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天界の結論

『天使反応出ました』

球体を監視していた青年天使が声を荒げると、管理衛士長の天使が

頷いた。

『目標発見、出口で捕獲せよ』


管理室では、そろそろ姿を現すだろう天使を捕獲するため

待機していた。

その世界の球体が、天使の存在反応を示したことで

球体の中の世界、その出口を全ての衛士で固められた。

あの例の天使は、マキトの魂を抱えて逃げまくる。


今まで何度も逃げてきただけに、一筋縄では捕まらない。

攻防が長く続いたが

30人体制で管理衛士達が追い詰めた為、最後には抑え込まれ

大事そうに抱えていた魂も取り上げられた。


『嫌~、返して。私の〇〇様~』

泣きながら、天使は自分の手から奪われた魂を取り戻そうと足掻いたが

離され、そのまま 天界の裁判所へと連れて行かれた。

『捕獲完了』



『我々はこれで。ご協力感謝します』

管理衛士長の天使が敬礼の姿勢をとる。

そして、あの例の天使が大事そうに抱え込んでいた魂を先輩天使へと手渡す。

『この魂は・・・・』

光輝いている魂は、美しかった。

本来は、自分の元上司。


『最初の手筈通りです。神様から直にそう伺っております』

踵を返し管理衛士長は、管理室から退室した。


先輩天使と青年天使は、ようやく終息したあの天使の捕り物に安堵した。


『厄介な天使でしたね』


この物語の始まりは、100年も前、あの天使の起こした過ち。

これほど時間が掛かるとは誰もが思わなかった。


マキトもあちらの世界も現代の世界でも知らない

天界で起きた話。




『ああ、まさかここまでしでかすとは、思わなかった。

あの天使は、あちらの世界の王女と同じような性質なのだろうな。

自分を選ばなかったことで、強制的に自分に心を向けさせようとする野心。

とても天使とは思えない行動だ』

100年前、犯した罪を償うため、100年の刑罰を与えられ

ようやく許され外へと出て来た。

異常な想いを忘れさせる為に、

あの天使に好意を持っていた他の天使と結婚させようとしたが

逃げられ、目的の魂を捜し出されるという痛恨のミス。


『あの例の天使は、どうしてそこまで』

『あの例の天使にとって、この魂は憧れなんだ。

私もこの管理の仕事に就く前、この魂の持ち主である上司と仕事をしたが

美しい人で、誰もが憧れるカリスマ的な仕事をしていた。

その人が、愛する人と出会った時、例の天使は狂い始めたんじゃ』


憧れのままいて欲しいという気持ちと

自分の物にしたいという欲求。

愛する相手を憎み、その存在を消してまでも。

とても残酷で、天界では異例の事件だった。


『この上級天使様も、幸せになるのでしょうか?』

『さあ、それはこの魂次第』



彼らは球体になっている魂を持つと、マキトが瀕死状態の世界へと渡った。

魂が完全に抜けていても、未だ昏睡状態にしてあるのは、神の加護の力。

既に天界からの許可は下りている。

2人がその身体が眠る王城の医務室を覗くと、

ユーシィ・ラゼスのみが、ベッドで眠るマキトの傍に蹲っていた。




『さあ、戻そう』

ラゼスには見えない2人は、そっと女神姿の女性の胸に魂を乗せた。

魂は、その身体を受け入れ、光輝きながら静かに吸い込まれていく。


身体は、魂が戻ったことで、神の加護の力が増し、さらに回復速度を速めた。

青みがかった顔は、本来の肌の色へ赤みがさし、体温が戻って行く。


『今度こそ、幸せになって欲しい』

先輩天使は、ポツリと零す。


『先輩。マキトさんは、上級天使だった記憶は、戻らないのでしょうか?』

『分からない。本人が決めることだ。

上級天使だったのに

その階級を捨てることを選んだくらいだ。

自分から記憶を封じているはずだから、私達には分からない。

婚約者をあの例の天使によって失い、婚約者の魂が当時行方不明になった。

悲しみの果てに、自分を地上へ魂を落し、幸せを求めて人間となった人だ。

運命は、自分で決めるだろう』




人間になった上級天使の魂を一時的にこの世界に避難させたのに、

また見つけられるとは。

私も気付くのが遅れたが、あの天使、執念としか言いようがないな。

上級天使時代の婚約者の天使の魂が、行方不明だったはずが

たまたまこちらの世界で転生していたのは奇跡だ。

そっとマキトからラゼスへと視線を向ける。


『そうですね。ようやく出会えた。彼らは、気付くことは出来るのですか?』

目の前で眠っているマキトとその傍らの男へ、青年天使も視線を戻す。

『いや、前に2人が上級天使だったことも、婚約者同士だったことも

思い出すことはない。転生しても以前の記憶を持つということは、

かなり稀な話だと聞いておる。

何を失ってもやはり偶然でも巡り会ったのなら、

それが真実じゃないかの?

天界でも知らなかったようだからの』


グスグス青年天使は、涙を流し始め、先輩天使は驚きつつ、ハンカチを彼に渡す。

『すみません、つい私も貴女に会えるまで大変だったことを思い出しました』

『そ、そうかの』

『本当に好きな人と相思相愛だと分かる時って。幸せなんですよ、先輩』

受け取ったハンカチで涙を拭き、じっと見つめている先輩天使に

視線を向けると、素早く抱っこする。

『おい・・、お前は私を抱っこするのが気に入っているのか?』

『愛する人に触れたいという私の愛情表現ということで』



マキトが息を吹き返し

気が付いた様子を見せたことで

2人は安堵し、そして最後の仕事に取り掛かった。







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