入ったり、遊びでキスしたんだろどうせ!」

 「するかよ」

 こいつは幼なじみを何だと思っているんだ。ねーよありえねーよ。普通に昔から仲のいいダチだよ。互いに趣味がゲームだし。

 「そろそろ黙れ。着いたぞ、あれだ」

 「普通のスーパーマーケットじゃねぇか」

 「下手にモスクの形とかすると怒られるから無難なデザインにしたんだ。見ろ、イスラムの偶像崇拝禁止を反映して店のマークはカリグラフィーだ」

 門田の感想も理解出来る。だって普通のスーパーマーケットですもの。しかし店のマークとかはイスラム美術としてポピュラーな文字装飾である。イスラムでは偶像崇拝を禁止してるから、残念ながら預言者達の姿は現代に残っていない。口惜しさと徹底された戒律による美しさを感じる話だ。

 「なんて書いてあるの?」

 「アラブ語で『ハラール』。まさにハラールマーケットのテーマだ」

 マークの由来はアイリーンから聞いたことがある。ハラールってアラブ語をデザインしたものだ。

 ハラールマーケット店内も普通のスーパーマーケットと変わりは無い。スカーフしてる女性が多いわけでも無いしな。実は、イスラム教の国で女性にスカーフ強要してる国は少ない。サウジアラビアとかエジプトくらいなもんだ。スカーフといえば黒っぽいイメージがあるだろうが、店でスカーフをしてる女性のそれはオシャレなデザインだ。

 「スカーフしてる人いないな。しててもオシャレじゃん。ほらよ、ニュースで見るとだいたい黒いだろスカーフ」

 「国によっては『宗教を公共の場に持ち込まない』世俗主義によって、逆にスカーフを禁止してる国がトルコやフランスとかあるしな。その辺緩い国の方が多いんだよ」

 本当のところ、戒律は緩いところは緩い。国によって事情は様々だ。

 品物を眺めて歩くと、やはり豚肉が無い。中にはハラールフードを証明するマークが付いた品物がある。

 「やー、やー。君達見ない顔だね。日本人だから仏教徒ブッティスト?」

 「そうでムガムガ」

 門田が買い物中のおばさんに話し掛けられ、何の警戒も無く答えようとした。なので静止をかける。

 (何する!)

 (いいか、仏教に詳しく無いのに不用意に仏教徒って答えんな! 宗教談議が始まるぞ! イスラム教では異教徒を改宗させることがいいこととされてるんだ)

 本人は良かれと思ってやってるし、日本人以外には話が展開出来るキッカケなんだよな。ただ日本人は宗教に疎いから不用意に仏教徒とか言って話に困るのが大半だ。

 「仏教? 神様じゃないのを信じてるの?」

 「仏様は理想の人格であり、信仰の対象というよりは目標に近いですね、ハイ」

 何とか切り抜けた。クリスマスと初詣を同時にやる様な奴が仏教徒とか不用意に言うもんじゃない。宗教なんてのは犠牲無しに信仰できるもんじゃねぇぜ……。

 「そうなのか。知らんかった」

 「ソースは聖☆おにいさん。読んだことないけど書いてありそうじゃない?」

 「ソースは適当かよ!」

 アイリスから聞いたんだよねこれ。まさか聖☆おにいさんがこんな真面目な話題を取り上げることはないだろうけどね。

 「おいおい、仏教徒でこれならキリスト教徒はどうなるってんだよ? 戦争か?」

 「お前は何を言っているんだ」

 「は?」

 どうやら門田はニュースの刷り込みでキリスト教とイスラム教が仲悪いと思ってるらしいな。正確には違う。

 「イスラム教とキリスト教の根本的な違いはイエスを救世主とするかどうかだ。イエスはイスラム教では預言者なんだよ」

 「親戚みたいなもんなのか。親戚同士で殺し合うのも馬鹿馬鹿しい」

 「そういう親戚もいるのですよ……」

 確かに親戚同士の殺し合いは馬鹿馬鹿しい。だが、真夏の実家である凍空財閥の親戚一同は会長の座を巡って、ゲームで殺し合った。馬鹿馬鹿しいのとしないのでは違うからな。馬鹿馬鹿しいことをする奴はいる。

