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お妃様は、決意しました。
いずれ 無様に捨てられてしまうのならば 自分から 身を引いてしまおうと。
「最初から 間違っていたんだわ。私ごときが、妃に召し上げられるだなんて」
自嘲する お妃様の呟きは、他の誰にも聞かれない。
なぜなら 部屋に戻ってから お妃様は、控えていた女官に 1人になりたいからと出て行ってもらったのだから。
呼ぶまで 誰も部屋を訪れないだろう。
「お父様やお母様には、迷惑をかけることになってしまうかもしれない。でも 仕方がないのよね?だって 陛下が、求めていらっしゃる 萌花様は、帰っていらしたんだもの」
お妃様は、唇をかみしめながら 偽りは、必要ない…と 天井を見上げた。
何度も 見つめてきた空間。
1度として 妃としての務めをこなしたことがない 孤独な場所。
「従妹殿………まさかとは、思うが 貴女は、ここを出るつもりなのですか?」
その声に お妃様は、驚いたように 振り返った。
「景兄様………どうして……」
お妃様の見つめる先には、自分を部屋まで送り届けてくれた従兄の騎士が壁にもたれている。
「思い詰めている 従妹殿に 美鶴が、心配していたんですよ。
それに 陛下に問い詰めていたでしょう?」
お妃様は、その言葉に 唇をかみしめた。
「景兄様は、御存じだったのですよね?私が、クジ引きで決まった妃だということを」
「ええ 知っていましたよ。まぁ これは、陛下に仕えていた我々だけに留まっていたはずなんですがね?
どうやら 誰かが、萌花様に漏らしてしまったのでしょう。
けれど あまり 思い詰めないことです」
騎士にそう言われても お妃様の顔色は、優れないまま。
そんなお妃様の小さな姿を見つめて 騎士は、溜息をついた。
「従妹殿……今の貴女は、頭に血が上りすぎている。少し 落ち着きなさい。
今の状態では、何も変わらないでしょう」
「そうですね………このままでは、家族に迷惑がかかってしまいます」
顔を覆ってしまう お妃様に 騎士は、少しだけ 戸惑いを感じる。
けれど それは、見ただけではわからない。
「とにかく ちゃんと 陛下と話し合うんですよ。おそらく あの方も 今回ばかりは、わかったはずですから」
騎士は、そう言い 優しげに笑みを残して 部屋を去った。
閉じられた扉を見つめて お妃様は、真剣な顔をしている。
「そうね………泣いているだけでは、どうにもならない。
少しでも 実家の迷惑にならないよう 陛下に申し上げなくては。
言われる前に 妃の地位を萌花様にお渡しできるよう 準備をしなくては」
お妃様は、涙を拭いて 数少ない 自分の持ち物を整え始める。
そして その日の夜 お妃様は、陛下に離縁を申し出た。




