この先のこと
白い世界、白い空間で、可愛らしい天使と話をしていると
突然ドドンと大きな音と共に白い煙が上がった。
「うわ、凄い煙」
『何事じゃ』
白い煙が沈静化すると、『参ったなあ』と
人影が起き上がり、自分の衣服の埃を払いながら、天使とマキトの近くまでやって来た。
『お、お主、どうして?しかも私の結界の中に』
可愛らしい天使は、現れた人物にかなり動揺している。
人影の方は、白く大きな翼を持った笑顔が爽やかな普通の青年だ。
『神様から先輩の補助を命じられました。こちらの結界の中へは、神様の力です。
今後ともよろしくお願いします』
青年は可愛らしい天使に一礼し、マキトに振り返り
ニコリと笑顔で一礼。
素晴らしく優しそうな、それでもきっと何かあるとサッと動ける男と見た。
動きに隙がないというか、それなりに鍛えているように思えた。
「えっと、誰?」
『こちらの先輩の後輩で、100歳違いの婚約者です』
100歳差・・。
しかもこの可愛い天使の方が年上なんだ。
俺の心の中は、読まれているだろう。
キッと睨んだかと思うと、
100歳は超えている年上だと判明した天使が俺に怒った顔を向ける。
『100歳年上で悪かったな』
うわ・・。
『お前は、歳まで話さんでいいっ』
プリプリ可愛らしく頬を膨らます先輩天使を、青年天使は爽やかに宥めつつ。
彼は話しを続ける。
『先輩は管理天使ですが、私はパートナーの戦天使です』
青年は、背中の広げていた翼を仕舞い、普通の異世界人のような衣服に素早く
変化させる。戦天使というだけあってか、腰には剣を差している。
手際よくて、可愛らしい天使がほおっと見惚れている。
「戦天使なんて存在があるんだ」
俺が茫然と見つめていると、青年は微笑んだ。
『はい。戦い専門の下級天使です。もう少し昇進すれば、呼び名も変わりますが
まだペーペーなもので。
そうそう、実は貴方に伝えるように言われていることもお話しします。
と、その前に、緊急のお話しですが、例の天使は天界を逃げ、現在この世界に
入り込んでいるようです』
「え?この世界に?」
どこかに潜んでいるということが、調査で分かったというが、
どう対応していいやら。
そもそも顔も知らない。
『だから、この杖を使うのじゃ。自分を守ることは出来る』
防御出来る杖を指す。
『そうです。そして、貴女にお話しをするために来ました』
俺を落ち着かせてくれると、青年天使は
自分をどちらへ進ませるかを選択する俺の為に
昔語りを始めた。
『私は今現在は戦天使で、先輩の婚約者になれましたが、100年前までは
貴女と同じ一時はただの人間でした』
『ただの人間で、普通に生活していたところを、ある天使が原因で、
こちらの世界へ1年程無理難題な生活を余儀なくされまして。
先輩の力で、こちらの世界では女神役をしていました。
貴方も感じたでしょうが、この世界は現代の社会と違い
ファンタジーそのものの世界、まだいろいろと発展していく途中。
それもあまりに酷い状況で、私はなんとか少しでも救いたいという自分の自己満足かも
しれないですが、人々を助けたかった。
自分には何も出来ないので、人間ではありえない力を与えてもらいました。
貴女と同じで、女性になった姿であの世界の男性と恋愛まで発展しそうになるという
珍しい体験もしました。
ですが、私は心に決めた方がいまして』
と、一区切りすると、先輩天使の顔を見つめる。
彼らは、ふたりで見つめ合っているので
俺は邪魔なのではと考えてしまう。
俺は、恋愛がどのうという話しよりも目の前の青年天使が、今の話しでいくと
あの村長宅に遺された絵の人物かと思うと
驚きで声が出ない。
その心の声が聞こえたのか、俺に視線を合わせると、彼は自然に笑みを作る。
あの優しい眼差しは、今も変わらないようだ。
なんとかしたいという想いは、俺も同じだ。
『私は、最初に出会った先輩天使に一目惚れしてまして、他の男性と一時は恋愛も経験しました。
ですが、やはり好きな人がいましたので、流されずに済みました。
なにしろ、一時的に女性になっていて、元の世界に戻る約束でしたし
一生共にする相手を考えると、やはり先輩しかいませんでしたから』
青年天使は、先輩天使を抱き上げると、おでこにキスする。
先輩天使は、顔を真っ赤にさせて
『人前で何をする』
と、文句を言っているが悪い気はしないようだ。
そのまま大人しく抱っこされている。
青年の身長は、180以上はあるだろう。
その青年天使に抱っこされるくらい先輩天使は、身長が低い。
見た目、社会人に抱っこされている小学生の図だ。
俺の考えを見透かした先輩天使は、持っていた杖で俺の頭を叩く。
「いてっ」
『心の声は、聞こえておるわ』
青年天使は、肩を震わせていた。
『くくく・・、話、戻しますよ。私は女神の力を使い果たし、あの世界で倒れた。
祈りの力は、自分の中の力を消費させている為
永遠に使える力ではありません。
先輩が渡した杖は、貴女に力を齎すが、その力は自分の中の命の力が使われる。
もともと鍛えられてもいない、ただの人間が無理矢理力を引き出すのだから
その反動は体にきます。
何度も使えるが、その反動について、体への負担、それだけは心して下さい。
それと、私はその倒れた後、天界から1つ願いを聞き届けてくれる約束に
先輩と釣り合える天使を希望し、今ようやくパートナーとして許された。
これも選択の1つ。
別の世界の話だけど。1度離れてしまうけど、生まれ変わって再会する話もある。
この世界も貴女の元の世界も神が作る世界。
どちらを選ぶのも貴女が望むまま。
運命は決まっていない。未来は、その行動で常に変わっていきます。
神や天使は、常に静観をしています。
未来は、自分で決めて行くという事はご了承下さい』
先輩天使は、顔を真っ赤にさせながら俺に顔を向け
『とまあ、こいつの昔話はこちらの事情だ。主がどう動くかは私達は見守ることしか出来ぬ
ルールで、世界に干渉し過ぎることは難しい。
上司の許可なく実際にはその世界へは出てはいけない。
あの例の天使は、他人が管理する世界に許可なく降りると言う天界のルールを犯した。
罪は重いだろう』
『では、我々はここで』
一通り伝えたいことが終わると、彼らは白い世界と共に消えて行った。
俺が我に返り目を開けると、そこは俺の部屋とされて使っている子爵邸の一室だった。
5か月近く使っているベッドの上で。
子爵に襲われた部屋とは違う部屋だ。
起き上がって、手に白い杖を握っていたことで、夢ではないと知る。
「これで、魔術師達の力を防ぐしかない」
ラゼスさんに話をしようと、急いで部屋を飛び出すと、騎士達や侍女達が忙しそうに
いつもよりも働いている。
(どうしたんだろう?)
