血の日曜日
秋風が吹く肌寒い日曜日の昼前。
俺は喫茶店で大久保がマンションの地下駐車場から出てくるのを待っていた。
今日の朝方に高田から連絡が入った。
下準備のために高田とは連絡を取り合いながら計画を進めていた。
高田は三ツ星レストランの従業員に金を握らせ大久保が予約したときに高田に通報するようにと、示し合わせていた。
今日の昼に大久保が予約を入れたようだ。
高田はその旨を知らせてきた。
三ツ星レストランの客席は六十五席。
全て予約席だ。
高田は約五十名ぐらいの組員をそのレストランに配置した。最初は十数名の予定だったが
いつの間にか大久保の席を除く全席をヒットマンで固めたのだ。
大久保は五十人のヒットマンを全て」コントロールできるのだろうか?まあ、今日の昼には分かるはずだ。
マンションの地下駐車場から大久保たちの乗ったレクサスが現れた。
俺は携帯で高田に連絡をした。
「奴が今、マンションから出た」
一方、高田は三ツ星レストランの窓際のテーブル席に座っていた。
レストラン内は既に男女数十人がテーブル席で談笑している。
この席の客の全てが高田の組員達だとは誰も想像すらできないだろう。
皆それぞれ、気ままな私服のいでたちで、思い思いの話の花を咲かせているが
すべて台本どおりに事が進んでいる。
一人一人、ハンドガンを隠し持ち、合図と共に大久保に向け一斉射撃を始めるのを手ぐすね引いて待っているのだ。
高田は時折真向かいのホテルの窓を気にしながら眺めていた。
窓に人影が微かに動いている。
レストランの中の様子を覗っているようにも見える。
突然、高田の携帯がなった。
談笑していたレストラン内の客が一瞬話を止め高田に注目した。
エースからだ。
大久保がホテルから出たとの連絡だ。
高田はレストラン内の部下に目配せし、コップの水を一口飲んだ。
それが合図かのように再び店内は喧騒の渦と化した。
気になるのか高田は再びホテルの窓を眺めた。窓からはカーテンの隙間からキラッと光る何かが見えた。
それを見た高田はおもむろに立ち上がり中央の空いている席に向かった。
そこは、大久保たちが座る指定席だ。高田は窓を背にその席近くに立った。
大久保の座るであろう席を眺め、自分の立ち位置を確かめる様に足元を見つめ
た。
そして、ついに自分の立ち位置が決まった高田は、ユックリと後ろを振り返った。
自分の座る席の窓が見える。そしてその窓の向こう百メートル先にホテルの建物が見え、高田が気にしている部屋の窓が覗いている。
窓のカーテンの隙間からキラキラと鏡の照り返しのような光がちらつく。
高田はその光に満足そうな顔を浮かべ、呟いた。
「大久保、お前を地獄に送ってやる。娘の恨みを今日こそ晴らしてやる」
そう言いながら両手の拳を握りしめた。
大久保は車の助手席でくつろいでいた。
「今日は記念すべき日だ」そう言いながらペットボトルの水を口に含んだ。
「どうして?」ハンドルを握りながらジョセフィンは大久保に尋ねた。
「今日は多くの人間が血にまみれるんだ」
「血にまみえる?どういう事」
「五十人以上の人間がお互いに撃ち合い殺しあいをする。レストランは血の海となる。
これから先、この日を血の日曜日と名付けられるだろう。
俺はレストランの席に着いたら直ぐハイになり奴等をコントロールする。
弾丸は飛交うがジョセフィン、安心しろ。
君には絶対に当たらない。食事をしながら、殺し合いをユックリ見物するんだな」
「面白い。ワクワクするわ。ショータイムへまっしぐら」
そう叫びジョセフィンはアクセルを踏み込んだ。