 「遊人!」

 「アイリスか」

 俺達に駆け寄ってきた女子がアイリス・レイド。褐色肌にちょっと癖のある黒髪が特徴。その髪は伸ばしてポニーテールにしてあるけど、本人曰く姉ちゃんのオマージュとかなんとか。冷房に弱いので、夏服でもセーターと黒いタイツは着用し続ける。眼鏡をかけている。

 「アイリスさん、俺もいます」

 「あれ? 門田くん何で?」

 アイリスは門田など眼中に無かったようだ。元々男子を気にするタイプじゃない。

 「何しにきたの?」

 「メニュー作り」

 俺の目的はハラールフードを使ったランチだ。低アレルゲンランチとか作ったけど、こういう専門店があると楽だな。

 「あ、私、黒澤教授から遊人に預かっているものがあるんだ。大学の学生さんとイスラム関係の授業でここに来ててね。遊人と私が幼なじみっていうことを伝えたらこれを」

 「何?」

 「伝言。今週の土曜日、岡崎市中央図書館に来てね、だって」

 まさかこんなところに黒澤教授が来るとはな。女性学とイスラムって関係があるんだっけ。確かにイスラムにはスカーフ強要していたり、女性蔑視なところが……。

 「それは違うよ!」

 とか考えていたらアイリスに論破された。幼なじみでは考えてることくらい見抜かれるか。姉ちゃんに観察の方法ならアイリスも習ったし、洞察力ならインフィニティ能力未発動時の俺と同等だ。

 「スカーフっていうのは、ムスリムの家にある、女性のスペースを仕切るカーテンを外に持ち歩くのと同じ感覚だね。好意的に捉えれば、スカーフは戒律の中で女性の活動範囲を広げる為に生まれたものであると考えられるよ」

 「なるほど」

 アイリスは日本語を習ったのが他の言葉より遅いせいか、文法のルールをしっかり守って使用する。主語の省略とかは絶対しない。

 「どういうこと? サッパリわからんぞ」

 「えっーと、イスラム教圏の家では女性の居住スペースを仕切るためにカーテンが……」

 「そういうことじゃないと思うぞ」

 門田が混乱しているのは、俺達が言外でコミュニケーションを取ってしまったから急な話の展開についていけなくなったのだ。アイリスはそれに気付いていない。

 「あー。遊人が黒澤教授の専攻する女性学とイスラム教の関係を考えて、『スカーフ強要したり女性蔑視な部分がある』と考えたから私がそこに『好意的に見ればスカーフは戒律の中で女性の活動範囲を広げる手段』って反論したっていうのが話の流れ」

 門田が何とも言えない顔してるな。そりゃあそうだ。好きな人が他の男と言葉を使わずにコミュニケーションしてたからな。インフィニティ能力を使えばそういうことも可能な奴がいるが、俺だけがインフィニティ能力持ってても仕方ないし今回は使ってない。

