女の子だってことが身に染みた。
村長と奥さんに付き添われて、本日からお世話になる家へと徒歩で向かった。
ここで馬車とか角が生えた馬?が出てくるかと思ったら
村内では、人にぶつかるのは危険だということでナシ。
荷物運び専用。馬もゆっくりと歩かせるとのことで、走ることが少ない。
タクシー代わりに使うという発想がどうやらないみたいだ。
「でも、いざという時速く走る馬がいるということは?」
俺はちょっと気がかりになって不用心さとかセキュリティー面を指摘する。
「はは。こんな辺境の村にそこまで切羽つまるようなことはないですな」
なんつ~危機感のない。
あまりにも辺境で、女神の森を訪れる年1回の王家訪問くらいしか
周辺の村からさえ来ないのだそうだ。
「村の馬はそうですが。駐在している騎士の皆さまの馬は毎日走らせていますよ」
「そうなんですか」
「わざわざ5人も駐在していますからね。一般的には村には2人か3人が通常で
王都との伝達が主だった仕事なんですが、この村近くには女神の森がある為
月4,5人の信者の方や観光にくるので、いらしているそうですよ」
「女神の森・・・」
ラシエ村というのは、100年程前に戦争から逃れてきた人たちが森に避難してきて
それを哀れに思った女神が、この森の一部である今のこの土地を
人が住めるように開拓して薦めてくれた土地らしい。
「その当時の村人の中に絵心のある者がおりまして、残っております。
代々村長になる者が受け継いできていますが」
レンガ作りの平屋が敷地内に3軒という家に着いた。
真ん中が村長の家で、両隣は観光に来る人の為とか。
真ん中に建っている家へ招待され、先ほどの続きの絵の話しに戻り
俺は布に描かれた女神を拝んだ。
「美人だ」
女神の崇拝者がいるのは分かる。スタイル抜群で、癒し系美人。
古代ギリシャ風のアレンジ衣装
胸がまた大きくて、男性が好みそうな女神の絵だ。
「何度見ても見惚れます」
村長の奥さんまでが、ほおっと溜息を吐く。
昔村一番の美人だなと思わせる顔立ちの奥さんで、柔らかい笑みを浮かばせる綺麗な人だ。
(そういえば、この村には特に太った人っていないなあ。環境が厳しいからどちらかというと
痩せているけど、引き締まっている体型?
筋肉が凄いって感じかな)
夕食は村長家族と共にとり、右隣りの平屋宿泊施設の1部屋を借りて住むことになった。
管理しているのは、村長の家の右隣の家族の人達。
左側の宿泊施設は、左側の家が管理しているそうだ。
お風呂はない。大きな桶に温かいお湯を入れて、その中に入り
掛け湯をして汗を流し、最後にタオルで体を拭くのが一般的。
残り湯は冷まして、朝に畑とか庭に撒く。
明日からの仕事を考えて、部屋の中央に部屋に仕舞われていた桶を置き
準備してもらったお湯を3回自分で部屋へ運んで
ワンピースを脱ぎ、下着も脱ぎ、桶に足を入れてしゃがみこんだ。
(これはこれで夏のような暑い時期はいいけど。冬は風邪引きそう。
風呂が欲しいな。水を運ぶのが大変で水が貴重ということかな。
川近くにあると便利かなあ)
などと、掛け湯をしながら反省を交えてこれからの事を考えていた。
元が男だったから、何も考えていなかった。
トントン。
「ラゼスだ」
ドアを叩く音がして、これはノックだと気付き、了承の返事をしていた。
「入るぞ。服と靴を用意してもらったから、明日から・・」
ドアに顔を向けると、入ってきたボサボサ頭の髭モサモサの山男と目が合った。
「ああ、助かる」
立ち上がりながら答えたら、相手は持っていた物をその場に落とした。
「どうしたんだ?ラゼスさん」
不思議に思い首を傾げると、彼は踵を返し去っていく。大きな音を立ててドアが閉まり、
「鍵を掛けろ」
と大声で怒鳴りバタバタと走り去って行く音。
ぽたぽたと桶に自分の体についている水滴が落ちて、ようやく我に返った。
ああ、素っ裸だ俺。
元男だから、裸になることに抵抗がないから。
今の姿は、色白で癒し系の美女の裸体なわけで。
「おまけに胸がなあ・・たわわなメロンだし」
全身俺が見たいけど、姿見がないし、見られる側になっているのがくやしいなあ。
俺って、まるで他人事だな。
自分の体なのに。
ラゼスさん、鼻血出してたら、悪いなあ。
これから気をつけないといけない。
すっかり自分が男の理想の女の子になっていること忘れてたぜ。
次の日の朝。
やたら意識されて素っ気ない態度のラゼスに、マキトが切れることになる。