懺悔
だいぶ前の事だ。
俺がある麻薬シンジケートのボスを目の前にし、そいつの頭に銃を向けている時だった。
その男が、俺に尋ねた。
「お前のような人殺しにも罪悪感ってものはあるのか?」
死ぬ間際にそんなつまらんことを聞くとは、全く笑わせる奴だ。
逆に俺はこう聞いてやった。
「お前にはあるのか?」
そいつはふざけたことを言いやがった。
「俺は、いつも寝る前、神に懺悔する。今日一日の罪を告白し、許しを請う」
俺はそれを聞いて胸くそ悪くなった。
一発で楽に仕留めてやろうと思ったが、考えを変えた。
俺はその男の腹部に二発、弾を食らわした。
苦痛に歪んだ顔を俺に向け性懲りもなくまた言いやがった。
「獣め、地獄行きのファック野郎め」
腹に受けた銃弾の傷は、放散しながら徐々に痛みを増していく。
腸が破れその中の汚物が腹部を満たしていくのだ。
とてつもない痛みを生じる
そいつの顔は青ざめ脂汗を流し始めた。
俺はそいつにこう言ってやった。
印籠代わりにね。
「俺に罪悪感なんてない。まして、神に懺悔などするか。お前の腹を撃ったのは俺じゃない。いいか、よーく聞け。
お前の腹を破ったのはこの銃だ。そして腹を貫いたのはこのベレッタM92の9㎜弾だ」そう俺は言ってやった。
そしたら、男は首を傾げてこう言った。
「何言ってるんだ?」
「恨むなら、お前の腹に入った、二発の9㎜弾を恨めってことさ。糞ファック野郎」
そいつは糞尿の臭いを傷口から漂わせ、涙を流し苦痛に歪んだ顔でユックリ死んでいった。
人を薬漬け、廃人にしてそれで稼いだ金で贅沢三昧。
何が懺悔だ、何が許しを請うだ。
笑わせるな。
例え、お前たちを何人殺そうとも、俺に罪悪感など起こるものか。
例え起こったとしても、歓喜の叫びぐらいだ。
俺はレクサスの後を追った。
スポーツタイプのサスペンションのGTR、タイヤが受けるわずかな振動も俺の全身に伝わる。
しかも、振動するたびに巨大な異物が俺の腰を圧迫する。
ベルトに挟んだ銃が俺の背中腰に当たっているのだ。
FNP-45と言う目新しいハンドガンだ。
俺の愛用のベレッタではない。
45口径の重量のある銃だ。
これは、高田が今日この日に用意したハンドガンだ。なぜか高田はこれを使ってくれと願い出た。
理由は言わなかったが、こだわりがあるのかもしれない。
俺は使い慣れたベレッタを使用すると言ったのだが、どうしてもこの銃、FNP45を使ってくれとの事だった。
依頼人のたっての願いを聞き入れない訳にはいかない。
どちらにしても、俺の銃の腕からしてベレッタもFNP45も大して違いはないだろう。
俺は高田の用意したごっついハンドガンを使用することに決めた。
レクサスは駐車場に入った。
日曜日の昼時、車はほぼ満杯だった。
俺は駐車場の整理員に案内され空いている枠に入れた。
大久保たちは既に車から降りデパートに入ろうとしていた。
一方、ここはデパートの真向いのグリーンホテル、13階135号室の部屋の中。
窓のカーテンは十センチほどの隙間を開け閉じられている。
その隙間には窓に円形の穴があけられ、ライフルの銃身がその穴に向けられている。
ライフルのスコープの照準は三ツ星レストランにいる高田の頭部に合わされていた。
射撃手の狙いは高田のようだ。
大声を上げ笑いながら大久保はデパート内の三ツ星レストランの自動ドアの前に立った。
ドアが開き、大久保はしばらくその場に立ち尽くしたままでいた。
自動ドアは開きっぱなしだ。
大久保は大きく深呼吸をしてレストラン内に入った。
大久保のコメカミに異様なほど怒張した青い血管が放射状に浮き出た。
眼はみるみる充血し、今にも目尻から赤い血が垂れてくるような状態になった。