 「遊人、おめぇ……」

 「案ずるな門田。日本のアニメでは幼なじみはくっつかない運命にある」

 ショックを受ける門田に俺はエールを送る。全く世話の焼ける奴だ。

 「ここはアニメじゃないけどね」

 「ぐぼっ!」

 「門田ァー!」

 しかしアイリス本人に現実を突き付けられて撃沈。昔、ガンダムでアニメのオープニングなのにアニメじゃない連呼してたやつあったな。

 「アニメじゃない(アニメじゃない)、アニメじゃない(アニメじゃない)、ホントのこーとさー。うん、コーラスも完璧だ」

 「払わなくていいお金を払わないといけないから、その音痴な歌を辞めなさい」

 「あ、梅面チィース!」

 「呼び捨てもやめなさい」

 自然な流れで梅面名誉教授が登場。梅面の言うことだし音痴も適当に言ってると思ってる人がいるだろうが、俺はマジで音痴だ。キャラソンの心配が必要なレベルで音痴なのだ。

 「何しに来たゴルァアアアッ!」

 「すぐに喚く、これだから男は……」

 「いや、これは門田が純粋にお前を嫌ってるだけだからこれは奴の男性性に起因するもんじゃないぞとナンセンスにマジレス」

 梅面の登場で門田が豹変した。お前マジで梅面嫌いなんだな。マジレス、いわゆる本気の返答が必要なレベルだ。

 「イスラム教とかいう女性蔑視な宗教を潰しにき……」

 「ハイハイ、解散解散」

 面倒を誘発しないように、俺達は解散する。もうこいつに関わりたくない。樋口の方がマシだ。そういえば最近あいつ見ないな。諦めたか?

 「何してるんですか?」

 「噂をすればなんとやらだよチクショー!」

 そんなことを考えていたら樋口が合流してしまった。なんという失態だ! 噂をしてフラグを立ててしまうとは、俺は万死に値する!

 「あと梅面さん。あなたはイスラム教圏で女性の教育拡充を目指す人の肉壁にでもなって来なさい。あなたは欧米や先進国の感覚でものをいい過ぎですよ」

 「さすが国境無き医師団!」

 梅面の中にある先進国基準を見抜くとはさすが樋口、俺達に出来ないことを平然とやってのけるッ! そこに痺れる憧れるゥ!

 「イスラム教を作った人達も何とか戒律の中で女性の権利を拡充しようとしたのですよ。『四人妻』、一夫多妻制も戦いで男が減り、当時は女性が生きていくのに結婚が必須だったため生まれた制度だったのです。それに、戒律の中では『精神的な面も含めて平等に扱え』と無茶を言ってますので実質的な禁止事項でした」

 「それで合っています」

 アイリスからのお墨付きもある。西洋から見たらまだまだだが、彼らなりに考えていることは認めなければならない。ニュースでは過激派ばかり話題に上がるが、あれだけデカイ宗教だと一枚岩にはなれん。イスラム教はあんな過激な奴らばかりではない。組織はデカイほど意思統一が困難だ。現に、イスラムより規模の少ないフェミニスト達も一つになっていない。

 「ぐぬぬ……」

 「お前アレだろ。欧米でやってることはいいことだと思って無批判に取り入れるタイプだろ。上げるほど税収が下がるタバコ税とか」

 明治維新からこういう考えの奴はまるで成長していないな。自分達の文化に目を向けれない奴らが多様な文化を消していくんだ。文化の真の敵は無能な身内なのだ。

 「ならば……」

 「ブレイドクロニクルで勝負、だろ?」

 「わかればよろしい」

 梅面は予想通りブレイドクロニクルによる勝負を求めて来た。前回は不覚を取ったから本人には不満な結果だっただろう。

 「私も戦うよ!」

 「ならば2対2です! 今助っ人呼びますから」

 アイリスが参加を表明したので今回はタッグ戦か。哀れ門田、ブレイドクロニクルのプレイヤーでないばかりにハブられて。

 「というわけで、事務所まで行きましょう。事務所でブレイドクロニクルの対戦を!」

 アイリスって思い返すと喋り方に特徴あるよな。絶対に主語を省略したりしないし。

 俺達は店の事務所に移動して対戦をすることにした。梅面ことジブリールとの対戦はこれで2回目だ。


 ブレイドクロニクル 対戦フィールド 校庭


 今回選ばれたフィールドは校庭。校舎に見守られたこのフィールドでのバトルになる。

 (梅面里文……聞き覚えがあるが思い出せないな)

 「テストに出ないからな、忘れるさ」

 俺は、今日は鎧の意識が起きていることに気付く。こいつが寝てる時と起きてる時ってどうやって決まるんだ? とりあえずそこら辺のもの壊して必殺技ゲージ稼ぐか。

 「梅面名誉教授は校舎の玄関付近にいる。私と遊人は校庭の真ん中にいる状態っと……」

 俺の隣にいるアイリスのアバターは、まさに日本のアニメにありがちな『戦うヒロイン』そのものだ。セーラー服の女子高生が刀を持っており、鞘はスカートのベルトにある。2人してそこら辺のものを壊したため、必殺技ゲージは満タンだ。オブジェクト破壊で必殺技ゲージは貯まる。

