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三ツ星レストラン

 ジャックは双眼鏡を取り出した。

 道幅百メートル、片道四車線の道路は少しづつ交通量を増してきた。

 裸眼では、前方にレクサスの車は見当たらない。

 念のためにジャックは双眼鏡を覗いた。

 舌打ちを鳴らしジャックは顔を横に振った。

 レクサスの影も形もない。


 レクサスはまだ交差点にたどり着いてないのだろう。

 レクサスが走る一方通行の道路の制限時速は二十キロ。しかも曲がりくねっている。

 レクサスがいくら制限速度オーバーで走ったとしても俺達より早く交差点に入るのは無理だ。

 たとえ早く入ったとしても、俺の車とそんなに時間的に差はないはずだ。

この大通りの見通しのいい直線道路から消え去るほどのスピードを出せるわけがない。


 二分経過した。

 「出てこないぞ。また巻かれたのか?」ジャックは、タブレットガム入りの缶の蓋を開け始めた。


 「そんなことはない。あの道路は一方通行だ。途中、左折も右折もできる道幅の道路はない。あったとしても全て進入禁止の交通標識がある。結局この交差点に出るしかないのだ。入った道をバックして元来た道に戻らない限り……」俺はそう言った後、口ごもった。


 「奴等、一方通行の道に入ったと見せかけバックして出たんではないか」ジャックは呟いた。


 「そんなバカな」

 レクサスが一方通行の道に入り込み、急停車しそしてバックで逆走して元の道に出て素知らぬ顔で反対車線に紛れ込む。ありうるな。

 時間は既に十分を回った。

 「遅すぎる」


 「やられたな」ジャックは不満そうな声で吐き捨てた。


 「だったら、確かめるしかない」


 「確かめるって、どうやって確かめるんだ」


 「あの道路に入るのさ」


 「入る?あの道は一方通行だ」


 「バックで入ればいい」


 ジャックは呆れた顔で俺を見つめた。

 「もういい、またの機会を待とう」


 「いや、俺は自分の眼で確かめる」

 そう言いアクセルを吹かし交差点に向かった。


 「やめろ!無茶するな」ジャックは怒鳴ったが、俺の心は収まらない。

 すると突然、レクサスがビルの間から交差点に入ってきて、急ブレーキをかけ左に折れるのが目に入った。


 目ざとくジャックは双眼鏡でレクサスを観察した。

 「運転は女だ」


 「しかも、2人ともイチャついていやがる」


 「それで遅れたわけか…」

 先ほどの冷静さを欠いた心が嘘のように静まり返った。

しかし、俺もこんなに落着きを失うのは初めてだ。

 感情だけが無意味に高ぶる。

 確かに俺自身、気が短いところは多少あるが、仕事に関してはいつも冷静沈着を心掛けている。

 ついさっきの一方通行の道路を逆走するなんて発想は普段の俺なら考えもしないことだ。

 そんなことをすれば、かえって人目に付き、怪しまれ、警察に通報されるのが落ちだ。

 万が一事故でも起こせば任務を遂行できなくなるどころか、我々の素性が知れる事だってある。俺達にとって致命的な事態になりかねない。


 何かがおかしい。

 俺は何故かこの任務に得体の知れない不穏な空気が漂っているように思えた。


 俺の心を乱すような空気の流れを感じる。


 俺はレクサスを慎重に付けた。

 レクサスはある百貨店の駐車場に入った。

 「買い物だろうか?」

 ジャックは建物を見上げた。


 「確かここは三ツ星の高級レストランがあったはずだ。時間も昼の十二時。

 買い物をするにしてもここで食事をしないはずはない」俺達は路上に車を止め観察した。


 「すこし、奴等の様子を伺うことにする。君はここで待機しててくれ」

 そう言って、双眼鏡を持ちジャックは車を降りた。

 レストランは地上十四階にある。

 ジャックは、辺りを見回し、そして真向かいのホテルに入った。

 ホテルはちょうど百貨店と同じ高さの建物だ。

 どうやら、そのホテルからレストランに入るであろう二人を観察するつもりのようだ。


 俺は車で待機だ。

 ヒョッとすると大久保たちは気が変わり突然駐車場から出て来るかも知れない。

 用心のために車の中で見張った。


 ジャックは素知らぬ顔でホテルのエレベーターに乗った。外付けのエレベーターで、前面ガラス張りになっていて外の見晴らしはいい。

 ちょうど目の前に百貨店の建物が見える。

 ジャックは双眼鏡を取り出し、百貨店の十四階部分を覗き込んだ。

 一番良く見える階でエレベーターを止め、すばやく通路を通り過ぎ非常口から外付けの階段へ出た。

 そこから双眼鏡でレストランを眺めた。

 少し端の位置からだが、レストランはかろうじて見える。

 もちろん見えるのは窓側の席だ。

 しかし、大久保達が窓際の席に座らなければ何の意味もない。


 ジャックはユックリとガムをかみ締めた。


 数分後、大久保と女はウェイターに付き添われ窓際に案内され席に座り込んだ。

 ジャックは口に溜まった甘い唾液をのどに流し込んだ。

 M40のスナイパーライフルがここにあれば今仕留められるのに。

 ジャックはそう思い下唇をかんだ。


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