プロローグ 直江遊人
前作読んだ人はお久しぶり、読んで無い人は初めまして。
この作品は前作読まなくても楽しめるからゆっくりしていって欲しい。
それでは『ドラゴンプラネット2-ワールドワイドウォー-』始まり始まり。
長篠高校 教室
「遊人、聞いてる?」
「聞いてない」
俺はいつも通り、長篠高校にいた。土曜日なのになんで学校にいなきゃいけないのか。演習なんて組んだ教師を丑の刻参りでごっすんごっすんしたい気分だ。
「白髪眼鏡め」
「まるでそれしか特徴の無いみたいなあだ名やめい」
「全身傷だらけ」
あかりが言う通り、俺の特徴は白髪眼鏡。さらに全身は古傷だらけと『夏休みだし小説書くか』みたいなノリの奴が作った主人公みたいな設定。古傷のせいで肌の温度感知機能が無くなって、生活には不便してるから超能力の片鱗でも無い。いや、似たもんはあるにあるが……。
夏は気を抜いたら死ぬ。熱中症で死ぬ。暑いかどうかわからないから危ない。だから水分補給は機械的かつ頻繁にしてる。2学期突入したのに残暑が容赦ねぇ。
隣の席に座る幼なじみの稲積あかりがブライダル雑誌片手に話してくる。なんでお前がゼクシィなんか持ってるんだ。
「式するなら和式? 洋式?」
「トイレみたいだな、その言い回し」
付き合っても無い人間に結婚式の話なんかするか普通? 幼なじみって大抵は結ばれないんだよな。
「真剣に考えてよ」
「なんでじゃ」
あかりに責められた理由がわからん。俺は自宅から持ち寄ったマイボトルに口をつける。最近、コーヒーのブレンドに凝っている。つっても出来合いのボトルコーヒーを混ぜる錬金術だがな。
夏は暑いから、キャラメルマキアートに塩入れて塩分補給も兼ねたい。だが、飲み物に塩入れると喉がやられるので塩分は自家製塩チョコで補給する。結局マイボトルの中身は自家製ブレンドとはいえアメリカンコーヒーだ。
アメリカンコーヒーはアメリカのレストランでサービスとして提供される、つまり水みたいなものだ。
長篠高校の制服はブレザー。夏服は男子がワイシャツ、女子はブラウスになる。元アイドルという異色の経歴を持つあかりは学校の制服でも充分かわいい。セミロングの黒髪と目立たない髪型にしても目立つ。だが、俺の元カノほどじゃない。俺の元カノはたいそう可愛くてな。
「遊人のお姉さんが結婚するって」
「ぶほぁ!」
あかりの言葉にアメリカンコーヒーを吹き出す。姉ちゃんが結婚? 俺の姉、直江愛花は刑事をしている。身寄りの無い俺を、俺が事件の重要参考人になったのをきっかけに引き取って育てたのだ。本人曰く『まだ親になれるほど立派になっちゃねーから姉貴として扱え』だそうな。
「ついに結婚か。心当たりはあったがな」
そんなマニッシュで男前な姉ちゃんは今年の春、とある記者と出会って一目惚れした。真田総一郎、俺の後輩だった真田理架の父親だ。ていうか、あかりに教えてなんで俺に教えてくれないの?
「まさか、クラスメイト全員が知ってるなんてこと……」
『知ってる』
嫌な予感がして、俺はクラスメイトに聞いてみた。そしたらまさかの全員一致で知ってた。
「まさか俺のゲーム仲間も……」
俺はさらに嫌な予感を嗅ぎ付け、スマホの画面を見る。コミュニケーションサイトの『ライ麦』で仲間達に聞いてみた。夏休みだし、すぐ返事が来るだろう。
『墨炎:お前ら、俺の姉ちゃんが結婚するって知ってたか?』
墨炎というのが俺のハンドルネーム。すぐに返事が返ってきた。
『氷霧:知ってた』
『藍蘭:あかりから聞いた』
『スカーレット:ユナから聞いた』
『クイン:氷霧から聞いた』
『ナハト:理架から聞いた』
『赤介:ナハトさんから聞きました』
『青太郎:同じく』
『緑郎:ミートゥー』
『田中丸:まさか知らなかったのか?』
『ハルート:(ノ∀`)タハー』
『マルート:まったく』
「もれなく全員に呆れられた!」
全員知ってた。リアルの友達も同じなのかと思い、とりあえずライ麦で同じ質問を飛ばしてみた。このコミュニケーションサイトは一つの話題に何人かのユーザーが集まり、話をする。例えば今、ゲーム仲間が集まっていたのは『サイバーガールズ事件対策室』という話題。今からリアルの友達に質問を飛ばすのは『切り裂き魔対策室』。
名前は突っ込んでくれるな。前に事件に巻き込まれた時に作った話題がそのままになってたんだ。新しく作るのも、作ってからこいつら呼ぶのも面倒なんだ。
『椿:知ってた』
『理架:知らなかったの?』
『真夏:m9(^Д^)』
『順:おいおい』
『黒潮:マジか』
同じ質問したら、漏れなく呆れられた。
「どういうことだってばよ……」
「お姉さんがあんたにだけ伝え忘れたってことよ」
俺とあかりの会話に、夏恋が加わる。アイドルのあかりと比べて見劣りしない美少女だが、口が悪い。誰もが羨む腰まで伸ばした艶やかな黒髪をかき上げ、可哀相なものを見る目で俺を見下す。残念だな、我々の業界じゃご褒美だ。
「おい、あかり。夏恋と並ぶと見劣りしてるぞ」
「うっさい白髪」
もうこの教室には用が無いので、俺達は出る事にした。
高校生になったばかりの頃、俺の興味、世界は非常に狭かった。だけど、ある時を境に全てが変わった。日本には権力者による癒着の塊『表五家』があるということを知り、そいつらと戦ううちにたくさんの人と出会った。その人達が俺の世界に加わり、広くした。
始まりは夏恋が教えてくれたゲーム、『ドラゴンプラネットオンライン』だった。そこから始まった物語は俺にたくさんのものを与え、時には失わせ、最終的に夏恋をどうしようもない血みどろの絶望から救い出すに至った。彼女を全く完全な状態で救うことは出来なかったが、多少マシな結果にはなった。
表五家を倒して俺の物語もおしまい。そう思ってた時期もあった。でも、全然終わりじゃなかった。俺の物語は、長い禍根を断ち切るストーリーはここが始まりに過ぎなかった。
俺の中に眠る、『新田遊馬』という禍根が目覚めようとしていたんだ。
前作『ドラゴンプラネット』
ゲーマーの高校生、直江遊人と仲間達が過ごした春から夏にかけての物語。50話を越える大長編。
部ごとに分けられており、第1部が直江遊人の話。全3部の中で最長を誇る。ゲームのチュートリアルもやりましたし。
『小説家になろう』で一年に渡り連載していた。本作は一応続編だが、全く繋がりが無い。