 「さあ戦闘開始です!」

 「猫パンチで死なないで下さいね」

 「あれは無かったことに」

 ジブリールチームの助っ人は青い鎧の女性。刺々しいデザインの鎧は『竜騎士』と呼ぶに相応しい。槍を手にしており、今にも跳びそうだ。名前は『エクシア』か。その名前はガンダムから取ったのか、それとも天使から取ったのか気になる。

 「ガリか」

 「ガリって言うな!」

 竜騎士は役に立たないから寿司屋でも自重してガリしか頼めないってネタがあったな。この反応だと例のオンラインゲーム経験者か。

 「私はジブリールを抑える。遊人はエクシアを!」

 「了解! 【宵闇装束】!」

 そんなわけで戦闘開始。チーム戦だからな、バラバラに戦うと見せ掛けたりイロイロ出来る。

 「【ドラゴンダイブ】!」

 「ところがぎっちょん! 【断絶斬】!」

 エクシアが技で高く跳び上がり、俺に向かって急降下。それを寸前で回避した俺は両手の剣から斬撃を飛ばす。それをエクシアが回避したが、その斬撃はアイリスと戦闘中のジブリールに向かう。わざとエクシアとジブリールが一直線上に並ぶ様に、アイリスと立ち位置を調整したのだ。

 それをジブリールは盾で防ぐ。絶対防御技である、光の盾だ。絶対防御は連発出来ない。だから俺はそれを狙ったのだ。

 「チッ!」

 「この瞬間を待っていたんだっ! 【断界の一撃(アポカリプス)】!」

 絶対防御後の隙をアイリスが『断界の一撃』で仕留める。天にかざした刀に、極太の雷が上空から墜ちる。それを振り下ろすと空間ごとジブリールが切り裂かれた。

 「なに……!」

 「隙が大きい代わりに威力も絶大な必殺技。日本のアニメではお約束なり!」

 本来なら実用性度外視のロマン砲であるはずの必殺技をジブリールはまともに受けた。HPの8割をたった一撃で持ってかれたのだ。しかしジブリールはダメージの分、必殺技ゲージも貯まった。

 「【天使の祝福】!」

 ジブリールは反撃に出ず、回復に必殺技ゲージを割いた。この状況下での回復はハッキリ言ってジリ貧まっしぐらだ。必殺技ゲージを全て消費してその分回復する技らしく、全回復には至らなかった。オマケに対戦ゲームで回復技が連発出来るわけもなく、ジブリールの回復はこれで打ち止めだ。天使の祝福は一回しか使えないはず。

