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大久保の魔力

 蝶ネクタイでタキシード姿のズングリムックリの小男がレストラン内を眺めていた。

 三ツ星レストランの支配人、小倉恭三だ。

 今日は朝早くに団体の予約が入った。

 総勢五十二人の宗教団体の信者さんだ。

 つい一か月前からこのレストランを、毎回利用されている新規の団体さんだ。

 しかもこの団体は、いつも開店と同時にレストランに入り、おもいおもいの席について話の花を咲かせ、昼時間一杯まで過ごして帰る。


 そしていつも、食事代は前払い。

 上得意の部類の団体さんだ。

 ちょうど、今日は大久保という常連のお客と重なったが、席は十分余裕はある。

 時計はまだ十二時前。

 団体さんはすでにフルコースの前菜を口に入れ談話に興じていた。

 店内の真ん中にポッカリと空いた席がある。

 大久保の座る席だ。

 

「そろそろ、現れてもいいころだが」

 そう思いながら小倉は店内の自動ドアを眺めた。


 ドアが開いた。

 男が現れた。

 

 少し猫背で、派手な色目のアロハシャツを着ている。

 アロハを着ているのに日焼けはしていない。

 今まで、入院生活をしていたのだろうかと思わせる程に白い。

 小倉は、さっそく大久保の方へ出向き席に案内しようとした。


 「大久保様お待ちしていました」一礼して小倉は大久保の顔を見た。


 小倉は一瞬、言葉を失った。

 大久保の眼が黒目を除いて全て赤く染まっているのだ。

 それも普通の充血の赤さではない。赤い焔のごとく輝いてみえる。


 「早く席に案内してくれないか?」

 ジッと立ち尽くす小倉を急かすように大久保は言った。


 「は、はい。どうぞ」小倉は慌てて大久保達を席へ誘導した。


 席に着いた大久保達に小倉は言った。


 「いつもの、ハンバーグ定食でよろしいでしょうか」


 「エエ、イツモノニシテ」ジョセフィンは獲物を狙う猫の目付きで答えた。


 「早速用意してまいります」小倉は慌てて厨房に向かった。


 大久保は椅子の背もたれに体を預けながら言った。

 「この周りにいる客の声が俺の耳に容赦なく入ってくる。本当の声が。初めて銃を打つ不安な声。初めて人間を撃てると有頂天になっている奴の笑い声。

俺を軽蔑の目でこき下ろしてる奴。中には俺をヒーローと勘違いしている奴もいる。おおそうか、早く殺したいってか…なるほど。

ジョセフィン、ほら、奴を見ろよ」


 大久保はジョセフインに顎で、ある男の方を指した。

 三列先の席に顎髭を生やした二十代後半の男がこちらをジッと見ている。

 

 「あいつは、俺を撃ちたくてウズウズしている。ズボンのベルトに挟んだ銃を

右手に持ちそして立ち上がり俺の方に早足で近寄り、手に持った銃を俺に突き出す事を考えている。でも、引き金は引けない。

なぜなら、俺がそれを許さないから、ウウウ、ヒャハハハハハ」大久保は、笑いだした。


 「ハヤク、ウチアイ ガ ミタイ」ジョセフィンは腰をくねらせ大久保にねだった。


 その時、大久保が指摘した三列先の顎鬚の男が突然立ち上がった。

 そして大久保に駆け寄り、リボルバーのハンドガンを両手で握り締め大久保の顔に向けた。

 周りの客は一瞬、話を止め、顎鬚の男に注目した。

 と同時に窓際に座っている高田にも目を向けた。


 「撃てるものなら撃って見ろよ」そう顎鬚の男に言った後、大久保は目を開けたまま気を失った。


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