廊下を歩いて行くと、俺を探していたラゼスさんに出会えた。
「ユーシィ」
「マキト、ここにいたのか。話がある」
「え?話?」
俺の腕を掴むと、近くの空き室へ2人で忍び込んだ。
しばらく誰も来ないような、荷物置きになっている。
掴んでいた腕を1度放し、再度両手を握りしめられる。
「昨日の夕刻、リーシェからの手紙を持った使者が来た。
俺は、その誘いに乗り、リーシェという存在をこの世から消すことにした」
「え、あ・・・どういう?」
手紙の内容が、俺とラゼスさんを差し出せば、今回の内乱をなかったことにするという
話だ。全ての元は、リーシェがラゼスさんを自分の夫にする為の話。
国の内乱まで発展し、ラゼスさんも責任を感じているらしい。
「これ以上、民や騎士達を苦しめるわけにはいかない。俺は、リーシェを止める」
話に応じて、王女に会い、暗殺をすると言っているのだ。
これは、未来の予言でいうところの瀕死の状態になる話を聞かされているのだ。
あの話を実際のものにさせない。
俺はこの為に、8か月の猶予を貰ったのだから。
「俺も、俺も行きます。だからひとりで苦しまないでください」
とっさに叫んでいた。
ラゼスさんは、一瞬戸惑った様子だが、目を合わせると
何かを吹っ切った様子で、俺の背にゆっくりと腕を回して抱きしめた。
もう片方の腕は頭へ回り、その手で俺の後頭部を支える。
「済まない」
そんな言葉を聞きたかったわけじゃない。
だけど、ラゼスさんは、何度も繰り返す。
「ユーシィ。俺は、俺だって責任を感じている。俺がこの世界に来なければ
こんなことにならなかったかもしれないんだ」
俺は、今まで片隅で考えていたことを吐き出すと、彼は首を左右に振る。
「俺は元々、お前に会う前からあれから逃げてラシエ村にいたんだ。
誰を好きになっても、同じ事が起きていたはずだ。
俺は、あれを好きには決してならないようだからな」
「うう・・」
涙が溢れてしまい、彼の指で何度も拭き取られる。
「あ、それと。こ、こんな時に唐突だけど、どうしても今言っておきたいことがある」
「え?」
「俺、この姿は天使のせいだって言った事があるけど」
「あ、ああ」
「理想の女性に、自分がなりたいと思ったことはないからな。そこだけは
忘れないでくれ」
「・・・」
あまりに必死な俺に、シリアスな場面だったのだが、ラゼスの苦笑に変わる。
俺は、どうしてもこの目の前の人を助けたいと思う。
本当にどうかしているのかもしれない。
でも、あの青年天使は、誰かを好きになると別の人と恋愛をしてみても、その人と
一生一緒にとは考えられなかったと言っていたように。
元の世界では、こんな想いをしたことがない俺には、どうしてもこの男で一杯になる。
おかしいよ。
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天使達視点
『先輩、私はあの方にもう1つ教えることを忘れていました』
青年天使は、先輩天使の管理室で一緒に、世界を映すいくつかの球体を見ている。
『何をだ』
可愛らしい天使は、空中ボードに何かを打ち込んでいる。
『あの方が、実は再会していることですよ』
その意味を教えていない。
『再会して生まれ変わってという話か。あれは、普通は本人は知らない話だ。
話さなくても支障はない。転生を知っているのは、天界の人間くらいだ』
先輩天使は、そのまま仕事を続ける。その隣で、青年天使は背もたれのある椅子で
深く考える。
『知っていたら、驚きますよね』
と、呟きながら球体に視線を移す。
『彼は、自分が本当に男性だと思い込んでいるようですから、
どう決断するのかと思いまして』
『それは、本人が決めることじゃ。余計な事を言ってないで、お茶の用意』
『あ、はい』
大好きな先輩天使に早速指示を受けて、彼は嬉しそうに慌てて部屋を出て行く。
その背を愛おしそうに見つめながら先輩天使は毒づく。
『全くバカが』
天使の階級については、個人で考えたものなので架空です。