 「よそ見しない!」

 俺は俺でエクシアを倒すか。タッグ戦だからな。先に誰かを倒して2対1に持ち込めば楽だ。

 「【奈落斬】!」

 「【ドラゴンスパイク】!」

 エクシアはゲームセンスがあるらしく、俺と渡りあっている。互いに決め手が無いな。闇を纏った一撃と青い突きがぶつかる。

 「【ドラゴンソウル】!」

 エクシアは青いオーラを纏って自らを強化。これは大変マズイことになった。必殺技が強くなる。さっきはぶつかり合いで相殺出来たが、今度はこっちが負ける。

 「【ドラグ・ドラゴンスパイク】!」

 「ぐっ!」

 エクシアが発動した技は強化され、一撃で突きを4発叩き込めるようになっていた。2発を剣で受け流しても、もう2発に肩をえぐられる。

 「だがこちらにも! 【紅蓮の翼(メタトロンウイング)】!」

 こっちも強化技で対抗だ。ガリにはここで死んでもらう。今までの宵闇装束派生技の習得で得たノウハウを生かし、新技を作ったのだ。

 「行くぞ、【紅刃の翼(エスパーダメタトル)】!」

 「そんな!」

 背中に生えているであろう紅い翼は今、剣の生えた両腕になっているだろう。実質、これで俺の腕は4本だ。

 「【ドラグ・ドラゴンスパイク】!」

 もう一度同じ技を使うエクシアだが、同じ手は食わない。全てガードだ。2発は腕、もう2発はアーム状になった翼でだ。

 「このぉーっ!」

 「これで!」

 必殺技を防がれたため、エクシアに隙が生まれる。俺も全ての腕を使ったが、この技は背中の翼だけが武器じゃない。

 「隠し腕?」

 そうです。隠し腕。あるんです。両翼の間からサソリの尻尾みたいな腕が伸びて、エクシアを貫く。

 「ぐっ、ぎゃあ!」

 エクシアをジブリールに向かってぶん投げた。エクシアの下敷きになってジブリールは動けない。そこを追撃する。

 「よくも!」

 ジブリールの上から退けないまま、エクシアは俺の追撃を防ぐしかない。

 「遊人、どいて! 【焼界の一閃(ヘルフレイム)】!」

 アイリスが突きの姿勢をしていたので俺も回避行動に出る。左手一本の突きで、右手で狙いを定めるフォーム。アレが来る。

 「【宵闇装束】、【苦悶撃】!」

 「くっ!」

 「女性の皮を被った男め!」

 苦悶撃の衝撃で大きく跳び上がり、ダメージと回避を同時に行う。俺が跳び上がると同時に、俺の真下を炎が爆ぜる。アイリスが突きを放ったのだ。対戦は俺達の勝ちか。

 アイリスの焼界の一閃は比較的安定した技だが、相手から離れると威力が落ちるんだよな。爆発すればエクシアとジブリールを余裕で丸呑みするのに。

 「ハイリスクハイリターンな必殺技と安定して出せる必殺技か。アニメじゃねぇんだぞ」

 対戦が終わり、俺達は現実に引き戻された。俺とアイリスがいたのは事務所のソファ。アイリスが俺にもたれて寝ていた。

 その様子を見ていた門田は今にも血の涙を出さんが形相で俺を睨んでいた。幼なじみなんだから互いを異性として見ないのは当たり前だろ?

 「またしても負けるとは……」

 「あんな技ありなのね、早速練習してこよっと」

 エクシアの女性はうなだれる梅面を放置していなくなった。あの人、俺と梅面が初めて戦った時にいたアシスタントか?

 「帰ります。次は覚悟なさい、新田遊馬のクローン」

 なんか梅面も諦めて帰った。そら、2回も惨敗すればね。さあ、門田をどうしよう。

 「起きろ、アイリス」

 「むにゃ、あと5分……」

 「俺の命がピンチだ」

 俺にもたれて本気で寝始めた。このままでは、俺は門田についカッとなって殺され、殺意は無かったと言われかねない。

 「遊人の命がピンチなら仕方ないね」

 ようやく起きたか。これで死なずに済む。

 「お前らよ、どうやって知り合ったんだ?」

 「姉ちゃんが担当した事件の証人が、ここの店長だってわけだ」

 「これはまた刑事らしい理由だな」

 アイリスと知り合ったのは姉ちゃんきっかけだ。事件の証人だった店長の娘であるアイリスと俺がゲームを通じて仲良くなったのが理由で親交が深まった。門田には一部黙っておこう。

 「幼なじみってそんなドライなもんか?」

 「まだ互いに男女とか意識する前だしな。その関係を引きずってりゃこうなる」

 門田は幼なじみといえる女子がいないのか、幼なじみとの関係性は漫画からイメージしてんだろうな。家が見ての通り離れてるから、起こしに来ることはない。弁当も俺が作る。

 「ま、イメージは現実に合わんもんさ」

 「梅面の言うことも同じだよな」

 門田は現実とイメージの差異を感じたのか、事務所を出て帰路についた。なにげに核心突いてるよな。現実とイメージは掛け離れているのが常だ。アニメでよくあることが現実もあるとは限らんな。

 次回予告

 遊人は黒澤教授に誘われ、図書館での囮捜査に加わる。久世秋人の本を消そうとするのは誰なのか。そして呪われた鎧が動き出す。

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