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「ねぇ 桜華様?本当に 陛下が、貴女のことを愛していると思っておられるの?」
青ざめている 相手を見つめて 彼女は、口元を釣り上げる。
真っ赤なルージュが、大きくゆがんでいるように見えた。
宮殿の廊下にて 2人の姿を見かけた者達は、息をのんでいる。
王族に仲間入りしたにも関わらず 自粛し 質素な服装を好む お妃様とスキャンダルに包まれているにも関わらず 開き直り 華美な堂々とした 上級部族の姫君。
元は、陛下の行為による しわ寄せだというのに この事態に 当の本人は、気が付いていないだろう。
「本当にお可哀そうなお妃様。
まさか ご自分が、望まれたと思っていらしたの?」
気の毒にと言いながら 彼女は、笑みを隠さない。
何たって 姫君は、お妃様のことを完全に見下しているのだから。
自分より 身分が低く 容姿も 至って平凡。
だからこそ 姫君は、お妃様のことが気に入らなかった。
本当なら 自分が、お妃として 人々から 持て囃されているはずだったのだ。
なのに どうだろう?
どうして あの美しい王の隣で そんな地味な姿でいられるのか。
「陛下は、気の迷いを起こされただけですのよ?
でなければ 貴女のような何の取り柄もない 下級部族の娘を妃に迎えるはずがありませんわ?
まぁ あたくしも、甘い言葉を囁く平民に唆されてしまいましたけど」
お妃様は、その話を聞きながら 立っていることがやっとだった。
けれど 彼女は、その様子に 更に 追い打ちをかける。
「本当に 陛下も、罪なお方ですわね?
ご自分のお妃をクジ引きで決めてしまわれるなんて」
「そんなの………ありえませんッ!」
「まぁ なぜ 言い切れるのですか?
『愛してる』と 言われたことがありますの?あたくしは、何度も 言われましたわ?」
姫君は、クスクスと目を細め 貴女と違って…と 付け加える。
その言葉に お妃様は、血の気が失せていた。
「貴女は、所詮 あたくしの代用品。
陛下は、あたくしが、駆け落ちしてしまったことで自棄を起こしてしまっただけ。だから 運任せで クジ引きで妃を決めてしまわれましたのよ」
姫君は、扇子で口元を隠して でも 安心なさって?と 笑みを浮かべる。
「あたくしが、戻ってきたんですもの………時間は、かかってしまうかもしれませんが きちんと 桜華様との関係は、円満に無効の手続きが続いているそうですわ?
勿論 貴女の新しい嫁ぎ先も用意させていただきます。まぁ そのご容姿ですから 期待なさらないでね?」
お妃様は、何も 言い返せず 目を大きく見開いているだけ。
そして 姫君は、お妃様を探しに来た 女官の姿を見つめ では ごきげんようと その場を後にした。
姫君の放った毒は、どこまでも 広がっていく。