視線は胸ですか
1か月の間。村の中を歩いて、いろいろな村民と話をしたり
料理や洗濯の方法を習ったりして、村を観察してきた。
俺は外見可愛い女の子だが、中身は所詮18歳の男だ。
奥さんとか子供と会話しながら、気付くことは多々ある。
それも男側からの目線だ。
あ、この奥さんは昔美人だったなとか、この女性は仕草が可愛いなあとか。
子供がこれだけ可愛いと母親もと思えば、父親だったり。
胸に関しては、過酷な土地のせいなのか、桃サイズかりんごサイズが多いな。
大きいなと思う女性も数人いる。
俺と同じか、もう少し大きなサイズ。
そんな女性に恨まれそうな事を考えていると、
しゃがみこんで洗濯をしていたせいで、背後から幼児に抱きつかれた。
歳は5歳の男の子で、マスクメロンサイズが気になるらしい。
後ろから追ってきた母親に引きはがされ、俺は何度か謝られた。
「すみません。息子が失礼なことを」
「まあ子供のやることですから」
そう返しながらも、男は興味あるだろうなと思いながら、その幼児の頭を撫でた。
今日は、王族の恒例の女神への儀式。
洗濯している理由は、王族が恒例行事を行うにしても、村民には関係がなかったことだ。
王族が繁栄と感謝を女神に伝える儀式とかで、王族と上の家臣達くらいしか内容は知らない。
その儀式を行っている最中、護衛は見張り。
儀式が行われるのは、女神の森の中にある湖の真ん中にある陸地。
簡易渡し船が村にあり、それを湖の周辺で組み立て
王族のみが陸地の中にある洞穴に入り、なにやらするのだそうだ。
聞いた話では、洞穴は昔女神が滞在していた時の住居跡で、今は何もない。
ラゼスさんも他の警備隊の騎士達も周辺の警備にあたっている。
村の者や妻子は関係がないので、通常通りの生活を送っている。
大変なのは、宿泊施設を任されている家族や手伝い人達。
王族と50人(侍女と護衛)の食事とお世話を2日することになっている。
侍女長らしき女性がテキパキと指示を出すので、大わらわだ。
ラゼスの妻がそれに参加しないのは、宿舎での仕事をしているからとの配慮からだ。
お昼には戻るとのことで、野菜たっぷりチキンスープ。
燻製ハムらしきものと野菜を挟んだロールパンのサンドイッチ。
それらをいつでも出せるように、警備隊員の5人分と自分の分をテーブルにお皿とスプーン、
フォークの準備を済ませて、洗濯を干していた。
共同で使用する部屋もあらかた片付いたところで、数人の足音と疲れた感じの会話が聞こえてきた。
家の前にある井戸で水をくみ始めて、手を洗う男達の姿を確認すると、
慌てて食堂へ移動した。
大鍋の下にあるかまどに炭を足し、火力を上げると、スープをおたまで掻きまわす。
ガチャガチャ音がする胸当て等を外しながら、装備を解いて
食堂へ男達が入ってきた。
「ただいま~、夫人」
早速、笑顔でロッサがマキトに声を掛けてくる。
夫人と呼ばれ、一瞬誰の事かと思ったマキトは、ハッと目を瞠り
忘れかけていた妻役を思い出し
「お疲れ様でした」
と、笑顔で夫人になり切った。
「ほお、そなたがユーシィの奥方か」
そこへロッサを追い抜いて、前に出て来た男性
ショートヘアの金髪、茶目の若い青年に声を掛けられ、驚いて怯む。
その男性の後方から出て来たラゼスが苦笑しながら、マキトの隣に素早く移った。
「ええ、妻のマキトです。この村で倒れていたところを助け、意気投合し妻に迎えました」
そう物静かな感じの声で説明し、左手首に付けている妻の証を金髪の青年に見せた。
「なるほど。ラゼス家の紋章の。お前が落ち着いたこと安心したよ。じゃじゃ馬が迷惑を掛けた事
許してくれ」
「いえ、殿下。もうその話は」
「お前が既婚者になれば、アレも手出し出来ぬだろう。そろそろ戻らぬか」
話が自分を通りこして先に行っている話のような気がして、
マキトは隣りのラゼスへ目線を向けた。
その不安を読み取ったのか、ラゼスはマキトの左腰へ手を回し
自分の側へ引き寄せる。
「心配するな」
小さな声が掠る。
いやいや、心配ではなく。
このキラキラオーラの方が誰なのかが知りたい。
金髪の若い青年は、ほぉと声を洩らしてニッコリ。
「そろそろ私を紹介してくれぬか」
その言葉にラゼスは頭を下げ、
「マキト。この国の第1王子クルス様だ」
と、王子を軽く紹介してくれたもので、驚いたマキトは
慌てて貴婦人らしいお辞儀(ラゼスから簡単に教わっていた)をすると、
「よい」と返事が返ってきた。
「こちらで、ユーシィの奥方の手作りの食事が取りたくてな。」
王子の後ろで控えていた警備隊員達は、恐縮してしまっていた。
普段がのんびりで穏やかな人間も王族のオーラには、歯が立たないようだ。
どうやら突撃訪問されたようだ。
やはり王族と食事は庶民的にはきついだろうと考えたマキトは、積もる話もあるだろうからと
ラゼスの部屋で食事を取るよう薦め、他の4人に感謝された。
2人分の食事をラゼスの部屋へ運び、皆で寛いで食堂で食事を取る。
「はあ、王子殿下と一緒のテーブルにつくには、心臓が持たないですね」
「雲の上の方ですからね」
そんな愚痴を零しながらも、王族達が明日の朝には出立することで
警備としてどこまで着いて行くのかを相談している。
「確か、領主の隊が隣り町で待機していると聞いている。」
「そこまで見送るのか」
「久しぶりに町まで行くなら、ラゼス夫人。何か買ってきて欲しいものとかないか」
「大きな町?」
「いやいや。この辺りではいろいろ買えるというだけで。王都やその周辺と比べたら
小さな町と言ったところでしょうな」
「一緒に行ってはダメかなあ。ちょっと他の場所も行ってみたいなあ」
俺は、村しか知らない。だから、他の町とか行ってみたい。
「ついでに王都まで来てはどうだ?」
背後から声がして、食後のお茶を飲んでいたそれぞれが零した。
口から噴き出したのは、ロッサだ。
「殿下」
ラゼスが窘めると、王子は苦笑している。
「ラゼス夫人。どこの国の者かは知らぬが、食事は実に美味しかった。
我が城でも料理長に伝授して欲しいものだ」
そう言いながら、座っているマキトを上から眺めてしまったことで、
王子は顔を赤くさせ、いつになく怯んだ。
「夫人・・。」
どうやら、上からマキトを見たことで、メロンの谷間をしっかり見てしまったようだ。
立ち直った王子は、ラゼスを羨ましそうに見た。
「ラゼス。妻にした気持ちが分かるぞ。上手くやって羨ましいぞ」
「殿下、どこ見てるんですか」
殿下は真面目な方で、問われたことに素直に指で指し示した。
胸ですか。そうですか。