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追跡

 ジャックは眉間に皺を寄せ、繰り返しその便箋を読んだ。

 「三人のヒットマンが失敗して死んだ事、君は知っていたのか?」


 俺もはじめて知る内容だった。

 「知っていたら引き受けなかった」


 「死んだヒットマンがどれだけの技量を持った人間か知らないが、厄介な仕事になるかもしれないな」ジャックはため息を一つ吐き便箋を丁寧に封筒の中に戻した。

 俺の判断でこの仕事を請け負ったのをジャックは暗に非難しているようにも見えた。

 だったら、お前が決めればいいじゃないか、と言いたいのを胸に収めた。


 「三人のヒットマンがどのように死んだのか詳細な内容が知りたいね。依頼人に聞いてみるか」

 もちろん、こちらから依頼人に連絡することはできない。

 ジャックはそれを知って言ったのだ。

 ジャックと言う男は嫌味な一面を持っている。


 今まで三人のヒットマンが失敗し死んでいる。

 しかも、大久保は命が三回も狙われたのに堂々と人目のつくところに住まいを変えずにいる。普通なら、目立たない場所に隠れ住むはずなのだが。

 よほど自分に自信があるのだろう。

 ジャック以上の銃の使い手なのか、それとも空手や合気道などの達人なのか

俺は大久保の過去を洗った。射撃を習った事があるのか、武道に勤しんだことがあるのか、徹底的に探った。

 武術、射撃の愛好家、ナイフの使い手なのかを徹底的に調べたが、全てものの見事にハズレだった。分かったことは、この大久保という男は、ほとんど体を動かすのが嫌いなただの怠け者だという事だった。

 中学、高校時代は部活もやらない帰宅部、家に帰らずゲーセンで屯し、万引きや、置き引き、たまに不良達と徒党を組み恐喝を重ねる、というどうしようもない人間だった。

 こんな男に安々と殺しのプロであるヒットマンが返り討ちにあったのだ。

 しかも三人も。

 信じられない。

 奴を侮るな、の言葉の意味が読めない。


 「ヒョッとすると奴をガードしている人間がいるのではないか。例えば、今現在、奴の傍にいる女、あの女が相当の使い手だとしたら」ジャックはそう言った。

 「ありうるかも知れん。女という事で油断し、三人はやられた。ヒョッとすると俺達と同類の腕のいいヒットマンかも」


 「女を洗うか」

 ジャックは、タブレットガムを口に放り込みそう言った。



 黒く染めた髪の長い女は窓際に立ち外を眺めていた。

  「ジョセフィンどうした、いつまで外を眺めている?」

 ジョセフィンと呼ばれた二十歳前後の女性は青い目を男に向け甘えた声で言った。

 「アイツラ、イツマデ、イカシテオクノ」

 片言の日本語で答えた女は男の胸に擦り寄った。

 「もう少し遊ばせてやるさ。やつらの運命は俺のここの中にある。」

 大久保はそう言いながら自分の頭を人差し指で突っついた。

 大久保とジョセフィンと呼ばれた女は抱き合いながら道路に止めてある黒い

日産GTRを見下ろした。


 ジャックがイラついている時は、タブレットガムを口一杯に頬張ってしきりに噛み砕いているときだ。インテリなのに多少気が短い。いや、インテリだから気が短いのか。とにかく、ジャックは自分の思い通りに事が運ばない時は苛立つ。

 まあ、俺はそれ以上だが。

 ただ、ジャックは俺のように四六時中苛立つことはない。

 普段は冷静沈着で物静かな男だ。

 レンタカーを借りて女と大久保が駐車場から出てくるのを待っていた。

 相手の車はレクサスRX450だ。

 われわれの車は今まではトヨタのプリウスだった。

 燃費はいいが、速さと機敏さにはレクサスに数段劣る。


 大久保たちの車の後を付ければいつも、撒かれていた。だから今度は、日産のGTR 。

 エンジンはVR38DETTにした。レクサスと対等に争える。

 と言っても競争するわけじゃない。相手の車を見失わないようにするためだ。

 運転は俺が受け持っている。

 こう見えてもA級ライセンスを持っている。運転には多少の自身はある。


 「今日も当てが外れたようだな」

 ジャックはそう言いガムをクチャクチャ音を立ててながらかみ続けた。

 そして溜まった唾液をのどに流し込む。

 

 俺はジャックに言った。

 「俺たち、考えすぎだとは思わないか。どう考えたってあの大久保って奴は何の取り柄もないチャラオだ。例え、そばにいる女がどんな凄腕の用心棒だとしても、俺達の比じゃない。三人死んだヒットマンは大した腕ではなかったというだけの事だ。もうあいつ等を調べる必要はないさ。実行に移そう。俺達なら完璧にやり遂げられる」そう言った後、俺は、この言葉はホントに俺のセリフかと自分で自分を疑った。


慎重に慎重を重ねる俺の言葉とは思えなかったからだ。

まるで、誰かにセリフを頭に叩き込まれ言わされてるかのような感じなのだ。


 ガムを噛みながらジャックは考えた。

 いつも重箱を突っつくように下調べをするエースがこの件に関して事を早めようとしている。

 どういう心境の変化だ。

 ジャックはエースの顔を覗き込んだ。

 「君の言うとおりかもしれない。俺たちは少し考えすぎて臆病になっているかもしれん。だがな、綿密な下調べは必要不可欠だ。順序だてて実行しなければ思わぬ落とし穴に嵌る。と、言うのが君の口癖じゃないか。

奴らの身辺調査を確実にやろう。実行はそれからでも遅くない」


 「そうだな、そのとおりだ」俺は俺にに言い聞かせるように頷いた。

 なぜ、俺はあんな事を口走ったのかと、自分で自分を疑った。


 「噂をすれば影だ」

 目の前の地下駐車場からシルバーのレクサスが躍り出た。

 俺はアクセルを吹かし、レクサスの後を追った。

 「今度は見失わないぞ」

 俺は自分にそう言い聞かせハンドルを握り直した。

 制限速度30キロの二車線の道路をレクサスは突っ走った。

時速百キロは軽く出ているようだ。

 俺もアクセルを踏みレクサスの後を追う。

レクサスは車の間を縫うように、追い越していく。

 俺は、車二台分の間隔をおくように、極力目立たないようにレクサスを追った。

 レクサスはいつものように一つ目の信号で左に回った。


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